約一か月の夏季休暇も明けて二学期に突入したIS学園。
九月初頭、二学期最初の実戦訓練は一組二組の合同訓練で始まっていた。
「どうしたの一夏! 折角の第二形態を使いこなせてないんじゃない!」
「くっ、ちょこまかと……!」
午前の部の閉めとして互いの組の代表者同士で模擬戦をすることとなり、当然ながら対決するのは一夏と鈴である。
純粋に機体性能の高さから比較すれば、一夏が負けるという線は薄い。
だが試合が始まってみれば序盤こそ一夏が押していたものの、次第に鈴が攻勢に転じ一夏は防戦一方の流れへと変化していた。
傍目に見れば接戦に見えなくもなく、現に一組と二組の女子は二人の模擬戦に、正確には一夏の躍動に歓声を上げている者も多い。
しかしそのような中で件の五人は至って冷静に模擬戦を見つめている。
「……ペースを握られたな」
「ええ、あれでは一夏さんでなくても息切れを起こしてしまいます」
「攻勢に出てるうちは良かったけど、防戦に回るとジリ貧になっちゃったね」
「だが白式の一撃は当たれば大きい。鈴の思い切りと冷静さが上手く作用した結果だな」
「一夏、もっと冷静になれ! それでは当たるものも当たらんぞ!」
それぞれが一夏と鈴の戦い方を評し、痺れを切らした篠ノ之は一夏に檄を飛ばし始めている。
一夏とて夏季休暇を遊び呆けていたわけではない。事実、夏季休暇中も五飛や篠ノ之、いつもの代表候補生達を交えての訓練は最早日課だった。
ISを駆る様になって僅か数ヶ月という点を鑑みれば、著しい成長を遂げている。
だが、だからこそ鈴も一夏と並び成長を遂げているのである。
序盤の一夏の攻勢も実の所一夏が押していたわけでは無く、鈴の誘いであった。
白式第二形態・雪羅の悪化した燃費を少し前から見抜いていた鈴は、試合開始直後から攪乱とヒットアンドアウェイを繰り返し、一夏に狙いの定まらない攻撃と焦燥を誘発させていた。
鈴の駆る甲龍は燃費と安定性を第一に設計されており、継戦能力に重きを置いた機体である。時間を掛ければ掛けるほど鈴の方が有利になる事を計算に入れて守勢に回っていたのだ。
雪羅の爪も荷電粒子砲も使用できず、零落白夜すら発動出来ない程にエネルギーの底が見えた一夏へ、鈴がここぞとばかりに攻勢に転じる。
「そろそろ終わらせるわ……よっと!」
「こっちの台詞!」
鈴が双天牙月を二振りに分離させ、左手のそれを一夏へ向けて投擲した。
一振り同士ならばこちらに分があると判断した一夏は実体剣の雪片弐型で投擲された双天牙月を打ち払い、そのまま反撃を試みるつもりだった。
「甘い! 早とちりは怪我の元ってね!」
「何っ……なあっ!?」
だが双天牙月を打ち払った一夏の眼前には、再び双天牙月の刃が迫って来ていた。
鈴は一投目の死角に、既に二投目を忍ばせていたのだ。完全に虚を突かれた一夏は打ち払う事もままならず大きく体を仰け反らして紙一重で回避するも、視界から鈴を見失ってしまう。
「見失ったからって動きを止めたのが命取り!」
視界から消えた鈴が、雪羅の警告音とほぼ同時に頭上から拡散型龍咆の連射を浴びせる。
如何に一夏が五飛と代表候補生五人に囲まれて訓練を受けているという破格の特訓環境であっても、一夏のIS搭乗経験はまだ数か月。
一夏よりも数段下積みがあり、且つ今も一夏と並んで訓練をしている鈴との差が一朝一夕でそう簡単に埋まるわけもなかった。
「それまで! 今回の模擬戦は凰の勝利とする」
千冬が高らかに鈴の勝利を宣言した所で、午前の実習は終了となった。
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「うーん、多機能武装に割いているエネルギーが多過ぎるのかな」
「見ろ、機体の容量自体は以前と変わっていない。今まで以上に初動を即決着に繋げる意識を持たねばならん」
「動く時は終わらせる時、か……」
午後の実習が始まる直前、更衣室で白式のデータパネルを開いて仏頂面をしている一夏と五飛。
常ならば何気ない風景だったが、この日は一点異物が混ざり込んでいた。
「……なあ五飛、ところで……」
ふと一夏が五飛に呼びかけた。そう言いながら視線をちらちらと背後に向けている事からも、一夏もこの視線に気づいたのだろう。
五飛は既に室内に侵入して来た時点で気配に気付いていたが、敵意も殺気も感じない。ただただ観察しているのみという意図の読めない侵入者。
それ以前に、微塵も気配を隠そうともしていないのも不自然だった。
「ああ、分かっている。そこにいるの、話があるなら出てこい」
だが単なる好奇心の過ぎた女生徒とも考え難い。更衣室に忍び込むなど、如何に思春期とはいえ考えられぬ強行である。
五飛が侵入者の気配が有る方向に視線を向ける事無くぴしゃりと断じると、意外なほどあっさりと侵入者はその姿を露わにした。
「あら、ばれちゃった」
悪戯がばれたようなおどけた声を上げつつ立ち並んだロッカーの影から出てきたその侵入者は、当然ながら二人の見知らぬ女生徒であった。
リボンの色からして二年生であろう事は分かるが、上級生だからといって男子更衣室に忍び込んで良い理由は無い。
だが目の前の女生徒はそんなことは露とも気に掛ける様子は無く、二人を笑顔で見つめている。
何時の間にか扇子を広げ口元を隠してはいるが、新しい玩具を見つけて心中の愉快さが隠しきれずに滲み出てきたような笑顔。
「……あのー、ここ一応男子更衣室なんですけど…」
「御免なさいね。我慢できなくなっちゃってつい」
「一夏、授業に遅れる。行くぞ」
その笑みの不愉快さが鼻についた事もあったが、底の見えない何かを警戒して半ば無視する形で早々と更衣室を後にして午後の実習に向かう一夏と五飛。
にもかかわらず、先程の女生徒は笑みを絶やす事無く二人の背中を見送る様に、更衣室に佇んだままだった。
「なあ五飛、今の知りあいか?」
「知っている様に見えるか」
「だよなぁ……何だったんだろ」
この時点では、一夏は単なる奇特な女生徒、五飛は心中で不審人物候補に挙げる、それくらいの存在でしかなかった。
だがその認識は、それほど間を置かず改めさせられる事となる。
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翌日、SHRと一限目の半分を使って、屋内アリーナで全校集会が開かれていた。
内容は今月末に控えた学園祭についての指針であるが、どうやら生徒全員を一か所に集めての説明という例は余り無いらしく、一夏と五飛の周囲の生徒にも若干の疑問と期待の色が見え隠れしている。
「わざわざ全校生徒集めて説明しなくてもいいのにな」
「それだけ重要な事なのだろう」
女子の喧騒に包まれながら愚痴る一夏を五飛がいなしていると、館内にマイクテストの声が響き始める。
≪それでは、生徒会長から説明をさせて頂きます≫
生徒会の役員であろうか、喧騒の中にも関わらず静かな声でそう告げられた。
だがその一声で先程の喧騒が嘘の様に静まり返り、全員が一斉に壇上に注する辺りは流石のIS学園生徒である。
「やあ皆、おはよう」
「あっ!? なっ……え!?」
「……!」
「今年は色々立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったわね。私は更識楯無、君達生徒の長よ。以後よろしく」
檀上に現れて挨拶を述べた生徒は、先日二人が更衣室で遭遇したあの女生徒であった。
何故生徒会長があの時間、あのような場所に居たのかも分からないが、五飛は唐突に悪い予感に襲われた。
その予感が的中したかのように、生徒を見渡すふりをした中で視線を明らかに一夏と五飛の方へ一瞬だけ向けて片目を瞑って見せる。
この学園に来て既に幾度となくトラブルに見舞われている一夏も、その経験から得た勘働きが何かを感じ取ったのか五飛と合わせて顔を顰めさせている。
「では今月の一大イベント学園祭についてだけど、今回に限り特別ルールを導入するわ」
扇子を懐から取り出し、それを広げると同時に檀上背後にも大きな空間投影ディスプレイが浮かび上がる。
だがそのディスプレイには何故か一夏と五飛の写真が大きく映し出されていた。
「名付けて『織斑一夏&張五飛争奪戦』」
更識の高らかな宣言が館内に響くとほぼ同時に、割れんばかりの困惑とも歓声とも聞こえる全校生徒の声が一斉に響き渡る。
館内の視線は当然、対象となる一夏と五飛の両名に瞬時に釘付けになる。
「静粛に。学園祭では毎年各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行い上位の部には特別助成金が出る仕組みでした。しかし今回それだけではつまらないと思い、兼各部からの同様の要望を多数寄せられている事も鑑みて……」
檀上から渦中の一夏と五飛を、扇子でびっしと指し示しながら宣言した。
「織斑一夏、張五飛を投票一位、二位の部活動に強制入部させましょう」
今度こそ館内は歓声一色の雄叫びが響き渡った。最早当人の意思など介在する余地は何処にも無い。むしろ最初からこちらに決定権など無いかの扱いである。
「俺そんな事同意した覚えは無いんだけどなあ……」
周囲の熱気とは裏腹に、一人虚しくごちる一夏の顔にはこれから起こり得る事態への不安と諦観の色が浮かべている。
「………」
対する五飛も沈黙は守っているものの、彼の周囲だけは館内の歓喜の熱気とはまた別の、怒気とも呼べる業火の如き熱気を全身から噴出させていた。
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その日の放課後、HRにおいて組ごとの催し物を取り決める時間が設けられた。
最初は一夏と五飛の存在を生かして素っ頓狂な要望ばかりが挙げられていたが、ボーデヴィッヒの提案で一組の催し物は『メイド喫茶』という事に収まった。
メイド喫茶と言うのは書いて字の如く、黒または濃紺のワンピース、フリルの付いた白いエプロンを組み合わせたエプロンドレス、俗にメイド服と呼ばれる衣装を従業員が纏って給仕を行う。
通常の喫茶店と違うのはその点だけと言えばそうなのだが、ここ日本ではそういった衣類に対する独特の嗜好があるらしい。
あのボーデヴィッヒがよりによってそのメイド喫茶という提案をした事で一同呆気に取られていたが、飲食店なので経費の回収が可能であり、外部の人間も入場するという事で休憩所としての需要が望める点からしても問題は無い。
衣装に関しても、シャルロットが持っている伝手を利用するという事で、衣装の作成や準備に取られる心配も無い。
そして何よりも『一夏と五飛の執事姿が拝める』という点で女子達の満場一致を得た事により、一枚岩となって学園祭に取り組むことと相成った。
その決定をクラス代表である一夏が担任の千冬に報告へ言った所、ボーデヴィッヒがメイド喫茶を提案したという部分に爆笑したらしい。
一夏や五飛に限らず、一組のクラスメイト全員が多少なりともその人格と提案の差異を感じているのだ、ボーデヴィッヒの過去を知る千冬からすれば噴飯ものなのだろう。
「一夏、生徒会室へ行くぞ」
「やっぱり抗議するのか?」
「当然だ、見世物扱いされるのにも限度がある」
教室に戻ってきた一夏と共に生徒会室へ乗り込もうとしていた矢先、その当の人物が既に目の前に居た。
「やあ」
更識楯無その人が、既に五飛達を待ち構えていたのだ。
「丁度いい、貴様に用があったのだ」
「あら丁度いい、私も二人に話があったのよ」
既に上級生に対して敬語を使う意識も失せている。
二人の戸惑いと怒りなど何処吹く風、極めて涼しげに、初めて出会った時と同じように心底愉快そうな笑みを浮かべながら五飛と一夏を眺めている。
五飛から放射される気迫の圧力を、僅かに眼を逸らせる事でやり過ごしながら告げた。
「立ち話も何だから、生徒会室に行きましょう。少し立て込んだ話になるから」
そう言うと、二人の意思も確認せずにさっさと背を向けて歩き始めてしまった。二人が自分に付いてくるという事は更識の中では既に確定事項らしい。
だが五飛にはここに来て、もう一つ気になる事を発見していた。
「……歩きながらでいい、この場で一つ聞きたい事がある」
「好奇心旺盛な少年は嫌いじゃないよ、許可します」
「お前は人から恨みを買うような真似をしているのか?」
五飛は当惑していた。
楯無と歩みを共にした時から、四方から殺気が飛んできている。漠然としたものではない、確たる更識楯無という目標を持った、刺すような敵意である。
ただ殺気と言っても、実際に殺意を持ったものではない、良くてIS同士の戦闘時に感じられるような気迫と言った方が正しいか。だが楯無を目標としている事は確かであった。
「うーん心当たりは無いなあ。きっと私が生徒会長だからかな」
やはり当人もこの殺気に気付いていた。五飛の言わんとしている事を既に知っているかのように澱みなく答える。
だがその返答はどこか的を射ていない。生徒会長が生徒に狙われる理由など五飛が伺い知れるわけが無い。
「えっと、会長に五飛は一体何の話を……」
「更識楯無! 覚悟ぉぉぉ!」
楯無が五飛の問いに答え、一夏が雲を掴むような二人の会話に疑問を呈そうとしたその瞬間、突如三人の前方から粉塵を上げんばかりの気勢を以て一人の女子が襲い掛かって来た。
その姿は道着に袴姿で手には竹刀を携え、一夏と五飛には目もくれずに一直線に更識へ向けてその竹刀を振り上げた。
「ファッ!? な、何だ何だ……っとお!?」
「ああんもう邪魔しないで織斑君!」
突然の急襲に困惑した奇声を上げながらも、楯無の前に庇うように躍り出た一夏がその竹刀を白刃取りの要領で受け止めていた。
一夏が前方を抑えている間、五飛は前方の剣客のみならず四方の敵意が動いた事を察知し、即座に対処出来るよう楯無と背中合わせに構えている。
「あら、男の子に守られるのって意外と悪くないかも」
「巫山戯た事を抜かすな! 一夏、更識、外だ!」
五飛の警告と共に数枚の窓ガラスが割られ、楯無の額を狙って次々と矢が飛んできている。見れば隣の校舎の窓から和弓を射る袴姿の女子が見える。
学生用の弓道矢とはいえ、常識で考えれば人に向けて射るものでは無い。だが狙われている当の楯無は、そんな事は歯牙にもかけず、これまた愉快そうに弓を躱し続けている。
当然五飛の方にも流れ矢が飛んでくるが、こちらも楯無と同じように最低限の動きで躱している。だが五飛達には遠距離への反撃の手段が存在しない。
生身の相手にISを展開しての攻撃は憚られる。元より鈴の龍咆の様な、手加減の効く武装はアルトロンには無い。
ならば、と五飛はあろうことか自分に向かって飛来した矢をその手で掴み止めて見せた。そして矢から外した視線を驚愕の呈を示している射手に向けて、それこそ射抜くような鋭い視線で睨みつける。
こちらの実力と殺気をぶつける事で敵意を殺ぐ方法に出たのだ。矢をわざわざ掴み止めて見せたのも、その効果を相乗させるための演出のようなものである。
数の不利に加えて五飛の腕と発せられた殺気に怯んだのか、襲撃時の気迫とうって変わって、襲撃者は年相応にちょっと怯える素振りをしながら口惜しそうに姿を消した。
己と敵の彼我実力差を悟る事は悪い事ではない。武に携わる者ならばその程度の現実主義を持ち合わせていても何ら不思議は無かった。
「何だかよく分からないけど、悪いっ!」
「あうっ!?」
一夏の方も何とか襲撃者から竹刀を奪い取り、逆に敵の額を強かに打ち込んでその意識を奪う事に成功していた。
生身の相手に竹刀で打ち込むことには抵抗があっただろうが、もとより無手を襲われたのは此方であるし、一夏とてそれ位の加減は心得ているだろう。
「貰ったぁぁぁっ!」
二人の襲撃者を跳ね除けた所に、間髪入れず三人目の襲撃者が清掃用具の入ったロッカーから飛び出してきた。
その両手にはボクシンググローブがはめられており、楯無へと猛ラッシュを仕掛けて来る。
「さっきの答えを教えてあげるよ。IS学園において、生徒会長という肩書は一つの証明みたいなものなの」
説明の続きをしながらも、繰り出されるラッシュをいとも容易く躱し続けている。明らかに場数を踏んでいる心の均衡の保ち方だった。
「生徒会長、生徒の長たる存在は」
焦れたボクサーが右腕を引き絞ってストレートを繰り出した隙を縫って、更識が踏み込んだ。
「即ち、IS学園最強の存在である事」
渾身の右ストレートを、左足を大きく踏み込みながら体勢を下げて躱し、そのまま腰を回転させて右足のかかとに遠心力を乗せて繰り出す。
更識の後ろ回し蹴りはボクサーのこめかみに直撃、ボクサーはそのまま意識が飛んでしまい半ば回転するように横倒しに伏した。
如何にボクサーとはいえ、足技の対応は不慣れだったようである。
「……見えた?」
「み、見てますんよ!」
再び構えを自然体に戻した楯無が、開いた扇子でスカートの裾を押さえながら一夏を一瞥した。
一夏が立っていた角度と方向からして恐らく見えていた筈だが、咄嗟についた嘘であろう。加えて楯無の口端が吊り上っているのを五飛は見逃さなかった。
一夏がいちいち初心な反応を示す所為かこの女、完全に一夏をからかっている。
「んんっ! あのー、それでも学園最強とこの襲撃になんの関連があるのかさっぱりなんですが……」
「簡単に言えば、最強である生徒会長は常住坐臥襲ってもいいのさ。そして勝ったならばその人が生徒会長に成り代わる」
気を取り直そうと、わざとらしい咳払いを挟んで先程の話を再開しようとする一夏に、今までと変わらぬ微笑の中に威風を漂わせて答える楯無。
しかしいくらISに関する技術の養成機関と言えども無茶な理由である。するとこの女も、先代の生徒会長を倒して現会長に就任したのだろうか。
「……物騒な学園だな」
「それにしても私が就任以来、襲撃は殆どなかったんだけどなあ。それが今日は複数が一斉になんて」
そう言うと並んだ一夏と五飛にずい、と近寄り交互に目を配らせる。
「やっぱり、君達の所為かな」
「な、なんでですか」
「私が今月の学園祭で君達を景品にしたから、一位を取れなさそうな運動部や格闘技系が実力行使に出たんでしょう。私を失脚させてイベントキャンセル、ついでに君達も手に入れようって所かな」
「ふん、勝手に人を景品にしておいてよく言う」
だがその予測は恐らく当たっているであろう事は、一夏も五飛も理解出来た。
ただ腑に落ちないのは、幾ら物珍しいとはいえ何故そうまでして自分達を欲するのかという点である。そもそも女子に混ざって部活動など、二人とも御免被りたかった。
実際の女子達の欲求は二人が考える様な真面目なものでは無いのだが、一夏を取り巻く代表候補生の様な分かりやすい物は別しても、自身の与り知らぬ所で寄せられる想いには無頓着だった。
尤も、それを察しろというのも無理な話ではあるが。
「その件に関しての説明も兼ねてのお招きよ。お茶くらいは出すから安心して。それに……『仕事』の話もしたいしね」
仕事。
その言葉を聞いた一夏は何か生徒会の手伝いでもさせられるのかと思い至ったが、五飛はその言葉を放った瞬間の楯無に同じ匂いを感じ取っていた。