なんでソシャゲのキャラって揃いも揃ってスケベな格好なの? 作:聖成 家康
男は、ソシャゲの世界に転生した。
《メタルカ•パニック》という、軍隊が訓練しているところしか面白くなさそうな映画に似た名前の、有名なソシャゲの世界にだ。
男は、この世界の特定のキャラとしてーーではなく、単にこの世界の住民として転生した。
燃えるような赤い髪、緑の瞳。強靭な肉体を持って転生することができた。また、この世界では意外と良い生業を立てることもできた。社畜だった前世に比べたら、よほど恵まれた待遇だ。
《メタルカ•パニック》についてある程度説明がなければ困惑するだろう。
公式のキャッチフレーズを引用すると、《絶望の大地に浮かぶ希望。君はそこで何を掴む?》。まさにこの通りの世界観であり、地上はあらゆる物を金属に変える災害〈メタルカ〉によって住めたものではなくなり、人類は天空都市を築き、そこで繁栄している……という設定。
えらくSFチックだが、根本にあるのはハイファンタジーであり、物語は神話×空想科学のような、読み込もうとすると首が曲がっていく出来だ。
男は今、"パライソル"という天空都市を訪れている。
近未来な景観がありながらも、古代西洋の意匠が多く残された不思議な建物が立ち並ぶ街だ。
だが、そんなことはどうでもいい。
男ーー「アルジャーノン」にとって、今一番重要なのはそんなことではないのだ。
「……」
彼の目の前に立つのは、一人の女性。
腰まで伸びる青い髪、そのうちの一束は丁寧に三つ編みに束ねられている。瞳の色は美しい翡翠色で、顔立ちはそれに見合った硝子細工のような造形。
すらっとした出で立ちで、身体の曲線がよく目立つ服を着ている。
ーー彼女は、〈メタルカ•パニック〉の俗に言う
だが、問題なのはそこではない。
服。服だ。
彼女の服。上半身はノースリーブの黒いシャツで、腰回りには謎のスリットが。下半身は太腿が強調された黒のショートパンツ。右腿には謎のベルトが二つ連なっており、見て♡とでも言いたげだ。
何なんだその服は。
ソシャゲのキャラはなぜこうも変な服を着るのだ。
ゲームをしている時は、「なかなかのキャラデザだ」と感心していたが。いざ、目の前に実体として出てくると話が変わってくる。
「よし、アルジャーノンさん。依頼の件ですけど」
アルベルトは壁に立てかけていた二本の剣を、腰のホルダーへスタイリッシュに提げる。
彼は色々言いたい気持ちを抑えながら、仕事の話を始める。
「あぁ……創世団に、とりわけ貴女に頼みたいのは、この近辺で発生した〈メタルカ〉の現地調査だ。無論私も同行するが、あいにく戦闘は得意でないものでね」
アルジャーノンは淡白に告げる。
彼の仕事は研究員。この世界を実質的に支配している大企業 リバース•シンジケートに務める、いわゆるエリート。
とはいえ、その仕事は今回のように時に危険だ。なぜ〈メタルカ〉の調査が危険か……それは今に分かる。
それより彼が気になるのは、彼女の服だ。
下心などない。純粋な疑問ばかり。
特に腰回りの、左右三本ずつ入ったスリットは何なのだろう。へそと腹筋を見せたいのだろうか? 綺麗で整った肉体だから見せたいのも分かるが。
「なるほど。お安い御用です」
「報酬は、貴女に相応しい物を用意させてもらう。とにかく、用が済むまで私を護衛してもらいたい。情けない話だが……シンジケートの腕利きであった貴女でないと、安心できなくてね」
アルジャーノンの嘆息が漏れると、アルベルトが続けた。
「情けないなどと思いません。〈メタルカ〉に踏み入れようとする時点で勇敢です。人類の更なる発展に、貢献しようとしているのですから」
「……そう言ってもらえると、助かる。私はどうも、自分を蔑む癖があるらしくてね」
駆け抜ける車のエンジン音が、彼の焦燥を駆り立てる。
聞きたい。「その服は何なのか」って、真正面から聞いてみたくて仕方がない。
アルベルトはスマホでビークルを呼び、移動手段を確保する。呼び出しを喰らいすっ飛んできた輸送ビークル。
そこには、とても人が扱うものとは思えない巨大な剣が積まれていた。
アルジャーノンは前世の記憶と照らし合わせ、それが、アルベルトの必殺技で登場する武器だと認識できた。
まぁ自分は当たったことはなく、お試し機能で一回だけ見たきりなのだが。
「では、急ぎましょうか。さくっと、済ませましょう」
「そう時間は煩わせない。安心してくれ」
アルジャーノンのアルベルトは、互いにビークルに乗り込む。AIによる自動運転のため、無免の二人でも安心して乗り込めた。
彼女が座るときにぐにゃと開くスリットを見て、余計に謎は深まるばかりだった。
◇
"パライソル"第七聖区『楽園外庭』。
〈メタルカ〉は本日、粒子天測時間 午前 五時六分に初動規模五千ビッカースで発生。後に最大規模は一万ビッカースに及び、発生区域のみならずそこから半径十キロ圏内は禁則地に指定された。
発生現場に到着したアルジャーノンは、幾度と見た景色を赤い瞳へと投影させる。
天まで貫くかのような歪な金属の柱。そこから溢れ出る高濃度のメタル粒子は、さらなる〈メタルカ〉を誘発する危険すらある。
周りの建物は、全て〈メタルカ〉由来の金属へと変貌。鉄製のみならず、石の建物までも金属に変化している。
また、この厄災は命や機械をも歪な鉄へ変える。
〈メタルカ〉区域内は、変異した動物や暴走機械で溢れかえっており、生身で入ろうなど自殺行為だ。
「さて、行きますか」
「あぁ。せめて、私が先行しよう」
そういって歩き出した彼の前に封鎖区域を監視していた、創世団の団員が立ち塞がる。
首筋に槍の矛が向けられても、彼は動じなかった。
「やめて、二人とも。この人は遠方から来られた研究員の方よ」
「アルベルトさん……?! し、失礼しました。どうぞ、お気をつけて」
二人の兵は敬礼し、アルベルトとアルジャーノンを快く受け入れた。
……兵の服装は普通だ。薄青色の戦闘服の上から、西洋の鎧を模した防護プレートを身に着けている。この都市を護る近衛ーー創世団の服の趣味が悪いというわけではないのだ。
〈メタルカ〉区域の中に足を踏み入れる。
空気が、急変する。
豪雨の直後かのような重たさが、一気に肩にのしかかってきて、足が竦みそうになった。
〈メタルカ〉ーーそれは、この世界に普遍的に存在するメタル粒子の活性化現象が引き起こす産物。無論、防ぎようがない現象だ。
この空気の重さは、活性化したメタル粒子が世界を蝕んでいる証だ。やがては踏み入れた人間の身を喰らい、命まで蝕んでくるだろう。
「本当に抑制薬無しでいいんですか?」
「あぁ……私は粒子抑制の
「へぇ、道を極めればやはり行き着く場所は至高の領域……興味深いです」
科学者の末路に興味を持つとは、無知なのか無邪気なのか、真面目なのか。アルジャーノンはただ微笑み、彼女の好意を受け取った。
二人は歪な空間を歩いていく。踏みしめる度に鳴るのは、冷たい金属音。本来の景観を想定するに、もっと乾いた、それでいて温かい音が鳴るはずだが。
暫くして、彼の目に留まったのは地面なら伸びる木の枝かのような金属だった。
ぽつん、と崩壊することなくひっそり息を潜めていた。
アルジャーノンはしゃがみ込み、真空パックと専用採取器具を取り出す。
「何か役に立つものですか」
「えぇ。普通、〈メタルカ〉に侵食された植物は変異するか、その形を保てず自害の道を歩むかの二択。だがこの木は、不思議なことに建物と同じように形を保って侵食されている。希にこういう物が見つかる」
「この植物……」
アルジャーノンがそう言うと、彼女は目を丸くしながら考えに耽った。
そんな二人の耳を、劈くような金属音が引き裂かんとする。
現れるのは、歪な機械。
円柱状のボディに強固な四輪がついたその様は、警備用のロボットーー"パライソル"では「自律機」と呼ばれているかーーのもの。だが、外部装甲はメタルカにより侵食され、皮膚が裂かれるかのように、昆虫を思わせる四脚が露出していた。
「アルベルトさん、よろしく頼ーー」
彼がそう言った、否、言い終わる寸前。
アルベルトは腰に収めた剣、「ハティ」を抜刀。内蔵されたライフル機構が解き放つ鉛玉を、手始めに自律機の脳天へ撃ち込む。
そのまま、目にも留まらぬ疾走。瞬時に奴との距離を詰めて、鋼鉄の塊を四等分に切り裂いた。
鉄塊が転がり、メタルカ粒子へと変貌する。
アルベルトはくるくる、とハティを回しながら納めた。
「……言うまでもなかったか」
彼は気にせず採取を続けた。彼女は戦闘に関してはプロを超えている。素人が頼まずともやってくれる、と確信していたはずなのだが。案外、普通の女性であったために忘れていた(あと服)。
採取が終わると、アルベルトは誇らしげに話し始めた。
「……この植物は遥か昔、まだ地上が人類の住処だった頃から、ご先祖様から受け継がれている物なんです。カミシルベと呼ばれて、夜な夜な、迷い人を光で導くという逸話があるです」
「聞く限り、単なる植物ではなさそうだな。他のものとの共通点と結びつける必要があるようだ」
アルジャーノンは腰を上げると、彼女に一瞥する。
その儚げな表情に、彼はたまらず口を挟む。
「貴女はご先祖様を慕っているのか」
「……はい。この"パライソル"を築いたご先祖様は、誇り高く、人々の働きを常に認め、誰とでも等しく接する一族だったと聞いています」
天空都市が築かれ早数世紀。初めにこの都市を築いた者たちは、地上での文化を忘れることのないよう、空へそのまま受け継いだ。色濃く残るこの文化は、先祖の代から受け継がれた歴史深きもの。
「君がメタルカと闘う理由が、なんとなく分かる気がする」
彼女の頬から赤水が滴っていた。
アルジャーノンは歩み寄り、その切り口へ手を添えた。
すると、翡翠に発光したかと思えば傷口は瞬く間に塞がり、何事もなかったように元通りになる。
「……!」
反応を見るに、ここまで精巧な回復
メタル粒子を皮膚や神経、骨に変換し組み立てる回復術は扱う者は多いが、瞬時に……というものには早々お目にはかかれない。
「私は君の誇り高さに、敬服しよう」
アルジャーノンは微笑む。今の彼には、彼女にこれしかできないのだ。
ーーアルジャーノンという役割に夢中になるうち、服のスリットの謎に、ますます言及できなくなった。失態だ。