尾張グダグダ戦国記   作:far

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Q:なんでこいつ、こんなに国人が嫌いなんだろう?
A:実体験

書いてみて、なんか黒い意思出てきたけど、なんでだと考えたら、こんな答えでした。


  ❙ 美濃編 ❙
【はるばる来たよ】Welcome to the castle【美濃の国】


 

 稲葉山城に到着しました。

 いや歩きましたよ。毎日長距離を歩くのは、久々すぎてキツかったですね。正確な距離は解かりませんが、100kmは確実に越えています。

 おまけに山道ばかりでした。まあ、山国の信濃から、山国の美濃なので、当たり前ですけれども。

 

 それに道の状態も悪いです。足を取られそうなヘコみとかも、直す人がいないので、そのままなのです。

 そのあたりは領主が管理する、はずなのです。関所の関銭とかも、そういう用途のためのお金という建前がありますし。

 でも関所で言ってみたら「気になるならお前が直せよ」とかホザきましたよ。あいつら。

 ただでさえ舗装もしていないし、獣道の人間が作ったバージョンくらいの出来だというのに、そんな管理者達ですもん。

 そりゃ歩きにくいわ。

 

 さすがに災害などで通行不能になったら、直すでしょうが……

 ……直しますよね? 通れなくて困った、付近の住人や、商人らが共同で何とかするまで放置とかは無いですよね?

 あまりにも信用できなくて困ります。

 

 現代で、中国の歴史遺産の万里の長城を、近くの農民が「レンガが欲しいから」というだけの理由で、壊して持ち去っていた事件がありました。

 しかも代々やっていたそうです。

 貴重な歴史的文化遺産。それも国を越えて人類クラスのそれを、ただ自分達がちょっとレンガをタダで手に入るためだけに、壊していたのです。

 

 どういうメンタルをしているのか、怖いでしょう?

 

 国人らは、そういう存在が基本です。マジで目先の事『だけ』しか見ませんし、考えません。

 前世の記憶が戻る前の私が周りを見下していたのも、そういう人間が多すぎたからでもあります。

 貸し借りと、約束を守ろうとする人間すら、貴重でしたよ……

 

 清酒や焼酎の製法を教えるから、こっちに独占販売してくれってだけの契約を、なぜ守れないのか。

 製法を勝手に寺に売って、自分はゼニを貰えて幸せだからオッケーです。じゃねえんだよ。

 

 その寺とは話をつけて、仲間に取り込んで終わりでしたが、問題はそちらではなく。

 製法流したアホにケジメ付けさせるのにも、家ごとツブすのは流石に大事になって、織田家までが動きかねないんですよ。

 幸いにも息子さんの方は話が通じたので、アホの隠居と代替わりで手打ちに。

 とまあ、そんな事件もあったんですよ…… 他にも似たようなケースもね、うん。

 

 まあ、そんな重い話は置いておいて。

 

 今は手持ちの食料が重いのです。特に米と水。

 しかし現代とは違って、途中に飯屋など存在していないので、持って行くしかないのです。

 安全な飲み水だって、あるのか怪しい。

 一応は中山道という街道筋なので、宿場町はあるのですが、まだどうにも未発達でして。

 

 その辺りのあれやこれやの解決は、江戸時代になって参勤交代で毎年、移動していく集団でにぎわうようになるまで待たねばならないのでしょう。

 

 つまり今回、私の役には立ってくれませんでした。

 

 タクシー的な、人が担ぐ駕籠とか、馬に乗せていってくれる馬子とかも、まだいません。

 それらもやはり、江戸時代からです。

 

 つまり諦めて、歩くしかないわけです。

 

 あまりに辛かったので、気休めですが脚絆を作ってしまいましたよ。

 作ると言っても、ふくらはぎに布を巻くだけですが。

 ですがこれだけでも、血流を補助してくれて疲労が格段にマシになるのです。

 

 これは現代知識チート……と、言えるような、そうでもないような……

 古来から原型はあるのですよ。一般的に広まったのは、江戸時代からなんですが。

 ほら、飛脚とかが足に巻いてるというか、付けているアレです。

 現代でも、登山用のゲートルとかがそれで当たりますね。実際、効果はあるので残っているのです。

 

 そんな活躍をしてくれた功労者の脚絆を脱ぎ捨てて、濡らした手ぬぐいで足を拭きます。

 そして薄い黒曜石の小片に、ヨモギの葉の裏に生える白い毛を干した、モグサを乗っけて、火をつけます。

 乗せる場所は、ヒザの外側の、少し下。足三里というツボで、下半身の事なら、大体ここでOKという、雑に助かる場所です。

 ここかな? と軽い気持ちで押すと、思ったより痛くてビックリするので注意。

 

 あ~… 効いてきましたねえ…

 

 稲葉山城に着いた私は、織田家からの使者ということで、一応は丁重に扱われました。

 旅のホコリを払って、部屋へと通されて、桶に水ももらえましたからね。

 そうして腰を落ち着けると、疲れが襲ってきたので、こうしてお灸を始めたというわけです。

 

 マッサージでも受けたいところですが、この時代のマッサージって、按摩って言って、医術の一種なんですよね。

 いや、現代でも一応そうですけども。

 それよりももっと本格的に医術の扱いなので、私が今、ここでマッサージを受けるというと『城勤めの医師のお世話になる』という、大変に大袈裟な事に。

 

 というか、竹中半兵衛が16人で乗っ取った稲葉山城に、そんな人材は残っていますかねえ?

 部屋へと案内された後に、世話をしてくれる女中さんすらいないのに。

 

 だから自重して、自分だけで出来るお灸をしていたわけですが。

 そんな私の行為を、不満に感じる人はいたようです。

 

「いや、そこまでくつろがれると、さすがに思うところがあるのですが。敵地という自覚はありますか?」

 

 若い割には、静かな雰囲気の声でした。

 声の方を振り返ってみると、二十になるかならないかの、若い男が立っていました。

 刀が似合わなさそうなその男は、呆れた色を見せながらも、その目だけは注意深くこちらを観察しています。

 

 『あっ、同類だ』

 

 その目が、軽く驚いたように瞬きをして、そう思ったのが解かりました。

 なぜ解かったかって? 私もそう思ったからです。

 

 そして彼と私は、同じ悩みを抱きました。

 

 『コイツは今、殺しておくべきか。それとも仲良くすべきか…』

 

 両極端ですが、どちらかを実行するべきだと、私も彼も直感していました。

 理屈は一切存在しません。なぜかそうすべきだと、何の疑問も持たずに、思い込んでいました。

 

 そして無言のまま相手から目を逸らさずにいたら、高まってしまった緊張感から、お互いの思考が物騒になってゆき。

 桶を投げつけてから、後ろを取って… 刀を抜いたら、いや抜きざまに斬りつけて… など。いつしか具体的な殺害方法の検討に入った頃。

 部屋には更なる乱入者が現れました。

 

「織田家の使者どの、待たせたな。ワタシが帰蝶です」

 

 スッ… と、音を立てずにフスマを開けて現れたのは、着物姿のアラサー女性。

 彼女は尾張での生活に思う所があるのでしょう。織田家と口にした時に、不機嫌な表情になりました。

 そしてその使者である私を、露骨にイヤな顔で見つめながら、思い出すようにポツリと口にしました。

 

「好みでは無かったとは言え、私にほぼ手を出さないわ、家中の統率は取れないわ、そのくせ自由に生きるわ。

 全く、殿方という生き物がうらやましくて仕方がなかった。ワタシの尾張での生活とは、そのようなものでしたよ」

 

 具体的な名前は言いませんでしたが、明らかに信長さんの事ですね。

 女として愛していたかはわかりませんが、人としては憧れみたいなものがあったようです。さすが織田信長。さすがのカリスマです。

 

 いい話とか聞けそうですが、殺しちゃった真犯人である私の居心地が悪くなるので、話題の方向を少し変えさせてもらいましょう。

 

「だから今、あなたも自由にやってみようと、こんな事を?」

 

 女城主や、女の海賊、女地頭までは実在しました。井伊直虎とか、大河ドラマにもなりましたね。

 夫の留守中に、敵軍に城を攻められてしまって、奥さんが残っていた兵士や女中を指揮して返り討ちにした逸話や、石田三成を負かした甲斐姫など、活躍した女性も実在します。

 しかしそれより上。一国の主になった女性は……

 

 ……いたわ。

 

 いや、公的な国主じゃなくて、実質国主だった寿桂尼という方が、今川に。

 夫の死後に幼い息子の後見人になって、公式文書に花押(ハンコ)押したりもしている、実質の統治者。

 

 その息子も、なぜか突然に亡くなりまして。しかも弟の一人も、同じ日に亡くなりまして。

 すると家臣らが、残った弟達をそれぞれが担いで、家督争いに突入しました。

 

 いったい、何があったのか。そのくわしい事情は、後世に伝わっていません。

 何らかの事件か陰謀があったんだろうなあ、とおぼろげに想像が付くくらいです。

 

 やはり女性がトップに立つのは、男の家臣らには不満があったのかもしれません。

 

「きっと、いや間違いなく大変ですよ?」

 

 そんな史実を思い出しつつ、私は重ねて問いかけて。

 帰蝶さまは、力強い笑みを浮かべて、答えました。

 

「ええ。それでも、です。なんなら尾張も面倒を見てさしあげましょうか? あの人とは、離婚した覚えはありませんので」

 

 冗談だとは思いますが、本気で言っているようにも見えました。

 どっちだと思う? と、男の方を見ましたが、彼も困った顔をしていました。

 

 お前もわからないんかい。

 

 というか、そろそろ名乗りなさい。たぶん誰だか解かってるけど。

 

「そういえば、そちらのお名前は?」

 

「あっ、申し遅れました。竹中半兵衛重治です」

 

 『名乗ってもいなかったの? 何してたのあんたたち』という帰蝶さまの視線を受け流しつつ。

 『とりあえず一時休戦で』と、アイコンタクトで私たちの間に、合意が成立した時です。

 

 慌しい足音を立てて、兵がひとり、この部屋へと走ってやってきて報告をしました。

 

「申し上げます! 浅井が攻め込んでまいりました!」

 

 ――ウッソだろ、オイ――

 

 多分その時。私と半兵衛だけではなく、帰蝶さままで含めて、思考が一致していました。

 その後の思考はバラバラでしたが。

 

 私はもちろん『よし、帰ろう。浅井が攻めて来たなら、織田と戦ってる場合じゃないから停戦までは即決。帰れる!』と考えましたし。

 半兵衛はそれを察知して『使える人手が少ないんですよ、無理やりにでも手を貸してもらいます』と企み始めていました。

 

「せっかくワタシは自由になれたというのに! それを邪魔するというのなら、容赦はしませぬ!」

 

 そして帰蝶さまは、戦う覚悟を決めておられました。

 尾張にいた頃からこんなだったら、もしかしたら信長さんも尻に敷けたんじゃないですかねえ。

 ちょっと面白いから、知恵くらいは貸してもいいですかね。

 

「半兵衛どの。相談相手くらいなら、いいですよ?」

 

 織田家と斉藤家の講和もなっていませんし、それくらいが限度でしょう?

 

 さて、判断するためには、情報が必要ですよね。

 今の斉藤家が動かせる兵力や、動いてくれる国人など、教えてもらいましょうか。

 大丈夫。ちゃんと相談には乗りますから。相談には。

 それに講和したら、織田家は攻めて来ませんから。攻めるにしても、たぶん伊勢に行きますから。

 

 さあ、半兵衛どの。

 話し合いましょうか。

 




三国志の李儒に転生。ただし赤子からスタートなので、ほぼオリキャラ。
しかし「董卓が新しい銭を作って評判悪かったけど、統治期間考えたら、これ仕掛け人別だな?しかも出来が悪い。犯人と目的は…」など、分析が新鮮で楽しい。

そんな作品の 偽典・演義 ~とある策士の三國志(仮)~ を推してみる。
作者は小説家になろうの 仏ょも 氏。好きな書き手さんですが、名前の読み方は未だにわからない。
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