尾張グダグダ戦国記   作:far

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日刊ランキングにのっかれると、やはりうれしいですね。


【ただし会うのは】川中島で会いましょう【お前抜きだ】

 

 う~ん、事態はもう完全に私の手を離れましたね。

 私は相変わらず高島城に詰めていますが、戦場はここ諏訪湖のはるか北、90kmほど離れた川中島に移っています。

 

 はい、川中島です。謙信 vs 信玄 で有名な古戦場ですね。この時代だと現役ですが。

 というか、今まさにやってます。謙信 vs 信玄。

 

 謙信の保護下にある村上氏と小笠原氏を呼んだら、自らご出馬いただけました。

 

 つい先日『信玄と戦ってる私スゴーイ』と独りで盛り上がっていましたが、信玄は運命の相手が来たら、私など見向きもせずに、まっしぐらでした。

 まあ、私は所詮、ポッと出ですし~? ぜんっぜん気にしてなんていませんが~?

 

「行ってみたかったですなあ」

 

 ちょっとスネかけていましたが、のん気にも聞こえる、藤吉郎くんの声に冷静になれました。

 危ない。キャラ崩壊するところでしたよ。

 

「それな。しかし私達は、外様というか、川中島に関わりがないからなあ」

 

 歴史に残る戦いなので、藤吉郎くんの言うとおり、せめてこの目で見たかったんですけどね。

 残念ながら、私、客将で軍師なんですよ。つまり、手持ちの兵がひとりもいません。

 指揮する兵もいないのに、何しに行くんだ留守番してろって話になるんですよ。

 

 だいぶ好き勝手してただろって?

 実際の戦場で、命預けてもらって、指揮を取るのはまた別なんですよ。

 

 しかも『川中島の戦い』ですからねえ。

 武田との因縁がある人 しか いない信濃の国に、余所者が入り込む余地はありませんでしたよ。

 そういう人たちを留守番に回して、代わりに私達が。とは言いにくいし、言っても通りません。

 

「ちょうどいいから、少し川中島の戦いについて、教えましょうか」

 

 そもそも『川中島の戦い』は史実では5回もやっていまして、今世でもそれは同じでした。今、6回目やってますけど。

 いずれも、諏訪、伊那を含む信濃の国の領有を巡っての戦いです。

 

 ウチの国は山ばっかりで米が取れない。お隣の信濃はエエなあ! ワシにくれやぁ!

 という信玄の 押しこみ強盗 から始まった戦いとも言えます。

 最初に攻め込まれた諏訪なんて、信玄の父親の時代には武田の同盟相手だったんですよ。

 それが信玄が父親と対立して、父親に勝って家督を継いだら、即同盟破棄からの侵攻です。まあ、いつもの武田ですね。

 

「いつものなんですか」

 

「恒例行事ですね」

 

 同盟相手を裏切って攻め込むのは、マジで武田家の恒例行事だから(周辺国は)困ります。

 諏訪に至ってはそれに加えて、滅ぼして、領地を奪って、姫は側室に。

 どこの魔王かな?

 

 その後も、諏訪だけでは甲斐の食い扶持に足りないので、信濃全土を我が物にと攻め続けました。

 途中で村上義清に、かなり痛い目を2度に渡って見せられましたが、それでも信玄は諦めません。

 

「どうしたんです?」

 

「私達がいつもやられてるヤツさ」

 

「ああ、いつもの」

 

 そう。仕事が出来る部下への丸投げという、禁断の一手を信玄はここで使ったのです。

 投げられたのは真田幸綱。あの有名な真田幸村の祖父に当たります。

 幸い、彼にはアテがありました。

 

 真田家は、元々このあたりの領主だったのが、村上氏に負けて追い出された一族。

 かつて地元にいた頃に、敵対した矢沢という一族と和睦するため、弟を矢沢氏に養子に出した事があったのです。

 そしてその弟はその時、村上義清に仕えていて、彼の城で足軽大将をやっていました。

 

「あっ(察し)」

 

「ええ、まあ、わかりますよね」

 

 内通者の存在により、城は落ちました。

 その後も村上義清は降伏せずに、巻き返そうと戦を挑み続けました。

 

「いや~、もう勝てんでしょ、この流れは」

 

「いや、城を脱出した後に奪還したり、普通に勝ったりしてますね」

 

「えぇ……」

 

 そんな村上義清の奮闘にも、流れは変わらず。

 家臣や配下の小領主らが、次々と武田へと降伏。中には謀反を起こす者まで現れて。

 直接敗れる事は無かったものの、いくつも城を落とし、大軍で攻め寄せてくる武田軍相手に、とうとう信濃から越後へと脱出しました。

 以降も謙信の旗の下で戦い続けるも、とうとう故郷へと帰る事が出来ず、信玄の5ヶ月前に病死します。

 

 普通に戦えば、あるいは同条件でならば、信玄に勝てた武将でした。

 しかし戦場以外の戦いでは、信玄が上だった。その結果が史実なのでしょう。

 戦わずして勝つのが上の上。やはり孫子の兵法は、紀元前から生き残っているだけはありますね。

 

「教えたでしょう? 覚えていますか?」

 

「『戦いません、殺します』ですな。強烈すぎて、忘れられませんわ」

 

 そして彼と、同じく越後に逃げ延びた信濃の土豪たちが頼ったのが、長尾影虎。のちの上杉謙信です。

 信濃の土豪たちは、当然、自分達の領土を取り返してくれ! と謙信に頼みました。

 

 謙信さんにも事情があって、彼にとって都合が良かったので、この話に乗ります。

 

 第一に、武田という山賊と領地が接してしまったから。

 絶対そのうち略奪に来るじゃないですかヤダー。

 それに必ず海欲しさに、侵略してくるに決まっている。(確信)

 

 第二に、上杉さんも山賊だからです。

 しかし親世代がやりすぎてしまったので、自分からは動けない。戦で領土を広げるのさえ、はばかられるほどに。

 とはいえ、略奪を封じられると、経済的に非常に苦しい。

 そこへ「領土を取り返して」という、大義名分が! これで信濃に攻め込めるよ!

 これは義だから! 決して、略奪とかじゃないから!

 

 と、そんな理由ですね。そりゃ5回も川中島に行くわ。

 5回目なんかは小競り合い程度で、まともに戦ったりせずに帰還したといいますが。

 何度も略奪したので、いい加減取るものもなくなったし、もうここはいいか…… と見切りをつけた気がしなくもないですね。

 

「なんちゅーか、どこもそんなもんなんですか?」

 

「戦国ですからねえ。九州はもっと殺伐としていて、逆に東北はややヌルいらしいですが、だいたいこんなもんでしょう」

 

 これを実体験していた村上さんたちの気持ちは、どんなものだったのでしょうか。

 

『諏訪で独立戦争するから、もう一回立ち上がらないか?』

 

 そしてこのお誘いが来た時に、何を思ったか。

 聞いてみたい気もしますが、相手がいるのは川中島ですからねえ。

 

 時間稼ぎと揺さ振りを兼ねて『長尾が来るぞ』とウワサを武田に流したら、信玄が即行で修験者を走らせまして。

 そうしたら、武田軍が即座に引いていきましてね。

 よっしゃ! とばかりに先走って追撃に出た少数の人たちは、お約束のように返り討ちになりましたね。

 後退と撤退と、敗退の違いもわからない人はこれだから…… 今が好機なのがわからんのかって、わかってないのはあなた達です。

 私が臆病なんじゃなくて、あなた達がアホなんです。それで痛い目見て、私が一緒に来なかったからだとか、学習能力まで無いのは救いようが……

 

「いやいやいや、お気持ちはわかります、わかりますから落ち着いてくだされ」

 

 失礼。過去の足軽組頭時代のトラウマが。

 

 こちらの修験者に、一定の距離を保って追いかけさせたところ、甲府の躑躅ヶ崎館へ帰るなら南東へ進むはずが、北東へと進んでいったそうです。

 

 ここで私は『あっ、謙信来たわ』と確信して「勝ったな」って口にしちゃったんですよね。

 当然、周りにいた勝頼と諏訪さんたちに、すごい問い詰められました。

 

 川中島の戦いは、4回目が最も激しくて、武田が最も被害を受けた戦いでした。

 その時に、謙信自らが信玄のいる本陣に切り込んだ、というウワサさえあります。

 当然、信玄の頭にも、謙信の存在は強烈に焼き付いているでしょう。

 

『アレがまた来る』

 

 動かざること山の如し、などと気取って、じっくり待ち構えるなぞ、とても出来なかったでしょうよ。

 我らの相手をする余裕など無くなったのです。よって、全軍を持って謙信と当たるつもりでしょうね。

 決戦の地は、おそらく――

 

「「「川中島」」」

 

 溜めてから口にすると、同じ考えに至った何人かと声が合わさりました。

 そのひとりである勝頼に、こう聞きました。

 

「彼らはあの因縁の地にて争うでしょう。で、あなたはどうしますか? 諏訪を確実に確保すべく、地固めしますか?」

 

 勝頼は黙って首を横に振りました。

 

「では、がら空き、は無いですね。手薄になっている、武田の本拠地を奪いに行きますか?」

 

「悪くない。だが躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)は、城ですらない。取れはするが、取った後が続かぬ」

 

 そうなんですよね。人は城、人は石垣、人は堀、と謳った信玄ですが、これって負け惜しみなんですよね。

 いや、見栄かな。武士は食わねど高楊枝、みたいな。

 

 貧乏でお城が造れなくて、館に住んでるけど、大事なのは人だから! 人と人のつながりって、大事だから!

 

 そんな感じですね。

 なお無理したらお城は造れたようです。実際に史実で勝頼が、新府城というお城を造っています。

 無理した結果、重税と労役で民心が離れて、武田滅亡へ近付きましたが。

 

 ……本当に勝頼に信濃を任せていいんでしょうか?

 

 この件は考えると不安しかないので、心の棚に置いておいて。

 

「では、選択肢はひとつだけですね。機を見ての、乱入。出来うるならば、奇襲での本陣突入」

 

「ほんそれ」

 

 本当にそれな。の略を無駄に使いこなして、勝頼はいい笑顔で宣言しました。

 

「行くぞ、武田に勝つ! 信濃を真に我らの手に!」

 

「我らの手に!」「勝つぞ!」「真に我らの手に!」

 

 諏訪頼忠をはじめ、諏訪氏の方々もテンション上げてノリノリです。

 篭城生活でたまったストレスを、今こそ吐き出してやるわ。という意思を感じます。

 

「では留守を頼むぞ。行ってくる!」

 

 そして私と藤吉郎くんは留守番を任されたわけです。

 そりゃないぜって思いましたけど、そりゃそうだな、とも思いました。

 だって織田家家臣と松平家家臣ですからねえ、私達。ふたりは! よそもの!

 

 でもこれなら、意外と事が済んだら、すんなり帰れそうではあります。

 「土地とかやるから帰らないでくれ」とか引き止められたら、どうしようと心配していましたが、ちょっと自意識過剰だったようです。

 

「仮に引き止められたら、藤吉郎くんはどうする? 残る?」

 

「いや~、オレも本多の義父どのには恩がありましてな~。成り上がるのは、向こうでですわ」

 

 おお、言いますねえ。ワンチャン、秀吉を家康と離して、信濃に封印するのもアリだなと思っていましたが、意外と義理堅いですね。

 

 しかしだとすると、置き土産を作っておかないと、もったいないですね。

 

 いや、別に物騒なものではありませんよ。ワナでもありません。

 いや、本当に。なんで疑うんですか。

 

 残していくのは、内政の指示書や企画書です。

 ちょっと織田への助けになる特産品を作って、輸出してもらおうかなって。

 露天掘りが出来たり、鉱脈が見つかっていたりする場所を、修験者の覚円さんたちから教えてもらったんですよ。

 特に諏訪鉄山はいいですね! 山奥にあるわけでもなくて、露天掘りで鉄鉱石が取れる。

 ツルハシでも開発してもらえば、石を掘るのも問題が無いでしょう。

 あと硫黄が文字通り山ほど取れそうな場所もあります。火薬の素です。これも売ってもらいましょう。

 

 炉の形状をいじれば、現在主流のたたら製鉄よりも、効率は上がりますが……

 いいか、そこまでしなくても。正確な形状知りませんし。他国ですし。

 

 ついでに、ソバのガレットとか、ポタージュスープ風とか、粉にしないで雑炊とかを教えて、ソバの栽培を奨励しますか。

 荒地でも育つし、米よりも育てるのがすごい楽なんですよ。つまり人手のわりに、たくさん育てられます。

 それに信州と言ったら、蕎麦でしょう。(確信)

 

 あとは、麻と漆器くらいですかねえ。

 これはすでに特産品として存在するので、職人は現地にいるはず。

 生産拡大と、販路の確保が出来れば、それだけでゼニになります。

 

 そして尾張との出入り口にいるのが、木曽家。

 あそこをしっかりと巻き込みましょう。取り込みましょう。

 あそこも信濃ですし、交通の要衝なのが悪い。信玄への忠誠は、まあ、棚上げしてもらって。

 

 さーて、尾張からは何を輸出しましょうかねえ。とりあえず塩は入れるとして。

 

 いやあ、武田信玄と戦ってる! というあの瞬間も楽しかったですけど、こうして内政してるのも楽しいですね。

 あとは川中島で、勝頼が討ち死にとかしなければ問題無いでしょう。

 謙信との共闘みたいなものですし、まずそんな事にはなりませんよ。

 

 なりませんよね?

 

 なんだかフラグを立ててしまったようなイヤな予感がしてきましたが。

 きっと大丈夫だと信じて、筆を進めましょう。

 頼みますよ。突撃とかしてそうだけど、生きて帰って下さいよ、勝頼さま。

 

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