尾張グダグダ戦国記   作:far

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  ❙ 諏訪編 ❙
【Lesson 1】夢破れても、人は生きていく【ぶっ殺した。なら使っていい】


 

 はい、皆さんこんにちは。まだ尾張に帰れそうにない、単身赴任先の諏訪よりご挨拶します。

 正直、一回帰りたいんですけどね。製材所を作る計画とか、どうなったのかすごくチェックしたい。

 

 というのも、私、木曽に目をつけまして。

 木曽といえば木材の宝庫。そこから流れてくる木曽川。しかも木曽川は、伊勢湾へと続いていて、そこから先は太平洋。

 もう木材を川に流して運んで、製材して各地へ船で売りさばくしかないじゃないですか。

 

 しかしこの時代。機械とかは無いので、様々なことが人力です。

 

 身長よりも長いものから、普通のものまで。色んな長さのノコギリを使って、丸太から切り出していくのです。

 板の一枚を切り出すのにも、どれだけ時間がかかることか。しかも、まっすぐ切れるかも職人の腕。

 カンナをかけて平らにするにも、現代のような台カンナは、もう少ししないと日本に来ません。あるのはシャベルみたいな形の槍カンナ。

 そりゃ面倒になって、板壁じゃなくて、竹で骨組み作っての土壁が一般的にもなります。

 

 そこで現代チートです。

 外側をノコギリ状にした円盤、いわゆる丸ノコを回して、そこに木材を押し進めたら、まっすぐ綺麗に切れる。

 現在でも見られる、製材ですね。動力に水車を使って、これを再現しようという計画です。 

 木曽川を使って木材を運び、木曽川の力を使って木材を加工する。実に合理的かつエコロジー。

 

 ただこの時代の木曽川、毎年のように氾濫します。

 

 ここらは大雨でも降ったら危ないからな。そういう理由で、わりと広大な土地が空き地のままになっていたりします。

 そんな場所に住んでいた場合、天気予報も無いので、突然の大雨とか来たら命が危ない。

 堤防を作れればいいんですが、当然ながら作るの大変なんですよ。ノウハウもあんまりないし。

 

 つまり村ができている場所は、比較的大丈夫なわけですね。

 そんな村の近く、具体的には清洲城から西北西に進んだ、中島郡のあたり。

 ちょうど船着場も作れそう、という好立地が見つかり、計画が始まりました。

 で、まあ。順調に進んでいたんですよ。進んでいたんです。

 木曽川を利用するので、必然的に仲間に入れていた、川並衆も協力的でしたし。

 

 でもあいつら、平然と「それはそれ」って顔して、美濃の斉藤軍を尾張へ運び入れやがってね?

 

 道理で協力的なわけだよ。

 あいつら計画ごと、全部まるっと、自分達のモンにする気でいやがった!

 そうだね。製材所を作り終わったら、用済みの織田家に消えてもらえば、儲けは独り占めですからねえ!

 

 この製材所計画。尾張をちょっとはみ出すほどに事が大きすぎたので、発案者の私の手を半ば離れていまして。

 丹羽様どころか、その上の村井様まで動いていたらしくて。

 それを水の泡にするどころか、全取りしようとか。

 

 川並衆、終わったな。

 

 例え織田家が滅びようとも、製材所は謎の大爆発を起こすでしょう、たぶん。

 

 あ~あ。

 製材所ができたら、おがくずや木屑を使って、オガライトは駄目でもペレットは作って、燃料も生産しようとか。

 木片や、木材としては使えない木で炭焼きをして、それをまとめて炭団も作ろうとか。

 製材所の関連で、ゼニ儲けしようと計画してたんですけどねえ。

 

 オガライトは、おがくずにギュッと高圧をかけながら、高温で炭にするとできる、木炭みたいな燃料です。

 この室町時代の技術力では、作成はかなり難しいでしょう。だからこそ、工夫して遊んでみたかった。

 できたら、モミガラから作る、モミガライトも作ってみたかった。

 

 ペレットはその前段階。高い圧力だけで出来る、固まったおがくずですね。

 合成木材の、あのギュッと細かい木クズが固まってる感じの、あれです。これも燃料。

 木から搾り出される液体が接着剤の役割を果たすので、本当に圧力だけでいいのがグッド。

 

 炭団は、土や粘土や、海草の一種を煮出した布ノリで細かい炭をまとめた燃料ですね。

 普通の炭よりも火力は落ちますが、燃焼時間は長いという特徴があります。

 

 燃料ばっかりだなって?

 この時代、燃料がほぼ薪なんですよ。ざっくり計算してみましたが、ひとりあたり1年で2トンくらい使ってるんですよ。

 冬に暖まるためにも使うから、というのもありますが、そもそも煮炊きするにも湯を沸かすのにも、使った後にすぐ火が消せないで燃料が無駄になるという欠点が……

 植林の概念もあるにはありますが、神社の萱葺きの屋根の張り替え用などの一部だけ。一般的には切ってそのまま。

 このまま戦国が終わって、人口が増えたらマズいのですよ。

 木は急には育ちませんからね。早いうちから手を打っておかないと。

 

 という、自分で言うのは何ですが、私にしては珍しく、世のため人のためを思っての、公共事業のつもりだったんですよ。

 

 それを「全部自分の物にすれば大儲け」とばかりに、裏切りカマしてくれるとは。

 しかも自分らでやるんじゃなくて、斉藤家を使って間接的にやるとか。

 

 

 すばらしい。

 

 

「わかりましたか、藤吉郎くん。戦いません、殺します。はい、復唱して」

 

物騒すぎる!? いやそれより、戦の勝ち方っていうのに、戦わないのはおかしいぎゃ!」

 

 少し前に尾張であった事柄を実例にして、わかりやすい講義をしているつもりなのですが。

 まだ成長前の秀吉、本多藤吉郎くんには何かがお気に召さなかったようで、抗議の声が上がりました。

 

「孫子の考え方は、根本を学べば実戦的なんですよ。これはその一つ、戦わずして勝つが上の上。

 つまり、自分の手を汚さず、戦ってすらやらずに、目的を達成できたら一番良い。という意味ですね

 そうなるように考えるクセをつけなさい。そうすれば、あなたは強くなる」

 

「それで戦いません、殺します。は、端的すぎますわ」

 

 まだボヤいていますが、理解はしてくれたようなので、よしとしましょう。口調とは裏腹に、目は鈍く輝いていますし。これは謀略のわかる目ですわ。

 現在私は、諏訪氏からの返事待ちの待ち時間に、藤吉郎くんへの授業をしているところです。

 史実では織田信長を見て学んで、豊臣秀吉になりましたが、信長はもういません。というか、私がヤッっちゃいました。

 だからまあ、その分の埋め合わせに少しでもなれば。

 あと、友好度が少しでも上がればなって。そういう想いで、講義をしています。

 

 とはいえ、丸ノコやら、燃料関係やらまではさすがに教えていません。

 このリアルチートに、現代知識をカケラとはいえ教えたらどうなるか、さすがに怖いので。

 

 じゃあ、そもそも鍛えるなって?

 

 本多正信の養子、いや相続権無しの猶子でしたか。

 ともあれ、本多正信の身内なのです。そのうち勝手に学習して成長します。遅かれ早かれです。

 なら成長に手を貸すことで、恩を売った方がいいですよね。

 彼にこうして本格的に知識を伝授しようとした存在は、今まで本多正信以外はいなかったようですし。

 史実では、こういう軍学の講義は竹中半兵衛がやってたんでしょうか。

 

 さて、もう少し恩を積み上げますかね。

 

 

「だから、川並衆は織田家に余裕が出来次第にツブします。知り合いがいたら、配下に取り込む好機ですよ」

 

 

「…あ、あ~、そう、ですなあ。伝えるのは、今すぐは……」

 

「はい、ダメです。機を見計らって下さい」

 

 さすが藤吉郎くん。川並衆とのつながりも知っているぞ? という揺さ振りに、一瞬しかうろたえません。

 川並衆が壊滅したあとに残党をリクルートすれば、農民どころか、そこを飛び出したセルフ流民からの成り上がり者かつ他国出身者のキミにも部下が出来るよ!

 というアドバイスにも「今すぐ伝えたいけど、そうしちゃったら川並衆が戦支度をしてしまうからダメですよね」と確認を取ってきました。

 いや~、いいですね。頭の回転が速いと、話が早い。

 そんな彼なら、きっと伝えるタイミングを間違えるということは無いでしょう。

 

 川並衆をツブしたあとの木曽川を仕切る人材どうしよう、という織田家側の問題がありますが。

 まあ、それは私じゃなくて、丹羽様たちの考える事だから、ノータッチでいいですよね。

 さすが“米”五郎佐、超便利。織田家に仕えていて、ほぼ唯一の良かった事ですよ。

 あとはもう、苦労ばっかりですもん。一枚岩じゃないのはまだいいですが、それぞれが動かなかったり、噛み合わなかったりでグダグダすぎる。

 

 現状の織田家は、坊丸を名目上の当主に据えて、柴田勝家、丹羽長秀、村井貞勝、森可成、林秀貞の五家老による合議制で織田家を運営していく。

 そう決まったんですが、この合議制というあたりからもう「グダグダするんだろうなあ…」という予感が止まりません。だって仲が悪い面子がいますから。

 

 武官が柴田と森、文官が村井と林、丹羽様が両方出来る人。と、分かれていますが、対立軸はそこではなくて。

 旧信長派の森と丹羽様と、林が対立関係です。

 柴田は武官なら派閥関係なくそこそこ付き合いがあって、村井はなんか影が薄、もとい、どことも敵対せずに上手くやっています。全陣営の面倒を押し付けられているとも取れますが。

 

 まあ丹羽様が清洲城で、信行さまとその側近たちを派手に始末したというのは、わかる人にはわかってしまいますから。

 その重臣だった林が丹羽様を敵視するのは、残念でも無く当然ではあります。

 今は織田家自体の危機だから。と、一時棚上げしてくれているだけでも、理性的です。

 

「あの時、林も清洲におったなら、一緒に (始末できたのに)……」

 

 そんな事を、私にはポロッとこぼしていた丹羽様の方は、隙あらば暗殺をキメる気らしいですが。

 元々は信長の傅役、お付の爺ポジだったのに、信長を見限って信行についた林秀貞を、かなり恨んでいるそうです。

 旅立ちの前に、4号店の茶店ならぬ麦茶店で、合議制の説明がてら、酒も入っていないのに盛大にグチっていました。

 

 4号店は茶店にしたかったのですが、お茶がまだ入手困難で高価だったので、仕方なく麦茶屋にしました。

 野草系の茶も、熊笹茶とかはイケますが、季節が限られますし、だいたい美味しくないし。

 ドクダミ茶とか入手が容易ですけど美味しくないし。麦茶が安定かなって。

 

 その分、スイーツには少し凝ってみました。

 甘味料は、米アメという米や麦で作った、現代だと物足りないけど、この時代なら十分な物がすでにありました。

 これと、煮て潰した小豆と寒天を使った羊羹。

 柿や葡萄、梨などをドライフルーツにして、米粉と葛粉で作った葛餅に飾り付けた、冷やし葛きり。

 酸っぱい和リンゴしかなかったので、米アンに漬けて甘くしてから、じっくり焼いた焼きリンゴ。

 開発させた、馬の毛を使った裏ごし機で丁寧に裏ごしされた、蒸し栗100%の栗きんとん。

 これら全部、砂糖は使っていないのがポイントです。だって砂糖がすっごく高いんだもん。令和の高騰したお米くらい高い。

 

 店内もガラスではなく障子ですが、窓を多くして光を取り入れ、漆喰を使った白い壁で明るく。

 机や椅子は漆を塗って黒く。女性でも来やすい上品な感じに仕上げました。

 甘味処といえば、女性受けが第一かな、と思ったからです。

 

 開店してみたら、オッサン率の方が高かったですが。

 

 外食するという習慣が、まだ定着していないんですかね。特に女性だけだと、ハードルが高いようでして。

 旦那や恋人に連れてきてもらう以外には、あまり女性客はいないようです。

 そのおかげで、逆に男性客が入りやすいみたいですが。

 というか、女子供の入る所という意識がまだないので、普通に入ってきますね。

 

「信長様が生きておられたら、絶対に通っていたな」

 

 クルミと栗の一口パイをかじりながら、丹羽様が遠い目をして言っていましたっけ。

 そういえば信長さんは甘党だったって伝わっていますね。マクワウリが好物だったとか。

 ということは、甘党な男はこの時代では珍しくないし、恥ずかしくもないんでしょうか。

 

 だとすると、店内のインテリア間違えましたかね。

 発注しちゃった、かわいい系のぬいぐるみの数々、どうしよう。こうして諏訪にいる今は、修正も利かないんですが。

 何とかしていてくださいよ、4号店店長…!

 




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