尾張グダグダ戦国記   作:far

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日曜の投稿は少し遅めになります。


【真実は】Dance in the darkness【いつも闇!】

 

「だから言ったじゃないですか。きっとこういう事になるって」

 

「いや、まさか本当にこんな事になろうとは……」

 

 はい。

 このやり取りだけで、わかる人には、すでにお解かりいただけたと思いますが。

 

 私、また偶然、何の盛り上がりも無く大物を仕留めてしまいました。

 

 だからこういうのはいらないから、斥候に行きたくないって言ったのに。

 やれって強要した半兵衛どのは、報告したら呆れてるし。おい、命じた張本人。

 

 まあ、仕留めたのが浅井長政じゃなかっただけ、良しとしましょうか。

 『ここ美濃で、桶狭間仕掛けようぜ!』って提案しておいて『ゴメン、先に仕留めちゃった』は、空気が死にます。

 

「まあ、幸い? いや幸いなのかは謎ですが、外道でしたねえ」

 

「外道?」

 

 あっ、これ、この時代でまだ多分使ってないヤツだ。

 そう悟るや、口が勝手に言葉をつむぎだします。ゆけ、言いくるめスキル。

 シレッと『すでにある言葉だけど知らないの?』と、すっとぼけて切り抜けろ。

 

「釣り人の間の、隠語ですね。狙った獲物以外の釣果をそう呼ぶそうですよ」

 

「なるほど。本来の道ではない、外道。転じて、狙っていたわけではない獲物、というわけですか」

 

「他にも、全く釣れなかった時には「ボウズ」と言ったりします。

 坊主は殺生をしないから魚は無いとか、頭を剃るので、もう毛が無い、つまり儲けが無いとか、諸説あります」

 

 元々は仏教用語で、外道という単語自体は存在したので、丸く収まりました。よし。

 軽いユーモアの入った雑談も合わせて、完璧に処理できました。

 何か違和感を残して、それが積み重なると、気付けば不審者扱いになっていたりしますからね。

 実際、前世の記憶がちゃんと戻る前、幼少時に2敗くらいしています。

 

 だから生家を出て、足軽生活をしていたわけですが。

 

 ちなみに農村でした。室町時代の日本人の中では、一番比率が多いので、まあ妥当かなって。

 前世の記憶が完全に無かったら、そのまま農民やっていたんじゃないでしょうか。

 

 村に来ていた行商人が、計算を誤魔化していたのを不用意に指摘しちゃったり。

 作物をバラ撒きで、乱雑に種を植えていたのを『シックリ来ないから』という感覚で、均等に植えたら収穫量が少し上がって。

 そのせいで実際に作業する小作人の仕事が、ちょっとばかり大変になってしまって軽く恨まれたり。

 7つの玉を捜して大冒険とか、体内で働く小人さんたち(さいぼう)とか、都市(シティ)の狩人とか、謎の物語を子供世代に語って、流行らせたり。

 相撲を改造して、布を巻いた拳のみで勝負する、ただしラリアットはありの謎ボクシングを始めたら、大人がハマッて村祭りの名物になったり。

 

 思い出してみたら、意識が戻る前から、かなりやらかしてますね!?

 今更ながら、なにやってるんだ今世の私。

 そりゃ農村出身だって言っても、みんな口を揃えて「お前のような農民がいるか」って否定しますよ。

 

 「じゃあどんな生まれなんですか」って聞き返したら、みんな黙って悩み始めるんですけどね。

 

 藤吉郎くんは、特に悩んでいましたねえ。

 私が目の前にいるというのに「尾張にあんなのが育つ村なんぞあるんか…?」と、あんなの呼ばわりするほど、考えに没頭していましたよ。

 

 しかし意識が戻ってない分、記憶もあいまいだったおかげか、品種改良や農具改良などには手を出していなかったのが救いですね。

 あれが許されるのは、失敗しても補償ができる金持ちか領主だけです。

 

 私としては、思いっきりイキリ倒していた黒歴史時代でもあるので、思い出そうともしませんでしたが。

 ここ数年、というか前世の記憶が戻って以来は、連絡すら取っていません。

 流石に放置しすぎた気がしてきたので、尾張へ戻ったら、一度顔を出してみましょうか。

 

 戻れたらですが。

 

 諏訪に出張して、そのまま美濃へ来させられましたからねえ。

 いる物といらない物を分けて「私は何処へ飛ばされるんだね」と聞いて「あなたが報告書にあんな事を書くからいけないんだ!」「良かれと思ってー…」で終わる。

 懐かしきあのコントのように、次はまた直接どこかへ飛ばされる可能性も、割りとある気がしてきているんですよねえ。

 

 報告書の内容のせい、というコントとの共通点には気付いています。気付いているのですが。

 正直、どこまでやっていいのか、未だにわかっていないんですよ。

 どういう権限があるのか、どこまでの裁量があるのか。

 実はこの旅の始まりからずっと、全然、全く、何も、聞かされていません。

 最初はただ『諏訪独立を達成して来い』とだけ命じられて、放り出されたのです。

 

 だから私は悪くない、と主張します。

 

 やるなとは、言われていませんからね。敵の後継者を引き抜くなとか、戦をするなとか、他国の援軍を勝手に呼ぶなとか、諜報網を築いて、相手側とスパイ合戦するなとか。

 やるなと言われていませんし、未だに何故やった!? と怒られてもいませんからね。

 

 怒られていないのは、丹羽様に直接会っていないからだろうって? それはそう。

 

 会って怒られて、それでも自由にやったら、さすがに首元が涼しくなりそうです。

 そう考えると、この連続出張も悪いことばかりではない気がしてきました。

 もし次があったら、逆にどこまでやっていいのか、実験してみるのもいいかもしれませんね。

 

 さて。

 

 目を背けていた事実に、いい加減に戻りましょうか。

 ちょうど帰蝶さまも来られたことですし。

 

「帰蝶さま、ただいま戻りました。これ、龍興です

 

 はい。

 今回仕留めた獲物は、斉藤龍興さん16歳。この時代の十代にしては、大きな体格をした青年です。

 帰蝶さまにとっては、兄の義龍の子なので、甥っ子にあたります。

 多少の面識はあったのか「確かにこれは間違いなく龍興」と確認していますね。

 

 面識はあっても、あまり交流は無かったのでしょう。

 知っている若者が亡くなった程度の痛ましさはありますが、手も震えていませんし、涙を流すなどの激しい悲しみの感情は感じられません。

 それでも「せめて安らかに……」と手を合わせて祈る程度の情はあったようです。半兵衛どのと違って

 

 いや、なんで祈らないんですか。仮にも主君でしょ。手ぐらい合わせなさいよ半兵衛どの。

 お前は合わせたのかって?

 

 …………そう言えば、信長さんには、合わせた覚えがありませんね。

 というか、信長さんってば、葬式やったっけなあ…?

 え~~っと、ん~~確か… 信行さまが出した、ような気が…?

 あの頃は、ほら。私は前世の記憶が戻ったばっかりで、混乱してましたから。

 

 じゃあ信行さまはって?

 清洲城を脱出する前に、簡単にですが城にいたみんなで、亡くなった人たちの合同のお葬式をしましたよ。

 殺された側の信行さまと側近たちの葬式に、殺した側の池田さんがこっそり混ぜられていて『いいのか…』と、引いた記憶がありますので、たぶんその時に合わせた、かな?

 

 まあ、そんな過去は置いておいて。

 現在の報告へと戻りましょう。

 

「龍興…さまも、稲葉山城を心配したのか、様子を伺うように少数で探っておられて……

 そこを発見しまして。で、今はお味方にこのような豪華な鎧を身に着けたお方は、おられませんので、敵と判断して……」

 

 半兵衛どのには、死んでも塩対応された斉藤龍興ですが、今も間違いなく美濃の国主で、斉藤家の当主なのは間違いありません。

 ちゃんと家臣一同の話し合いもあって、亡くなった義龍から継承しましたからね。

 しかし、半兵衛どのが城を乗っ取って追い出されて、帰蝶さまが「我に従え」しているこの状況で、まだその地位は安泰か? と言えば……

 

 朽木谷に逃げ込んでいる、将軍足利義輝みたいな感じですかね。

 いや、その弟の義昭の方が近いかな。それも将軍になる前の。別の将軍候補者の義栄が立てられちゃったあたりとかは、瓜二つです。

 

 ともあれ、不安定な状態だったので、殺っちゃっても問題無いと言えば、問題なく処理できるのですが。

 帰蝶さまの下に、美濃の土豪を一本化できるようになるメリットもありますが。

 

 その場合、討った私はいない方がいい存在になるわけで。

 

「どうしますか? 龍興様の死を、表に出しますか? 隠しますか?」

 

 半兵衛どのが、帰蝶さまに判断を仰ぎました。

 

 表に出す場合は『龍興を討ったのは尾張者の私』という事も公表して、殺害の非難を回避。

 美濃の土豪らを帰蝶さまと半兵衛どのが糾合して、浅井軍に当たるコース。

 この場合、私を殺すのも織田家が攻めてきたらイヤなので、私は追放扱いですが、尾張へと帰れます。

 

 伏せる場合は、まあ龍興はどこぞに逃げた事にして……

 あれ? その場合も、帰蝶さまと半兵衛どのが美濃の土豪を糾合して、浅井軍に当たるのは変わらないぞ?

 死んだ龍興が出てくるわけがないから、逃げたという事に反論も出てきませんし。

 

 討ち取られたとなると、さすがに反発も出るでしょうから、これ隠した方がいいのでは?

 

 表沙汰にするメリットがわからなかったので、半兵衛どのに聞いてみました。

 すると相変わらずの静かな声で、こんな事を言いやがりました。

 

「あなたを穏便に、美濃から排除できます」

 

「誰が早めに処理したい危険物ですか」

 

「いや、安全な人物では無いでしょうに。こうしてワタシの甥っ子もあの世へと行ったわけですし」

 

 不本意な言われようだったので、即座に反論しましたが、帰蝶さまにツブされました。

 

 いや、それは、ほら……

 急に、龍興が見える所まで来たので……

 付いてきていた少数の武者たちも、ちゃんと逃がさず仕留めましたから。

 龍興をこのままこっそり闇に葬っても、大丈夫ですから!

 

 だから私の武功はまたしても表に出ないで、闇に葬られるわけでして。

 実際には、無かったこと扱いになるわけですよね?

 だからまあ、私が危険人物だという扱いも、一緒に無かったことに……

 

 あっ、なりませんか。はい。

 

 龍興は逃亡した事にするけれども、私への評価は変わらない、と。

 えぇ…… 私、悪い武士じゃないですよ?

 

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