思春期を殺しきれない少年少女達の翼   作:ブローデン

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第三話 ハーレムの井戸の底で

思い込んだら一途になり過ぎるのが鈴の悪い癖である。

 

あの勝負の日以後、五飛は三日にあげず鈴の訪問を受けることになった。もっとも鈴は五飛の手を煩わせる事は決して無かった。

たとえば、五飛が居ようが居まいが気にもかけない。不在ならばさっさと帰るか、或いは勝手に上がりこんで日がな一日雑誌やら本でも読んで過ごすか、どちらかだった。

菓子類、飲料水の持参は当然としても、呆れ返った事に自分専用のクッションまで持ち込んでいる。

 

五飛が居れば持参物の飲食を勧めたり、聞いてもいないことをあれこれと話したりもするが、決して強制的ではない。まるで同居人のようだった。

 

だが五飛はこの極めて身勝手な訪問者に嫌な顔をした事は無い。干渉もしない。つまりは放っておくのだ。

鈴が気分を害する事をしているわけではないし、去り際には最低限周囲の煤を払って行くので問題は無かった上、鈴の側にも、自然にそうさせるような何かがあった。

 

瞬く間に空気のようにその場に適合してしまう才能である。

紛れもなく勝手気ままなことをしているのだが、人の気に障る事がない。へつらっているわけではない。生来気の強い鈴がそんな真似をするわけは無い。

むしろそれが皆無な事がこの結果を呼ぶのだろうか。ある種の小動物的な存在感もあってか、それが一月も経った頃には顔を合わせても挨拶一つしない、鈴が五飛の部屋にいるのがそれほど自然になってしまっていた。

 

少なくとも鈴にとっては、格別話などしなくてもいいのである。五飛がそこにいるという事だけで平安なのだ。

 

それに五飛にとって有益な情報も得られた。聞けば鈴は日本に住んでいた頃、織斑一夏と親交があったというではないか。

織斑一夏が鈴の事を覚えていれば、同じく鈴を知る者として接近が自然且つ容易に出来るだろう。

 

しかし五飛には、ほんの僅かではあるが懸念があった。鈴の母親は心配しないのだろうか、と。

幾ら五飛が有名人であっても、鈴は年頃の娘でなる。まさか母親には内密なのだろうか。男の部屋に通うなどというのは、それこそ不逞の部類に入るのではないか。

五飛が鈴に尋ねられなかったのは、こと戦闘においては感情を表に出し一見粗暴なイメージがあるが、戦い以外の時は物静かで、変な所でシャイだったからだ。

 

本当の所、五飛のこの懸念はあてを外していた。

実際は鈴の母親も娘の行動は熟知していた。鈴の母親どころか、鈴に関わる政府関係者すら知る所でもあった。その上で誰も鈴に一つの諌言もしないのは、揃いも揃って『あらあらうふふ』的な微笑みを湛えて鈴の行動を見守っているからだった。

 

これは鈴も気付いていない事だが、鈴の母はそういった面では鈴の節度を信頼しているし、政府関係者はむしろ鈴を後援する側であった。

男性のIS適性者が、代表候補生と男女の仲となる。これ以上の話題性はなかった。将来的には、もしかしたら今の女尊男卑の風潮を一新する架け橋的存在になるかも知れない。そういった期待の視線を受けつつ、五飛と鈴の預り知らぬ所で包囲網は着々と敷かれていった。

 

 

 

だが五飛自身、殆ど無意識ではあるがこの環境を心の何処かで受け入れていたのかも知れない。それはまるで、嘗てそう在る筈であり、今は失われてしまった。そんな漠然としたものを取り戻そうとするかの様に。

彼女が髪を伸ばしていれば、今頃は丁度鈴ほどになっていたのであろうか。五飛も自覚し得ない程無意識に、そんな事を考える時もあった。

 

 

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四月に入り、五飛の手元には改修を終えたアルトロンも届いている。いざIS学園へ、という時にちょっとした騒動が起こった。

 

鈴が駄々をこねた。彼女は五飛がIS学園へ入学することを全く知らなかったのだ。五飛が日本へ赴くにあたり、身辺整理をしているのを見て疑問に思った鈴が訪ねて、そこで初めて知った。

実の所、鈴もIS学園へ入学し専門教育を受けるよう軍部から再三説得されていたが、今までは常に「面倒臭いし無意味」と一蹴していた。

 

だが世界初の男性IS適性者が織斑一夏であると知るやいなや、その考えは真逆となった。逆に軍部を脅してでもIS学園へ入学すると決意した。問題なのはその後、二人目の男性IS適性者、五飛の発見である。

あの日の勝負以来、IS学園への入学手続きを全く進めていなかった。それほどあの勝負が鈴にとって衝撃的だったのであろうか、IS学園の事など頭からすっぽり抜け落ちてしまっていた。

 

大急ぎで手続きを進めたが、結局入学式には間に合わず、おおよそ半月ほど遅れての編入が関の山となった。

だったら五飛も自分と一緒に遅れて行こう、というのが鈴の言い分であった。幾らなんでも無茶苦茶な言い分である。

 

最終的には五飛の説得により事無きを得た。むしろ五飛には、一か月と離れるでもないのにこれほど大騒ぎする鈴の考えが理解出来なかった。

流石に乙女心に対する機知は、五飛には不得手だったので理解出来ないのも仕方ないと言えば仕方ないが。

 

現に空港での別れ際も、アルトロンの待機状態である眼鏡を掛けた、今までの五飛とは違うイメージの五飛を見て終始頬を紅くしていた鈴に全く気が付いていなかった。

朴念仁というわけではなかったのだが、今の五飛にはまず任務が最優先だったので、それ以外の事は気にかける必要はないと断じていた。

 

「では、俺は先に行っている」

「こっちもすぐ行くから、待ってなさいよ」

 

別れ際の短いやり取りだったが、何だか今の五飛と鈴の力関係を端的に表しているような言葉で、鈴はどこか可笑しかった。

 

 

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入学式を終え、振り分けられた教室の席に、腕を組み瞑目して座る五飛。その右隣の席に、顔を青くして項垂れているのが件の護衛目標、織斑一夏が居た。共に最前列である。

ここで僥倖だったのが織斑一夏と同じクラスであった事だ。おそらく学園側も無闇に分散させるより、一纏めにしておいた方が監視もしやすいとの判断を下したと予想される。

 

織斑一夏が青い顔をしているのは、五飛を除くクラス全体、いや学園全生徒といってもいい、女生徒から向けられる好奇の視線が原因だろう。

勿論その視線は五飛にも向けられているのだが、五飛の方は全く意に介していなかった。これほどの女に囲まれるのは初めての経験ではあったが、元より覚悟の上でもあったので問題はない。

 

耳を澄ましてみれば、男性二人に対する視線だけでなく噂話があちらこちらから聞こえてきている。

 

「私話しかけてみようかしら」「ちょっとー抜け駆けは駄目よ」

純粋な好奇の対象。学園二人のみの男子であることに加えて、異性に興味を持つ思春期の女子ならばごくごく自然な反応である。

 

「あれがISを動かせるっていう男?」「動かせるだけってオチは勘弁して欲しいわね」

明らかな蔑視の視線。五飛が居た環境は、そのような女性とは縁遠い場所に居ただけに、逆に新鮮だった。だがあの手合いは幾ら相手をしてもキリが無いので、無用な混乱を起こさない為にも近づかないに限る。

 

「身長の高い彼は間違いなくへタレ攻めね!」「眼鏡っ漢ktkrgff」「やっぱり眼鏡の彼が受けかしら? ああでも鬼畜眼鏡もいいわねえ」

新人類。ここでは割愛する。

 

それよりも五飛が気になったのは、自分の左隣に座り、どこか厳しい目つきでひたすら一夏の方を睨んでいる長い黒髪を持つ女子である。

いや、もう一人周囲とは違う視線を二人に向ける者が居た。金髪のロングヘアーを縦にロールした、いかにもお嬢様然とした少女。あの視線は明らかに好奇でも侮蔑でもなく、敵意だった。

 

 

 

チャイムが鳴り、教室に入ってきた女性が教壇に立つ。

 

「皆さん入学おめでとうございます、私は副担人の山田真耶です。今日から皆さんはこのIS学園の生徒です。この学園は全寮制、学校でも放課後でも一緒です。仲良く助け合って楽しい3年間にしましょうね」

そう言いながら教壇に立つ、眼鏡、童顔、巨乳と妙な要素が揃っている女性。彼女が手を掲げると、黒板のモニターから『山田真耶』とネームプレートが表示される。

しかし生徒の反応は妙に淡泊だった。掴みを外したと思ったのか、山田真耶は焦りつつも次に話を進める。

 

「そ、それじゃあ初対面の人が大半でしょうし、親睦を深める意味でも自己紹介をしましょうか。名前と、簡単に趣味や特技なんかも言って貰えると嬉しいですね!」

 

 

 

進む自己紹介、そして遂に織斑一夏の番。

 

「えーと……織斑一夏です……よ、よろしくお願いします……」

 

一夏は引き攣った笑みを浮かべていた。先程以上にクラス28人の視線が一斉に突き刺さっているのである。どの目もISが使える男子は一体どのような素性の持ち主なのか気になっていた。

そして遂に一夏の口が開かれた。

 

「……以上です!!」

 

女子の何人かは椅子からずり落ちた。期待に胸を膨らませていた者にはあまりに拍子抜けな自己紹介であった。そのくせ一夏は妙にやり遂げた感のある顔をしていた。なんとも不敵な男である。

 

「まともに挨拶も出来んのかお前は」

 

そして響く打撃音。見れば一夏が出席簿で頭を叩かれていた。そこに立つのは黒いスーツにタイトスカートの鋭い目つきの女性。

一夏を殴った人物は、五飛の知る顔だった。資料で見たことがあるだけだが、そこに居たのは、第一回IS世界大会総合優勝者、織斑千冬その人であった。

 

経歴もさることならが、教室に入った瞬間からの気配の消し方といい、まるで初めから一夏の隣に居たかと錯覚するような素早い身のこなし。恐らく技量ならば五飛より高いだろう。

IS学園で教鞭を取っている事は知っていたが、まさか。千冬の二発目が炸裂した所で、彼女は名乗りを上げた。

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。

 私の仕事は弱冠一五才を一六才までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。良ければ返事をしろ。良くなくても返事をしろ」

五飛の思った通り、やはり担任であった。しかし弟が居るクラスの担任を姉がやってもいいものかと思うより先に、黄色い悲鳴が木霊し五飛の思考を中断させた。

思春期の女子の持つパワーを侮っていた五飛は、早くもこの任務を引き受けたことを若干後悔し始めていた。

 

ちなみに五飛の自己紹介は堂々とした佇まいではあったが、「中国出身の張五飛、以上だ」という一夏と同レベルな内容だったため、彼も織斑千冬の出席簿の犠牲となった。

その時「俺が生身の女の攻撃を躱せないだと……!」と一人ごちていたのは、大半の人間にとってどうでもいい事だった。

 

 

 

授業が始まって分かったのは、織斑一夏は正真正銘ISに関して素人だった事。授業に追いついていくのもやっとなのか、頭から煙が噴き出さんばかりの苦悶の表情を浮かべていた。

半ば事故でIS適性が判明し、本人もよく分からないまま状況があれよあれよと進んで、結局IS学園に入学することになったので仕方無い部分もあるのだろうが。

 

 

「張五飛、でいいんだっけ? 同じISを使える男同士、仲良くしようぜ」

 

二限目が終わった休み時間、五飛が接近する前に一夏の方から接触を試みてきた。嬉しい誤算だ。織斑一夏はあまり人見知りしない性格のようだ。

女衆に囲まれ男は自分ただ一人のところを、同じ境遇にある五飛に仲間意識を持ったのもあるのだろう。

 

五飛は一限目の休み時間から声を掛けようと考えていたが、その時は例の左隣の少女改め篠ノ之箒が一夏に声をかけ、何処かへ連れていってしまった。篠ノ之箒はその珍しい苗字が共通するように、篠ノ之束の妹である。

ただクラスメイトにその事を騒がれた際に激昂して「自分とは関係ない」と断じていたので、深くは追及しないことにした。五飛は少なくとも今の任務には関係ないとの判断を下した。

 

「ああ、こちらこそ宜しく頼む。ところで織斑は凰鈴音を知っているか?」

「一夏でいいぜ、堅苦しいのはなしだ。って張は鈴の事知ってるのか? 鈴が日本に居た頃はよく一緒に遊んだぜ」

「分かった、俺も五飛で構わん。鈴は今中国の代表候補生をやっている。少々遅れるが、今月中には鈴も編入してくるだろう」

 

一夏が代表候補生って何だ? と聞こうとした時である。

 

「ちょっと、よろしくて」

「へ?」

 

突然声を掛けられて呆けた返事をする一夏と、座ったままで視線のみを声の方に向ける五飛。

そこには五飛が感じた、男二人に対して敵意ある視線を向けていた女子、セシリア=オルコットが佇んでいた。

 

「まあなんですのそのお返事! わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではなくて?」

「悪いな、俺君が誰だか知らないし」

「わたくしを知らない? このセシリア=オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

 

まさか初日からこのような女に絡まれるとは。一夏とオルコットのやり取りを眺めつつ、五飛は心の中で溜息をついた。

 

「代表候補生とは、国家を代表するIS操縦者候補として選出された人間の事だ」

「へえ、それは凄いな。って鈴もその代表候補生なんだろ? やるなぁ鈴のやつ……」

 

一夏へ助け舟を出す五飛。だが内心は辟易していた。

 

確かに代表候補生は、IS技術に関してそれなりの技量と知識を要求される、言わばエリートである。だが実際に国家代表になれるかはまた別の話だ。あくまで候補生なのである。

正式な国家代表となればともかく、わざわざ候補生を、それも他国のまで一々覚えていろというのも無茶な話である。そのような半端な立場にあるだけなのに、何故ここまで居丈高になれるのか五飛は理解に苦しんだ。

 

「そちらの方は多少物事を知っていらっしゃるようですけど、本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運ですのよ?

 その現実をもう少し理解していただける? あなた方はISに関しては素人、ISの事で分からない事があれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。

 何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

「入試ってあれか? ISを動かして戦うってやつか? 俺も倒したぞ教官。まあ倒したって言うより、突っ込んできたのを躱したらそのまま壁に激突してお終いだったけど」

「悪いが、俺も同じく勝たせて貰っている」

「は……? わ、わたくしだけと聞いておりましたが?」

 

一夏と五飛の答えに衝撃を受けるオルコット。だが五飛も、己は言わずもがなだが一夏も偶然のような状況とはいえ教官を倒したという事実の方に興味が引かれた。

 

試験管を務めた教官とて、まさか受験生相手に全力を出していたわけでは無いだろう。それは実際に手を合わせた五飛にも分かった事だし、そのような試験で教官を倒した事を鼻に掛けるのも理解出来なかった。

 

だがずぶの素人である筈の一夏が教官を倒したという事実は別の話となる。

もしかすれば磨けば光るものを持っているかも知れない。自分とて四六時中目を光らせている事が出来るわけではない、最低限自分の身は自分で守れるようになれば。

そんな事を考え始めた五飛だったが、次の授業開始のチャイムが鳴ったところでその思考を止めた。

 

それを聞いてオルコットも、何やら悪党が逃げる時のような捨て台詞を吐いて席に戻っていったが、五飛は本当にあのような女がいるのだなと思い知る事になった。

幸い五飛の周囲には、先日知り合った鈴を含めそのような下らない風潮に乗じるような女性は居なかっただけに、逆にそのせいで今回余計に悪印象を持ってしまった。

 

己の立場を振りかざすばかりで人の話を聞こうとしない、嫌な感じの女だ。現時点では、五飛にとってオルコットはその程度の存在だった。

 

 

----------------

 

 

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する、っとその前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

教室に入るなり授業を始めようとする千冬だったが、代表者を決めるという事で直前で手を止めた。

千冬の説明を聞く限りでは、分かりやすく言えば学級委員のようなものであろうか。クラス対抗戦への出場以外にも、生徒会の会議や委員会への出席などを請け負う事になるらしい。

 

「自薦他薦は問わないぞ、誰か居ないか」

「はいっ、織斑君を推薦します!」

「私は張君を推薦しまーす!」

「えっ!? お、俺!?」

 

一夏は自分が推薦された事に驚いたのか、周囲をきょろきょろと見まわしながら狼狽している。推薦した女子達も、自クラスにISが使える男子がいるのだからそれをアピールしたい部分もあるのだろう。

五飛は狼狽えてこそいなかったが、己が他人を纏め上げる立場につくなど無理な話だと最初から辞退する気でいた。おおよそ団体行動などとは縁の無い存在であることは多少自覚があった。

一時はチームを組んで動いていた時もあったが、あれはカトルのように優秀な指揮官の下だからこそである。しかも今回は自分が纏める立場。自分にあのような真似は出来ない。

 

「他に誰かいないか。いないのならばこの二名で決選投票を」

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

五飛が辞退の名乗りを上げるよりも先に、別の名乗りを上げる者がいた。先程のセシリア=オルコットである。

 

「そのような選出は認められません!大体男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア=オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?

 実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然! それを、物珍しいからという理由で極東の猿や支那人にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであってサーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

「(何を言っているんだこの女は……)」

 

五飛は今オルコットが『理解に苦しむ』場所にいるのではなく『理解出来ない』場所に居るのだと悟った。

しかもモンド・グロッソ総合優勝者を輩出した国を、その総合優勝経験者を目の前にしてのこの台詞である。完全に頭に血が上っている。

 

オルコットの話に、五飛と共に槍玉に上がっている一夏の方を見れば、こちらも眉間に皺を寄せ眉を吊り上げ、明らかな怒りの表情を浮かべていた。

 

「大体! 文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で……」

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年世界覇者だよ?」

 

売り言葉に買い言葉、一夏の反論を皮切りにあれよあれよという間に話はどんどんエスカレートして行く。そしてとうとう行き着くところまで来て、オルコットの口から最後に飛び出した。

 

「決闘ですわ!!」

「ああいいぜ、そっちの方が四の五の言わずに白黒つけられる!」

 

しかも一夏の方だけではない、オルコットは五飛にまでビシっと指を差して指名してきたのである。

一夏は鼻息荒く、素人である自分と曲がりなりにも代表候補生との彼我実力差など気にもかけていない。無謀といえばそれまでだが、その姿勢自体は五飛にとっては好ましいと思えるものだった。

理不尽に怒り、抗おうとする姿勢。遠まわしに姉を侮辱された事も理由に含まれているのだろうが、実力のほどはともかく少なくとも織斑一夏という人間性がどういうものかを察することが出来た。

 

それにこれは織斑一夏が、まずスタート地点としてどれだけの位置にいるのか、イギリスの代表候補生の一人がどれ程の実力を有しているのか。

オルコットの挑発に乗る気はなかったが、それらを確かめる良い機会でもある。

 

だが一つだけ、オルコットと戦うにあたり確かめなければならないことが五飛にはあった。

今まで口を挟まず静かに腕を組み、オルコットと一夏のやり取りを伺っていた五飛がこの場で初めて口を開く。

 

「セシリア=オルコット、貴様は正しいのか?」

「っ! 軽々しく名前を呼ばないでくださらない!?」

 

名前を呼ばれたことに激昂したオルコットだが、次の瞬間有無を言わさんとばかりに五飛は叫んだ。

 

「貴様は正しいのかと聞いている!!」

 

怒号というよりも、轟くという方が正しいような声が教室に響いた。オルコットに限らず、教室内にいた生徒全員がまるで首根っこを掴まれたような感覚を覚えた。

副担任の山田真耶などは涙目で完全にへっぴり腰だ。

 

「もっ……もちろんですわ!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

「……いいだろう、決闘の申し出を受けよう」

 

ここで怯んでは決闘を申し込んだ手前も相まって情けない姿を晒してしまう、それだけは避けたいという一心で必死に反論を試みるオルコット。

五飛の方も、ここで躊躇おうものなら逆にこちらから跳ね除けていたが、少なくともそれなりの気骨と自信はあるようだ。戦うに値する相手と認識した五飛は、クラス代表の座はともかくとして決闘を承諾した。

 

 

 

「さて話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、オルコット、張の三名はそれぞれ用意をしておくように」

 

パンパンと手を叩きその場を収め、改めて授業を再開しようとする千冬。

 

「それと織斑、お前の機体は用意するまで時間がかかるぞ」

「へ?」

「予備の機体が無い。だから学園で専用機を用意するそうだ」

 

専用機。妥当な判断だろう。五飛の時もそうだったが、貴重な男性IS適性者である。それだけ政府も期待しているという事の表れだった。

少なくともそれがオルコットとの決闘に間に合えば、機体の性能差は穴埋め出来るだろう。あとはパイロット次第となる。

 

 

 

入学初日から、波乱の学園生活を思わせる出来事の連続に不安を感じたのは確かである。だが五飛も一週間後の決闘に、内心疼くものがあった。

模擬選ではない、『決闘』の申し出である。疼かないわけが無かった。




(脳内ry


入学早々代表候補生と戦う事になった五飛と一夏
だが一夏はISを持たぬまま決闘に備えなければならない
しかし直前になって届いたISは、あまりにも危険なISだった
そして、遂に龍が牙を剥く

思春期を殺しきれない少年少女達の翼、第四話『決闘始末』
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