尾張グダグダ戦国記   作:far

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Cranさん、にぼしぼし さん、誤字報告ありがとうございます


【業深し】事前準備無しだと危なかった【隣の領のあの人ぞ】

 

 思えば遠くへ来たものですね。

 前世の事など、はるか昔ですよ。いや、未来なんでしょうか?

 どちらにせよ、はるか遠くでもう手が届かないんですが。

 

 はい。これ、現実逃避でございます。

 もう室町時代に生まれてから、二十年を越えてますからねえ。

 そうそう詩的な感慨には、浸れません。もはや今の暮らしが日常です。

 

 秀吉と家康が手を組んでいるという衝撃の事実に気付いて、つい反射でマウントをキメてしまったのを反省しつつの、現実逃避です。

 

 いや、どこかにはいるんだろうなあ。と、思ってはいたんですよ。秀吉が。

 それで出身地の、中村。現代でもそのまんま、名古屋市の中村区。そこにいる家族には、接触済みだったんですよ。

 ほら、鳴海城を攻めていた武田軍が、尾張の村々もついでとばかりに荒らしたじゃないですか。

 そのケアをやりつつ、裏から武器も流したりもしましたが、ついでにこういう布石も打っていたんですよ。

 

 上中村、中中村、下中村と、上中下の3つの中村があって、どれなのか少し調べる羽目になったりもしましたね。中が当たりでした。

 

 その家族構成は、父が亡くなったあとに母と再婚した義父と、母と、子供は姉妹と、弟。

 弟はのちに、もうひとりの天下人とまで呼ばれた、秀吉の補佐役の秀長です。

 その有能さゆえに丹羽様もかくや、というほど便利に使い倒され、晩年の病弱さは、長年の無理が祟ったんじゃね? と言われています。

 ひどいはなしですね。(他人事) まるで丹羽様みたいだあ。(直喩)

 

 姉は秀吉が出世して人手が足りなくなったので、馬丁だか農民をやっていた夫も武士に取り立てられてしまいました。

 しかしこの夫がそこそこ有能だったのか、城主をしたり、秀吉に養子入りして後継者候補になった息子の家老をやったり(その息子には頼りないと思われていた模様)して、彼女自身も安泰。その息子以外にも2人の息子に恵まれ――

 ――3人ともが、先立ちました。

 

 1人は、信長の妹のお市の方の娘のお江の方と結婚した秀勝ですね。はい、前話でちらっと述べたように、朝鮮で戦死です。

 秀吉は、息子に秀勝という名前をつけるクセがあったらしく、信長から貰った養子にも秀勝と名付け、長浜城主時代に、幼くして亡くなった実の息子にもそう名付けていたので、ちょっと経歴を辿るのがややこしい子です。

 当時の資料ですら、これどの秀勝? 間違ってない? という混同を起こしていたりします。特に養子たちは、同時期に普通に生きているので。

 

 1人は秀保。秀勝の三年後に病死。疱瘡であった、と伝わります。

 秀吉の弟の秀長が過労の果ての、死の床にある時。まだ4~5歳の秀長の娘に、秀保を婿入れさせて秀長の家を継がせようぜ。と、豊臣家の話し合いで決まってしまいます。

 当時秀保は13歳。セーフでいいんでしょうか。

 ただ17歳で亡くなっちゃったんで、お相手もまだ8歳で…… 下手すると清い体のまま……

 

 秀保が亡くなったのは、本当に急な話だったようです。それに対して、いつもは身内に手厚い秀吉が、特に何もリアクションをしなかったとか。

 没年月は1595年5月24日。

 そして同年の8月20日に、最後の1人が亡くなります。

 

 1人は秀次。秀吉の養子に入って、後継者として関白の位を継いだ男。

 そして謀反の疑いにより、高野山へと追放。のちに切腹を命じられた男です。

 

 それより二年前の、1593年8月3日。

 秀吉の実の息子、秀頼が誕生しています。

 

 だから。まあ。そういう事なのでしょう。

 

 秀次の息子に娘に、嫁に乳母、家老7人、他に家臣たち。貴族の娘であろうと、赤子だろうと、全てを処刑。

 関わった仕事も残さん。と、聚楽第という豪華な建築物も、別の人が城主やってる近江八幡城などの城も、周りの諸侯の屋敷ごと更地に。

 などなど、秀次切腹の後も粛清の嵐が吹き荒れました。

 

 そうやって人材の層が薄くなっていった結果が、史実の豊臣家の衰退と滅亡です。

 なんだか、今世の織田家にすごく重なって見えますね。大丈夫なのか、すごく不安になりますが、どう考えても おまいう案件(お前が言うな)なので、それは置いておいて。

 

 そんな嵐の中、秀次の家老でもあった、その実の父も無事ではありません。他の家老とは違い、秀吉の姉と結婚していたおかげで命は助かりましたが、所領全部没収の上、四国の讃岐に軟禁となります。

 これは秀吉が亡くなるまで、解けませんでした。自由の身になった後は、京で僧侶となったそうです。

 秀吉の姉の方は、特に咎められませんでしたが、3人の息子全てを亡くした事もあり、出家。瑞龍寺などを作ります。そのお寺に旦那さんも来たらしいです。

 

 妹の方は、半農の地侍と結婚。普通の主婦をやっていたのですが……

 秀吉に離婚させられて、家康に嫁に出されました。

 

 44歳で。

 

 政略結婚にもほどがあります。

 当然、家康の家臣らには歓迎されなかったようで、心労も祟って四年で病気療養のために、三河を離れます。

 そしてそのまま1590年に病没。秀次事件のあれこれなどを見ずにすんだのが、唯一の救いかもしれません。

 

 また最初の旦那の存在は、歴史に埋もれています。マジほぼ農民の地侍だったらしく、記録が無いのです。

 少ないのではなく、無い。そのため、実在すら疑われています。

 離婚させられた後の事も、当然不明です。武士の意地で切腹した。世を儚んで出家した。実は離婚するまでも無く死んでいた。など諸説あります。

 今世では、彼の実在だけでも確かめられるんでしょうか。

 

 そのあたり、秀吉の義父もそうですね。彼もいつの間にか、いなくなっています。

 母親のほうは大政所として、豊臣家の女衆を束ねるビッグボスとして存在感を放っているのですが。

 

 

 このまま農村で暮らさせてあげたなら、そんなアレコレは無くなるんだろうなあ……

 

 

 秀吉に恩を売るのと、万一の時の弱点として抑えておくために接触に来たというのに、そんな感想を持ってしまいましたっけ。

 運命が重いのです。

 

 まあ、接触といっても大した事をするわけではありません。

 統治する側の人間として、困った事は無いか、とか。足りない物は無いか、とか。当たりさわりの無い事を聞いて、手配して。

 あとは世間話をするだけですね。家族はこれで全部ですか? とか。

 

 そうしておく事で、初対面の秀吉にマウントが取れるわけですね。

 

「藤吉郎? おや、あなたはもしかして、中中村の藤吉郎さんですか?」

 

 会った事も、聞いた事も無い、たまたま出くわした権力者が、自分を知っている。

 

「お母さんの仲さんも、心配はしていないみたいですが、どこで何やってるんだって、気にしていましたよ」

 

 オマエ ノ カゾク ハ アズカッタ

 

 そんな副音声が、きっと賢い藤吉郎くんには聞こえたことでしょう。

 人質は、実際には取る必要は無いんですよね。どうにでもできる状態にあるよ、と、そっとほのめかすだけでいい。

 あとはポン、と肩でも叩いて。

 

「仲良くやりましょう!」

 

 そう、笑顔で言ってやれば良いのです。

 それで気持ちは、通じます。笑顔と言葉で、人はつながれるのです。

 

 これが、ラブ アンド ピースだ…!

 

 戦国時代に、他国のヤベー奴と平和にやっていくには、これぐらいしないと無理だと思うんですよ。

 実際藤吉郎くんはワカッてくれたみたいで、友好的ですし。

 私がどんな人柄で、どこのどんな人間で、どう生きてきたかなど、私の話をとても聞きたがっています。

 ええ、いいですよ。私は藤吉郎くんの事を、ある意味よく知っています。だから藤吉郎くんにも、私の事を知ってもらって、相互理解しましょう。

 そうしたらきっと、トモダチになれると思うんですよ。

 

 お互いの事情を摺り合わせて、利害が対立しないようにできたら、の話ですけどね。

 

「なあに、お互いの目的は同じです。信濃の独立、そして長続きして欲しい。そうでしょう?」

 

 でもそれができたら、いけると思うんですよね。

 織田家と松平家の、同盟。

 

 私と藤吉郎くんをパイプに、丹羽様と本多家の誰か… あっ忠勝じゃないのね。正信の方なのね。それだと出世前だから、丹羽様に釣り合わな……

 

 ……本多正信といえば、一向一揆の参加者じゃなかったか!?

 

 するとまさか、藤吉郎くんも実は松平家の使者じゃなくて、一向一揆の回し者???

 

「本多藤吉郎。正直に答えろ。お前は一向宗の手の者か?」

 

 一向宗秀吉とか、面白すぎます。もしそうなら、面白すぎるから、ここで消さないと。

 左手で藤吉郎くんの右手を抑え、右手で着物の奥襟を掴んで、顔を近づけて目を見て、問い詰めました。

 この体勢からなら、押し倒すも投げるも意のままです。

 

「ちょっ、待って。ちょう待ってちょー! 本多様は確かに一向宗の信者じゃけど、一揆には加わってにゃーで! オレが説得した!!」

 

 突如豹変した私に驚いて、しかし頭の回転は止めずに、即座に返答する藤吉郎くん。

 これはとっさにウソをつける、アドリブの利くタイプですね。さて、今回はウソか真か……

 

 じっと目をみつめたまま、考えます。

 今なら、殺れるな。

 木曽義昌に頼んで、コイツはここには来なかった、と口裏を合わせてもらえば、完全犯罪です。

 

 歴史を大きく変える、誘惑に駆られないではないですが……

 もう、かなり変えちゃいましたからね。なんなら、そのせいで尾張がグダグダになって、結構苦労してますからね。

 もうこれ以上は、いいですかね。

 

 よし、ひとまずは信じよう。

 ところで藤吉郎くん、きみ、本多家の上司の酒井家に話を通せないかな? あっ、できるのね。じゃあそれで。いや、待てよ。

 

「念のため聞くけど、酒井家で誰か、一向一揆に参加したりとか……」

 

 おい、目を逸らすな。参加者いるんかい。

 まさか当主じゃあるまいね。もしそうなら、織田家と松平家とのラインとして使うのに、不安なんですけど?

 当主じゃないよな? そうじゃないって言え、秀吉ぃ!

 




創作掲示板で有名な老舗個人サイト、ARCADIAのSS投稿掲示板の懐かしい作品を推してみる

腕白関白(完結)
そる氏
確か書籍が出たはず。しかしラノベとして軽い文体が良かったのを、編集さんが普通の歴史小説としてリビルドさせたらしいので、売り上げは、うん。
そのオリジナル版が今も残っています。全41話。
秀吉に、跡継ぎ生まれたんで、養子のお前は切腹な。と始末されたっぽい、関白、豊臣秀次の立場に転生。しかしわりと善良かつまっとうに、天然気味に生きてる主人公と、その周囲に集まる人々。
どうしてウチの子はこうじゃないんだ……
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