破滅的終末へ捧ぐ刀剣譚   作:ヘル・レーベンシュタイン

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初のオリジナルに挑戦です、どこまで続けられるか分かりませんが最後までやれるように努めます。


前編

 夢は人を癒すものだ、それは分かっている。かつては俺、遠峰ラウルも小さい頃はそうだった。だが今は違う、ある日気がつけば俺の見る夢は決まっている。

 全てにおいて真っ白な世界、そこの端にいるのは真ん中にいるのかすらわからない。だが確かにそこに俺はいて、そして対面する人物もいる。俺の視線の先には老剣士が佇んで鞘から刀を抜いて切先を俺に向ける。

 

「では今宵も始めよう、抜け。」

 

 頷くように俺は目の前に手を翳し、何かを握るように拳を丸める。そして殺意を絞れば、それを象徴するように柄から切先まで、全てが黒く塗りつぶされた闇黒の刀が形を成す。

 魔術、それは古来から一部の人間が道理を超えて不可思議な現象を引き起こす異能。指先から火を放ったり何もない場所から水を出すと言った様々なものがある。何故そんな力に目覚めたのか、何のためなのかは未だに明かされてないが……俺としては使えるものはとことん使う主義なのでいちいち考える事はやめている。そして、これこそ俺の獲物であり、代々受け継がれてきた魔術そのもの。刀剣を司る俺の力である。そして、それを何に使うのか、言うまでもない。

 

「では、尋常に勝負!」

 

 老剣士の合図と共に、俺たちは殺陣を交える。激しい金属音と共に激突し、このまま強引に押し切ろうとしたが……

 

「ッ!」

 

 老剣士の豪快な横薙ぎ、それに押され大きく交代し尻餅をつく。ああクソ、これで何度目だ?多分、三桁はこんな展開を繰り返している気がする。

 

「まだ詠に至らぬか。」

 

 すかさず立ちあがろうとするが、時すでに遅し。間合いを詰めた老剣士の言葉と共に、俺の関節全てに刃が通る。

 

「否、ある程度至ってるがまだ盤石では無いだけ。」

 

 つまり切られた。痛みは感じないが、その結果が俺の精神を蝕む。敗北感、無念、怒り、ありとあらゆる悪感情が煮えたぎるが、ダルマになった俺に何もできるわけもない。

 

「まだまだ足りんな、力不足なのを噛み締めよ。」

 

 と、文字通り上から目線で敗北者となった俺に向かって吐き捨てる。毎度のことながら、本当に腹が立つ。その偉そうな顔と、不甲斐ない俺自身に。

 そして、次第に視界がまどろんでいき………

 

「そら、姫君が迎えに来たぞ。早く目覚め、日課を果たすと良い。」

 

 姫君といえば、すぐさま理解した。ああ、昔から喧嘩しているアイツが起こしに来たのか……本当に、ご苦労な事だ。しかし一つ訂正してほしいが、アイツは……莉緒は、お姫様なんてお淑やかな性分では断じて無い。そう確信しながら、次第に俺の意識は現実へと浮上していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、良い加減起きなさいよ。寝汗ひどいわよ、アンタ。」

 

 我が家の代々管轄している村雨神社、そこの本殿で俺は毎日布団を敷いて眠っている。そしてそんな俺を、見下ろしながら昔馴染みの付き合いである塚原莉緒がさっきまで熟睡してた俺の頬を、遠慮なく軽く叩きながら語り掛けてきた。それと同時に、特徴的なウェーブのかかった黒髪と女子特有の香りが差し込まれ、そして俺も流石に目が覚め………

 

「やっと起きた、おはようお寝坊さん。アラーム鳴りまくってるのに、本当に目が覚めないんだから。」

 

 莉緒は少し安心したような顔をし、直後に立ち上がりながら呆れた声を漏らす。ふと、隣に置いているスマホの時間を見れば、起きなければいけない時間から5分過ぎている。まだ許容範囲だが、莉緒が起こしてくれなければどんだけ遅れていくのかと予想がつかないからゾッとする。夢の時間での数分が、現実では何時間……なんて頭の悪い俺は計算できないが、分かってしまうと尚恐ろしいことになりそうだからやめておく。

 

「あー………」

 

 しかし我ながら寝汗が酷い、しかし原因は間違いなく毎度毎度見ているあの殺し合いの夢。ひとまず莉緒には二重の意味で感謝したいが……コイツの普段が普段で素直に言うのは癪なので……

 

「毎度ありがとう莉緒、おかげで助かった、二重の意味で。」

「は、はい?何で二重なのよ……」

「そりゃ俺の寝過ごしを防いでくれたし、白い眼福な世界を見せてくれたからな。」

「………」

 

 実のところ、莉緒は外向けの私服で俺を起こしにきており、その私服はコイツの綺麗な御御足を見せてくれるミニサイズ。そしてこいつは今、寝ている俺の前で立っているので、その中身がモロに見えている。

 なので俺の言ってる意味を理解した莉緒は、顔を赤なめながらスカートの前方を押さえつつ静かに正座し……

 

「こ、の………むっつりスケベェェェッ!!」

 

 乾いた音と共に、俺の頬に大きな紅葉を刻まれる朝となった。

 

 

 

 

 

 

 そして互いに朝食を終え、制服に着替えて俺たちは神羅高校へと向かい始めた。お達は揃って高校2年生、楽しい青春時代を過ごせる、はずだったんだが……俺は莉緒と共にあることに励んでいる。

 

「本当、アンタは油断も隙もないんだから……」

「悪かったって、黙っておけばよかったよ。」

「そう言う問題じゃないっての……」

 

 莉緒はそんな風に、ブツブツと不機嫌な顔を浮かべながら呟いていた。まあ、俺と莉緒は大体こんな調子で登校している。

 

「それにしても、前までは自分で起きれたのになんで急に寝坊助になったのよ?」

「いやぁ、それがさっぱり……お前との練習の疲れ、かも?」

「いややってた時期でも普通に起きてたでしょ、高校になってから急な気がするんだけど。」

「そうかな……そうかも……」

「アンタ、自分のことなんだからしっかりしなさいよ。ほらこっち、せっかくのサラッとした髪なのに寝癖が出てるじゃない。」

「あ、悪い……」

 

 栗色の俺の髪に莉緒は手を伸ばして整えて始め、少し俺の胸が高鳴る。言えるわけがない、よく分からんジジイに夢の中でダルマにされたり微塵切りにされて殺されては目が覚めるなんて。察するに、俺の家が代々受け継がれている魔術との関わりなんだろうが、あんなジジイを毎晩見るなんて記録は古い書物とか明後日もまるで一切無い。ましてや莉緒に言ったところでまるで理解不能だろうし、公子バァちゃんに話しても煙に巻かれそうだし……

 

「まあ良いわ、どの道アンタが居ないと張り合いも無いし今日もやるんだから遅刻は厳禁よ?」

「ああうん、分かったよ……まずは……」

「おお!!未だ絆繋がらぬ我が婚約者(フィアンセ)よ!」

「ゲェッ」

「あ、アイツ……」

 

 莉緒と話しているうちに校門に到着した瞬間、聞き慣れた気持ち悪い男の声が俺たちの声が耳に入る。その声の主のところへと目を向ければ、長身の男が一年生の女子の集団に向けて理解不能な言葉を囁いていた。

 

「我が足跡に一歩至らぬからこそ、その輝きに私は我が魂の渇望を満たしてくれる……その甘美な美しさに、私はもはや恋の下僕……さあ、どうか美しき君、私の手をどうか取っていただきたく……」

「や、やだ生徒会長さん怖い!」

 

 一年生の女子の反応はまさに常識的なもの、そしてその光景を見る莉緒の顔は道に落ちている吐瀉物を見てるかのように影がさしていた。

 多分、俺も同じ顔をしている。もしもあの男が俺たちに一切無関係ならばそのままガン無視出来たがそうもいかない。

 

「……石動くん、毎朝よく一年の子にあんな風に粉掛け……と言えるのかしら?強引なナンパ?」

「類……よく生徒会長なんざになれたな。いや、あれ以外の素行と成績はいいんだがな。」

 

 そう、一年の子も言ってたがこの奇天烈なことをしている男が生徒会長なのだ。名前は石動類、俺たちとは中学からの付き合いで特に俺とよく絡んでた馬鹿な男だ。

 見れば一年に逃げられ、項垂れた直後に俺たちを見つけてこちらへと来る。正直、あの場面を見た直後にはこっちくんなと言いたくなるが残念ながら避けられない。

 

「おや、ラウルくんに莉緒さんご機嫌よう。ははは、相変わらず影の刺した暗い顔をしてるじゃないか。」

「ドン引きしてるのよ、もっと陰湿な目線送ってあげようかしら?」

「ははは、やめてくれ後が怖い。」

「お前いい加減、その年下の女子にアプローチするのやめろ。最近だと近所の中学生にもやってるんだろう?」

「そこは当然、僕のフィアンセが居るかもしれないからね。」

「いるわけない、絶対無い。思春期真っ盛りの子が、お前みたいな年下趣味の爽やか生徒会長なんてコアなやつ選ぶやつの方がどうかしてるだろうが。」

「全くよ、私の後輩も怯えてるんだからやめて頂戴。というか、そのウチ警察にしょっ引かれるわよ。」

「ふっ、その時はマネーのパワーを発揮するまでさ。資本主義の時代においてこれに勝る武器はない。」

「うわぁ……」

 

 そう、こいつの家は非常に有名な大企業でありその御曹司なのだ。しかも親の七光りなだけでなく、こいつは交渉術も大人顔負けなテクを持ってるらしい、俺はそのあたり関心が薄いから具体的には分からないが。

 だが、それを差し引いても他にコイツの強みを俺は知ってるが……それにしても、もっとマシなことにマネーのパワーを使えと思わざるを得ないが。

 

「あら、なら私の家の力を発揮しようかしら?」

「やめてくれ莉緒くん、君の大きな家の力は僕に効く。だからやめてくれ。特に公子殿には諸々お世話になってるからね。」

「全く、だったら少しは自重しなさいっての。」

 

 どうやら莉緒も俺とほぼ同感だったらしく、真っ黒な笑みを浮かべながら言い放つ。流石の類も顔を青ざめながら震えていた。まあ、諸々の関係で公子バァちゃんには頭が上がらないだろうしな。

 と思ってたら、類の細い腕が俺の首へと回り込む。

 

「お、おーっとそうだったラウルくん。ちょーっとお手伝いしてもらいたいことがあるんだよねぇ…………….いいかな?」

「……なるほど、仕事の話かよ。まあいい、簡単な奴から片付ければ良いんだろう?」

「当然さ………積もる話はその後に。と言うわけで、僕らはこの辺りで失礼させてもらうよ!」

「あ、もう……ラウル、練習サボろうとするじゃないわよ!」

 

 そして類に強引に引かれる形で、俺は後者へと誘われた。莉緒の声に、片手をあげて返答する形で。

 

 

 

 

 

 

 暫くして、類は俺を生徒会室へと招き入れた。朝の会とかに出ないといけないはずだが、どうやら特権で押し通すらしい。権利の濫用な気がするが、とりあえず話を聞かないことには終わらないと俺は考える。

 

「ではそこの書類整理を頼もうかな?」

「はいはい、とりあえず纏めて綺麗に保管すれば良いのか?」

「それで構わない、どうにも僕は整理が昔から苦手でねぇ……」

 

 いやぁ、助かる……なんて顔をしてるが実際のところは違う。確かに整理が苦手なところはあるが、それはコイツの場合はやる気の問題だ。

 類は昔から、やると決めたら即断即決する性分だ。何せ中学の時に、初めて俺に仕事を依頼した時もそんな感じだったからな。ましてやこの生徒会室、しっかり外漏れを防ぐために防音されてるらしいからな。

 

「……で、今回も害獣退治か?」

「正解、具体的には狼退治だ。」

「自治体とか、手慣れてるだろうハンターでも無理なやつか?」

「それで対処できるなら君を呼んでないよ。」

 

 スマホ片手にポチポチと、何か操作しながら類が肯定する。なるほど、単なる狼の被害というわけではなさそうだな。

 直後、俺のスマホが震えだす。取り出して類とのトークルームに転送された記事が目に映る。そこに大きく『登山中のカップルに狼の被害!女性は無傷、男性は今も行方不明!』と書かれていた。なるほど、大分可笑しなことだ。

 

「狼に襲われて行方不明………か。」

「熊みたいな大型生物に襲われたならわかるが、なにしろ狼だからね。それも女性の話を聞くに一匹、犬よりも一回り大きなサイズだったそうだよ。被害があったポイントから三日、調査隊が探してるのに男性の物らしきものは皆無。精々がそれっぽい髪の毛やそれらしい血痕が幾つかしか見つかってない……そろそろ断念せざるを得ない頃じゃないかな?そして、こうした事例が既に10件以上出ている。そして結果は揃って行方不明者続出で終わりだ。」

「狼が神隠しとか、どんなファンタジー映画だよと言いたくなるが現実に起こってるんだもんな。」

 

 そりゃ何が何でも止めたくなるものだ、俺が納得して息を吐けば類は指を鳴らしながら俺を指す。

 

「そういうこと。狼を炙り出すために、山に焼き討ちなんて出来ないし、今のご時世だと動物様に向けての発砲の許可が降りるのも凄く厳しくてね。というわけで、僕が君を呼んだのはそういうことさ。君の腕前は既に、中学の頃から織り込み済みだからね。」

 

 思い返せば、こいつが初めて俺に依頼したのも熊退治だった。かつて、ある地方の人々を震え上がらせた熊野大事件があった。3年前にそれの再来と恐れられてたほどの大型熊が現れた。退治するためにハンターを大勢雇ったものの、不運にも雷雨のせいで失敗が続く中にまさかのコイツが……

 

【やぁご機嫌よう遠峯くん、君は野生生物のハンティングとか経験あるかな?】

【はぁ?】

【報酬は弾む、学生じゃ手の届かない額を与えると保証する。】

【くだらんジョークはやめろよ、そんな事を中学生にやらせようとするんじゃ……】

【君の家、代々殺しに長けてたそうじゃないか。それも要人暗殺だけでなく、野獣退治もしてたとか……】

【ッ!】

【ああもちろん、これは君と僕だけの話だ。たとえ話を蹴ってもクラスメートや世間に漏らすなんて下衆な真似はしない。さて、どうかな?】

 

 コイツはただの変態ボンボンじゃない、そう確信して結果として俺はその依頼を受けた。

 そして対象の熊は本当に大きかった、と言いたいが生憎と熊とご対面したのはこれが初めてなので本当に大型なのは分からなかった。ただ、その頃から莉緒や夢の中のジジイとの殺し合いの成果か、俺のスペックでは確実に殺されてただろう熊の攻撃を捌くことができ、後はがむしゃらに攻撃をしていたら……

 

【ハァハァ………ハァハァ……】

 

 熊が達磨になっていた。どんなふうに熊を殺したのか、あまり覚えてない。俺はひたすらに獲物を振り回して、生き残るのに必死で……その最中に……

 

【コロセ】

 

 そう、その想いが頭にへばりついて……

 

【テキヲ コロセ】

 

 あらゆる邪念を振り払い、その想いだけが体を包んで……

 

「でだ、今回の件も受けてくれるかな?」

「……ッ!」

 

 と、昔を振り返ってたところに、類からの声で俺は我に帰った。うっかりしてた、聞いた以上は無視できない。だが、その前に確認をしないと。

 

「報酬は?」

「この前と同じ額、と合わせてこの冬に出る最新作のゲームを一番槍で買える権利とルートを保証しよう。僕からの早めのクリスマスプレゼントさ。」

「良いだろう、乗った。」

「〜♪良い返事だ。ただ、毎度のことながら君がゲーマーなのは知ってるがそれで命賭けれるのかい?」

 

 口笛を吹きながらも、どこか心配そうな口調で類は俺にそう問いかける。確かに、熊との殺し合いの報酬がそれなのは常識的に考えたら釣り合いがとれてるのかというと微妙だろう、金も一緒にあるとは言え。

 しかし、だけど俺にはそれが大事な気がするんだ。言うなれば生きる喜び、義務感だけで俺は動いてないと実感できてる気がするんだ。

 

「金だけじゃつまらん、俺が納得できるものじゃないとモチベが上がらないんだよ。」

「……は、はははははは!やはり君は面白いね、だから気に入った!じゃあ取引成立だ、指定時間に今送ったポイントに行って探し出してくれ。そこで狼を見かけたら問答無用で殺してくれ、発見が皆無ならそれはそれで報告してくれればそれで良い。また日を改めよう。なんにせよ、良い報告を期待してるよ親友。」

「ああ、任せとけ。」

 

 そう言い交えて、俺は類と拳を突き合わせた後に生徒会室を後にした。変態に親友と言われるのはなんか癪でやめてほしいが、不思議と遮ろうという気が起こらない。

 ひとまずその後は可もなく不可もなく、穏やかな学校生活を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして下校時間となり、莉緒と一緒に帰りながら屋敷へと行った。莉緒の家は非常に大きく、裏にまわれば運動場のような大きな広間があり、俺たちはそこで練習をしている。

 そこで毎日莉緒と組み手をするのが日課であり、日が暮れるまで激突を広げ……

 

「…‥無理、ギブアップ。」

「もう、だらしないわね……」

 

 莉緒の攻撃を捌き続けるのが今の俺の限界であり、初めの頃から俺は全戦全敗。莉緒の一人勝ちである。

 何せ魔術が発動できない、それも莉緒に対してのみ。その原因が一向に掴めないのだから。しかも……

 

(やっぱ見えちゃうんだよな……流石にもう言わないが。)

「何よ?」

「何でも、疲れてボーッとしてるだけ。」

 

 体術のぶつけ合いなのに女子の色白く細い身体がよく出てる薄着でやってるのだ。いや、下手にバサバサする服よりかは理に適ってるが、それでもいけない部分が見えてしまうわけで……

 

「本当わからないわね……ほらコレ」

「ああ、ありがとう……」

「可笑しいわね、アンタのスペックは間違いなく上がってるのに魔術が開放されないなんて。」

 

 などと考えてたら莉緒からスポドリが渡され、それを飲む。スタミナ切れを起こした体には染み渡る。

 一方で莉緒は納得のいかない口調で呟き続ける。

 

「それも、私に対してだけでしょ?可笑しいわよ、バァちゃんに見てもらう時にもちゃんと出てるのに……」

「あー、まあ確かにな。」

「……気持ちの問題かしら?ねぇラウル、アンタ女子の好きなタイプとか居ないの?」

「はぁ!?いきなり何言ってやがるんだよ!?」

 

 あまりに唐突な質問に俺は思わず、飲み終えかけていたスポドリが口から噴出しそうになった。

 

「アンタももう高校生だし、そのくらいの分別くらいできるでしょ?」

「…………橋口佳織、あの人は確か世紀の美少女とか言われてただろう?」

 

 取り敢えず綺麗な女子と考えて、思いつく人物を出した。すると莉緒は露骨に引いた顔をしている。

 

「うわ理想高っ、アンタ生涯独身になりそうね……」

「おい待てコラ、あくまで分かりやすい例を出しただけであの人レベルを彼女にしたいわけじゃない」

「じゃあ、どんな子を彼女にしたいの?」

 

 なんだかこの会話、続けていくとどんどんドツボにハマる気がする。とは言え強引に逃げてもまだ完全に回復してない身体では莉緒に追いつかれるかもしれん。なら、ここは……

 

「あ、その………あ!!」

「な、何よ急に……」

「悪い、そういえばお前のアイス食べてしまってたの忘れてた!」

「はぁぁぁぁ!?ちょ、アンタ何をして……」

「嘘です!」

 

 そう言い残して俺は即座に立ち上がり、怒る莉緒に背中を見せてすぐさま体を切り返して全力疾走した。

 そして続けて、ポケット中からスマホを取り出して……

 

「ちょ、待ちなさい!」

「あ、もしもし公子バァちゃん!?そうそう、今日も剣の調整を……」

「あー、バァちゃんのところに行く気ね!狡いわよ!!」

(なんでか知らんが、公子バァちゃんの部屋に入ったら混ざれないんだよな……理屈は知らんが入ればひとまずは安全圏!)

 

 今俺は最短ルートで公子バァちゃんの個室へと向かっている。もうスタミナが切れかけてるが、階段を何段も飛ばして突き当たりを素早く曲がってドアを勢いよく開ける。

 

「オッスバァちゃん!今日も頼む!」

「五月蝿いよ、既に準備はできてるから座りなさい。」

 

 部屋の中は薄暗く、今の時代には似合わない蝋燭で照らされた古めかしい雰囲気で包まれている。そして部屋の最奥に、盲目の老婆が聞き慣れた口調でそう答える。

 この老婆が莉緒の祖母であり、世間では敏腕の占い師として有名な『塚原公子』だ。そして俺の魔術もよく見てもらっている。なのでいつも通り、俺は座って公子バァちゃんと対面する。

 

「アンタらも良い歳になっても、まだ追いかけっこするとは仲が良いね……ババアは見ていて微笑ましいよ。」

「大きなお世話だよ、ほっとけ。」

「ヒヒ……ほら、出しな。見てあげるから。」

「はいよ………」

 

 施され、俺は目を閉じて意識を研ぎ澄ます。普段通り、イメージするのは人を血に染め上げる殺戮現場。見たくないものだが、そうしなければそもそも話にならない。それが俺の鼓動をあげ、抱く思いが鋭敏かされていき。

 

(形を成せー我が殺意(つるぎ))

 

 物を掲げるように拳を突き出せば、俺の握り拳から一人でに黒刀が出現する。これこそが俺の家が代々継ぐ、刀剣魔術である。

 そして出現した黒刀を、バァちゃんは顎に手を当てながら吟味するように唸り声を上げる。こんな風に、公子バァちゃんは訪れた客の占いや相談事だけじゃなくて、俺や莉緒の魔術の練度も見てくれる。曰く『天眼魔術』で多くのものを観れるらしいが、その詳細と解放するための条件は聞かされたことがない。

 

「で、コイツの調子はどうよ?」

「ああ、いつも通り問題無し。出し入れにも不備無し、アンタも順調に成長してるじゃない。」

「おお………そりゃよかったが……」

 

 俺はそれを聞いて胸を撫で下ろした。正直なところ、最近出してなかったから不安定じゃないかという不安があった。だが問題ないのなら、仕事の時に都合悪く出せないなんて洒落にならない状況になることはなさそうだ。

 

「莉緒との時だけに出せないのがまだ不安かい?」

「そりゃなぁ、明らかな異常だしよ……何とかならんか頭を悩ませてるよ。」

「まぁねぇ、小さい時に意気揚々として出そうとしたら踏ん張っても出なくて莉緒に嘘つき呼ばわりなされてたのが懐かしいねぇ。」

「あれマジで理不尽だった、ガチ泣きしてた気がする。」

 

 あの後、バァちゃんに見てもらおうとしてちゃんと出せたのだからバァちゃんを通して証明できたので事なきを得た。が、尚更として莉緒の前では出ないのだからタチが悪い。

 

「ま、安心しなさいな。あんたの魔術に不備はない、原因はアンタのウチにあるし……まあ、この際言おうか。莉緒に関係あるよ。」

「何ぃ!?アイツ、もしかして何かしら妨害を……」

「戯け!うちの可愛い孫娘がそんな姑息なことするかい!!」

 

 直後、公子バァちゃんの肩叩き棒が俺の脳天に突き刺さって視界が暗転した。

 

「痛い!?」

「全く、アンタと言えどそんな不実な想いは許さんよ。あの子が毎日何の為に、アンタに付きっきりと思ってるんだい。」

「あ……そ、そうだよな。俺がヘタクソな魔術を安定させる為にやってるのに……そんな妨害なんて、するわけないか……すまん、俺が捻くれてた。」

 

 確かにこれは俺が悪い。そう自覚して頭を下げれば、バァちゃんは鼻を鳴らして紅茶を一口飲みながら言う。

 

「分かればよし、まあいずれ克服できるだろうさ……その分責任は付きまとうだろうがね。」

「責任?」

「……今日はここまで。ほら、そろそろ時間だろう?さっさと準備してきな。」

 

 ふと時計を見れば、確かにそろそろ仕事の時間だった。俺は荷物を持って立ち上がる。

 

「と、もうそんな時間か。ありがとう公子バァちゃん、それじゃ行ってくる!」

「くれぐれも無茶すんじゃないよ、あのボンボンの仕事なんざ蹴ったところでアイツしか損しないんだからね!」

 

 その言葉を背中で聞きながら、俺は部屋を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウルが部屋を出た後、公子はため息をつきながら机に隠しているボタンを押す。するとブザーのような音が鳴り響き……

 

「全く、別に同席しても良いだろうに。」

「……そんなこと出来ないよ、ラウルの悩みはラウルのものだから」

 

 公子の近くにある隠し扉が開き、そこから莉緒が現れた。

 

「アイツがアイツなりに頑張ってるのはわかる。だけど……」

「莉緒がやれるのは体術の特訓だけで、成果が出てる気がしない……そんなところか?」

「うん……」

「そこは自信を持って良い。あのもやし小僧があんなに逞しくなってるじゃない、お前と張り合い続けた成果さ。お陰で陰気も晴れて心身健全だよ、見違えたものだ。」

 

 公子がそう断言すれば、莉緒の顔が明るくなり始めた。

 

「……うん、それなら良かった!」

(何せ、ラウルの刀剣魔術の開放条件が“殺意の自覚”だからね……それは殺し殺されることをイメージするだけで成立するが、惚れた女の前でそんなことを考えられるほどアレは器用じゃない。ましてや今は二人とも繊細な時期、自分で気付いて向き合って答えを出すしかない。)

 

 莉緒が明るい顔をする反面、公子は顔に影を差し込みながらそう考えていた。

 

(それに私の魔術は、答えや未来を見るだけならばまだしも口に出したら見えたものが完全に成立する運命となる。それでどれだけの悲劇が生まれたか、両手足の指の数を超えている。逆に、敢えて黙ったことで変わった運命だって同じくらいあった。殺意が必要だと自覚したラウルが何かの間違いでお前を殺す未来なんて見たくない。それに、あの魔術は更に深い部分が……)

「お婆ちゃん大丈夫?顔色悪いよ?」

「……ああ、すまんね。もうお婆ちゃんも歳だからね、気が抜けてボーとしてたよ。」

「もうそろそろ寝ようか?」

「ん、まあ準備しようかね……」

 

 そう言いながら公子は立ち上がり、莉緒の手を掴みながら歩き始める。

 

「ただ、なんだ……アタシも前から気になってたんだが……」

「なぁに、オバァちゃん?」

「アンタ、特訓の時にあんな軽装な格好である必要あるのかい?運動着くらい、持ってるだろう?自堕落にならないくらいのお小遣いの額にしてるが、まさか服を買いに行けない程には……」

 

 すると、次第に莉緒の顔が赤らめ始めて体を縮こませる。

 

「ち、違うわよ!えっとその、やっぱオバァちゃんから見てもはしたなく、見える?」

「あー……まあ、アタシ基準に見たらはしたないといえばそうだけど、あのくらいの格好は外に出たら若い子ならちらほらと見かけるねぇ。だからあれだろう?今時の格好はああいうもんだって。」

「う、うんそうなんだけどさ……その、アイツって結構変なちょっかいとか仕掛けるじゃん?」

「そうだねぇ、あまりにもくだらないから尻丸出しにしてシバいたろうと思った。」

「うん、だから私もムカついてシバいたんだけど……その、同時に、ね……私のこと、なんだかんだ女子として意識してくれてるんだなーって実感したから……」

 

 と、莉緒がモジモジとしながらそう呟き始める。その反応を感じた公子はケラケラと笑い始める。

 

「…………なるほど、恋する乙女も難儀だね。まぁとりあえずそのうち、ひ孫を抱っこできそうでおばぁちゃん嬉しいよ。」

「ちょちょちょちょー!?何言ってるのオバぁちゃん!?」

「ヒヒヒ、ちゃんと報告してくれよ?ご祝議ははずませてやるかやね。」

「もう、オバァちゃんなんて知らない!!」

 

 そんな談笑をしながら、二人は寝る準備を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は帰宅し、狩衣を羽織り村雨神社本殿で儀式を始め、祝詞を読み上げている。

 

「………畏み畏み申す……」

 

 祝詞を読み終え、二礼二拍手一礼し儀式を終える。何のための儀式かと言うと、実のところ俺が戦場に出るための祈りであり、そして戦意を研ぎ澄ますための恒例行事。

 言うなれば、刃物に伽石で研ぐ作業に等しい。これからやる事は日常の単なるお出かけとは訳が違う、だからこそ緩んだ気持ち、弛んだ感情で出向くわけにいかず、気持ちを切り替えるために必要なことだ。少なくとも、俺はそう言う性分だ。几帳面すぎるだの、面倒臭い性分だのと我ながら思うのだが命を賭けた時間となるのだからやらなければならない。

 

「……….」

 

 そして俺は狩衣を脱ぎ、畳んで箪笥にしまう。そして次に取り出すのは、真っ黒な衣服。黒衣に黒袴、そして黒い羽織を被る。そして口元を隠し、まさに闇夜に紛れるための暗殺装束を身につけて、そして本殿から出る。

 懐中時計を見れば、その瞬間に日付が変わった。単なる学生としての俺は起き、これからは魔術を以って裁きを下す戦闘兵器だ。

 

「殺戮を執行する」

 

 遠峰ラウル、仕事開始の時間である。




次回、中編となる予定でここから本格的に動き出します。
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