現代ダンジョン攻略専用機「アタックロイド」   作:鳩胸な鴨

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ご唱和ください。


「知ってた」


第九話 展示会

株式会社イナリ工業。賀川 伊奈帆(いなほ)が打ち立てた企業グループ…「イナリグループ」が興した新参企業。

主力製品もへったくれもない、グループ内でも機密扱いで、何を作るかも漫然としない。

そんな怪しい会社に出向を命じられた青年は、今更ながらそれを受けたことを激しく後悔していた。

 

「……マジでこれ出そうとしてます?」

「本気です」

 

青年は企画書を机に置き、眼前に座る少年…「冬島 久音」に視線を向ける。

社会経験がないなりにビジネスマナーを調べてきたのだろう、彼は伊奈帆に向けるような雑な対応はせず、真摯な態度で応えた。

 

企画書のタイトルは、「異界攻略専用機アタックロイドプロジェクト」。

その全てを通し見た青年は、渦巻く感情をそのまま口にする。

 

「世界初の自律思考型アンドロイドというのも十分に驚きですが、異界攻略専用機…。

売れはすると思いますけど…」

 

異界攻略は業者、または行政に頼むほかない。手続き等の関係上、その対応は総じて遅々としており、年々不満が高まっていた。

その点をまとめて解決できるアタックロイドには、高い需要が見込める。企画書で算出された売り上げ予想値を超えるほどのポテンシャルはあるだろう。

ただ、この企画を敢行するにあたって、あまりに障害が多すぎる。

業者から総スカンを喰らうのは目に見えているし、

承知で通しているのはわかっているが、それでも言わずにはいられない。

青年は意を決し、久音に問いかけた。

 

「冬島さん、業界に喧嘩売る気でしょう?」

「売る気です」

 

キッパリ言いやがった、と言わんばかりに天を仰ぐ青年。

その一言では足りないと思ったのだろう、久音は煮えたぎる怒りを吐露する。

 

「異界を攻略できる人材はあまりに少ない。

それ故、その立場にあぐらをかいて日銭を稼ぐ半端者が大きな顔をする。

真面目にやっている人がいることは理解しています。ですが、やはり業者全体に対する悪印象が拭えませんでした」

 

その脳裏に何が浮かんでいるのだろう。

怒るように、嘆くように、溢れる感情をぶつける久音。

ビジネスの場として、あってはならない感情の吐露に飲まれ、青年は口を噤んだ。

 

「異界攻略が遅れ、泣く泣く会社を畳んだ人。思い出の場所が異界に飲み込まれ、未だにその思い出を取り戻せていない人。異界発生に巻き込まれ、未だに帰ってこない人。楽しみにしていたイベントが、発生した異界のせいで台無しになった人。

大小を問わず、異界による被害で涙を飲んだ方が大勢いることは、私も知っています」

 

自分がその被害者であるとは言わない。

少しの沈黙を経て、久音は叩きつけるように語気を強めた。

 

「その涙を拭くのが、あんな適当な人間たちであっていいわけがない。

どれだけ肌が冷たくとも、真っ直ぐに尽くす彼女らこそが相応しいと、私は考えています」

 

情熱と怨嗟が形となった企画書。

青年は改めてそれを手に取り、久音に苦笑を向けた。

 

「次の展示会、開発者として参加すると聞いてますが…、業者に対する敵意だけは正直に言わないでくださいね。

発売早々不買運動とかされかねません」

「安心してください。仄めかす程度にします」

「できませんて」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「……設置、終わったな」

「お疲れ様です」

「いや、全員ほぼ疲れてない。台座運んで、そこにちんまいパーツ乗せただけだし」

 

そうして迎えた展示会前日。

ブースの設置、当日の流れの確認を終えた私は、サキたちを連れて準備段階にある会場を眺めていた。

というのも、私たちが今日設置しなければならないのはサキたちに使われた部品の見本くらいなもので、あとは当日にサキたちを立たせるだけ。

搬入を担当した社員からは「製品が自分で歩いてくれる時代が来たのか」と感激された。

とはいえ、こうも早く終わってしまうと困る。やることがない。

帰ろうにも銭ゲバの挨拶回りを待たなければならず、こうして他社の製品を遠目に見るくらいしか暇つぶしがない。

いつ終わるんだろうか、あの大名行列。そろそろ見るものも無くなってきたんだが。

私の退屈そうな態度に気づいたのだろう、サキがおもむろに声をあげた。

 

「異界に関する製品が多いですね。それも業者向けのやつ」

「今回のテーマは『異界対策』だからな。

業者に頼るのが基本になる以上、そっちに機能が寄ったんだろ。

例えば、あの簡易キャンプ設営キットなんかは飛ぶように売れるだろうな。魔物避けも付いてるみたいだし」

「深くて複雑な異界だと寝泊まりって聞きますね」

 

ルールに従わないとランダムワープさせられるなんて異界も確認されている。それで遭難して帰れなくなり、魔物のおやつになったなんて話も珍しくはない。

お、帰還装置も売り出したのか。

…中に詰まってる装置が多いのか、それとも大きな部品でしか作れないのか、ランドセルみたいなことになってる。しかもこの取り回しの悪さで100万とか、値段設定が強気すぎないか?高く見積もっても80万だぞ。

業者から金をふんだくってやろうという気概が透けて見える。私らみたく、恨み骨髄なんだろうな。

業者の嫌われっぷりに呆れていると、大行列を捌き終えた銭ゲバがげっそりした顔でこちらに歩いてきた。

 

「はー、つっかれた…」

「名刺交換ラッシュは終わったのか、銭ゲバ」

「ひとまずは。見ろ、この束。二つに分けてカードゲームできるぞ」

「ルールは?」

「年間利益が基礎パワーで、当人の役職、資格に応じて効果が変化するとかどうじゃ?」

「もうあるぞ、そのクソゲー。『現実』ってタイトルで」

「知っとるわ」

 

子供向けに売り出しても売れないと思う。冴えないおっさんがキメ顔したカードなんて欲しくないだろう。

名刺をしまった銭ゲバは搬入されていく数々の品へと視線を移す。

 

「で、めぼしいのはなんかあったか?」

「あそこの帰還装置だな。見た感じ、かなりふっかけてるが」

「100万か。需要あるとはいえ、流石に盛りすぎじゃないかの」

 

今日のお前の乳よりはマシだと思う。

明らかに普段よりデカい胸元を横目で睨んでいると、銭ゲバがわざとらしく自分の身を抱いた。

 

「なんじゃ、そんなに見おって。公衆の面前じゃぞ」

「全身全霊でお前のスキャンダルでっち上げてもいいんだぞ」

「冗談で済ませとこうかの」

 

お前だけが引き金を握ってると思うなよ。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「ご覧ください、この巨大な異界を!

ドームを覆うどころか、近隣にまで被害が及んでいます!

これにより本日の開催予定の企業合同展示会は中止となる見込みで…」

 

翌日。カメラに囲まれたニュースキャスターが規制線の奥にある異界を背に捲し立てる。

それを尻目に、早めに会場に来た銭ゲバが呆然と問いかけた。

 

「デカい異界じゃのう」

「だな」

「ニュースキャスターがおるな」

「居るな」

「展示会、中止するしかないかの」

「ないだろうな」

「クソがよ」

 

私も同じ気持ちだ。

崩れ落ち、うつ伏せにその場に寝そべる銭ゲバ。よほどショックだったらしい。

私みたいに「知ってた」の精神でいれば楽だというのに。

気分が急落したせいか、銭ゲバはぼそぼそと、しかし私には聞こえるくらいの声の大きさで続ける。

 

「…これ、今すぐ攻略したら再開せんかの…。あのドーム、妾が持っとるやつじゃし、攻略には乗り出せるじゃろ…?」

「無理だろ。大半のやつはニュース見て血涙流してるだろうな」

「こうしてニュースでやっとるんじゃし、それで流して貰えばワンチャン…」

「遅かったな。中継も終わって撤収作業始めてるぞ」

「クソがよ」

 

「イベント会場が異界になった」なんてありふれたハプニングを、そう長々とニュースでやるはずもない。

しかし、銭ゲバも諦め切れないのだろう。彼女は私のリュックを指差した。

 

「…配信ならいけるじゃろ…。アカウントとパスワードは教えるから…」

「確実に埋もれるが…、いいか?」

「構わん、やってくれ…」

 

私はパソコンを立ち上げ、銭ゲバが言う動画サイトとアカウントを開く。

…この動画数で登録者2人か。希望が見えないとはまさにこのこと。

とんだ展示会になったな、と思いつつ、私は控えていたサキたちとパソコンを同期させる。

 

「銭ゲバ、起きろ。お前がいなきゃあの規制線を越えられないだろうが」

「もうちょい優しく言うてくれんか…?」

「お前が必要だ。立て」

「立った。ほれ行くぞ」

「それ優しいカウントしていいんです?」

「キャラキツいよ、マスター」

 

わかってる。わかってるから言わないでくれ。こうなると私の弱みになる言い方しないと立たないんだ、この銭ゲバ。

規制線へと向かう銭ゲバたちに軽く手を振ったのち、私はパソコンへと向き直った。

 

「サキたちが攻略を始める前にパパッとサムネ作るか…」

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