思春期を殺しきれない少年少女達の翼   作:ブローデン

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 ここから数話は展開を修正した方が良いと思ったのですが、そうすると後の展開もかなり修正をかけないといけなくなってしまうので、時間に余裕の無い現状このまま突っ走らせて頂きます。
 いつかもっと余裕が生じたら大きな改変もしてみたいなあ。


第十二話 黒兎と龍の対決

 

「その手を離せぇぇぇっ!」

 

 鈴とセシリアを掴んでいるボーデヴィッヒへ、一直線に刀を振り下そうとする一夏。

 ボーデヴィッヒは二人の拘束を解いたが、それは標的を一夏に移しただけに過ぎなかった。

 

「ふん。感情的で直線的、絵に描いたような愚図だな」

 

 零落白夜のエネルギー刃が届くその寸前、一夏の身体が一切の動きを止めた。

 眼帯をしていないボーデヴィッヒの妖しく煌めく金色の右眼が、飛び込んできた一夏を正確に捕えた瞬間、見えない腕に全身を掴まれたかのように身体が言う事を聞かなくなっていた。

 

「な、なんだ!? 攻撃だけでなく本体まで止めるのか!」

 

 振り上げた腕を下ろす事すらままならず、長時間維持の効かない零落白夜のエネルギー刃も次第に小さく消えて行く。

 

「やはり敵ではないな。この私とシュヴァルツァ・レーゲンに対等に戦えると思っていたのか? ……消えろ」

 

 肩の大型カノンが接続部から回転し、砲口を一夏へ向けた。撃たれる、そう思った瞬間。 

 

「一夏っ、離れて!」

 

 デュノアが一夏に個人間秘匿通信を送ると同時に、二丁のアサルトライフルから放たれた弾雨がボーデヴィッヒを襲った。

 

「ちっ……蚊トンボが」

 

 それまで一夏を拘束していた結界を消し、デュノアの攻撃を回避せんと移動するボーデヴィッヒ。

 それを確認した一夏は、すぐさまボーデヴィッヒが離した鈴とセシリアの元へと飛び込み、二人を抱きかかえて離脱を図った。

 

「一夏! 二人は!?」

「う……一夏……」

「無様な姿を……お見せしてしまいましたね……」

「二人とも、今は喋るな。シャルル、大丈夫だ。二人ともなんとか意識はある」

 

 それを聞いて僅かに安堵した様子を見せるデュノアだが、ボーデヴィッヒに対する攻撃を緩める素振りは無い。三度目の弾倉交換を行ってもなお、銃弾が降り注ぐ先のボーデヴィッヒは殆ど無傷だった。

 

「面白い。世代差というものを見せつけてくれる」

 

 弾丸を避け、時には防ぎ、さらに例の結界のようなもので弾丸を止めていたボーデヴィッヒが反撃に転じようと体勢を低くする。

 瞬時加速を行うつもりなのだろうが、一夏は鈴とセシリアを抱えたままでは援護に赴けない。しかし、このままデュノアにボーデヴィッヒを任せ続けるのは危険過ぎる。

 

「行くぞ……!!」

 

 

 

 ボーデヴィッヒが飛びかかろうとしたその瞬間、デュノアの背後から放たれた『何か』が、ボーデヴィッヒの咄嗟に展開した停止結界によって防がれた。

 アルトロンのドラゴンハングであった。

 

「……どうやら貴様から先に消されたいようだな、張五飛」

「消えるのはお前の方だ、ラウラ=ボーデヴィッヒ」

 

 ボーデヴィッヒの挑発に応えるように五飛が静かに、しかし確かな熱気を孕んでそう告げた瞬間、ドラゴンハングの先端から火炎放射が放たれた。

 この武装はIS学園に来てから誰にも見せていなかった武装であったが、今まで使わずにいたのには理由があっての事だった。

 

 ISにはエネルギーが残存している場合、常にシールドバリアーが張られており、絶対防御も発動する。

 だがこのような火炎放射は、敵が炎を浴び続ける限り相手のシールドエネルギーを消耗させ続け、周囲に引火しようものなら五飛の意思を離れたそれは、例え敵ISのエネルギーが切れていたとしてもなお敵を火炙りにし続ける。

 

 つまり五飛がこの武装を使う時、それは『敵の負傷、生死を厭う必要が無い』と判断した時と同義であった。

 

 また先程までの一夏とデュノアの攻撃を防ぐボーデヴィッヒを観察して、停止結界のおおよその特性も掴んでいた。

 限定的な一方向にしか展開出来ない事、またデュノアからの射撃を受けた事で即座に一夏への停止結界が解除され回避に転じた事から、使用には多大な集中力が必要である事。

 

 ドラゴンハングのような単純な物理攻撃ならば容易に防がれようが、火炎放射のように相手の全方位を炎に巻くような、しかも非物理攻撃には完全に対応出来ない事を看破していた。

 

「うぉ……っ! 小賢しい真似を……!?」

 

 炎に全方位を巻かれたボーデヴィッヒは、やはり五飛の読み通り停止結界を維持できずに炎の渦から離脱を図ろうとする。

 

 だがそれはボーデヴィッヒの意思とは別の形で実現した。結界を解けば、当然そこで止まっていたドラゴンハングが再び動き出す。一度動きを止めたからとて、そこから再び稼働出来ないわけではない。

 ボーデヴィッヒが気付いた時には、既にその右腕が龍に喰い付かれていた。五飛はその右腕を捕えたまま、ドラゴンハングを収納させる力を利用しボーデヴィッヒを思い切り己の方に引き寄せる。

 

 不意を突かれたボーデヴィッヒは碌な抵抗もままならず凄まじい勢いで五飛に引き寄せられ、そのまま正面から五飛の額に自分の額をぶつけられる。

 生身の部分同士が高速で激突し、互いに絶対防御が発動したほどの衝撃であった。ボーデヴィッヒは思わず目から星が飛んだが、右腕の拘束は未だ解かれない事を確認した事で反射的に瞑ってしまった目を見開き反撃に転じようとする。

 

「この……ッッ!?」

 

 だがボーデヴィッヒが目を見開いた瞬間、そこには龍ではなく『鬼』が居た。

 

 眼前には、憤怒の表情を浮かべた五飛が額をぶつけたままの鼻先の距離でボーデヴィッヒを睨みつけていた。ドラゴンハングは未だ右腕を締め上げ続けている。

 ボーデヴィッヒは、その痛みを忘れてしまうほどに魂を凍らせた。そう錯覚してしまうだけの凄絶な怒気をぶつけられたのだった。

 

「ぐあっ!?」

 

 次の瞬間、五飛はボーデヴィッヒの右腕の拘束を解くと同時に、その鳩尾に蹴りを突き入れた。流石にこれだけの密着状態では停止結界も発動は出来ない。

 二度も立て続けに絶対防御が発動し、それまで殆ど無傷であったシュヴァルツァ・レーゲンのエネルギーをごっそりと削ると同時に、衝撃を殺し切れず身体を大きくくの字にして吹き飛んでゆくボーデヴィッヒ。五飛が習得した拳法とアルトロンの能力が合わさった時、たとえ無手であろうと容易にISすら破壊せしめる力を発揮する。

 

 だが寸での所でボーデヴィッヒは転倒せずに堪えた。再び顔を上げ、苦悶と憤怒の表情を浮かべて五飛に向き直る。

 屈辱に耐えた事もあった、痛みに耐えた事もあった。だがボーデヴィッヒに明確な『恐怖』を感じさせたのは、織斑千冬を除いた人間では五飛が初めてであった。

 

 ボーデヴィッヒもここに来て漸く悟った。これはもはや自分が凰とオルコットを相手にしていたような児戯ではない、明確な『殺し合い』なのだと。

 

「貴様……貴様ぁ! 絶対に許さん!!」

「一夏、デュノア、手を出すなよ。奴のような悪は俺が倒すべき敵だ……!」

 

 五飛に言われずとも、怒気にあてられて動こうにも動けない二人に釘を差す五飛。

 

 ボーデヴィッヒが呼吸を整え、既に迎撃態勢を取ってツインビームトライデントを展開させていた五飛に飛びかかろうとした、正にその瞬間。二人の間に影が割り入ってきた。

 金属同士が激しくぶつかりあう音が響き、二人はその影に戦闘を中断させられる。

 

「……やれやれ、これだから餓鬼の相手は疲れる」

 

 その影は、織斑千冬その人であった。

 だがその姿はISはおろかISスーツすら装着していない。しかし手に持っているのは、確かに打鉄などが持つIS用近接ブレード。大人一人分の身長ほどあろうそれを、ISの補佐無しで軽々と扱っている。

 しかもそのままIS二機の戦闘に割って入る。その身体能力、胆力共に現役を退いてもなお常人の及ぶところでは無かった。

 

「模擬戦をやるのは構わん。が、アリーナのシールドまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

「……教官がそうおっしゃるなら」

「……」

 

 ボーデヴィッヒは素直に頷いてISの装着を解除するが、五飛は多分の口惜しさをその表情に残しつつ沈黙を保ったままISを解除、千冬に返答することなく背を向けた。

 

「織斑、デュノア、お前たちもそれでいいな?」

「あ、ああ……」

「教師には『はい』と答えろ、馬鹿者」

「僕もそれで構いません」

 

 五飛の今までに見た事の無い凄まじい怒りと千冬の常人離れした行動に呆けていた一夏は生返事を返した事で千冬に注意されたが、その後すぐにデュノアと揃って五飛の背を追従する。

 三者の動向を見た千冬は、改めてアリーナ内全ての生徒に向けて言った。

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

 

 

 実際は、五飛はボーデヴィッヒとの決着を諦めたわけではなかった。

 邪魔立てをするならば千冬ごととも思ったが、一瞬の横槍が五飛の思考を多少なりとも落ち着かせ、この場は負傷した鈴とセシリアの手当てを優先すべきと思考を切り替えただけである。

 

「うーふぇ……ごめんなさい……」

「今は喋るな、傷に障る。一夏とデュノア、セシリアの方を頼む」

「分かった……なあ、五飛……お前、本当に五飛だよな……?」

 

 第三者が聞けば意味の分からない質問であっただろうが、一夏は心からの疑問を五飛に投げかけた。

 そう思ってしまったのは、普段物静かな五飛が見せた凄まじい怒り様からだろうか。無言で鈴を抱えて保健室へ向かう五飛の顔が一瞬別人に見えたのは、アリーナ出入口の薄暗さ故。

 一夏は自分にそう言い聞かせた。

 

 

----------------

 

 

 保健室。時刻は第三アリーナの一件から一時間ほど経過していた。

 ベッドの上では打撲の治療を受けて包帯の巻かれた鈴とセシリアが、対照的な面持ちでベッドに並んでいた。

 

「あのまま続けていても私達が勝っていましたわ」

「…………」

 

 負け惜しみとしか聞こえない言い訳を叩き、むっすとふくれているセシリアに対し、心の底から気落ちした暗い表情のまま無言で俯いている鈴。

 

 鈴の方はある程度ボーデヴィッヒに対する事情を知っていたので兎も角、セシリアの方は感謝しろとは言わないが少しは己の情けなさを恥じて欲しいものだ。

 

 結局、二人のISを調べた真耶から二機ともダメージレベルがCを超えている為、月末の学年別トーナメントへの参加は強制的に見送りにせざるを得ない旨が告げられた。

 

 ISには自己進化機能が備わっている。当然ながらその進化とは、経験を蓄積することでその経験を基に自らを進化させるものである。

 だがその経験が一定損傷以上の時に蓄積されたものの場合、その不完全な状態でのエネルギーバイパスを構築してしまうため、後の通常稼働に悪影響を及ぼしかねない。

 

「……はぁ、まあでも二人とも怪我が大したことなくて良かったぜ」

「好きな人に格好悪いところを見られたから、恥ずかしいんだよ」

 

 そう言いつつ、二人に飲み物を買ったデュノアが戻ってきた。確かにセシリアの方はこれみよがしに一夏への好意をアピールしているが、このような事を言った程度で一夏が理解出来るかどうか。

 

「ん? どういう意味だ?」

「べべっ、別にわたくしは! そ、そういう邪推をされるといささか気分を害しますわねっ!」

「…………」

 

 顔を真っ赤にしながらまくし立てるセシリアと、そんな反応をみて常と変らずきょとんとした顔をしている一夏。

 デュノアの軽口に反応して騒ぐ一夏とセシリアはいいとして、鈴はそんな冗談にも反応することもなく、未だ俯いたままであった。

 

「どうした、まだ傷が痛むか」

「……あたしじゃ、あたしじゃやっぱり抑えられなかった……」

 

 五飛の問いかけに静かにそう答えた。セシリアを御しきれなかった自分に、二人掛かりでもボーデヴィッヒを打ち倒せなかった自身の未熟さに、ボーデヴィッヒを諭す以前の問題であった事に、切歯扼腕していたのだ。

 今にも泣き出しそうな鈴を見て、五飛は鈴の頭に手の平を乗せた。このような場所でまた泣き出されては敵わない、流石の五飛も泣く子には勝てなかった。

 

「あ……」

「安心しろ。形はどうあれ、奴は俺達が倒す」

 

 五飛の強い決意を秘めた目と、僅かな優しさを受けたことで漸く笑みを浮かべる鈴。

 

「それに俺も無様な姿を見せてしまったからな、今回ばかりは相子だ。戦いの場に個人的な感情を持ち込み過ぎた」

 

 五飛は内心では深く反省していた。ボーデヴィッヒに対しての怒りは決して偽りではないが、戦いに己の個人的な感情を持ち込んでしまった事は否定できない。

 しかも己の過去に関わる事で。鈴と彼女の姿が重なった事に関しては自分でも理解が出来なかった。似ているところといえば、その負けん気の強さが精々な鈴と彼女が何故重なって見えてしまったのだろうか。

 

 だが鈴は『個人的な感情』という部分を多少勘違いして捉えてしまったのか、その言葉を聞いた瞬間頬を赤らめていた。

 

「先生も落ち着いたら帰っていいって言ってるし、暫く休んだら……」

 

 そう言いかけた一夏だったが、廊下から響いてきた地響きのような音にその言葉を止めた。しかもその音は段々と近づいてきている。

 次の瞬間、保健室のドアが勢いよく開かれたと思ったら数十人には及ぶであろう女子が一斉に大挙して来たのだ。

 

「織斑君!」

「デュノア君!」

「張君!」

 

 さらに一夏と五飛、デュノアを見つけるなりあっというまに保健室を埋め尽くした女子達に一斉に取り囲み、まるで取り合いの如く手を伸ばしてきた。

 

「な、な、なんだなんだ!?」

「ど、どうしたのみんな……ちょっと落ち着いて」

「ええいここは保健室だぞ! 一体何事だ!」

『これ!』

 

 状況が見えない一夏達に女子達が一斉に突き付けて来たのは、学内における緊急の告知書類であった。

 それを手に取った一夏達は、書かれている文章をそれぞれ音読し始める。

 

「えーなになに、『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、二人組でも参加を必須とする』」

「『なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする』」

「『締め切りは……』」

「ああそこまででいいから!」

 

 この土壇場に来てルールの変更、それも一対一のところをわざわざ二対二に変更するという。

 確かにそのほうが実戦的と言えば実戦的かも知れない。急なルールの変更は、先のクラス代表戦に起こった無人機の襲撃による影響だろう。もう一度同じことが起こるとは思えないが、あのような不測の事態に対応しやすくするためにわざわざ二対二に変更したのだと予想できる。

 

 ただでさえ今年の新入生は第三世代兵器の試験機が多い。だがその操縦者及びIS本体を守るための教員の数は限られている、ならば生徒が取らなければならない行動は、自衛。

 より実戦的な経験を今から詰ませて、いざという時には自身の身とISを守るための訓練と平行させる腹積もりなのだろう。

 

「というわけだから……私と組もう、織斑君!」

「私と組んで、デュノア君!

「お願い、張君!」

 

 書類を読み終えたところで再び一斉に伸びてくる手、手、手。

 学園内で三人しかいない男子とどうにかして組もうと、我先にと押しかけてきたというわけか。そういう事ならばと、五飛自身も先の無人機襲撃事件も踏まえて一夏と組む事を目論んだ。

 どうせ一夏も今はボーデヴィッヒを倒す事以外は頭にないだろう、目的が同じである以上一夏と五飛が組んだ方が何かと便利が良い。

 

「悪いな、俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

「何っ!?」

 

 だが、先手を取られた。思わず声を上げてしまうほどの不意を突かれた形となった。

 こういった事態には大抵困惑の色を浮かべる一夏が、まさかこうも即断するとは五飛は考えが及ばなかった。これはこれで成長の証なのだろうが、今の五飛にとっては逃げ場を塞がれたに等しい。

 しかもその相手は、同じ男子として扱われているデュノア。

 

「まあ、織斑君とデュノア君はそういう事なら……」

「他の女子と組まれるよりはいいし……」

「じゃあ残るは……」

 

 一夏の宣言を聞いた瞬間、一夏とデュノアの事を諦めた女子達の首が一斉に五飛に向けられた。

 室内は女子で埋め尽くされている、隙間も殆ど無い故に出入り口までは到底辿り着けない。ならば自分の真後ろにある窓、しめた、開いている。しかも此処は幸いにも一階。

 五飛は最寄りの開いていた窓から飛び出し、脱兎の如く逃げ出した。

 

「あっ逃げた!」

「皆の者、追え追えー!」

 

 五飛の後を追わんと、まるで保健室に押し入ってきた光景を逆再生したかのように一斉に保健室から出て行く女子一同。

 いきなりやって来たと思ったら過ぎ去っていった嵐に唖然とする保健室の中、シャルの秘密を守る為の犠牲となった五飛に内心手を合わせる一夏であった。

 

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