「はじめまして。竹中半兵衛重治の弟の、竹中久作重矩と申します。兄より手伝いをせよと、申し付かりました」
とりあえず浅井軍の情報を集めつつ、こちらで動かせるだけの兵をかき集めて、動かせそうな領主を探して……
と、忙しなく出て行った半兵衛が、代わりにと置いていった若者は、そう名乗りました。
なるほど、顔は半兵衛と似ていますね。顔は。
でも『同類』ではないですね。なんか、普通にいい子っぽいです。
え~っと、史実での彼は…… あっ。
「そうですか、あなたが……」
織田と浅井の戦いのひとつ、姉川の戦いで活躍したのが唯一の輝きの男。
それも遠藤直経という武将が、決死の覚悟で織田軍の格好をして敵中深くまで入り込み、ついに信長の目の前まで来た…!
という時に「あっ、お前は!」と見つけたという、盛り上がりというか、なにかを台無しにしたもの。
遠藤直経といえば古参の忠臣で、史実では織田家との同盟に当初反対していました。織田信長の危険度を理解していたらしく、何度か独断で暗殺に走ったようです。
それが時が経ち『もうここまで来たら織田家との同盟は守って、戦国時代の終わった後を目指した方が良いな』と旗色を変えた……
……所で、浅井家が織田家に反旗を翻します。どうしてそういう事するの。
ですがそうして主君と意見を異にしていても、命令と意には忠実に従うからこその忠臣。
織田家との戦でも、必死に働き、味方が不利になろうとも裏切らず。
そんな男が『この戦いは趨勢を決める大きなもの』と見ていた、姉川の戦いが負け戦になったのを見て。
倒れた味方の首を取って「手柄を立てました。殿、ご覧下され」と、信長へと近付き……
という、盛り上がるところでの「あっ、お前は!」ですからねえ……
どうして、そういう事するの。
また、兄の半兵衛は生涯秀吉を支え続けましたが、所属としては羽柴家ではなく織田家で、秀吉の所へは与力としての出向でした。
つまり信長さんから領地を貰っていたんですね。
しかし、半兵衛自身は秀吉の軍師として忙しかったので、領地の管理は弟の久作がしていました。
そして半兵衛の死後に「ロクに管理できてねーじゃねぇか!」とキレた信長さんに没収されました。
「いや、半兵衛はよく働いてくれましたし…」と秀吉がフォローを入れても、ダメだったので。
かなりアレな管理っぷりだったと思われます。
死に様も、本能寺の変が起きて、家康同様に「今なら領土広げてもOKなボーナスタイム!」と気付いて暴れる、地元の国人を鎮圧しようとして、討ち死に。
そんな、パッとしないものでした。
愚兄賢弟という言葉がありますが、彼の場合は「兄より優れた弟などいねぇ!」という方が当てはまりますね。
「えっ、私をご存知なのですか?」
いけない。つい、残念なものを見る目をしていました。
でも口には出さなかったので、セーフです。まだ全然間に合いますね。
発動せよ、私の言い訳スキル。
「この稲葉山城を奪う、半兵衛どのの策のキモになったという、仮病の弟でしょう?」
人質として稲葉山城に置かれている弟が、病になったので見舞いたい。
半兵衛はそういう口実で登城の許可を貰って、少数ながら兵を城内へと入れることに成功したわけですね。
あとは龍興を人質に取れれば、城は手に入ります。
ひとことで言うと『イゼル○ーン』です。
まあ、そんなわかる人にはわかるだけの例えは置いておいて。
少し確認をさせてもらいましょうか。
「ちょっと、半兵衛どのの事を聞いてもいいかな? 彼は城も持ってる領主だけど、どんな内政を?」
私は領地が無かったので手を出しませんでしたが、もし彼が性格とか性質ではない、そっちの意味でも『同類』であったなら。
ガマンできずに手を出しているはずなのです。そう。転生者のたしなみ『内政チート』に…!
私ももし、蟹江が手に入っていたら、やっていました。絶対やっていました。
ハンパな知識でやると、塩水に漬けた後の処理を怠って大惨事な塩水選、鉄の強度が足らないと、ペキッと折れやすい備中クワ。
効果はあるけど面倒くさい正条植え。お前、構造覚えてないのにどうやって作った唐箕。
効率4~5倍と、マジチートだけどいい鉄と精度の高い品でないと意味無いぞ、量産できるのか千歯こき。
肥料も、土に合わせて成分を変えないと逆に不作だぞ。もちろん適量でなくても不作だぞ。イワシやニシンは万能じゃないんだ。
品種改良も年単位だし、二毛作や輪作も、気候や風土の問題で、調整が必要なんだ。
『内政チート』の中でも、そんな地雷多めの『農業チート』を、実際にやってみた先駆者がいたとするならば。
是非ともどんな失敗をしたのか、実例を知って笑い、もとい貴重な教訓とさせてもらわねば。
さあ、教えてくれ。久作くん。君の兄は、どんな事をやっていたんだい?
「兄は、揉め事をどう裁くかに、特に気をつけていました。民心のいぶ? が大事なんだそうです」
えっ。
農具の改良とか、水路や田畑の整備とかは…… あっ、やってらっしゃらない。
「…ンッ、ンン」
…っと危ない。うっかり舌打ちをしそうになりましたよ。
なんだよー。『同類』なのに、転生仲間じゃないのかよー。
平成トークと令和トーク、できないのかよー。
マンガもテレビもスポーツも、この時代とのギャップも、トイレや料理や寝具や娯楽や、夜の暗さや朝の早さや。あれやこれやを。
全部、全部、話せないのかよぉー!!
まあ、いいんですけどね。
現代知識チート、独り占めって事ですので。
ええ、まあ、はい。いいとします。いいと、しましょう。
「逆にあなたはどんな戦に参加してきたのですか? 武勇伝などありましたら、お教え下さい!」
うお、まぶしっ。
若干ですがホロ苦い気分に浸っている時に、急に十代の若者のキラキラした瞳を向けられると、ひるみますね。
これが若さか……
「私はこう見えて、足軽からの成りあがり者でしてね。弓の腕は、ちょっとしたものなんですよ。謀反を起こした主君の兄*1を討ち取った事もあります」
うんうん。……うん?*2
久作くんは、そんな反応をしました。話が始まったけど、なんかいきなり変な方向に飛んだぞ? という反応ですね、たぶん。
それとも、私と同じく現代人よりの価値観で、殺人の自慢は嫌悪感が湧いちゃうんでしょうか。
弓だと特に一方的に殺した感があって、戦って勝利を得た! という爽快感とは無縁ですから。
それとも主君の親族仕留めたのを自慢するの? という素朴な疑問でしょうか。
でもこれ実話ですからねえ。
「半兵衛どののように、城を乗っ取ってはいませんが、独りで乗り込んだ事はありますね。敵に包囲された味方の城に、ですが」
「えっ、おひとりで? 何をしにですか?」
「(威力十倍の新型の)火薬を届けに、ですね。それを使って、城のみんなで包囲を突破したんですよ」
包囲してたの、ここの国の人たちでしたけどね。
まさかあの暴走する大八車に乗って、大暴れしていたのが丹羽様だったと聞いた時は、何度も「マジで?」と確認してしまいましたよ。
いやあ、サイトーグンは、きょうてきでしたね。(棒読み)
「武勇伝といえば、ここに来る前に居た諏訪での戦ですね。直接遣り合ってこそいませんが――
武田家の後継者を諏訪へと引き込んで、上杉謙信を味方に、武田信玄と戦をして勝ちました。きっと私の、生涯の誉れです」
これはマジで、そう。
偶然の要素も大きいですし、秀吉を使えたのもありますし。なぜか謙信が動いたおかげも大きいし、なぜか勝頼がノリノリでこっちに参加した上にハッスルしたのも大きいのですが。
それでも、あの武田信玄に判定勝ちしたのです。
史実では家康だって勝てなかった相手に、私は勝てたのです。まあ、武田軍は万全とはとても言えない状態でしたが、それでも勝ちは勝ちです。
これはドヤッても許されるでしょう。
ドヤァ…!
渾身のドヤ顔をキメる私に、後ろから静かな声がかけられました。
「ほう、信濃の方では、そんな事が。詳しく聞きたいところですが、残念ながら今は時間がありませんね。さあ、 お仕事 です 」
あれ? なんだか、どこかで丹羽様に言った覚えがあるセリフが、襲ってきましたよ?
言われた側って、こんな気持ちになるんですね。
なにこれ怖い。
「仕事というからには、報酬が欲しいですね。何をいただけるのやら。というか、払える物はあるんですか?」
しかしこの『同類』に弱みを見せるのはイヤなので、虚勢を張ります。
がんばれ私の弁舌/言いくるめスキル。応用だか派生で、演技もやってみせろ。
「何をおっしゃる。手伝うだけでも、十分手に入る、手に入ってしまうでしょう?」
痛いところを突いたつもりだったのですが、さすがは竹中半兵衛。上手く切り返してきました。
そうですね。美濃での防衛、軍事行動を手伝う事で、斉藤家の軍事情報がゴロゴロ手に入っちゃいますねえ。
まあ尾張でひどい目にあったので、当分回復に努めないといけないのと、停戦、講和を織田家と結ぶ予定なので、数年は時間が稼げます。
だから、織田家に多少情報が漏れても致命的ではない、と言えるといえば言えますけど
まさかそこまでガッツリ手伝わせるつもりとか。これはそうするまでに余裕が無いのか、それとも『同類』の力量を見たいのか。
う~ん、だとしたら大きく見せるか、小さく見せるか…… でもひとまずは、協力すると答えておきましょうか。
「いいでしょう、協力しましょう。ただし、あなた個人への、貸しひとつです」
「やれやれ、高く付きそうで怖いですね。ですが、お願いします。とりあえず……
……帰蝶様が、前線に出ると言い張ってる ので、説得を手伝ってください」
なんでやねん。
やっぱナシでって言ったらダメですかね。
自由に生きるって、人生自由形で泳ぎだす事じゃないと思うんですけど。
美濃の姫で濃姫っていうより、濃い姫になってませんか、帰蝶さま。
信長さんも先頭を駆けるとかは、何回かやってたらしいので、説得しにくいぞ、これ。
推しと同じ事やれるってなった時のファンを、止められるかというと……
「あれ、これ意外と難題だったりしますか?」
「だから助けを呼んだんですよ」
え~っと…… 久作くんの泣き落としとか、どうかな?
書き溜め中にいかが?と長編を推してみる。オリジナルのファンタジーで、存分に現代知識チートをキメる女性の話。
【書籍化】異世界に来たけど、生活魔法しか使えません 梨香 氏 カクヨム
貴族出身なので、音楽が武器になるので、アヴェマリアやアメージンググレイスやクラシックをキメる。チョコやアイスやゲームパイや、料理チートもキメる。疫病が流行れば、殺菌消毒だってキメちゃうぞ。
もちろん魔法の解釈チートだってバッチリさ。