尾張グダグダ戦国記   作:far

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日曜日はちょっと仕事が午後に食い込むので、遅めの投稿です。


【ミッション】立っている者は親でも使え【バニシング】

 

「ちょっと斉藤の奴らをダマして、通してもらいました。丹羽様への取次ぎをお願いします」

 

 私は清洲城の城門前で兵士に取り囲まれながら、平然と営業スマイルを浮かべて用件を述べました。

 我ながら、図太くなったものですね。

 内心、そう考える余裕もあります。

 

「……少し待て。おい、誰か伝えてきてくれ」

 

 今の私は鎧も身に着けず、白装束を身に纏っています。気が立っている篭城中の兵たちも、さすがに害する気にはなれなかったようです。

 

 計算どおり。

 

 伊達政宗が初対面の時に遅刻して、秀吉に伊達家ごと処分されそうという時に使った手です。

 これは秀吉が関東入りして北条を攻める時に、関東、東北の大名たちも参加せよと命じた時の事なので、マジでお家の命運がかかっていました。

 秀吉が関白になった後だったので、権力武力の両方を備えた天下人の号令です。実際、遅刻したりブッチした家は、取り潰されたり、領地を削られています。

 しかも相手が秀吉です。そんな場合にも通用した、信頼と実績の白装束です。

 

 反省したフリというか、覚悟を決めたポーズを露骨なまでに示されると、逆に処しにくくなる。そんな心理を突いた一手ですね。

 

 取り囲んだ兵の中で、指揮者っぽい人が上に話を通してくれるようです。

 あとは誰か、丹羽様か、そうでなくとも私の顔を知っている人が来てくれたら、それで清洲城潜入ミッションは成功。チョロいもんです。

 

 えっ。清洲城の包囲網を、単独ですり抜けるんじゃなかったのかって?

 

 ええ。まあ。当初はその案で行くつもりだったんですよ。で、検討するために、まずは近くまで行って偵察しまして。

 あっ、これ無理だ。

 すぐさま、そう悟りまして。

 

 だって清洲城って、本当に平野部にあるんだもん……

 

 遮蔽物は、なだらかな丘くらいしかないし、山も谷も近くには無いのです。

 夜にコッソリ侵入しようにも、周りに明かりが無い、中世の夜の闇が深すぎて無理。明かりを使うと、当たり前ですが一発でバレます。

 

 だから斉藤軍に、通してねってお願いしました。

 

 もちろん「織田の援軍です! 通して下さい!」と、バカ正直に言っても通してくれません。むしろ斬られます。

 しかし上手い口実というか、説得力のある言い分があれば、割といけます。というか、いけました。

 

「信行さまが亡くなられたのは、もう外にも広まっている。私ももう、織田家はこれまでだと思う……

 城中に残っている者たちに、降伏するように説得したい。これ以上は無駄な犠牲にしかならぬ。通してくれ」

 

 こんな感じで。

 斉藤家のそこそこ偉い人に会って伝えないといけないので、そこに手間取りましたが、そこさえクリアできたらあとは楽勝でした。

 

 綿火薬も、ちゃんと持ち込めましたし。

 

 綿火薬って、見た目もほぼ綿のままなんですよ。

 今は火薬と言えば、黒色火薬のみ。火薬とは、まったく疑われませんでしたね。

 城へと向かう際に、大八車もどきに色々と乗っけて運び入れようとしたら、さすがに荷物チェックされて「それはなんだ」と聞かれましたが。

 

「切腹する時の、畳がわりです」

 

 座布団や敷布団のような形に、布で包んで運んでいたので、この言い訳が通りました。

 

「降伏を良しとせず、主家も終わり。自分が今いる城も落ちる。そうなったら切腹を選ぶ人もいるでしょう。

 高価な畳、とまではいかずとも、板の間や、地べたの上での切腹よりは……」

 

 なぜか勝手に口が回って、ペラペラと出てきた言葉ですが、効果は抜群。斉藤家の人は、涙ぐんで通してくれました。

 切腹する人もって、お前、その白装束はまさかお前、自分が…… みたいな顔もしていました。

 

 チョロいぜ。

 

 ちなみに大八車は、荷を載せる車台も骨組みだけで、側面も手すりすらない簡素なリヤカーです。

 名前の由来が地名か人名からとか、車台の長さが八尺(約2.4m)だからとか、8人分の荷物が乗っかるから。など諸説あり。

 元は江戸で大火事があった後の復興作業で、瓦礫や資材を運ぶのに忙しすぎたので、開発された物。

 はい、江戸です。江戸時代の物ですね。これも現代知識チートです。

 

 地味って言うな。

 

 開発したのが牛車職人だったので、それっぽいデザインなのが特徴。

 あとなぜか江戸時代は江戸や尾張以外ではあまり使われず、全国に普及したのは明治時代から。

 しかしあまり間をおかずにリヤカーが登場。その姿を消していくことになりました。

 車輪だけがアンティークとか骨董扱いで売られていたりしますね。

 だから早く登場させて、長く活躍させてやろうかな、という思惑もあります。特に思い入れは無いけど、何となく。

 

 なんで詳しいのかといえば、ネコ車がなんでネコ車っていうのかと、疑問に思って調べたついでですね。

 ネコ車は、ひっくり返して置いておく時の姿が、ノビをしている時の猫みたいだから。中でコネコネするコンクリや漆喰やらをネッコ、練り子と呼ぶから。

 キャットウォークなど細い所も行けるから。移動時の車輪の音がゴロゴロいうから。

 などが名前の由来説です。個人的には、ゴロゴロいうからが可愛くていいかなって。

 

 これも日本にはまだ無かったので、造らせました。起源は古代中国で、なんと1世紀頃の壁画に描かれています。古代中国とローマは、当時としては遥か未来に生きてますね。

 効率的な牛馬用の鋤とかも、かなり昔に作られて、ヨーロッパや日本に何百年も伝わらなかったりするので、こういうネタはまだまだあるのかもしれません。

 そう言えば、そろばんもそうでしたっけ。思い出したら、また作らせるとしましょうか。

 現代知識チートすると、なぜか気持ちがいいですからね。だいたいフトコロも温まりますし。

 

 なお大八車に比べて車輪が小さいせいで耐久が良くなくて、土木用には向きませんでした。

 でも野菜とか、比較的軽いものを乗っけて運ぶのにはいいので、農村や都市部でそこそこ売れています。

 

 

 

「まさかと思えば、本当にお前か。言ってはなんだが、今更何をしに来た」

 

「本当に、言ってはなんだが、ですね。ひどいお言葉ではありませんか。あなたに会いに来ました、丹羽様」

 

 待つことしばし。

 城門の向こうからやってきた丹羽様は、残念なものを見るような目で私を見ながら、くたびれた声で、投げやりにそう言い放ちました。

 これはやはり、長年のストレスからブチッといっちゃって、つい上司の信行さまをヤッちゃいましたかねえ。

 実行犯は池田恒興と聞いていますが。黒幕なのか、共犯なのか。まあ、何らかの手は貸しているでしょう。

 

 積もりに積もったクソデカ感情が一気に消えてしまったせいでの、一時的な虚無状態。

 復讐した後などに、いきなり虚しい。とか言い出す精神状態になっていそうですね。

 それと勢いでの犯行だったので、後先なんて考えてない。ヤることだけを考えていた、というのもありそうです。

 

 となると、まあ、まずは精神的に生き返ってもらわないと。

 

「私が来た。と、いうことは… お分かりでしょ丹羽様 お 仕 事 で す 」

 

「えっ」

 

 驚いたのか、丹羽様は急に素の反応を返してくれました。

 よし、ツカミはOK。

 

 この落城寸前の清洲城に、白装束で、1人だけで部下がやってきた。

 そりゃ普通は、一緒に死にに来た。とか思うんでしょうし、普通はそうなんでしょう。通してくれた斉藤家の人たちも、なぜかそう思ったようですし。

 

 普通なら。

 

「丹羽様。これ、綿に見えますが、強力な新式の火薬でして。威力はざっと十倍」

 

「えっ」

 

「このくらい千切って、投げやすく加工して、導火線に火つけて投げつけたら、集まってたら十人はヤれます」

 

「えっ」

 

「もし今、これ全部に火をつけたら、私たちは城門ごとあの世行きですね」

 

「なにそれこわい」

 

 よし。空っぽになっていた丹羽様の精神に、何がしかの感情が入って動き出しましたね。

 この人が通常モードに入ってくれれば、こっちのもんです。

 

「丹羽様。私は死ぬつもりはありませんし、織田家も滅んでいません。まだ坊丸さまが、末森城にてご無事です。保護して、旗頭となっていただく必要があります。

 各地の土豪や、織田家家臣らの動向を探り、誰が敵か味方か、またどれを味方につけ、滅ぼすのか。戦略を立てねばなりません。

 それと先ほど説明したとおり、強力な火薬がありますから、この包囲網を突破するための武器を作りましょう。手投げ弾と名付けました。

 そのためには、まず城内の方々をまとめなければ。信行さまを斬った池田恒興はどうなりました? そのあたりの処理は終わっていますか?」

 

「待て。待て… 」

 

「待てませぬ。時間がありませんので。さあ、丹羽様……

 

 お仕事です 」

 

 大変有能な“米”五郎佐が通常モードに復帰したなら、仕事を全部任せてもいいじゃない。

 現在の状況に至るスイッチを押しちゃったのは間違いなく私なので、このトンデモな状況を何とかしないといけないかな、とは思うのですが。どう考えても手に余りますからね。

 だから出来そうな人に投げても、仕方が無いですよね。

 

「さ、頑張って下さい、丹羽様!」

 

「お前も頑張れよ!」

 

 元気も出てきたのか、先ほどまでの疲れた声などウソのように元気な声でツッコむ丹羽様と、無責任に笑う私。

 今まで一切口を挟まず、遠巻きに見ていた兵達は、そんな私達を見て引いています。

 しかしその口元だけは、わずかながら笑っていました。

 

 この戦国ミッション・インポッシブルは、ようやくチームプレイにまで持ち込めたようです。

 

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