思春期を殺しきれない少年少女達の翼   作:ブローデン

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IS8巻が四月予定……だと……
……嵐が来るなあ……




第二十一話 福音の鐘は二度鳴る

 雪片弐型を右手に携えて、福音が反撃に移る前に襲いかかる一夏。

 

 体勢を立て直した福音はそれをひらりと仰け反って躱すが、一夏は左手に備わった新装備『雪羅』(せつら)で即座に追撃を掛ける。

 第二形態に移行したことで現れたこの装備は、状況に応じた機能が現出するよう切り替わるようだ。先程荷電粒子砲を放ったそれは、一夏のイメージに応えるかのように指先から1メートルはあろうエネルギー爪が発生した。

 

「逃がすかよ!」

 

 福音は直撃さえ免れたが、エネルギーシールドを削ったその攻撃は確実に福音を捉えていた。

 

『敵戦闘レベルの上昇を確認、対処レベルA』

 

 背中から生えたエネルギー翼を広げると福音の頭上に光球が膨れ上がっていき、その光の球が弾けた瞬間、光弾が大口径粒子砲の様な奔流を形成して一夏に襲い掛かった。

 

「そんな攻撃!」

 

 だが一夏は回避しようとせず、代わりに左腕の雪羅を構えて光の渦へと自ら向かっていった。

 甲高い金属音を響かせて、雪羅の形態が変化する。すると光の壁が発生し、福音の攻撃を弾くのではなく『消失』させている。

 

 荷電粒子砲、エネルギー爪に続く三つ目の機能。零落白夜の特性である、エネルギー消滅効果を備えた盾である。

 

 当然、零落白夜を発動させている以上こちらもエネルギーを消費するのだが、これほどの攻撃が直撃する事に比べれば、一定のエネルギーの消費を前提に敵のエネルギー兵器を無効化出来ると言う点でかなり有利に立ち回る事が出来る。

 しかも福音にはエネルギー兵器しか装備されていないのは出撃前に確認済みである。つまりはこちらのエネルギーがある限りは、福音の遠距離攻撃は全て無効化出来るという事になる。

 

 

 

「ごめん、回復に手間取った!」

「あれは……一夏なのか!? 白式の形状が変わっているが……」

「障壁を展開しているという事は、新しい装備を?」

 

 そこに福音の攻撃から漸く態勢を整えたシャルロット、セシリア、ボーデヴィッヒ達が戦場へと舞い戻ってきた。

 だが三者ともISの一部が破壊されており、おそらく福音第二形態とは正面切っての戦闘は不可能だろう。

 

『状況変化、広域攻撃を実行』

 

 しかし当の福音はそれを敵の増援と認識したのか一夏への集中攻撃を中断し、お得意の全方位に弾幕を張る攻撃へと移行した。

 

「不味いっ、流石に皆を守りながらは……!」

 

 すぐさま仲間達の盾に入ろうとする一夏だったが、その一夏の行動も福音の全方位攻撃も、五飛の怒号と共に止められた。

 

「戦場で余所見をする奴があるか!」

 

 一夏と、一夏達ばかりに集中しこちらへの注意がおろそかになっている福音、双方を叱責するような叫びだった。

 

 装備している五飛の四肢の動きを干渉しないギリギリの大きさまでに肥大化したドラゴンハングが福音に迫る。

 その姿形も然ることながら、顎というよりは鋏に近い、縦方向から横方向に開閉が変化した巨大な牙が開かれた。

 

 だが福音には、その攻撃速度は初戦でまみえた時よりも遅くなった様に映っていた。肥大化による速度の低下を悟った福音は、回避するよりは迎撃、破壊する事を選んだのか、弾き飛ばして反撃を試みようと光の翼の先端を龍の頭目掛けて振り払った。

 

 しかしその光の翼は龍の頭を捕える寸前で空を切った。龍の軌道がうねり、福音の攻撃を躱しながら障害など最初から存在しなかった様に福音に襲い掛かった。

 

 事実、肥大化による貫通性能と速度の低下は存在していた。だがその速度低下に加えて多関節式から蛇腹状に変化した伸長アーム部分により、従来では成しえなかった射出中の軌道変化が変幻自在とも呼べる程まで可能となっていたのだ。

 

 しかも巨体故の質量を伴ったその突進は、たとえ貫通出来なくとも衝撃だけで並の装甲を破壊し、掠めただけでも敵の身体を十分に震盪せしめる。

 寸でのところでその牙に捕えられる事は逃れた福音だったが、牙の先端が掠めた事できりもみしながら吹き飛び、攻撃を中断されてしまう。

 

「五飛の言うとおり、こっちは大丈夫だから!」

「お前は敵を倒す事に集中してくれ! 私達とて代表候補生、この程度のっ!」

「決して足手纏いなどにはならなくってよ……!」

「あんた達はあんた達にしか出来ない事があるでしょう!」

 

 代表候補生達の方も、福音の弾幕を躱しつつ五飛が作った隙に乗じて、各々の残った武器で反撃に転じている。

 既にエネルギーも弾薬も底が見えていた。反撃と言っても、現状では申し訳程度の攻撃しか出来ない。だが彼女達は決して諦めてはいなかった。

 

「皆……」

「聞いただろう、あいつらはお前に守られなければならない存在ではない、俺達の仲間だ。その仲間が俺達を信じている、ならばやるべき事は一つの筈だ」

「……ああ!」

 

 一夏は右手に雪片二型、左手には再び爪を展開させた雪羅。五飛はドラゴンハングを戻し、ツインビームトライデントを回転させながら展開させて構える。

 

 借りを返すだけでなく、自分達を信じる友の為にも。今度こそ負ける事の許されない戦いだった。

 

 

----------------

 

 

 代表候補生達の中に混じって福音の攻撃を躱している篠ノ之は、一人瞠目していた。

 

 代表候補生達は銀の福音との圧倒的な性能差、劣悪なコンディション、そんな物を物ともせずに一切怯む様子は見せていない。

 絶望的な戦いと分かっていながら、自分達の力を、仲間の力を信じて戦っているその姿に、篠ノ之は戦いの最中にも拘らず何処か尊さを感じていたのだった。

 

「(そうか……そういう事だったのか……)」

 

 鈴が自分に言った『心の強さ』。

 勝利とは、未来とは、誰かから与えられるものではなく自分自身で掴み取るもの。そして未来を掴み取ろうとする行動は、勝者ではなく未だ至らぬ者、抗う者だからこそ行うものである。

 

 自分はどうであったろうか。一夏と共に戦える力を持った代表候補生達に歯噛みし、家族を引き裂く要因となった姉に縋ってまで、自分も力を手に入れた。

 だがそれは力があればどうにかなるような物では無かったと気付いたのは、一夏と共に戦いたいが為に手に入れた筈の力そのものに溺れてからであった。

 

 鈴の言葉を受け、皆で協力して一度は福音を落とし、そして今なお絶望的な状況にあっても僅かな希望を信じて抗い続ける仲間の姿。

 その全てを経て、篠ノ之は心の強さと言うものを理屈では無く感覚で理解し始めていた。

 

「(そうだ、力があろうがなかろうが関係無いんだ。私は皆と、一夏と共に戦って行きたい)」

 

 その瞬間、紅椿に異変が起こった。展開装甲から黄金の粒子が溢れ出しはじめ、篠ノ之の全身を包みながら輝き始めた。

 

「これは……?」

 

 ハイパーセンサーの情報から、機体エネルギーが急激に回復しているのが分かる。

 

≪絢爛舞踏発動、展開装甲とのエネルギーバイパス構築完了≫

 

 そのHUDに書かれた項目名は、単一能力『絢爛舞踏』(けんらんぶとう)の文字だった。

 

「……応えてくれるのか、紅椿」

 

 篠ノ之の呟きに、当然ながら紅椿の反応は無い。だがこうして力を貸してくれている事が何よりの証拠、そう信じる事にした。

 

 

----------------

 

 

「片方頂きっ!」

 

 五飛のドラゴンハングによって福音の態勢を崩した所で、一夏が零落白夜で光の翼を斬り落とす。先の無人機乱入事件の際にも採った連携で、福音の光の翼の片翼を断った。

 

 しかし返す刀でもう片方を殺ごうとしても、どうしても片翼を犠牲にさせて離脱されてしまい追撃の機会を得られない。

 そして次の直撃を当てる間に斬り落とした翼が復元されてしまい、再び強力な弾幕を張られてしまうという繰り返しであった。

 

「ちっ、奴も以前より性能を上げているか……!」

「くっそぉ……! これじゃあこっちが先にガス欠になっちまうぜ……!」

 

 如何に軍用ISとはいえ、一度の補給も受けずにこれだけ立て続けに戦闘を行いながら、未だにエネルギー切れの素振りも見せていないのが不可解だった。

 持久戦に持ち込もうにも、新装備とメインスラスターの増加により攻撃・防御・機動性のそれぞれを大幅に上げた白式だったが、それ故に今まで以上に燃費も悪化しており白式のエネルギー残量は既に二割を切り始めていた。

 

「泣き言を言っている余裕は無い、もう一度だ!」

「へっ、ここまで来たらそれしか無いって分かってるけどな……!」

 

 焦燥していないといえば嘘になる。だがここまで来た以上は奇策を練る暇も無ければ、付け焼刃の策が通用するような敵では無い。

 何とかして正面から捻じ伏せなければならないが、決定的なあと一手が欠けていた。

 

 

 

「一夏、張!」

 

 その一夏と五飛の戦線に篠ノ之が飛び込んで来た。確かに損傷は五人の中では一番軽微であるが、既に戦闘に使えるエネルギーは切れていた筈。

 だがその背には高機動用の飛翔翼が展開されており、エネルギーは健在である事を示している。

 

「篠ノ之、やれるのか!?」

「私は大丈夫だ! それよりも二人とも、これを受け取ってくれ!」

 

 篠ノ之が差し出した紅椿の両の手が、白式とアルトロンへと触れる。

 その瞬間、一夏と五飛には電流が走ったような衝撃と、炎に巻かれる様な熱が走った。だがそれと同時に機体エネルギーが瞬時に回復していくのが確認できる。

 

「エネルギーが回復……!? 箒、これは……」

「理由は後回しだ、とにかく有難い事に変わりは無い。篠ノ之も戦えるのだな?」

「ああ……今度こそ、自分の道は見誤らない!」

「よし、三人寄れば何とやら! 次で決めようぜ!」

 

 確実に敵を機能停止に追い込む為に必要となるのは、光の翼を断つ事で攻撃力と機動性を封じ、回復の隙を与える事無く福音の本体に零落白夜を直撃させる事。

 

「……私が斬り込む。一夏、済まんが防御と止め両方を任せる!」

「了解!」

「そういう事ならば!」

 

 何かを閃いた篠ノ之がそう言うが早いが、その一言で己の役割を察してか一夏は何の躊躇も無く篠ノ之の背に飛び乗り、五飛は二人から離れ福音とも距離を取る。

 一夏は当初の作戦のような紅椿に背負われるような形ではなく、篠ノ之の背を土台に片膝立ちになって福音を見据えた。

 

 紅椿と白式の二重加速を眼前にして、当然迎撃に弾幕を張る福音。だが今の一夏はそれを無効化する機能を有している。

 

「一夏!」

「雪羅防御形態・最大出力っ!」

 

 出力を最大まで高めたその障壁は、一夏の足元に伏せた形となっている事で全面投影面積の少ない篠ノ之まで充分にカバー出来る。

 福音の攻撃を無効化しながら一気に距離を詰めるには、この防御機能を発動させたまま速度を確保する必要があった為、即席の合体技をやってのけたのだった。

 

 攻撃が無効化され、その距離をみるみる内に詰められた福音は遠距離迎撃を諦め近距離戦闘の態勢に臨んだ。

 

「遅いっ!」

 

 だが篠ノ之の速度の方が僅かに勝った。一夏は福音と篠ノ之が交錯する直前でその背を離れ、篠ノ之は即座に上体を起こしすれ違いざまに両手の雨月、空裂を上段から×の字に交差させるように斬り下ろす。

 一拍遅れて、銀の福音を銀の福音たらしめていた光の翼は両翼とも根元から寸断され消滅した。

 

 二刀を振り下ろしたまま、微動だにしない篠ノ之の背に向き直った福音は怒り狂ったかのように襲い掛かる。例え攻撃力と機動力の要である光の翼を一時的に失ったとはいえ、未だ戦闘能力を失ったわけではない。

 だがそれは未遂に終わった。背後から強烈な衝撃が福音を襲ったかと思えば、その胴体がとうとう龍の咢に喰らい付かれていた。

 

「今度は逃がさん!」

 

 一夏と篠ノ之に気を取られていた福音の前方上空に備えていた五飛が、回復の隙を作らせない為の二の手に出たのだった。

 もう一方のドラゴンハングを、さらに福音の正面に回り込ませながら頭部を捕縛して締め上げる。

 

 その握力に福音の装甲は悲鳴を上げながらも、捕縛から逃れんと残った胴体の翼から暴れるように光弾をまき散らす。

 当然五飛にも光弾が飛んでくるが、ここまで来たら少々の被弾などもはや気にも留めない。

 

「はああああっ!」

 

 今まで締め上げ続けていたドラゴンハングを、何かのタイミングを見計らった様に福音を強引に上方に放り投げる五飛。

 福音が放り投げられた先には、宵の明星の光を背にして福音へと急降下していく影が一つ。

 

「チェストォォォッ!!」

 

 紅椿の背中から飛び立ち、さらに上方へ控えていた一夏が、巨大な零落白夜の白刃を福音との一瞬の交錯に合わせて振り下ろした。

 両翼を失った事に加えて、ドラゴンハングの投げの威力に制動力を奪われて成す術も無く急上昇していた福音は、その無防備な胴体に直撃を受けた。

 

 

 

 無尽蔵にも思えた銀の福音のエネルギーも、本体に零落白夜の直撃を受けて漸く底を付いたのか、その装甲は光の粒子となって消え、意識を失った搭乗者だけが空中に放り出された。

 

「おっと! ……もう流石に再起動なんて事はないでしょうね」

「ナイスキャッチ鈴!」

 

 無防備な搭乗者が落下を始める直前、咄嗟に鈴が躍り出て搭乗者を抱きかかえた事で搭乗者の救助は事無きを得る。

 

「……漸く終わったな」

「ああ……」

「さ、流石に疲れた……とんだ七夕になっちまったぜ……」

 

 突きぬけるように蒼かった空は既に茜色に染まりきっており、後僅かでその茜色も夜の闇へと変化する兆しを見せ始めていた。

 

 状況が開始されてから凡そ七時間、作戦に関わったIS操縦者は無傷とまでは行かないが、全員五体満足で肩で息をついている。

 ここに銀の福音暴走事件は、結果としては白式の第二形態移行と紅椿の単一能力の発現という望外の結果を伴って、漸くその幕を閉じた。

 

 

 

 

「そうだ、七夕といえば……箒」

「む、どうした一夏」

 

 これから旅館に帰還しようとする一行の中、急に何かを思い出したように篠ノ之に呼びかける一夏。

 

「誕生日、おめでとうな」

 

 篠ノ之にそう真っ直ぐと告げた一夏の顔を、素っ頓狂な顔をして見つめ返す篠ノ之。

 どうやら本日七月七日は篠ノ之の誕生日だったようで、当人の様子を見るに自分でも忘れていたようだ。

 

 だが次の瞬間、篠ノ之の瞳からは涙が滝の様に溢れ出し、顔をくしゃくしゃにしながら思い切り一夏に抱き着き、その胸板に泣き顔を埋めた。

 

「おわっ!? ちょ、ほ、箒!?」

「ちょっと箒さん!? 抜け駆けは許しませんわよ!」

「その気遣いは流石私の嫁だが、私の目の前で他の女性とイチャつくのは看過出来んな」

「相変わらず一夏は人の目を気にしないんだねえ……撃ってもいいかな?」

「お前ら……いいから早く帰還するぞ、続きは報告の後でやれ」

「ちょっとーあたしは何時まで一人で抱えてればいいのよー」

 

 今年の七夕の夜は、織女と牽牛もいい迷惑なのではないかと思える位の姦しさを伴って訪れたのだった。

 

 





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