思春期を殺しきれない少年少女達の翼   作:ブローデン

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第七話 激戦空域

あの夜以降も、鈴の一夏に対する態度は以前と何も変わらなかった。

 

最初こそ一夏と仲が良いのでセシリアと篠ノ之に警戒されてはいたが、鈴の一夏に対する行為に、恋心や抜け駆けといった下心の類は一切無かった。

二人もそれを感じ取ったのか、今ではセシリアとは互いに良き友人であり競争相手という良好な関係を築き、あの篠ノ之ですらも以前と比べたらかなり軟化した対応になっている。

 

時には五飛や一夏抜きで女性同士の会話に花を咲かせたりもしている。

一夏は鈴がIS学園の学友に心を開いた事を純粋に喜び、五飛はあの夜の事は鈴の中でちゃんと割り切ったのだろうと考えていた。

 

鈴はサバサバした気性の激しい性格ではあったが、五飛との出会いにより心の熱さはそのままに、生来の明るさを取り戻している。

そのうえ人懐こく、実年齢より幾分低めの子供のような初々しさがあった。互いに歩み寄れれば、同年代の女子と仲良くなれないわけはなかった。

 

それでもなお五飛が気に掛かっていたのは、その明るさの底にどこか厳しい悲しさを感じさせていたからだろうか。

 

心に引っかかりを覚えたままの五飛だったが、学園内外にも特に問題は起こらないまま、さらに十日程の時を経て、暦は既に五月。

 

そしてやってきたクラス対抗戦当日。

掲示用ディスプレイに表示されている対戦表には、まさかの第一試合から織斑一夏、しかも対凰鈴音という組み合わせとなっていた。

 

 

 

「……大丈夫なのか」

「なーに心配してんのよ、あたしが遅れを取るわけないじゃない」

 

試合開始前、五飛は鈴側のピットに赴き声を掛けていた。

流石にあのようなやり取りを目の当たりにして、なおかつその相手と鈴が戦うのだ。鈴のメンタル面がどうしても気になっていたが、気落ちしている様子は見られない。

 

「今のお前ならそうそう負けはしないだろうが、一夏だからと油断は禁物だぞ」

「そりゃ五飛が扱いてたって言うんだからね、こっちだって最初から本気で行かせて貰うわよ。ほら早く観客席に戻って、あたしの雄姿を目に焼き付けておきなさい」

 

だが、以前の鈴と比べてやはり違和感を感じていた。

あの夜以降、鈴は気付くか気付かないかのほんの僅かだが、五飛と少しばかり距離を置くような素振りが多くなっていたのだ。

 

 

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IS学園の催事には、各国のISに関連する人材の育成を一手に担う場所でもある理由から多くの外賓も観覧に招かれている。

学園行事の観覧が名目ではあるが、自国の代表ないし代表候補生の成長を見る為、未だ所属の決まっていない優秀なIS操縦者にあたりを付け青田買いをする為等、様々な思惑を孕んでいる。

 

そして外部から大量の人間が敷地内に招かれる為、名目上治外法権の場であるIS学園に潜入するような不逞の輩にとっては格好の機会でもある。

当然ながら学園側も相当数の人間を敷地内警備に回している上、各国から招かれている外賓にそれぞれ伴っている護衛が、自然と相互に監視するような役割を果たしているので過去に不審者に侵入された記録は無い。

 

だが悪意ある者にとっては数少ない機会、何かがあるとすればこのような日をおいて他にない。

自然と五飛も普段より気を張り詰めてこの日に臨んでいたが、流石にこのような状況では限界があると見たのか、外部から思わぬ応援が来ていた。

 

カトル=ラバーバ=ウィナーである。

五飛のカバーストーリー工作に一役買っていたウィナー財団だが、実際プリベンターと関係のないIS事業にも幾つか出資している、世界的にも有名な財団である。このような場所に招かれていても何の不思議もなかった。

 

 

 

アリーナ中央には、既に一夏と鈴が開始位置に待機している。

セシリアと篠ノ之はピットで出撃直前まで一夏を見送り、そのまま観客席ではなく管制室で観戦するらしい。何故一生徒がそう簡単に管制室に入れるのか気になる所ではあるが、恐らくは一夏と懇意にしている二人に対して千冬辺りが口を利いたのか。

 

「彼が噂の織斑一夏君ですか、真っ白で綺麗なISに乗っていますね」

 

本来は外賓専用の観覧席が用意されているのだが、カトルたっての希望で五飛と共に通常の観客席で観戦している。五飛のIS開発はウィナー財団が出資し、カトル本人も五飛と懇意である事を把握していた学園側もこれを了解した。

その左隣に五飛が座り、さらに右隣にはマグアナック隊の隊長が座っている。周囲の席にいる女生徒達も、まさかのサプライズに緊張しきりである。

 

他の観客席にもマグアナック隊のメンバーが点在して警戒している。彼らも当然五飛やカトルの本来の立場や任務の事を了解しており、カトルの縁の下の力持ち的な存在だ。

 

「……今の所、彼を狙う動きは外では見られません、中の方はどうでしょう」

「現時点で特に問題は無い、少々本人の自覚が足りんぐらいだな」

 

突然任務に関する話題に切り替わった話を振られるも、極めて平静に答える五飛。

むしろあまり聞かれたくない話題と言うのは、こうして極々普通の会話の中に時折織り交ぜた方が、周囲には悟られにくい。

 

「生徒の中にも怪しい奴は見受けられない。精々イギリスの代表候補生が接近している位だ」

「へえ、オルコットの御嬢さんが。彼、もしかして女殺しの類ですか?」

 

経済界の大物でもあるカトルの耳にも、イギリスの名門貴族であるオルコットの名は入って来ている。

実の所オルコットの方も、似たような境遇でありながら財団を一手に取り仕切るカトルの高名は聞いてはいたが、学園に入学する前までは男と言うだけでどこか忌避していた節があった。

 

「その点に関して奴は唐変木の類だ。二人、いや三人の女に言い寄られていてもまるで気付いていない」

「あはは……それはまた難儀ですね」

「……だが一つ覚えておく事がある。その三人の内の一人は、篠ノ之束の妹だ」

 

本人が姉に対して嫌悪を示しているので、現在の繋がりは薄いだろうと五飛も考えてはいたが、肝心の篠ノ之束の方はどうか分からない。

重要人物保護プログラムによって既にその身を保証されてはいるだろうが、姉の方から何かアプローチがある可能性も否定できなかった。

 

「それは……分かりました、警戒の目を少し広めておきましょう」

『それでは両者、試合を開始してください』

「あっ、始まるみたいです」

 

 

 

一旦会話を切り上げ、試合場に注目する五飛とカトル。騒がしかった周囲の観客の視線も、一斉に試合場へと集中した。

試合開始の合図とともに、先手を打ったのは一夏の方だった。開始と同時に突貫し、雪片弐型で鈴に斬りかかるが難なく躱されてしまう。

 

その後鈴は双天牙月を展開させ、試合は一方的な運びの様相を見せていた。二振りの双天牙月による手数の多さは、そのまま押しの強さも一夏に勝るという事だ。

双天牙月を右から左からと繰り出す連撃から、時には連結させ、まるで舞うかの如く回転を加えたコンビネーションを繰り出している。

 

「それで、あちらが五飛と懇意になったっていう中国代表候補生さん。魅せる戦い方をしますね」

「織斑の方にも出来るだけの事は教えているが、現時点の技量では圧倒的に凰の方が上だ。勝てる見込みは少ないな」

 

セシリアと戦った際の善戦は、偏にセシリアの油断による所が大きい。本来ならば素人が代表候補生レベルに勝てる道理は無い。

 

一夏も五飛やセシリアからの教えを受けて急成長をしているが、鈴も五飛との対戦以降腕を磨き続けている。

双方とも確かな才を持っている。だが今まで積み重ねて来た研鑽の量は、圧倒的に鈴の方が上である。才能と運だけで勝ち続けて行ける程、戦いは甘くない。

 

暫く刃の応酬が続いていたが、消耗戦になるのを嫌ったのか一夏が距離を取ろうとする。

だがそれこそが鈴の狙いだった。一瞬甲龍の肩にある発射口周辺の空気が歪んだかと思った瞬間、何かが来ると直感で判断し、咄嗟に体を動かした一夏の頬を衝撃が掠めた。

 

同じ近距離戦闘重視のISではあるが、白式には一切の射撃武装が無いのに比べて、甲龍には第三世代IS最大の特徴であるイメージインターフェイスを用いた特殊兵器が存在する。

空間自体に圧力をかけ砲身を作り、衝撃を砲弾として打ち出す特殊兵器『龍咆』である。

 

初見で一撃を躱すことが出来たのは、一夏自身の才能と五飛達の訓練による賜物であろう。

だが砲身も弾丸も見えず、射角は前方全範囲に自由自在という代物である。流石に一夏も躱しきれず、正面から一発、もろに喰らってしまい地を滑る様に吹き飛ばされてしまう。

 

「あれが龍咆、彼よく最初の一発を躱せましたね」

「動体視力と反射神経は確かなものを持っている。発射の予兆を捉えて、身体が反応したのだろう」

 

一旦は地に伏した一夏だが、未だ試合は終わっていない。すかさず追撃をかける鈴だが一夏もやられっ放しではいられない、衝撃の抜けきらないふらつく頭で、地を転がりながらも龍咆を躱し再び空中に飛び上がる。

 

「よくも動く! それでこそ一夏よ!」

「鈴も凄いぜ、代表候補生は伊達じゃないってか! でもこのままやられっぱなしじゃ、五飛やセシリア、箒に申し訳が立たないからな!」

 

思わず試合中に叫ぶ両者。実力差はあれど、一夏も意外なほど健闘を見せている。

鈴も加減をしているわけではない、恐らく一夏が苦戦を強いられた事で、この場でリアルタイムに成長をしているのだろう。鈴の才の形が努力型なら、一夏の才は状況適応型なのだった。

 

両者とも白熱した試合を見せ、心からこの試合を楽しんでいる。正しく切磋琢磨と呼ぶに相応しい試合であった。

 

 

----------------

 

 

だが近距離装備のみの白式と違い、同じ近接戦闘型とはいえ龍咆によって中距離戦を行える甲龍に次第に押されて行く。

白式のエネルギーも少なくなろうと大方が予想していたその頃合い。一夏が今まで接近戦に持ち込もうとしていた動きを止め、回避に専念し出した。

 

「彼の動きが変わりました。何か狙っていますね……」

「もうエネルギーも少ない、打つ手も限られている。逆転を狙うつもりだろう」

 

一夏が速度を上げ、回避に専念するようになっている。それも単に攻撃を躱しているのではなく、速度を上げながら鈴の追撃を振り払いつつ死角に回り込もうとしている。

 

五飛は一夏のこの行動を、死角からの瞬時加速(イグニッションブースト )による零落白夜を狙っているのだろうと読んだ。むしろこの状況から逆転を狙うにはそれしか方法が無い。

 

瞬時加速とは、ISの後部スラスター翼から意図的にエネルギーを放出、それを再び内部に取り込み、圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーを利用して爆発的に加速する技術である。

そして零落白夜による一撃必殺を喰らわせる、そんなところだろう。

 

だが瞬時加速の速度は使用するエネルギーに比例するが、使用中は加速に伴う空気抵抗や圧力の関係で軌道を変えることができず、直線的な動きになってしまう。

零落白夜を放つ程のエネルギーは数回位は残っていようが、一度躱されればそこで一夏の負けが決まるようなものである。

 

「随分思い切った賭けに出ますね、彼。あれも五飛の教えの影響ですか?」

「……あれは奴の地だ。向こう見ずだが、この状況から勝ちを狙うにはそれしかあるまい」

 

茶化すようなカトルの言い分も、以前の五飛を知っているからこその見解なのだが、あれは一夏自身の状況判断によるものだろう。

窮地に立たされ、実力差も明白。だが僅かな可能性がある以上は諦めを良しとせず、最後の瞬間まで勝ちを狙う。一夏は知らず知らずのうちに、戦いにおいて真っ先に必要になるものを身に付けていた。

 

遂に鈴は一夏の動きを追随しきれず、視界からの脱出を許してしまう。一瞬焦るような素振りを見せる鈴、好機と見た一夏は瞬時加速を発動させる。

空中の見えない足場を思い切り蹴ったかの如く爆発的な加速を行い、狙うは零落白夜の一撃。

 

 

 

「悪いけど……見えてんのよ!」

 

だが鈴の方が一枚上手だった。

一夏の動きを追随しきれず攻め手を緩めたのも、焦るような素振りを見せたのも、カウンターをクリーンヒットさせることが出来るスピードを持った一撃を誘うが為。

 

元より一夏の武装は、その雪片弐型一振りのみ。たとえ状況が一夏に不利であろうと有利であろうと、一夏が取りうる戦法の基本は「近寄って斬る」のみである。

自然、窮地に陥れば脱出するには逃げ続けるか、相手を倒すか、その二つしか無い。一夏の性格から、逃げの一手を選ぶ事は絶対に無いであろう事を分かっていた鈴には、行動を読むのは容易かった。

 

視線を背に向け、振り向きざまに一夏にカウンターを決めるべく、連結させた双天牙月を逆袈裟に振り抜こうとする鈴。

 

「読まれていた……! だったら、押し切る!!」

 

だが一夏も最後まで諦めていない。泣いても笑ってもこれが最後の一撃となる、ならば保身など捨て差し違える覚悟で何が何でも一撃を決める。

一夏はこの瞬間まさに『死人』と化した。既に死んでいる人間が敵の攻撃を恐れる必要があろうか。

 

鈴の技術が勝つか、一夏の気迫が押し切るか。勝負が決しようとした、その瞬間。

 

 

 

遥か上空から高出力のビームがアリーナの遮断シールドを破壊し、そのままビームはグラウンドに着弾し大きな爆炎が上がる。

ビームとほぼ同時に降ってきた『何か』は、その爆炎の中グラウンドに降り立っていた。

 

 

 

「五飛!」

 

カトルが叫ぶよりも先に、座席を蹴るように客席からアリーナへ飛び跳ねてゆく五飛。やはり何かが起こるとすれば、このような日だったか。

 

「カトル! 内側は任せた!」

「わかりました、ご武運を!」

 

こうして外部からの襲撃があった以上、並行して内部に工作を掛けるのは常套手段である。

見た所敵は一機、ならば五飛だけでも事足りる筈だ。状況判断と指揮能力に優れたカトル、それに人数に利のあるマグアナック隊は対内部工作に残しておくべきと判断した。

 

 

 

『試合中止! 織斑、凰、直ちに退避しろ!』

 

管制室では緊急事態に際して、真耶がすぐさま現状を確認し、千冬はマイクを通してアリーナにいる二人に命令を下している。

 

けたたましいサイレンが鳴り響き、観客席に設置されている物理防壁が次々とせり上がって閉じられて行く。殆どの女生徒は軽い混乱状態に陥り、非常口へと向かっている。

 

そのような状況で、生徒の一人が観客席の物理防壁が閉じられるよりも早くアリーナへ躍り出ていた事など、誰も知る由も無かった。

 

 

----------------

 

 

「な、何だ!? 何が起こってるんだ……!?」

「一夏、試合は中止よ! すぐピットに戻って!」

 

予想だにしない形で試合を中断され事態に困惑している一夏に、千冬の命令同様すぐに退避するよう声を掛ける鈴。

鈴の通信を受ける一夏のHUDには、所属不明のISからのロックを受けている警告が同時に映し出されている。爆炎で未だに姿ははっきりと見えないが、爆心地に揺らめくシルエットが確かに存在した。

 

「戻るって……お前はどうするんだよ!?」

「あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさい!」

 

未だ事態を把握しきれない一夏の前に出て、立ち上る黒煙に臨む鈴。

鈴とてこのような事態に、正体不明の敵を一人で倒せるなどとは思っていない。とにかく一夏が退避し、教師陣の部隊が来れるまでの時間を稼ぐ。それだけ出来れば十分だと判断した。

 

だがこの場に鈴を残し、一人逃げるような真似を一夏が認めるわけはなかった。ならば自分もと食い下がろうとするのは当然の流れと言えた。

 

「逃げるって、女を置いてそんな事出来るか!」

「馬鹿! あんたの方はエネルギーだって碌に残って……」

「鈴危ねぇっ!」

 

聞き分けの悪い後方の一夏に向き直り、怒気を強めて言い聞かせようとする鈴。だがそこまで言った瞬間、黒煙の中で薄紅色の光が揺らめいた。

黒煙を切り裂いて、鈴に向けて放たれた高出力のビーム。一夏の声に、自分に向けて放たれた事に気付くも回避の反応が間に合わない。

 

その瞬間、猛スピードで迫ってきた何者かに抱えられ、射線上から逃れていた。

 

咄嗟に被弾態勢を取っていた鈴は呆然としていた。視界には一夏が映っている。一夏の方にも攻撃が加えられたのか、先程とは違う位置にいるが。

では自分は今、誰に助けられているのか。学園側の鎮圧部隊にしては早すぎる。それを確かめようと自分を抱えている者の顔を向いたとほぼ同時に、その者から声が掛けられた。

 

 

 

「意気込みは買う、だが敵を前にして油断するなと言った筈だぞ」

 

 

 

鈴を抱えていたのは、アルトロンを装着した五飛であった。

 

 

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