尾張グダグダ戦国記   作:far

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【これが終わったら】あなたが報告書にあんな事を書くからいけないんだ!【ああしてやるってばよ】

 

 はい。出張先から帰ろうとしたら、さらなる出張を告げられた私です。

 そんなコントあったなあ。あれ、好きだったけど、絶対もう見れないんですよねえ……

 

 いやこの時代に合わせて、芝居風にしたらイケるか…?

 

 覚えてる限りの脚本書いて、劇場というか、芝居小屋を作って……

 カブキ者はいても、歌舞伎はまだ開祖というか、原典の出雲の阿国が現役の頃なので、成立していません。たぶん落語もまだ無いか、原型のみ。

 つまり今なら、後々の伝統芸能の開祖の座を、乗っ取れる…?

 

 わりとイケそうな気がしますね。

 やっている時間が無さそうという、致命的な欠点さえなければ。

 

 実際、尾張に帰る間も無く、次の出張が入りましたしねえ。

 しかも行き先が美濃ですよ。

 ついこの間まで尾張に攻め込んできていて、まだ和睦が成立していない戦争相手国です。

 

 まあ、その和睦の前交渉と、美濃が今どうなっているかの調査と、他にも色々と。

 美濃に誰かを送り込む必要があるのも、ちょうど浮いているコマが私なのも、解かってしまうので断れなかったのですが。

 

 少し今の美濃の状況が複雑なので、順に説明しますね。

 

 まずは尾張への侵攻中に、斉藤家当主の義龍が病死。しかし斉藤軍は引き上げる事も無く、尾張に留まりました。

 清洲城を包囲していましたし、そのまま織田家へトドメをさせると思ったのでしょう。包囲を解くなという、義龍の遺言でもあったのかもしれません。

 

 しかしそこで織田軍はハジケました。

 

 ちょっと爆弾を与えただけなのに、立派なヒャッハーと化して、敵陣を蹂躙するモンスターの群れに。

 

 どうしてああなった。

 

 そのモンスターパレードに轢かれた後の斉藤軍は、織田軍の再度の襲撃を恐れたのか、目の前の空き家になった清洲城へと入る事もなく。

 少し北に移動して体勢を立て直して、まとまって堅固な陣を作って、襲撃に備えたまま動かなくなりました。

 

 よっぽど怖かったんでしょうねえ。

 

 彼らは心が折れてしまったのか、そのまま大人しくなり、春の雪解けを待って美濃へと帰っていきました。

 清洲城に火をかけていかなかったので、よほど精神的に参っていたのだと思います。織田家としては、うれしい誤算ですね。

 まあ、包囲された時に城下町は焼かれちゃったんですけどね。私の1号店も一緒に。

 

 1号店だからいいんですけどね。正直、思い出のアイテムとして取っておいた、仮設店舗なので。

 尾張に帰れたら、図面引いてきちんとした店舗にしようか、それとも立ち飲み方向のお手軽飲み屋にするか。少し考え中です。

 

 なお斉藤家は、義龍の嫡男の龍興が順当にそのまま新当主になって、美濃は一旦落ち着きを見せました。

 一応は。

 その内側を覗き込むと、尾張攻めの論功行賞や補償や手当てが全く進まずに、グダグダになっていたようです。

 

 そのグダグダの中。とりあえずコイツをいじめて、みんなの不満を和らげつつ、団結しよう。

 そんなピンチになった集団にありがちな、器が小さいムーブを、斉藤家の面々は無意識にキメてしまいました。

 

 人という生き物は、あまり物を考えずに生きていますが、自己正当化とストレスからの逃避は思考を挟まずに、呼吸するように実行します。

 この時も彼らは自然とイジメを行っていて、何か考えがあったり、話し合った結果だったりはしません。

 ただストレスのぶつけ先として、殴ってもいい存在を、何となくで選んで、何も考えずに実行しただけです。

 

 しかしこのムーブ、実に、こう…… 何と言うか……

 非常に、ザマァされそうなムーブ でありました。

 

 『新当主とその取り巻きが、後ろ盾の義父を亡くした俺をツブしに来たので仕返しに城を乗っ取った。返せと言われても、もう遅い

 

 少し前のラノベ風に名付けるなら、こんなサブタイトルか、あおり文句が付きそうな、そんな事件が起こったのです。

 ええ。いわゆる『稲葉山城乗っ取り事件』です。

 犯人は、史実通りに竹中半兵衛重治。わずか16人で、巨大な山城を乗っ取った大事件です。

 

 史実では乗っ取ったその後「お前に従うのも、大義名分とか無いし…」と、美濃の土豪たちが賛同してくれなかったので、美濃国主へ成り上がれず。

 かと言って、龍興にゴメンナサイするのも、格好が付かない。

 なので「これは若く無軌道な龍興を諌めるため! 忠義! 忠義の行動だったんだよ! あっ、諌めるのは終わったんで、城は返しますね」と言い訳して、お茶を濁して領地に引きこもりました。

 

 龍興としては、何してくれてるんだコノヤロウ。と、罰のひとつも与えたかったでしょうが……

 下手に触ると、何をしでかすかわからない危険物だと判明したので、自分から引きこもってるなら、放置するか。と判断しました。

 英断です。

 美濃の国主としては失敗して、この後織田信長に敗北、国外へと脱出。

 ところがそれからが本番とばかりに、ある時は一向宗、ある時は傭兵、最終的には朝倉の武将として信長に立ち向かい続けた、不屈の将の能力の片鱗を感じますね。

 

 家臣に居城を乗っ取られちゃったという、どうしようもない汚点が付いたせいで、史実でも今世でも、国主としては致命傷を負いましたけどね。

 

 で、まあ。乗っ取った後に、他の土豪たちが付いてこなかった、というあたりは今世でも同じだったのですが。

 

「ならばワタシに従いなさい! ワタシは義龍の妹で、龍興の叔母ですよ!」

 

 稲葉山城に残っていた、かつての信長さんの嫁の帰蝶さまが、なぜか自ら旗頭になろうと動き出しました。

 なんでだろう。

 

 あの方、史実だと実は信長さんとの仲が良くないし、他の嫁との間に嫡男生まれてるし、と。

 斉藤道三が亡くなったあとに、一度美濃に返されそうになっています。

 

 兄の義龍に受け取り拒否されて、そのまま尾張に居残りましたが。

 

 これには信長さんも哀れに思ったか、美濃制圧の大義名分として居てもいいよ、嫡男の信忠の育成も任せたぞ。と少し優しくしました。

 

 信長さんに嫁入りする前、14歳で美濃守護の土岐氏に一度嫁入りして、1年後に旦那がやや不自然に死亡して帰ってきていたりする怖い女ですし。

 嫁入り道具に道三から短刀をもらって「つまらぬ男ならこれで刺します」とか言ってたらしいので、信長さんとの仲がアレなのも、まあ仕方が無いかなって。

 子沢山な信長さんとの間に子供がないあたり、うん。

 

 で、そんな人が美濃統一に立ち上がっちゃったわけなんですが。

 

 今世では信長さんが死亡しているので、さすがに義龍も受け取り拒否せずに美濃に帰れた結果が、こんな事に。

 このせいで、グダグダだった美濃が混乱して、更にグダグダに。

 帰蝶派と、龍興派。そして圧倒的多数の日和見派に分かれて、みんなどうしたものかと、日々会議 をしています。

 

 盛大に何も始まらない。せめて動けお前ら

 

 確かにそろそろ田植えの準備とか、農繁期ですけど。もう少しなんか、こう、あるでしょ。

 

 そしてそんな美濃に「今なら話し合いに行けるな。行け」と、飛ばされたのが私です。

 

 いや、行くなら親戚だったっぽい、明智光秀さんじゃない? と思ったけど、そういやあの人も尾張に来てすらいないや。まだ朝倉にいるのかなあ。

 いや明智光秀じゃなくても、誰か他にいるでしょ、美濃なら。

 それこそ今回メッセンジャーとして来てくれた、堀秀政とかさあ。

 何をやらせても失敗の無い“名人”久太郎と呼ばれた人だよ? 彼に任せたら、きっと大丈夫だって。

 

 無茶振りは、連続はやめてくれませんかねぇ? ひょっとしてこれ、殺しにかかってませんか?

 

 ……あれ? もしかして、アレかな? アレがバレたのかな。それともアレかな。

 

 信濃との交易のために『共同で難所だけでも街道整備をしよう』って勝手に決めちゃったのが伝わるのは、これからだし。

 アレならそんなにキレないはずだし。

 

 え~っと、あと成り行きで藤吉郎くんと一緒に諏訪独立に動いていましたが、あれも独断ですねえ。

 諏訪どころか、伊那とか含めて信濃全土で独立しちゃったのも、やっぱり独断です。

 そして途中で報告するのも面倒、もとい機密の高い手紙を密かに送る手段が無かったので、信濃関連のあれこれは、 全部事後承諾 です。

 

 連絡員もいないし、今こうして木曽家に帰ってくるまで、尾張から誰も使者が来なかったので、仕方が無かったのですよ。

 私を独りで送り出して、ほったらかした丹羽様が悪い。

 

「ねえ、そうでしょう堀くん」

 

「ノーコメントです。って、こういう時に使う都合のいい言葉が、近頃の尾張では流行っていまして」

 

 この少年、上司から上司への皮肉、批判という返しにくい問いかけをサラッと流すとは、やりますね。しかし、流行ってるんだ。

 伝えたのは私だと思いますが、流行っているとまでは知りませんでした。

 

 しかし連続で他家へ単身の出張とか。これまだ丹羽様、怒ってますかね?

 勝手に外交&全部事後承諾で怒らせた丹羽様が、追加で何かがバレたか伝わって、油を注がれて再炎上しているなら、まだいいんですけどねえ。

 アレだったらヤバいかなあ。

 まだあるのかよって? ほら、あったでしょう。一番の厄ネタが。

 

 丹羽様にバレたら一番ヤバいネタは、信長さんを殺ったのは津々木蔵人ではなく私だという事です。

 

 あれは、表向きは津々木が手柄を持っていったし、そう振舞っていたらしいので、バレにくくはありますが。

 それでも知っているヤツは知っています。あの場に居合わせた味方側の足軽たちとか。そう言えば柴田勝家さまも居たような…?

 

 手柄を持っていった津々木蔵人について調べてみたら、信行さまの愛人でした。衆道的な意味での。

 柴田勝家と同格扱いで、時には柴田よりも上の扱いだったそうです。

 史実で最後の最後、柴田が信行さまの謀反を、信長さんに密告したのは、そのせいもあると言われています。

 

 そら上司の愛人が、仕事ができるからとかじゃなくて、ヒイキで自分より上に行ったら腹立ちますよね。

 いや、仕事の成果でも腹立つか……

 しかも寵愛を鼻にかけていて、それを露骨に態度にも出していたらしいので、まあ、はい。

 史実でも今世でも、信行さま暗殺のあとは、彼の行方は誰も知らない事になっています。

 

 私も、もし丹羽様が亡くなったら、誰か刺しに来ますかね?

 むしろ丹羽様がそのうち刺しに来そうな気がしますが。

 あの人の忠誠は、未だに信長さんに捧げられているんですよねえ。だから信長殺害の真犯人が私だと知ったら、どうするのか読めないんですよね。

 だから黙っていたわけで。

 

 その信長さんの死の真相を、丹羽様は知ったか、知らないのか。確かめる良い方法って無いものですかね。

 全部棚上げして、あの人とはいい上司と部下でいたいんですが。無理なんでしょうか。

 

 ああ、諏訪にいた頃なら、修験者の覚円さんに「調べておいて」と頼めば、小銭でやってくれたのに。

 あの人、地元密着型かつ信濃愛の強い人だったんで、付いて来てくれなかったんですよねえ。

 じゃあ、代わりに誰か若い人を紹介してくださいって頼んで「それなら高野山に聞いてみる」って言っていましたが。

 まだ連絡がないんですよねえ。ああ、私も早く忍者的な存在が部下に欲しい。そして、作るのです。

 

 傷寒論という中国語の本を入手して、レシピを解読できて作れるようになった、麻黄湯と葛根湯。どちらも大体の症状に満遍なく効くやつです。

 ついでに炭焼きで出るタールを蒸留して、あの独特のニオイの液に陳皮(干したみかんの皮)や甘草を混ぜて、やっぱり大体何にでも効く正露丸も作って。

 表向きはそれらを売り歩く薬売り。実は情報収集と拡散のプロ。

 あちこちを歩き回っても不自然ではなく、自前でカネも稼げる、そんな組織を……

 

 私、この仕事が終わったら、そんな組織を作るんだ。

 

 ええ。このクソ仕事が終わった後に。そう……

 美濃に単独で潜入して、稲葉山城に自力でたどり着き、帰蝶さまと独力で交渉して、織田との和平を結んで来い。

 この無茶振りを達成したら、そんな組織を作るのです。

 

 それで組織の管理を丹羽様に投げてやろうと思います。

 だって、そうなった時の顔が見たいから。あと、ささやかな仕返しです。

 さあ、生きて帰れるようガンバルゾー!

 




気がついたら関が原にいる石田三成になっていたけど何度やり直しても徳川家康に勝てない
作者:四郎壱郷 氏
という、タイトルでオチが付いている作品を推してみる。小説家になろう にあるよ。
関ヶ原からスタートなので、どうにかしないと!と行動を起こすも、だいたい裏目る。
死んだ後も、その影響でどうなったかが書かれるので、それも楽しい。
全101話ですが、やはり1話1話は短いので、一気に読破できる、かも。
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