現代ダンジョン攻略専用機「アタックロイド」   作:鳩胸な鴨

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第八話 実機テスト「紫魔 カンナ」

進むこと、8エリア目。入口とは比べ物にならない熱気の中、渋い顔をしたサキがカンナに問いかける。

 

「……進めば進むほど熱くなってません?」

「なってるね」

「魔術、発動してますよね?」

「してるよ」

「一回やめてみてください」

「はい」

「ゔぁっづ!?戻してください!!」

「はい」

 

魔術を解いた途端、とてもじゃないが耐えられない程の熱気が肌を撫ぜる。

洞窟型の異界は変化が激しいと聞くが、これ程とは。耐熱性、耐火性共に優秀な素材が使われた自分たちでこれなのだから、耐えられる人間はそうそう居ないだろう。数秒で脱水症状になりかねない。

業者が逃げ帰る理由がまた一つ判明したところで、彼女らは歩みを止める。

 

「強大な魔物の反応を確認。番人だね」

「マスター、どうします?」

『んー…。カンナにも撮れ高は欲しいが、サキをアタックロイドの顔にしたいからな…。

…カンナ、サポートに回ってくれるか?』

「はーい」

 

サキが刀を、カンナが三つのロリポップを手に開けた空間へと足を踏み入れる。

まず目に入るのは、奥の台座らしき岩に置かれた古びた本。この環境で燃えていないあたり、あれがこの異界の核なのだろう。

しかし、肝心の番人が見当たらない。どこかに隠れているのだろうか。

2人が反応の軌跡を目で追った、その瞬間。

 

ごぼぼぼぼ、と水を割くような音が足元から響いた。

 

「また溶岩を泳ぐタイプの魚ですか…」

「だね」

 

道中で飽きるほど倒したものを想起し、辟易を顔に出す2人。

彼女らが少し身を引くと、先ほどまでそこに立っていたカンナの影を貫くように、『腕』が突き出る。

 

「……魚ですかね、あれ?」

「魚ではあるんじゃないかな。うん」

 

溶けた地面から這い出たシルエットを前に、困惑を見せるサキとカンナ。

魚の顔に、筋骨隆々とした体。絵に描いたような「半魚人」が、ぎょろり、とまぶたのない瞳で2人を睨める。

特筆すべきは、その体躯。サキよりも2倍近い体積を誇るそれが、彼女らを圧倒するようにその背を曲げる。

 

「番人を確認。戦闘を開始します」

「番人を確認。戦闘を開始する」

 

2人を外敵と判断したのだろう。

半魚人は黒曜石でできた牙を剥き出しにし、金属を擦り合わせたような怪音を放った。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「業者が見積もりだけよこして逃げる理由がこの一本に詰まってるな」

 

そこらじゅうを溶かし、自由自在に泳ぎ回る半魚人の映像を前にため息を吐く。

肌をかすめるだけでも大火傷。牙の切れ味は医療用メスを遥かに超え、折れても再生すると言うおまけ付き。極めつけには、攻撃しようもない場所に隠れ、動き回る始末。

例えこれを倒す実力があったとしても、後回しにしたくなる気持ちはよくわかる。

これまでの道中といい、洞窟型攻略VTRとしては満点の出来ではなかろうか。講習用に売り出せば、それなりの金になりそうだ。

 

「だからってアレはないじゃろ。

脳の血管千切れるかと思ったわ」

「お前、近々あいつ切る気だったろ。

あの業者、それに気づいて『切られるなら違約金もらったろ』精神で適当な応対したんだろうな」

「ンなもん払ってたまるか。あいつら森林型しか攻略せんし、高い銭はたいて業者の仲介頼んだら、半年待たされた挙句に『役所に頼んでください』とか宣われたこともあるんじゃぞ」

「知ってる。私も似たようなムーブかまされた」

 

今思い出しても腹が立つ。大して役に立たないんなら事務所たたんで故郷に帰れ。

2人して業者への文句を垂れていると、映像からサキの声が響く。

 

『マスター、「天砕」と「耐性貫通」の使用許可を要請します』

 

一向に好転しない状況に痺れを切らしたのだろう。サキの声には焦りがこもっている。

番人が守る空間は、そのほとんどが溶岩と化している。

カンナが氷魔術で冷やして足場を確保しているが、それもジリ貧なのかサキのカメラに映るカンナの顔は優れない。

番人もそれをわかっているのか、手当たり次第に岩を溶かし、足場を奪っていく。

この状況が続けば、サキは技を使えなくなる。強さでいえば、先日戦った機竜の方が強いだろうが、面倒くささでいえばこちらが上か。

しかしだ。いくら機竜を屠った技とはいえ、果たしてあの半魚人を倒せるものか。

 

「当てられるのか?」

『ボクが当てさせる。サキとの同期許可を要請するよ』

 

私の心配を否定したのは、新たなロリポップを手に持つカンナ。

その色は黄。何をするかを悟った私は、サキに許可を出した。

 

「ブッ飛ばせ」

『了解。「蒼天流奥義:天砕」、発動体制に入ります』

 

刀身に黒炎を纏わせ、腰を落とすサキ。

それを好機と判断したのだろう、半魚人は顔を出し、肌に滴る溶岩を空に撒き散らす。

降り注ぐ炎の雨を前に動じることなく、カンナはロリポップを水色のものから黄色のものへと変える。

 

『アタックロイド「青刃 サキ」との同期を開始…、成功。電磁力操作を発動する』

 

雷魔術を応用し、サキの周囲に電磁力を発生させるカンナ。

刹那。炎の雨が弾け、溶岩が青の弾丸による風圧で捲れ上がる。

半魚人が向かう青に腕を向けるより先、その胸が大きく裂けた。

 

「終わったか?」

「いや、まだだろうな」

 

致命打ではある。だが、少し仰け反っただけで立っていることから、余力を残しているのは明らかだ。

半魚人は傷口を抑えることもせず、べだっ、と地面を踏み締める。

瞬間。ごぼぼぼ、と溶けた地面が生き物のようにうねり、浮遊するサキに襲いかかる。

 

『これで、決めますッ!!』

 

サキが叫び、その体が消える。

うねる溶岩。怒り狂う半魚人。駆ける青が、その何もかもを吹き飛ばした。

半魚人が消えると同時、どういう仕組みかはわからないが、溶けた地面が冷え、元の状態へと戻る。

『戦闘終了』と告げ、得物をしまう二人。私はすかさずこれまでの記録を保存し、指示を飛ばす。

 

「プロモーション映像はばっちりだ。気をつけて帰ってこい」

『はーい』

『ようやくですね…』

「ほんとにな」

 

祭壇のように隆起した岩へと歩み寄り、置かれた本に手を伸ばす二人。

と。その動きが急に止まった。

 

『…………え、と、その…』

『これはカットだねぇ』

 

彼女らが手に取ったのは、エロ本。

地球上のどの言語にも合致しないであろうタイトルに、どう考えてもモザイク必至の際どい表紙。それを摘むように持ち上げ、苦笑する二人。

核である以上は魔術書だとは思うが、中身を読む気にはなれない。

…いや、撮りたい画は撮れたのだ。気にしても仕方ない。

二人に帰還を促そうとすると、異界産のエロ本を見た銭ゲバが遠い目でこちらを見た。

 

「異界攻略実績として核を展示する予定だったんじゃが」

「…………あのボロい槍だけでやりくりするしかないな」

「はぁ……」

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