臨海学校初日。
天候も快晴に恵まれ、三日間世話になる旅館前に整列している今も潮風が心地よく揺らいでいる。
「ここがお世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないよう注意しろ」
『よろしくおねがいしまーす』
「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」
千冬の後に続いて生徒全員で挨拶をする。この旅館には毎年世話になっているらしく、着物姿の女将が丁寧にお辞儀をしている。
歳は三十くらいであろうか、しっかりとした大人の雰囲気を漂わせていながらもその容姿は女将という立場とは裏腹にとても若々しい。
「あら、こちらが噂の?」
そんな女将を眺めている一夏と五飛と目があった女将が、千冬にそう尋ねる。噂とは勿論ISに適性のある男性という件である。
「ええ、まあ。今年は二人だけの男子の為に浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」
「いえいえそんな、それにいい男の子じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」
「張五飛です、お世話になります」
「お、織斑一夏です、よろしくお願いします」
挨拶をする五飛に、続けるように咄嗟に頭を下げる一夏。それに女将も丁寧にお辞儀を返してくれる。
「それじゃあ皆さんお部屋の方にどうぞ。海へ行かれる方は別館の方で着替えられるようになってますから、そちらをご利用なさってくださいな」
ちなみに一夏と五飛の部屋は、教員である千冬と同室であった。
男だけの部屋を作ってしまうと、就寝時間を無視した女子が押しかけるという理由による。
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「あちちちっ。ふふふ……この風、この肌触りこそ海って感じだよな」
「言っている意味はよく分からんが、これが日本の海か」
砂浜の熱を足裏を感じながら波打ち際へと向かう一夏と五飛。
浜辺には既に多くの女子が溢れており、泳いでいる者、ビーチバレーをする者、肌を焼いている者と様々である。
五飛は日本の海を泳ぐのは初めてである。この海岸だけなのか、これが日本の平均なのかは分からないが自分が知る中国の海岸と比べるとかなり美麗な景色だ。
元々泳ぐ気はなかったのだが、一夏との付き合いもあれば鈴と共に買った水着もある。ちなみに五飛が買ったのは、至って地味な色合いのサーフパンツである。
久しぶりの水練と思えば、こういった機会も悪い事ではない。準備運動として各関節を解していると、後方からじゃすじゃすと誰かが砂浜を走ってくる足音が聞こえてきた。
「(」・ω・)」うー! (/・ω・)/ふぇー!!」
「のわっ!?」
いざ振り向こうとした五飛の背後から、珍妙な手振りをしながらいきなり飛びついて来たのは鈴であった。
「相変わらず真面目ねえ、一生懸命準備運動しちゃって。ほらほら、終わったのなら早く泳ぐわよ」
鈴が着ている水着は当然五飛と一緒に買ったものであった。身に着けてみれば、やはり想像通りアクティブな鈴のイメージとぴったりだった。
そうこうしていると、五飛の身体をするりと駆け上がって肩車の体勢になる。アクティブといってもこれでは猫か猿である。
「おー高い高い、ちょっとした監視塔になれるわね」
「全く……海くらいではしゃぎ過ぎだろう、もう子供でもあるまい」
「あらあら、お二人とも仲がよろしいことで」
そんな二人の姿を見て、微笑みながら声を掛けたのはセシリアだった。鮮やかなブルーのビキニを纏い、両腕にはパラソルやシート、サンオイル等一式を抱えている。
「へっへーん、甲龍に続く第二の専用機って感じ?」
「あー! 張君が肩車してる!」
「いいないいなー! 張君次はあたしね!」
「私は織斑君に頼もうっと!」
五飛と鈴の肩車姿を発見した女子達が騒ぎ始めた事で、巻き込まれかけた一夏と何故かセシリアまで鈴に降りるように勧め、しぶしぶながらもひらりと舞い降りる鈴。
「よっしゃ五飛、あのブイまで競争しようぜ。ISじゃ勝てないけど泳ぎだったら自信あるぜ!」
「ほう、それではお手並み拝見といこうか」
鈴も二人に続いて参加しようとした所を、誰かに肩を叩かれた。
振り返ってみればそこにあったのは谷本癒子、夜竹さゆか、布仏本音の三人の笑み。一組の中でも特に仲が良く常に行動を共にしている、一組の三天狗である。
「ねえねえ凰さん、ちょーっと相談があるんだけど……」
「うん? あんたたちは確か一組の……どうしたの?」
「いやー余計なお世話かも知れないんだけど……」
「うまくいったらふぇいふぇいともっと仲良くなれるかも知れないよ~」
本音がいつもの気だるげな口調でそう言った瞬間、鈴の眼が光った。何故自分の未だ不定形な想いを察せられたのかは分からないが、本音の言った『ふぇいふぇい』とは恐らく五飛の事。
彼女は同級生の名を呼ぶときはいつもあだ名を付けて呼んでいるのだ。
鈴は、改めて三天狗に向き直った。
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「ふう……早いなあ五飛、少しは自信あったんだけどな」
「お前も入学してから身体は鍛えられている筈だ、後は動かし方次第でどうとでもなる」
競争から戻った一夏と五飛がそんな話をしながら息をついていると、クラスメイトの谷本癒子が慌てた様子で二人に駆け寄ってきた。
「大変! 二組の鳳さんが溺れて……!」
それを聞いて顔を見合わせる一夏と五飛。次の瞬間、二人は弾かれるように砂浜を蹴った。どこか棒読みであった癒子の台詞に気付かぬまま。
駆けつけてみれば、五飛と一夏はその時点で何かがおかしい事に気付いた。
まず事故が起こったというのに周囲には人が居ない、むしろあまり人目に付かないような場所に横たわっている。
しかも五飛を呼んだ三人も、人が溺れたというのに取り乱すでも恐慌に陥るでもなく、どこか楽しそうな雰囲気を漂わせている。
もしこれが鈴が本当に溺れた上での状況ならばとんでもない話である。本当に溺れたのならば、の話だが。
何かを読み取った五飛が真偽を確かめるべく、仰向けに横たわっている鈴を抱え起こす。
「鈴!」
まず見た目からして顔も血色は悪くなく常と変わらない。胸が微かに上下している事からも呼吸は出来ている事が伺える。こちらはむしろ常よりも呼気が荒い位である。
五飛が鈴に触れた瞬間、鈴は全身をびくんと強張らせ、意識が無いから目が閉じられているのではなく意識がある上で目をぎゅうと閉じ、同じように口もきつく噤んでいるようにしか見えない。
こちらがそのままで居ると、段々と顔が紅潮して来ているのも見て取れる。頭から湯気を出さんばかりの勢いだ。五飛は確信した。
「……発案者は誰だ?」
既に忍び足で背を向けていた三人がびくっと足を止めた。
「幾らなんでも不謹慎が過ぎたな、反省しろ」
「まったく、こっちの心臓が止まるかと思ったぜ」
五飛からの鉄拳制裁(勿論手加減済み)を受けて苦笑いしつつ項を垂れる三人組を尻目に鈴の方を見れば、やはり鈴も申し訳なさそうにこちらの顔を覗いて来ている。
「あ、あー……五飛……」
反省はしているようであった。少々元気が過ぎるきらいはあるが、こういった不謹慎な冗談は決してしない性格である。多少の五飛の贔屓目は混ざっていたものの、三人に唆された形なのは事実であった。
「ご、ごめ……んにゃふぁひ!?」
「……あまり心配を、掛けさせるな」
ゆっくりと鈴に近づき、五飛がそっと右手を鈴の頬に伸ばした。そのまま頬を撫でられるのかと思った鈴は驚きの声を上げたが、実際は軽くつねりながらそう告げた。その為に珍妙な言葉が口から飛び出てしまったのだ。
まるで子供の悪戯を優しく諭すような、痛いような、痛くないような、精妙な力加減であった。
「全く……おいお前ら、何だその目は」
先程まで項垂れていた三人もいつもの調子に戻ったように、しかもそこに一夏まで混ざってこちらを見ながら妙ににやついた笑みを浮かべている。
「今のやりとりにときめいた人~、挙手~!!」
『はーい!!』
「……すまん五飛、自分に嘘はつけないんだ……!」
本音がそう言いながら両の手を大きく挙げると、残り二人はおろか一夏までも控えめながらその手を挙げていた。満場一致であった。
鈴はと言うと、その傍らで五飛につねられた頬を押さえて恍惚の表情を浮かべて呆けていた。
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時間はあっという間に過ぎ、夜の七時半。大広間三つを繋げた大宴会場で一同は夕食を取っていた。
献立は刺身と小鍋、山菜の和え物が二種、それに赤味噌汁と漬物。これだけ書くと普通だが、刺身の魚がカワハギという水揚げ量の少ない高級魚なのだそうだ。その事で一夏が終始はしゃいでいた。
近年では中国でも刺身や寿司といった日本の生食文化が見受けられるようにもなっているが、五飛は生の魚を食するのはこれが初めてである。
香辛植物である山葵を摩り下ろしたものを箸の先につまむ程度、さらに少量の醤油をつけて食べる。
薄作りながらしっかりとした弾力を感じる脂の少ない締まった身に、淡泊な味だが醤油の塩気により旨味がかき消えるでなく、逆に魚本来の味が上手く引き出されている。
また山葵には唐辛子のようなひりつく辛さと違い、鼻腔に抜ける独特の刺激と風味があるが、それが魚の生臭さを綺麗に消して後味を良くし、いっそ爽やかとすら感じる。
カワハギの肝も揃って刺身に出ていたが、こちらは身とは逆に脂が乗りこってりした旨みと甘みがある。肝臓というのは、魚に限らず苦味が強いイメージがあったので尚意外だった。
この肝臓を裏ごしして醤油に溶いたものを、淡泊な刺身につけて食べるのもカワハギならではの食べ方だと言う。
成程、確かに美味だ。
日本人は食に対する安全には並ならぬ拘りを持っていると聞くが、それで生魚をこういった形で食する事が出来るというのならばその拘りも納得である。
ちなみにシャルロットは何を勘違いしたのか、刺身の脇に盛られている摩り山葵をそのまま一口に食べてしまい悶絶していた。
予備知識と一夏の助言が無ければ自分もああなっていたかも知れない事を思うと、他人事では無かった。
だが驚くべき事に、悶絶から立ち直ったシャルロットはその摩り山葵を美味い美味いと再び食し始めたのだ。
何時か本国に持ち帰りたいとまで言っていたのが印象に残っている。
食後は流れるように温泉へ入り、部屋に戻ってみれば千冬も丁度入浴から戻ったところだった。
「ん? 男二人だけか、女の一人も連れ込まんとは詰まらん奴らだ」
勿論冗談であろうが、実際一夏が女を連れてきた日にはこの姉の事である。血の雨が降りかねない。
しっとりと濡れた艶のある黒髪は、一夏の贔屓目でなくとも確かに美しく見える。そこでふと一夏が思い出したように千冬に提案した。
「あ、そうだ千ふ…織斑先生。折角風呂上がりなんだから久しぶりに――」
「……ほう、そういう事なら俺にも覚えがある、手伝おう」
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「……何をしてらっしゃいますの?」
「シッ!!」
「……」
千冬及び一夏と五飛の部屋の前を通りかかったセシリアは奇妙な光景に出くわした。女子が四名、その部屋の襖にへばり付いている。
セシリアの口を塞いだ鈴と、沈んだ表情のまま聞き耳をたて続けている篠ノ之とシャルロット、そして目を爛々と輝かせているボーデヴィッヒ。
セシリアが状況を理解出来ずにもがいていると、その襖の向こうから声が聞こえてきた。
『千冬姉、久しぶりな上に二人掛かりだからちょっと緊張してる?』
『そんな訳あるか馬鹿者。んっ! ……張、す、少しは加減をしろ』
『成程、確かに相当溜めこんでいるようだな。次は……ここだ』
『くあっ!? そ、そこは、やめっ、つうっ!』
『直ぐに良くなるって、五飛の言うとおり大分溜まってたみたいだし、ねっと』
『ンアッー!?』
「(こ、こは何事!?)」
口元を震わせ、ひきつった表情を浮かべつつも四人に並び聞き耳を立て始めるセシリア。だが、それがいけなかった。
いくら十代女子の軽い体重とはいえ五人分の重さに耐えられる筈もなく、セシリアが加わったところで襖溝から外れてしまい、五人そろって襖に寄りかかったまま部屋の中へと雪崩れ込むように倒れてしまった。
「ん?」
「……お前達、何をしている」
そこには浴衣のまま俯せになっている千冬と、その左右から腰と足裏に指圧を加えている一夏と五飛の姿があった。
「全く、揃いも揃って盗み聞きとは恐れ入るな」
そう言いつつ何処かふんぞり返った雰囲気を醸し出す千冬と、その前に並んで正座をしている五人の女子。
一夏は昔から生活費を一手に稼ぐ千冬の為に疲労回復のマッサージをよくしていたそうだ。
IS学園に入学して以降ご無沙汰だったので、こういった機会ならば久しぶりにと持ちかけ、同席していた五飛も足裏のツボを突くマッサージの心得があったので手伝う事にした。
これは人体の急所を学ぶ上で副次的に学んだものだったが、こういった形で使う機会が巡ってくるとは思っていなかった。ちなみに千冬が過敏な反応を示していたのは肩と胃である。
しかし先程のマッサージ、聞き耳を立てても何処か面白い部分でもあったのだろうか。こればかりは一夏と五飛は並んで頭上に疑問符を浮かべていた。
「まあ折角の機会だ。一夏に張、悪いがお前達は少し席を外せ」
「ん、そうする。五飛、何か飲み物でも買ってこようぜ」
「ああ、お前達はゆっくり……と言っても、その様子では難しいか」
女性同士の会話の場に男が混じっていてはあまり気軽に話も出来ないだろう。それにこういった機会でもなければ、学園では常に厳戒態勢といった佇まいの千冬と会話をする事も無い。
だがそれはあの千冬と面と向かうという、ある意味では極限状況に身を置くことと同義であった。
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「おいおい葬式か通夜か? いつもの馬鹿騒ぎっぷりはどうした」
「い、いえ、その……」
「お、織斑先生とこうして話すのは……」
「は、初めてですし……」
一夏と五飛が去ってしまい、どうしたものか分からない女子五人は座ったままうんともすんとも言えない状況に陥ってしまっていた。
「全くしょうがないな。私が飲み物を……うん? おかしいな、もう少し種類があったと思ったんだが……まあいい、アイスティーしか無いがそれでいいな」
そう言いながら、部屋の備え付けの冷蔵庫から人数分のアイスティーを取り出し各々に配る千冬。
「い、いただきます」
全員が同じ言葉を揃え、アイスティーを口にする。女子達の喉がごくりと動いたのを見て、千冬は白い歯を覗かせた。
「……飲んだな?」
「は、はい?」
「そりゃあ、飲みましたけど……」
「ま、まさか睡眠薬でも!?」
「馬鹿を言え、ちょっとした口止め料だ。前払いのな」
ふと立ち上がった千冬が新たに冷蔵庫から取り出したのは、麒麟の絵でお馴染みの缶ビールだった。蓋を開ければ景気のいい発泡音が響き、ゴクゴクと一気に半分近く飲み干す千冬。
当然、女子達は目の前の光景に唖然としていた。いつもの規律と規則に厳しい千冬からは想像出来ない寛ぎっぷりと、仮にも職務中であるにも関わらずの飲酒。
同時に各々が手にしていた飲み物の意味に気付いた。つまり、これをやるから黙っていろという口封じである。しかも既に受け取り、飲んでしまった手前抵抗も出来ない。
「さて、前座はこの位でいいだろう。そろそろ肝心の話をするか……お前ら、あいつの何処がいいんだ?」
千冬の言う『あいつ』。一人を除いた四人は誰の事を指しているのか一瞬で理解出来ていた。
「わ、私は別に……以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけですので……」
「わ、わたくしは、クラス代表としてしっかりしてほしいだけです」
「僕、あの、私は……優しいところ、です……」
「つ……強いところが、でしょうか……」
意地を張った答えとストレートな答えが四者入り乱れ、実に楽しそうな表情をしてそれを聞いている千冬。
だがその中で一人、首を傾げたまま沈黙を保っていた者がいた。
「どうした鳳、お前はどうなんだ?」
「あのー……あいつ、ってどっちの事か……」
鈴の言に千冬は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに先程の楽しそうな表情に戻った。さながら新たな獲物を捉えた肉食獣の如く。
篠ノ之とセシリアは、どこか納得の言った表情を見せる。幾ら男女のそれではない兄妹の様なやり取りであっても、鈴の普段の態度を見ていればそれとなく察する事が出来ていた。
対して二人と比べてまだ鈴との付き合いの浅いシャルロットとボーデヴィッヒは、興味深げに頷いていた。
「何だ、鳳は張の方だったか。昔はよく一夏とつるんでいたからてっきり惚れているのかと思っていたが」
「そりゃまあ仲が良いとは自分でも思いますけど……って! ああああたしは別にううう五飛は、その……」
一夏への懸想は否定しながらも、五飛の事となると途端にしどろもどろになる鈴。これでは白状しているのと同じである。
「確かに張も強いな。私が恐怖を感じた人間など、教官以外ではあいつが初めてだ」
「あの時は凄かったね、横で見ていただけの僕でも動けなかったもん」
「ああ、アリーナに飛び込む前から凄まじい気焔を立ち上らせていたな」
「そういえば四月の時点で既に素人とは思えないレベルでしたわね……」
意外にもボーデヴィッヒが横槍を入れると、それに続き他の三人も実体験を交えてボーデヴィッヒに同意した。五飛の戦いを間近で見てきた者は一様に口を揃える、彼は強い、と。
五飛の戦いの場における姿は、戦いぶりだけでなくその思想からも凛呼たる武人である事は伺える。だが普段の五飛は寡黙と言えるほど口を慎み、座学の成績もかなり優秀である。
しかもそのどちらも、一夏とほぼ同時にIS適性が発覚したとは思えない、極めて優れた能力。
一夏と同じ位の筈の経験の浅さ、ISを駆る技術、その知識。それらの要素が巧く繋がってくれない為に、五飛がどういった人間なのかというイメージを上手く持てないままだった。
学園で二人だけの男子である事から一夏とよくつるんでおり、自然一夏に付いて回っている四人の女子達とも一緒に居る事が多いが、五飛の不可思議さを四人はここに来て改めて自覚する事となる。
「……そうだな。一夏程ではないが、あいつを落とすのも相当骨が折れるぞ?」
「うう~……!」
思考に陥った場の空気を戻すように発言する千冬と、顔を真っ赤にしながら俯く鈴。臨海学校初日の夜は、五飛の知らぬ所でその周囲の環境が変わりつつあった。
だがこの会話の中で、女子達が気付いていない事があった。
会話が五飛の強さについて及んだ瞬間、一瞬だけ千冬の眼が野獣の眼光を放っていた事を。
以前から違和感のようなものは感じていた。
確かに張の技術はISに関わって半年も経たない人間とは思えぬ程の高さがある。それでも尚、何処か意図的に力をセーブしている印象すら受ける。
しかも千冬自ら鍛えたボーデヴィッヒを恐怖させる程の、こと戦闘の場面においては研ぎ澄まされた抜身の刃のような雰囲気を漂わせている。
いくら拳法の経験があろうと、生半可な場数では人間ああまではならない筈だ。
この時を切っ掛けに、千冬がクラス代表決定戦から抱いていた疑念が確信へと至り始める事となる。
(脳内BGMはry
臨海学校に突如として姿を現した天才科学者、篠ノ之束
その目的は、妹の篠ノ之箒に新型ISを託すためであった
圧倒的な性能を誇示する新型ISと篠ノ之の姿
だが五飛と一夏にとってその姿は言い知れない不安を感じさせるものであった
次回、思春期を殺しきれない少年少女達の翼 第十七話『その名は紅椿』