大甘菜は真冬の空に咲き誇る   作:百合って良いよねって思う

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結局、私も貴女も同じなのでしょう?


同じ穴の狢

整理整頓された、学生のお手本のような部屋。そこが雪――もとい、朝比奈まふゆの私室だ。

中学に上がったと同時に両親が新調してくれた、使い慣れた勉強机の前で、まふゆは物思いに耽っていた。

 

「救われた……?何、言ってるんだろ」

 

その声は『雪』が発するようなはっきりとした明るい声色ではなく、単調で湿度を含んだ声色をしている。

 

「……OWN、か」

 

自虐気味に聞こえる言葉と共に、『OWN』の動画に書かれているコメントを眺める。そこには、称賛とも罵倒とも捉えられる言葉の数々。多くは感嘆の意を含むであろうそれを見て、まふゆは冷たく吐き捨てる。

 

「……くだらない。こんな曲作り続けても、まだ全然見つけられない」

 

そうして、ふと思い出す。同じサークルのメンバーであるかんなが発した言葉。

 

『だから、怖かった。皆に近づくのが』

 

「……かんなは、何となく、私と似てる気がする」

 

その台詞には、何の意味もない。結局の所、かんながどうであろうとまふゆには関係のないことなのだ。

 

「でも…見つけられないなら、私は……――」

 

 

***

 

時と場所は移り神山高校1年A組にて。私――大暮甘菜は隣の席の白石杏に執拗に絡まれていた。

 

「ね、お願い!次の小テストほんとにやばいの!」

「うーん、私も助けたいのはやまやまなんだけど……」

「そこをなんとか!」

「もー……仕方ないなぁ」

「ありがとうー!神様仏様甘菜様~」

「大げさだなぁ。それで、何がやばいの?」

 

最早恒例になってきた杏との会話。彼女が勉強があまり得意ではないことは知ってはいたが、仲良くなったからといってここまで絡まれるとは思わなかった。

まぁ、影響をあまり与えない範囲でビビバスとの関係を持てそうだしお礼によく謙さんのお店――つまる所杏の実家だ――で奢ってくれてるし問題はない。強いて言うなら彰人くんとあまり差を付けさせないように調整することが大変だ。たまに断ったり教える範囲を限定したりして調整はしているが、どうだろうか。

 

「ん~?…………なるほど、そういうことか!!ありがとう甘菜、お陰で何とかなりそうだよー!」

「このくらいだったら全然いいよ。……今度お礼してくれれば」

「そんなことなら全然!また今度誘うね!……ところでさ、」

 

杏の声色に嫌な気配を感じる。

逃げたい、そう思っても身体が張り付いたみたいに動かなくて、杏の口から疑問が放たれる。

 

「……甘菜って、すっごく歌上手いよね。ストリートとか、興味ない?」

「――――っ!!」

 

どこだ。どこでバレた?私は基本的に人前で歌を歌うことは無い。絵も、映像も、曲も、自分が作ったものは全部、人前に出さないって決めてる。例外はニーゴの活動と()()()()()()だけだし、それだって雪の編曲に寄せて作ったり、程ほどに手を抜いて作ったりした。

 

目の前がチカチカする。気持ち悪くて吐いてしまいたい。頭痛も止まらない。

 

「この前さ、無意識?に甘菜が歌ってるところ聞いちゃってさ。ほとんど鼻歌程度だったけど、それでもすっごい上手くて!気になってたんだよね」

「…………あんまり人前で歌うのは、得意じゃないんだ。昔色々あって、そもそも人前に出るのは苦手でさ」

「そっかー、甘菜ならいい線いくと思うんだけどな~。ま、甘菜がそういうなら仕方ないね」

 

気が変わったら言ってよ、なんて言葉を聞きながら、私は吐きそうになる気持ちを必死に抑えていた。

 

私は『伝説の夜』以降、一人でビビットストリートに近づく時にはウィッグとカラコンで変装してから行くようにしている。杏の相棒はあの子だ。私じゃない。

 

自分に才能があるなんて、そんなの昔から知ってる。

 

――バケモノ

 

杏はあの〝伝説の夜〟を作り上げた謙さんの娘だけど、それでもきっと、私の方が上手いだろう。

 

――私、やめるよ。甘菜ちゃんを見てると、こんな夢、馬鹿らしくなっちゃった。

 

〝伝説の夜〟は、凄かった。あの熱狂はそうそう体験できない、そう確信させるものがあった。それでも、足りない。私は、いつでもあの夜を再現できる。

 

――甘菜は凄いな。甘菜なら、きっと何にでもなれるよ。

 

この〝才能〟は()()だ。

 

 

あの後、何とか薬を飲んで授業を受け切り帰宅した。眠れる気分でも作業できる気分でもなかったからあまりする機会のない料理をしたけど、気分転換にもならなかった。

 

「……もうすぐ25時」

 

今日も作業をしなければならない。絵名からの相談もあるし、休めない。

 

『みんな、いる?』

 

Kの声にAmiaとえななんが反応するけど、私と雪の声は聞こえない。

 

『……あれ、雪とかんなは?』

「ごめん、集中してて反応できなかった!私はいるよ」

『かんなはいたんだね……雪は?』

『あれ?ほんとだ、いないね。夕方はいたのに』

『寝ちゃったんじゃない?雪はかんなと同じで普通に学校に通ってるんだし、疲れてるんならそういうこともあるでしょ』

 

Amiaの話を聞く限り、雪の母親との会話は聞いたみたい。共有ファイルを開くとついさっき共有された『Untitled』という名の音楽ファイルがあった。今日から一週間後、私たちは誰もいないセカイに行くことになる。

 

『じゃあ、かんなとAmiaも進捗報告お願い』

「はーい!とりあえず途中まではできたからファイル投げとくね」

 

私は、見守り続ける。皆が救われるために、知る者として、ニーゴに関わってしまった異物(イレギュラー)としての義務を果たす。たとえ、それが私を殺すことになってしまっても。

 

 

***

 

雪が来なくなって、1週間が過ぎた。

 

『雪、旅行に行くとか言ってたっけ?』

 

えななんが呟くが、それこそあり得るはずがない。基本的にまふゆは学校と予備校の毎日だ。長期休みならともかく、当たり前のように学校があるこの時期に旅行に行くなんて、あの両親がするはずがない。まだ事故で入院してると言われた方が信じられるくらいだ。

 

「そんな話聞いてないけどなぁ」

『1週間も来ないと、さすがに心配だよね。もしかして、何かあったのかな……。事故とか、病気とかじゃないといいけど』

『ちょっとAmia、縁起でもないこと言うのやめてよね。……でも、本当にどうしたんだろ』

『雪…………』

 

みんなの空気が重くなる中、Kが『何か、連絡をとれる方法がないか探そう』と提案をする。しかし事前知識(昔の記憶)を持っている私はともかく、みんなは雪の顔も名前も学校も知らない。連絡の取りようはナイトコード以外ないのだ。

 

『んー、えななんみたいに自撮りで顔とか部屋とか晒してたらそこから特定できるんだけどな~』

『さらっと怖い事言わないでくれる!?』

「えななん……気を付けたほうがいいよ。最近は何かあったらすぐに特定されて晒されちゃうし」

『ちょっとかんなまで!?やめてよね、ほんとに』

『でも何か手がかりがあればさー。あ、チャットのログに残ってない?雪に関係ありそうなもの』

 

ない。断言できる。雪はわざわざチャットに自分の情報を残すほど迂闊じゃない。みんながログを漁っている間に、共有ファイルを開いて『Untitled』の存在を確認する。

 

…………あった。一応1週間前にも確認して置いたが、まだ残っていた。

 

「……あれ、共有フォルダに知らない曲がある?」

『どうしたの、かんな?』

「いやー、見たことない音楽ファイルがあってさ。管理者は雪で、更新日は……雪が来なくなった日」

『あ、本当だ。ファイル名は……〝Untitled〟?』

『〝Untitled〟?そんな曲、作った記憶ないけど』

 

みんなが『Untitled』の存在を不思議がる。実際には、まふゆの事を案じたミクが起こしたことだ。

 

『とりあえず、聴いてみる?』

『……うん。聴いてみよう』

 

Amiaの提案にKが賛同することで、『Untitled』を聴く流れになった。

これでとりあえず本筋通りに事が進んだ。あとは……セカイでの、私の立ち回り方だけだ。

 

『え?モニタが光って……?』

『ま、眩しい……っ!?』

『わっ!な、何これ!』

 

「…………みんな?」

 

とりあえず声を出すが、誰も答えてくれない。どうやら全員セカイへ行ったようだ。

 

「さて、私も行きますか」

『[……甘菜も、行くの?]』

「うん……大丈夫、上手くやるよ」

『[心配……今の甘菜、不安定だから]』

「それは否定しないけど……行かなくちゃ。それが、私の役割だから」

 

そんなに心配しなくてもいいのに。私のミクは少し過保護だな。

 

「……一応スマホ持っていくか」

 

あっちのミクが帰してくれるとは思うが、もしもの時のために持っていこう。

 

『Untitled』を押せば、慣れた光が私の身体を包み込み、視界を黒く染めていった。

 

 

***

 

「…………ここが、〝誰もいないセカイ〟」

 

文字通り何もない。鉄骨のようなモニュメント、色は白っぽいものばっかりで、(前世)見たイラストのまんまのセカイだ。

 

「さてと……みんなは」

「ねえ!ちょっと、誰かいないの!?」

「おーい、誰かいたら返事してー!」

 

みんなを探そうとした矢先に、瑞希と絵名の大声が聞こえた。構造的に響かなそうなセカイなのによく聞こえるのは、ご都合主義か二人の声が大きいのか……ともかく声が聞こえた以上先に二人と合流しようかな。

 

少し歩くと、絵名と瑞希が並んでる姿が見えた。ちょうどこちらに背を向けており、私の存在には気が付いていない模様だ。

 

「はぁ、だーれもいないねぇ。てゆーかこれ、異世界転生モノの冒頭みたいじゃない?」

「暁山さん」

「「ひぁ!?だ、誰!?」」

 

お手本のように飛び上がり声を出すみずえなコンビ。それに私は笑いをこらえきれないまま声をかける。

 

「ふ、ふふっ……ごめんごめん、そんなに驚くとは思わなくて」

「その声、もしかしてかんな!?なんでボクの名前知って…………って、大暮さん?」

「何?あんた達リアルでも知り合いなわけ?」

「いや……ボクは初めて知ったし……」

「おんなじクラスだったんだよ。私は初めから気が付いてたけど」

「それなら早く言ってよ!?」

「だって隠したいかなって思ったんだもん。あと会った時に面白そうだったから」

「…………あんた、意外と性格悪いのね」

 

そんな風に瑞希をいじり倒しながらカミングアウトをしていると、今度は瑞希達の後ろから奏の声が聞こえてきた。

 

「ねえ」

「わわっ!今度は誰!?」

「……えななんと、Amiaでしょ?そっちは……もしかしてかんな?」

「え?あ……その声!」

「……K?」

「うん」

「よかった!Kも一緒に来てたんだね!はぁ……ちょっと安心」

 

ようやくみんな揃った。あとはまふゆだけだけど……まぁ、あの想定通りなら楽しくオフ会といった雰囲気にはなれない。

 

「えー、ボクの時と態度違くなーい?もっとそっけなかったじゃん」

「仕方ないよAmia、えななんはKにだけやたらと甘いから」

「あんた達……好き放題言って……っ!」

「……状況を確認させて。みんな、どうやってここに来たの?」

 

Kの確認にそれぞれ反応を返す。当然、みんな『Untitled』を押した瞬間にパソコンが光ってこっちに来たようだ。私だけ一応スマホで来てるけど。

 

「私はスマホで来たけど……GPSもバグってるみたいでどこにも反応ないんだよね」

 

というか圏外だし、Wifiも4Gも飛んでない。当たり前だけど。

 

「ほんと?ならせめてバズりそうな写真だけでも……」

「……えななん、超のんきじゃーん。かんなはともかくボク達は帰れるかもわからないんだよ?」

「うっ……もしもの時はかんなに住所伝えれば……」

「住所だけ伝えられても、家の中に入れないでしょ。連絡できないんだから家族に私のこと伝えられないし、そのまま行ったら私不審者扱いで通報されちゃうよ」

「……たしかに、早く帰り道をみつけなくちゃ。ひとまず、あたりを歩いてみよう」

 

奏の言葉を皮切りに、みんなで歩き出す。さて、ミクとまふゆはどこにいるかな――。

 

 

一時間しない程度歩いてみたけど、相変わらず鉄骨と三角形のモニュメント以外何もない。というか瑞希はともかく奏も絵名も体力ないのに何で息も上がらず歩けてるんだろ……やっぱりご都合主義かな。

 

「もう長い事歩き回ってるのに、何もないし、誰もいないね……」

「でも、まだ1時間も経ってないはず。……この場所にいると時間感覚が狂う感じがするけど」

「もー、こんな不気味なところいたくないんだけど!」

「そう?わたしは、居心地はそんなに悪くない」

「えー、悪いでしょ。ボク達以外に人なんていなさそうだし、ていうか何もないし……」

 

原作でも出てきた会話だ。絵名と瑞希は居心地が悪そうだけど、奏は心なしかリラックスしてそうに見える。多分。

 

「かんなは?」

「んー?私は奏と同じかな、この場所結構好きかも。静かで、何もなくて、ちょっと落ち着く」

「えー、うっそでしょ……」

 

瑞希に聞かれたから答えたけど、言ったことは事実だ。私のセカイとはベクトルが違うけどこっちも静かで、少し居心地がいい。

 

「あーあ、まさか初のオフ会がこんな感じになるなんて思わなかったよ。やるんならファミレスとかカフェとかで集まって、『本名教えてー?』とかワイワイやりたかったのに~!」

「それ、Amiaとかんながクラスメイトな時点で軽く崩壊してない?」

「え、ふたりって学校同じだったんだ?」

「うん、クラスメイト。暁山さんはよく休んでるけど」

「瑞希でいいよ、同じサークルのメンバーなんだからさ」

「そっか。じゃあ私のことも甘菜って呼んで」

 

やっぱりこの世界の子たちコミュ力高いな……私、杏のこと名前呼びできるまで結構時間かかったのに。

 

「本名っていえば……Kって、『奏』って名前じゃない?」

 

絵名大正解。というか、奏のメールアドレスがわかりやすすぎるんだよね……『kanade』って入れてるの、隠す気0じゃん。瑞希もおんなじこと言ってるし。

 

「……K、私『変えた方がいいよ』って言わなかったっけ?」

「ご、ごめん……やり方がよくわからなくて……」

「もう、後で教えるからちゃんと変えてよね」

「わ、わかった……」

 

一応昔言ったのだ、『何があるかわからないから変えた方がいい』と。変えてるとは思ってなかったけどまさかやり方がわからなかったとは……聞いてくれてもよかったのに。

 

「あ、じゃあボク、これからリアルで会う時はKのことも奏って呼ぼうっと♪ボクのことも瑞希って呼んでねっ!」

「はぁ?Kのこと名前呼びとか馴れ馴れしくない?」

「別に、みんなで名前で呼び合えばいいだけじゃん。ちなみに、ボクは暁山瑞希!よろしくね、奏ー♪で、えななんは?」

 

何度も言うがコミュ力が高い。前世のオフ会とかみんな敬語だったぞ。……行ったことないけど。

まぁ私たちは普段から作業を一緒にしている仲だし、最初の頃はみんな敬語だった。そこも考慮すればこの態度も割と自然かな。

 

「多分『えな』かな」

「えっ!?」

「あれ、はずれだった?ハンネが『えななん』だからそうかなって思ったんだけど……」

「あ、あってる……東雲絵名、だけど……」

「えー、甘菜大正解!?」

「絵名はわかりやすすぎたからね、私の『かんな』も本名の読みを変えただけだし。あ、私の名前は大暮甘菜……よろしくね、みんな」

「わかった、かんな、瑞希、絵名」

 

これで私はニーゴ全員の名前を知っている状態になった。もう慣れてしまったので多分ないだろうが、もし本名を言ってしまっても一先ず安心できる。

 

「あーあ、雪もここにいたらよかったのになぁ」

 

もしもそうなったら瑞希の言う『本名教えてー』と言い合う楽しいオフ会にはならないだろう。そもそも私とまふゆは――

 

『うそつき!!』

『――っ……甘菜なんて、嫌いっ!!』

 

――これ以上考えるのはやめよう。一応前以て飲んできてはいるが薬が飲めない状況で下手に発作が起きると対処できないかもしれない。

 

「あれ……あそこに、誰かいる……」

 

思考を逸らして奏の声に耳を傾ける。奏のが見る方向に目を向けると、括る位置が不揃いな白い『ミク』がこちらに向かってきていた。

 

「……え?あなたは、あの時の映像の……」

「わたしは、ミク」

「え?ミクって、あの?いやでも待って。言われてみれば、見た目はそれっぽいけど……ほんとに?だとしたらすごくない!?」

「いや、ミクってバーチャル・シンガーでしょ?こんなところにいるわけないじゃん!」

 

自分のセカイを持つ私と、一度画面越しに見たことのある奏は落ち着いているが、初めてミクと相対する瑞希と絵名は混乱していた。

 

この世界では、ミクは世界的に有名な存在だ。そもそも前の世界と比べてこの世界は音楽が浸透している。こっちでもよく海外の曲は話題になるし、向こうも同様だろう。最も異なるのは『ボーカロイド』の扱いだ。ボカロは前世においては割とオタクよりの文化というか、世間一般的にはJ-POPの方が親しまれていた。ボカロで知ってる曲なんて殆どない、有名どころしか知らないという人が多いだろう。

この世界では異様に『ボーカロイド』が親しまれている。カラオケこそ歌いやすいJ-POPが主流だが、有名なボカロPが出す曲はみんな知ってるといっても過言ではない。

寛容、とでも言えばいいだろうか。前世でいうスポーツ選手を目指すノリで音楽家を目指す割合が一定数いるのだ。ほとんどの人間は途中で離脱するのだが、奏やビビバス、レオニといった面々は音楽でプロになろうとしてるし、そういった人に当たりが強くない。むしろ応援する人がほとんど。音楽の賞の数も多いし、それに比例してレベルも若干だが高いように感じる。流行の進みも早い。

 

……昔よく聞いていた奏のお父さんが如何に凄いか、よくわかる。音楽家、その花形とも言える作曲家は競争率が高いのだ。作曲で食べていける人間は少ない。その中で(推定)専業主婦の奏ママと奏を養えるほど稼げているのはプロの中でもかなり上澄みである。特段入院費用に悩んでいる様子もないし、奏が生活で困っている様子も見たことがない。貯蓄だってそれなりにあるのだろう。

 

まぁ、そんな感じの世界だからか、二人の反応は割と自然と言える。この世界での初音ミクはモノホンの世界の歌姫なのだから。

 

「……あなた達を、待ってた」

「待ってた……?じゃあ、わたし達のことを知って……?」

「うん」

「へえ~。じゃあ、もしかしてボク達をここに呼んだのもミクってこと?」

「……半分、そう。呼んだのは、わたしと……あの子。そして、ここはあの子の想いでできた場所。――あの子の、セカイ」

「あの子?誰それ?」

 

みんなは思考が追い付いていないのか、混乱しているみたい。……まぁ、普通はそうだよね。ミクも頑張ってはいるが説明不足だし、混乱していない私の方がおかしいのだ。

 

……この後の出来事に、現実逃避していると言ってもいい。ミクのお願いも聞いてはいるが、頭に入ってこない。聞かなくちゃいけないのに、聞くのが怖い。

 

「……ミク?」

 

さっきまで何も入ってこなかったのに、その声は鮮明に耳に入ってきた。湿度が高く、暗い声。ヘッドフォン越しに聞きなれた彼女の声をそのまま下げたような――事実そのまま下がった声なのだが――声が、いやに耳に残って消えてくれない。

 

声のする方を向けば、()()()()()()()()紫色の髪を持った彼女がいた。昔のような明るさはなく、その顔にはただただ絶望だけがある。

 

「ま……ふ、ゆ……」

 

声が出ない。この声も、誰にも届いてない。息ができない。眩暈も、頭痛も、吐き気も。

 

「その声……雪?」

「……ミク、どうしてここにその子がいるの?そもそも、どうしてここに人がいるの?」

「えっ?雪?確かにその声、言われてみれば……」

「……でも、本当に雪なの?なんか普段と雰囲気違くない?」

 

みんな訝しんでるけど、あの子が雪なのは間違いない。奏が声をかけて、ようやくまふゆは目の前にいるのがKだとわかったみたいだ。

 

「……えななんと、Amiaまで。それに……」

「――……」

 

まふゆが私を一瞥するけど、すぐに目を逸らす。声を掛けたいけど、何を言えばいいかわからなくて結局何も言えなかった。

 

「よかった!無事だったんだね、雪!連絡とれてなかったから心配したんだけど、ほっとしたよ~!もしかして、ずっとここにいたの?あ、帰り方がわからなくて困ってたとか?」

「…………」

「……あれ?雪、大丈夫?もしかしていなかった間、何も食べてなかったりする?」

 

「………………うるさい」

 

瑞希の問答に対する、まふゆの明確な拒絶の言葉が、大きく聞こえる。

 

「このセカイに来ないで。ひとりにさせて」

 

「私は、ここにひとりでいたい」

 

拒絶が、絶望が、諦観が。まふゆから発せられるその全てが、私を責め立てる。

 

『ずっと一緒にいようね!』

『いつか……また、あそんでくれる……?』

 

あの日の景色が脳裏を過っては消えていく。

逃げ出したいけど、私にそれをする権利なんてない。あの日、私は逃げたのだ。今更どこに逃げれればいいのか、どの面を下げてあの子の前に立てばいいのか、わからない。

 

「OWNは、私」

「ま、マジですか……」

「……雪が、OWN?ほんとに?」

「そう言ってる。……甘菜は、気づいてたよね?」

「――っ!」

 

奏が問い詰めて、まふゆがOWNだということを明かして……まふゆも、私が『まふゆ=OWNであることに気づいていた』ということに気づいていたらしい。みんなの視線が私に集まる。

 

「甘菜……?」

「気づいてた?いつから、そもそもどうして――」

 

はぐらかすのは、得策じゃない。まふゆは確信しているし、みんなも私を疑ってる。

 

「え?じゃあ、この間私とAmiaがずっとOWNのこと話してる時……え?」

「……うん、気づいてたよ。ずっと前から」

「な、なんで何も言ってくれなかったわけ!?」

「あそこでみんなが気づいても、意味なんてなかった。結果は何も変わらなかった。だから何も言わなかった。ただ、それだけ」

 

もう、あの状態になってしまったまふゆは簡単には救えない。私には、できない。

 

「……雪じゃないあなたは、私達と話したいことなんて……ないもんね」

 

今の時点において、まふゆと雪は違う。まふゆの中にも明確な区別がある。

優等生の雪なら、私達と積極的にコミュニケーションを図っただろう。でも、まふゆには誰かと対話する意思はない。例外はミクくらいだ。

 

「そうだね。雪じゃない私は、話したいことなんてない……甘菜とも、他の人とも」

「……は?何それ……?ふざけないでよ!何も知らないで『すごいすごい』って騒いでる私を、どういう気持ちで見てたの?馬鹿だなって思ってたってわけ!?」

「ちょ、ちょっと、落ち着いてよえななん!雪も、かんなも、もうちょっとちゃんと話そうよ、ね?」

 

私やまふゆに怒る絵名を瑞希が宥めるけど、正直効果があるとは言えない。それに……今更、私はまふゆに何を話せばいいんだろう。

 

「私はもう、ニーゴにいる必要がない。……ニーゴにいても、足りなかったから」

「……足りなかった、って……」

「……初めてKの曲を聞いた時は、少しだけ、救われたような気がした。甘菜が隣にいた時みたいな気持ちになれた気がした。だから、Kと甘菜の傍で探せば、見つけられるかもしれないって思った。……でも、それじゃ足りなかった。見つけられなかった」

「……あ……。救えて……なかった……?」

「…………っ」

 

奏と私の顔が曇っていくのがわかる。私が何を言っても無駄だ。約束一つ守れない私が、何を言っても……。

 

「Kと、甘菜と一緒にいても見つからないなら、もう自分で見つけるしかない。……ミク、もうこれ以上、この人達と話すことはない。ここから追い出して」

「……そう。……あなたは……本当に、ひとりで見つけられるの?」

「……ミクが、私が、まだ私を見つけられるっていうのなら、全部捨ててでも探し出す。……私には、それしか残されてない。もしそれでも見つけられないのなら、私はもう……消えるしかない」

 

……まふゆは、奏が救ってくれると、頭では理解してる。まふゆには消えてほしくない。なのに、私には何もできない。明らかに様子がおかしい私を瑞希が心配そうに見ているけど、取り繕う余裕もない私は、それにすら反応できなかった。

 

「だから、あんたさっきから何言ってるのよ!救われたとか消えるしかないとか、バカじゃないの!?」

「うん、一度ちゃんと話そうよ。雪もかんなも、ちょっと変だしさ」

「変?私が変なら、あなた達だってそうでしょ」

 

原作でも、有名なシーンだ。ファン冥利に尽きるはずなのに、そのセリフを聞きたくない。認めたくない……。

 

 

「だって本当は、Kも、えななんも、Amiaも……甘菜だって、誰よりも消えたがってるくせに」

 

 

「どうして、私だけが変だなんて言えるの?」

 

――あぁ。やっぱり、まふゆからも()()見えるんだ。

 

「……ホントに、どうしちゃったの雪?それにボクが消えたいってどういうこと?ボクは毎日楽し~いし、そんなこと思ってなんて……」

「……そういうの、もういいよ。Amia。あなたはいつも楽しそうにしてるけど、私が言ってることの意味、全部わかってるんでしょ?」

「……へぇ」

「……とにかく、もう、疲れた。ミク、このセカイにこの人達はいらない」

 

とりつく島もなく、ミクも説得を諦めたようにまふゆの言葉に応える。絵名が、瑞希が、ミクによって現実世界へと戻された。

 

「ま、待って――」

「……さよなら」

 

立ち位置の関係か、私よりも先に奏が戻されて、この空間には私だけが残る。

 

「……まふゆ」

「何……まだ、何か言うことでもあるの?」

 

奏がいなくなったタイミングで声を掛けた私に対するまふゆの態度は、さっきまでと全然違っていた。嫌悪とはちょっと違う……なにか感情を必死に抑えてるような声に聞こえる。

 

謝らなくちゃって思っても、まふゆの目が見れなくて。結局声を出せなかった。

 

「……なんでもない。またね、まふゆ」

 

その言葉だけなんとか捻り出す。ミクから戻されるよりも早く、逃げるようにスマホの『Untitled』を押して私は現実世界へと帰っていった――。

 

 

***

 

甘菜がさっきまでいた場所をじっと見つめる。

 

『……なんでもない』

 

甘菜――私の()()()とは、小さい頃に仲違いしてそのままだ。忘れたわけではないけど、何を言えばいいかわからない。

 

あの頃の私は子どもだった。他の子に比べたら早熟だったけど、甘菜とは比べものにならないほど愚かな唯の子ども。少し考えればどうしようもないことだった、謝りたいと思った時には既に遅かった。

 

……あぁ、甘菜を見るまで忘れてたな。唯一、甘菜に謝りたいって気持ちだけは覚えてる。

 

「……まふゆ」

「ミク……歌、歌ってほしい」

「!――うん、わかった」

 

ミクが歌う歌を聞くと、少しだけ落ち着ける。

 

『またね、まふゆ』

 

甘菜があぁ言った以上、彼女達はもう一度このセカイに来るだろう。……その時にあの時のこと、謝れたらいいな。




まふゆの幼馴染系夢主、男主だと地雷なのに女主になった途端肯定できるの本当にめんどくさい性格してると思う


前話に引き続き、公式風相関設定

<甘菜→>
 奏 :これが〝K〟の曲なんだね……
まふゆ:見守りたい
絵 名:想いのこもったいい絵を描く
瑞 希:「自分の好き」に全力

<→甘菜>
 奏 :皆に優しい
まふゆ:信頼してる
絵 名:よく相談に乗ってくれる
瑞 希:気も乗りも合う
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