思春期を殺しきれない少年少女達の翼   作:ブローデン

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第四話 決闘始末(前)

セシリア=オルコットと決闘の運びとなった入学初日の夜。一夏と五飛は割り当てられた寮の室内でオルコットの機体データを調べていた。

二人一組の相部屋制だが、当然ながら男子と女子を相部屋に出来るわけもなく男同士の一夏と五飛が相部屋となった。

 

『ブルー・ティアーズ』、射撃を主体とした機体で、第3世代兵器「BT兵器」のデータサンプリングするために開発されたIS。五飛が知る射撃主体の機体とは趣が違うし、何より射撃戦を旨とする割には搭載武装が妙に少ない。

機体名でもあり遠隔操作式ビット兵器の名前でもあるブルー・ティアーズに、やや大口径のエネルギーライフルに誘導式ミサイル、それと申し訳程度の近接戦闘用ショートブレード。

専用機と言うよりは実験・試作機という意味合いの方が濃いのだろう。五飛はそう判断した。

 

「でもいいのかなあ、俺達はこうやってオルコットのISを色々調べられるけど、オルコットはこっちのISなんて事前に調べ様がないだろ」

「構うな。オルコットは殊更代表候補生であることを鼻にかけていた、こうして資料が出回っている事も納得済みだろう。逆にこの程度の情報が手に入ったところでお前とオルコットの差は縮まらん」

「いや、まあその通りなんだけどさ……」

 

フェアプレー精神というのだろうか。確かにISは競技・スポーツであることを前面に押し出して教育している。その点では一夏の精神は尊重されるべきものだ。

だがISを使う時、即ち命をやり取りする戦闘という環境に今なお身を置いている五飛には判り辛い感覚だった。

 

「下手な情けは即負けに繋がる、それだけ今のお前とオルコットの差は大きいのだ。何より全力で戦わねば礼を欠くことになるぞ」

「そうか……うん、そうだよな」

「そうだ、今はそれでいい。続けるぞ」

 

こうして入学初日の夜はオルコット専用機のデータ整理という形で更けていった。

 

 

----------------

 

 

「なあ、箒もISの事について教えてくれないか? このままじゃ何も出来ずにセシリアに負けそうだ……」

「知らん! 下らない挑発に乗るからだ!」

「俺は構わんが、何より時間がない。基本的な知識を教えられる位だぞ」

「サンキュー五飛! 箒もそう言わずに頼む!」

 

翌日の昼休み。一夏は五飛と箒を交えて昼食をとりながら二人にISに関する教えを乞うていた。だがいくら専用機が譲渡されるとはいえ、僅か一週間でパイロットとしての技能の差を埋められるわけがない。

篠ノ之は先程から一夏に対してどうもつっけんどんであるし、自分も昨晩に引き続いて基本的な知識を教えられる位か。

 

そう思った所に、顔も知らぬ女生徒が近づいてきた。リボンの色からして三年生であることは分かった。

 

「ねえ、君達って噂の男子でしょ? 代表候補生の子と勝負するって聞いたけど、君達って素人だよね? 私が教えてあげよっか、ISについて」

 

口ぶりからして代表候補生ではないのだろう。一応上級生なので技術は一年生よりは上であろうが、先輩風を吹かしているという体ではない。

これを機にあわよくば噂の男性IS適性者とお近づきに。そんな下心が透けて見えていた。

 

呆けている一夏に代わって、断りを入れようよした五飛だったが。

 

「結構です、私が教えることになっていますので」

「貴方一年生でしょ? 私は三年生。私の方が上手く教えられると思うなぁ」

「私は……篠ノ之束の妹ですので」

 

五飛が断る前に間髪入れずに篠ノ之が口を挟み、先程までとうって変わって自分がISについて教えると言っている。しかもあれだけ関係を否定していた筈の姉の名を使ってまで。

流石にそのネームバリューには勝てなかったのか、上級生はすごすごと引き下がっていった。

 

「箒、教えてくれるのか!?」

「どういう風の吹き回しだ篠ノ之、先程と言っている事が違うぞ」

「う、五月蠅い! 私が教えてやると言っているのだ! それでいいではないか!」

 

先の台詞とは百八十度違う態度を二人に突っ込まれ、強引に話を切り上げようとする篠ノ之。

流石の五飛でも、この反応から篠ノ之箒は織斑一夏の事を憎からず想っている事を察することが出来た。むしろここまであからさまなのは、いっそ清々しい。

一夏の鈍感さも相まって本人は隠しおおせているつもりなのだろうが、傍から見ればバレバレの部類である。

 

 

 

だが千冬が言っていたように、今は予備機も間に合っておらず、しかも一年生の学習課程はまだISの動作訓練にも入っていないので、空き時間の訓練機貸し出し許可も下りない。

結局、放課後は篠ノ之が基礎と称して一夏と剣道の鍛錬をすることになった。聞けば篠ノ之は中学時代に全国優勝経験があり、一夏も幼少時は剣道を習い、姉の千冬にも師事を仰いでいたとの事。

 

五飛も一度鍛錬の様子を伺ってみたが、ブランクはあるものの基礎は身に沁みついているようだった。焼け石に水ではあるが、剣道の鍛錬も全く無駄とは割り切れないだろう。接近戦を演じる際には少なからず生きる筈である。

そして夜は、寮室にて五飛からISに関する基本知識を学ぶ座学の時間。ただし時間が限られているので、これだけは抑えておかねばならないという基礎の基礎のみである。

 

一週間ここまでやった所で、一夏がオルコットに勝てる見込みは万に一つ有るか無いかである。だがその万に一つが起こった時の為に、今出来る最良の事をやっておく。

戦いに臨む者としては当然の心構えである。五飛は、座学で頭がパンクしそうな一夏にそう教え込んだ。

 

 

----------------

 

 

一週間経った月曜日の放課後。

第三アリーナの観戦席には、男性IS適性者の戦闘を一目見ようと誘い合わせた女生徒が少なからず見受けられる。

 

試合の運びは先ずオルコット対一夏、その後インターバルを経てオルコット対五飛という組み合わせとなった。オルコットは連戦となるが、本人が言い出した決闘騒ぎである。それぐらいは覚悟して貰おう。

だが試合開始ギリギリになって漸く一夏の専用機『白式』が届くというハプニングがあり、五飛が先手となっても良かったのだが、最適化は試合中に済ませるという強行出撃となった。

 

「箒、五飛、行ってくる!」

「あ、ああ! 勝ってこい……!」

「今持てる物全てを出し切れば悪い結果にはならない筈だ、行ってこい」

 

箒と五飛の声を背に受け、揚々とアリーナへと躍り出る一夏。オルコットは既に試合開始地点で待機していた。

 

「逃げずに来たこと、褒めて差し上げますわ。最後のチャンスを差し上げます、このまま戦えばわたくしが勝つのは自明の理。今から泣いて謝るというのでしたら、許して上げないこともなくってよ?」

「そう言うのはチャンスとは言わないな!」

「残念ですわ、それなら……お別れですわね!」

 

抜き打ちのライフルによる初撃を躱せず、咄嗟に腕部装甲でガードするが大きく距離を開けられる一夏。

最適化を開始して五分と経っていない、ましてやISの起動はこれで二回目、且つ戦闘は初体験の一夏は白式と自分の反応が噛み合わないのか、上手く躱せずにエネルギーを削られていく。

 

「さあ踊りなさい! このセシリア=オルコットとブルーティアーズの奏でる円舞曲で!」

「くそっ! 何か武器はないのか!?」

 

このまま逃げ回っていては一方的にやられるだけだ、反撃を試みようとする一夏。

どうやら白式の武装は近接戦闘用の刀『雪片弐型』だけらしく、一夏はどうしても接近しなければオルコットに攻撃を加えられない。

思案しつつも攻撃を見切る事に専念していた一夏は、ライフルによる攻撃はなんとか回避できるようになって来た。

 

だがオルコットは余裕の表情を崩していない。次いで彼女は自身のIS最大の特徴であるビット兵器四基を展開させ、四方から一夏へ攻撃を仕掛けている。

直撃は避けているもののシールドバリアーを掠め、時には避けきれずに腕部でガードし、更にシールドエネルギーを減らされる。

そして再びビットを収納し、ライフルによる射撃の雨。敵を近寄らせる事無く倒す、射撃に特化した機体のセオリーである戦い方だ。

 

対してこちらは刀一本、どう考えても不利は否めない。このまま逃げ回っていてもシールドを削られ続けるだけ、ならば。

 

「だったら……一か八かっ!」

 

賭けに出たことで思い切りが良くなったのか、白式の一夏との最適化が進んだのか、一発二発とビットの攻撃を回避する回数が増えてきた。そして遂にはビットとライフルの雨を掻い潜り肉薄すること数回。

 

残念ながらオルコット本体への攻撃は全て躱されてしまっていたが、ビットの軌道を読み、うち二基を撃破するまでに至っていた。

 

ISを操るのはこれで未だ二回目、それも一次移行もまだ完全に済んでいない機体であれだけの機動戦が出来るのは、一夏の才能と言っても良いだろう。

 

数値を見ている山田真耶も、彼の機動に舌を巻いていた。ハイパーセンサーと一夏の反射シンクロ率だけを見れば代表候補生、それも上位クラスに届きかねない数値だそうだ。

幼いころから剣術の修練を積んでいたこともあってか、姉の千冬も彼の動体視力と反射神経は認めるところであった。

 

周囲が一夏の意外な健闘に驚嘆している中、五飛だけは、いや一夏の姉である千冬も渋い表情のまま中継モニターを睨んでいる。

 

 

 

あの女、戯れている。五飛はオルコットの戦い方を心中でそう下していた。

何故最初からビットを展開させなかったのか。ライフルだけで勝てるつもりだったのか、併用出来ない理由があるのか。

その理由までは五飛には計れなかったが、自ら決闘とまで言っておきながら、格下相手とはいえ手加減をしたまま勝つ気でいる事は理解できた。

 

一夏も一夏である。

ビットの、というよりオルコットの癖である『ビットを必ず敵の死角から攻撃させる』『ビット操作には多大な集中力を要し、ライフルとの同時攻撃は出来ない』という攻撃パターンを看破し、刀一本でビットを二基撃破したのはいい。

だが戦闘中にそれをわざわざ敵に講釈するとはどういう事か。そんな事をしている暇があったらとっととその弱点を突いて攻めればいいものを、前もって敵に言って聞かせて警戒させてどうするのか。

 

オルコットに対し講釈を垂れている一夏の左手が忙しなく動いている。千冬の言によれば、あれは一夏が調子に乗ってしまっている時の癖らしい。

 

これでは幾ら実力差があっても、どちらが勝っても負けてもおかしくない。まさかこんな間抜けな形で『万が一』の事が起こるとは、五飛も予想出来なかった。

 

 

 

そうこうしているうちにビットをすべて切り払い、一撃を加えんと突撃した一夏だったがそれはセシリアの罠だった。

ブルーティアーズが搭載している六基のうち二基は遠隔操作式のミサイルであり、誘い出された一夏はそれを真正面から喰らってしまう。

 

決まってしまった。アリーナは一瞬静寂に包まれたが、爆煙が晴れた瞬間それは驚嘆へと声色を変えた。

 

着弾煙から出てきたのは、一次移行を終えた、先程までの鈍い灰色ではない、白銀の装甲に変わりシルエットも変化した白式を纏う一夏の姿だった。寸での所で機体に救われたのである。

まさか素人が一次移行も終えずに渡り合っていた事に驚愕したのか、動揺を隠せないオルコットに向かって単一仕様能力『零落白夜』を発動させた一夏が猛然と迫る。

 

「一次移行!? あなたまさか今まで初期設定のまま戦っていたというの!?」

「……そろそろ、守られるだけの関係は終わりにしなくちゃな。これからは俺も、俺の大切な人を守る! 人の心を知るものなら……白式! 俺に力を貸してくれ!」

「くっ、何を訳の分からない事を!」

 

力を得て、何かを決意したように呟く一夏。今こそ勝負を決めんと、動揺から立ち直り切っていないオルコットに突進する。

 

一夏は、授業中副担任の山田が言っていた事を思い出していた。

ISには意識に似たようなものがある。ISと操縦者との対話、つまり操縦時間に比例してIS側も操縦者の特性を理解しようとすると。

 

ならば、俺のこの決意を理解しろ。この決意が俺とお前が共に歩む第一歩だ。一夏は己自身に、白式に言い聞かせるように心中で叫んだ。

 

オルコットはミサイルによる弾幕を展開するも全て切り払われ、無防備な状態の所に止めを刺さんと一夏が斬りかかる。誰もがオルコットが斬られるその姿を、オルコット自身すら想像した、正にその時。

 

 

『試合終了。勝者、セシリア=オルコット』

 

 

試合終了のブザーと共に、勝者を告げるアナウンスがアリーナに響き渡った。

 

 

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「俺……何で負けちゃったんだ?」

「バリア無効化攻撃を使ったからだ。武器の特性を考えずに戦うからこうなる」

 

ピットに戻り、何故自分が負けてしまったのか疑問を呈する一夏と、その理由に答える千冬。

一夏が発動させたエネルギー刀『零落白夜』は、敵のシールドバリアーを切り裂き本体に直接攻撃が可能という、一撃必殺の代物だった。

 

だが代わりに自身のエネルギーも大量に使用する為、それまでの展開でエネルギーを大いに削られていた事に加えて、一次移行が終了した時点からほぼ展開し続けていた。

結果、ブルーティアーズに届く直前に機体のエネルギーが0となり、試合上はオルコットの勝利で終わった。

 

「箒と五飛にはあんなに世話になったのに、面目ない……」

「確かに、あそこまで追い詰めておきながらこの負け方は無様だな」

 

口ではそう言っていた五飛だが、心中では一夏の才を一部認めるところであった。

荒削りではあるが、とても素人とは思えない才覚を覗かせていた。あらゆる点で未熟なのは当然としても、磨けば自分の身を守る以上に、本人が言っていたように守るべきものを守れる程には強くなれるだろう。

 

とはいうものの、一夏は自身の立場が如何に特殊な立ち位置にあることを理解できていない。未だ日本政府やそもプリベンターである自分に今以て守られている事を分かっているのだろうか。

彼が自分の決意を貫けるようになるのは、そういった現状を理解した上で力の使い方を正しく心得てからだろう。まだまだ先は遠そうである。

 

今回、結果として負けたのは逆に幸いだったかもしれない。ここで下手に勝ってしまえば精神も技術も未熟なまま心が増長していた可能性もあったので、その点ではオルコットに感謝すべきだった。

 

 

 

次はオルコットのインターバルを待って五飛の番である。ここで一夏が、今まで疑問に思っていた事を初めて口にする。

 

「そういえば、五飛のISはどうするんだ?」

「言っていなかったか、俺は既に中国政府から専用機を受け取っている」

「え?」

 

一夏と篠ノ之の疑問の声が揃って上がる。

 

おもむろに眼鏡を外す五飛。次の瞬間、手にした眼鏡から発した光が五飛を包んだ。

 

 




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