幼い日の約束   作:mairu_i

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エピローグ

あれから数週間。

蒼風家の日常は何も変わらないようで、ほんの少しだけ変わっていた。

ななと凪は毎日一緒に風呂に入り、毎晩同じベッドで眠るようになっていた。

それはもう二人にとって、呼吸をすることと同じくらい当たり前の日常だった。

 

凪のサークルに行く頻度は、また少し減っていた。

だがたまに顔を出した時には、せつ菜と笑顔で練習に励んでいる。この間ゲームで僅差で彼女に負けてしまった時は、心の底から驚いたし、そして少しだけ悔しかった。二人の間に、もうあの頃のような甘い緊張感はない。だがそれ以上に固い友情と尊敬で結ばれていた。

 

ななは完全に元通りだった。

うたとこころとの時間も心から楽しんでいる。

変わったことといえば三人の会話の中に、ごく自然に兄の話題が出るようになったことだ。

 

「もうすぐ夏休みも終わりだねー。そろそろ真面目に進路とか考えないと!」

うたが喫茶グリッターのテーブルで、ノートを前にうんうんと唸っている。

 

「はい…。私はやっぱりダンスの道に進みたいです。うた先輩は将来のこと、どう考えてますか?」

こころが尋ねると、うたは少し考え込んだ後、にぱっと笑った。

 

「うーん、将来のすっごく遠い先のことは、正直まだよく分かんないんだよね! でもね、今私が一番叶えたい夢は、もう決まってるの!」

彼女は、ななとこころの顔を順番に見つめながら宣言する。

 

「ななちゃんと、こころちゃんと、三人で! アイドルプリキュアを続けていくこと! これが、今の私のキラッキランな夢だよ!」

 

「うた先輩…」

こころが嬉しそうに微笑む。

 

「…で、ななちゃんはどうするの? やっぱりピアニスト?」

 

二人の視線を受けたななは、ふふっと柔らかく微笑んだ。

 

「うん。私もピアノはずっと続けていきたいなって思ってる。でも別に世界的なコンクールに出たいとか、そういうのじゃなくて…」

彼女は少しだけ照れたように頬を掻いた。

「お兄ちゃんが疲れて帰ってきた時に、一番好きな曲を弾いてあげられるような。そんなピアニストになりたいかな。それにピアニストだけじゃなくて、お兄ちゃんがお仕事から帰ってきたら『おかえりなさい』って言って、美味しいご飯も作ってあげたいし…。お部屋のお掃除もお洗濯もしてあげて…」

 

そこまで言ってななはぴたりと言葉を止めると、自分で自分の言ったことにはっとしたように目を見開いた。

 

「…あれ? ピアノを弾いて、ご飯を作って、お掃除して、お洗濯して…。…それって、もしかして…」

彼女はてへっと悪戯っぽく笑う。

「なんだ。結局私、お兄ちゃんのお嫁さんになりたいだけなのかな?」

 

その顔は、これまで二人見てきた中で、間違いなく一番幸せそうな、恋する少女の顔だった。

これではただの惚気話だった。うたとこころは顔を見合わせて、「やれやれ」とでも言うように苦笑する。

だが、目の前で幸せそうに笑う親友の顔を見ていると、もう何も言うことはなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

夕暮れの蒼風家から、今日もまた、互いを慈しむように呼び合う二人の声が聞こえてくる。

 

「お兄ちゃん…」

「なな…」

 

二人はもう二度とすれ違わない。

喜びも悲しみもその全てを分かち合う。

 

兄とか、妹とか。血の繋がりとか。

そんな、世界が決めた些細な言葉は、もう二人にはどうでもよかった。

ただ、互いが互いの運命。

世界でたった二人だけの、永遠のパートナーだった。

 

-了-

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