ってタイトルの候補もあった。
はい。未だ混乱の続く、尾張よりお伝えいたします。
頭をよぎった瞬間、あり得ないと打ち消したはずなのに、正直なところ「こうなるかもな」と心のどこかで思ってはいた。
そんなイベントが起きてしまいました。
今川義元、死亡確認でございます。いや、復活はしませんが。
まさか本当にあるんでしょうか。歴史の修正力。
なお下手人は、私。
ではありません。いや、本当に。
というか、義元にはまだ会ってもいませんよ。
一度お顔は拝見してみたかったですね。本当に麻呂マユ毛だったのか、少し気になるので。
「この先、どうなりますかね。丹羽様、わかりますか?」
「さすがにワシも混乱しておる。少し考えさせよ」
この情報を教えてくれたのは、丹羽様。
自前の情報網と言えるものを、いつの間にか私も持っていましたが。丹羽様とは、さすがに年季が違いました。
私の情報網の速さと正確さは、まだまだのようです。
まあ、情報網といっても、その内訳はだいたい商売由来です。
商人らのツテやら、色々と道具などを作ろう、作らせようとしていたら出来ていた職人のツテ。
このあたりは世間話のようなものというか、お互い様で、知っておいた方がいい情報を共有するユルい仲間ですね。
あとは野鳥と、たまに猪の仕入れルートである河原者。
彼らは戦国の難民や、スラムの住人のようなものですが、雑多な集団だけに人脈が意外とバカにできないんですよ。
山郷に住んでいる山人らからも、肉は仕入れます。カスミ網という、現代では禁止された猟法を教えたので、むしろメインですが。
彼らは世間の情報には、普通に疎いですからね。関所を回避する抜け道とか、他国に抜ける山道には詳しいのですが。
あと、居酒屋の常連さんたち。
そんなメンバーなので、今川の動向を調べよ。みたいに、能動的には使えないんですよね。
最近、今川さんどんな感じ? みたいに話題を振ったりはできますが。基本は、何かあったら教えてはもらえる。そんな受動的なものです。
「そういえば、店長が代わったな。またどこかに新しい店でも出すのか?」
「いえ。あいつはもう学ぶことは無いから、独立するって出て行きましたよ。案外、戦のニオイを感じて逃げたのかもしれませんが」
「どちらにしても、薄情な話よ」
今日、飲んでいるのは2号店。最初に本格的に作った店で、おそらくは日本初の居酒屋になります。
そういえば居酒屋って名乗ってて、屋号決めてませんね。看板も居酒屋だし。
まあ、いいか。居酒屋という名称も、独占しちゃいましょうか。
そんな2号店は、入り口は縄のれん。土間に机と長椅子。看板娘のウェイトレスもいる。
つまりは時代劇でよく見る、江戸の居酒屋をイメージして作りました。
で、まあ。そんな2号店は人を雇って、店長をやらせていたわけですが。
何を思ったのか。今日からここは俺の店だ! お前はもう顔を出すな! と、乗っ取りを企みまして。
「確かに店を仕切れるようにはなってるだろうが、仕入れは出来るのか? そもそも商売の許可、持ってるの私だよ。お前、取れるか?
無論、私は邪魔する。あと土地の確保も、店の建設も私がやったんだが、店が欲しいなら、その費用を払うべきだろう?
そもそも。これが店じゃなくて、畑だったと考えてみろ。そこで実際に野良仕事してるのは小作人だが、それで土地が小作人の物になるのか?」
そんな感じでボロクソに論破した上に、武士舐めんなと叩きのめして、叩き出しました。
その後? さあ、どうなったんでしょうね。
鳥の肉を仕入れようにも、だいたいの仕入先は私の息がかかっています。
酒造をやっている土倉やら、豪農やら、一部の国人らとは、ズブズブですし。
醤油がまだ無いので、代わりに使っている味噌溜まりやら。
炒めるやら揚げるやらしたいのに、エゴマ油くらいしか無かったんで、油座を巻き込んで開発してもらった、大豆油に菜種油とか。
職人に特注になる、中華ナベとか天ぷらナベとか、寸胴とか。
食材も調味料も調理道具も、あいつはどうやって手に入れるんでしょうね。というか、そんなお金あるかな。
あいつはウチで2年くらいしか働いてはいません。貯金があっても、店を開けるほどではないでしょう。
仕入れの予算もあるから、売り上げの管理や銭勘定は私がやっていましたから、そちらをちょろまかして、ってのも無い。
まあ、いくつかのレシピと発想と、多少の金はあるのです。
他国で、イチから好きにやってみるといいんじゃないでしょうか。
(どうなろうと)知らんけど。
目に付くところでやろうとしたら?
そんな舐めたことをしたら、今度は腕の一本も、もらっときましょうかね。
今は中世、しかも戦国時代。舐められたままにしていたら、身が危険になるのは武士も庶民も同じなのです。
まあ、そんな聞いていて酒が不味くなるような裏話は、丹羽様には黙っておいて。
とりあえず、状況の整理から始めましょうか。
義元殺しの犯人は、鳴海城主 山口教継。
まあ、誰?って感じですが、出身としては土豪の人ですね。
その辺は、他の織田家の家臣も大体一緒です。私の元上司の柴田勝家とか、森、丹羽、前田とか。
そもそも信長の織田家自体が、尾張守護の斯波家の家老で、元は神官系だったらしいので。あんまり由緒正しい武家は配下にいないのです。
ともあれ、山口さんです。史実だと、信長の父の信秀の配下で、小豆坂の戦いという大きな戦いで、今川相手に戦って活躍したり。
信秀と義元の一時的な和睦の仲介をしていたりと、割と顔が利いたみたいですね。
それで今川との国境の鳴海城を任された、最前線の守り手になっていたんですが…
信長に代替わりしたら、今川に寝返りました。
「オヤジには従えて、ワシには従えんと言うんかゴルァ! 舐めとんかオルァ!」
おそらくはそんな感じにキレた信長が、速攻で攻め寄せました。
先ほども述べましたが、今は中世で戦国。誰かに舐められたら、ソイツに痛い目見せないと、周囲全てに舐められて生きていけなくなるのです。
そんなサツバツとした社会的には、実に正しい反応ですね。
が、ロクに準備もせずに攻めかかったせいか、山口教継の息子の教吉が守り抜いて押し返して、信長は撤退。
教継はその後、大高城、沓掛城にも声をかけて、今川へと引き込む事に成功します。
大高城といえば、名古屋市緑区です。名古屋駅から9kmの清洲城との間は、約20km。
かなりヤバいですね。
このイケイケの状況で、義元からの呼び出しがありまして。お褒めの言葉と、褒美のひとつでも……
と思いきや、まさかの親子そろっての切腹。
勝手に敵が自滅する。という、信長のよくあるエピソードのひとつになってしまったわけです。
あの人の豪運なんだったんだろう。
この山口親子が始末された理由には、いくつかの説があります。
今川が、最初から裏切り者の彼らを生かすつもりは無かったという説。
あるいは、予想以上に早く手柄を上げた彼らを警戒し、始末するつもりになったという説。
またあるいは、信長が『山口親子がまた寝返ろうとしている』というフェイクニュースを流した結果だ、という説もあります。
駿府に呼び出された時。山口親子は、危険に全く気付いていなかったのか。それとも、無事に帰れないと、薄々は気付いていたのか。
ただ。
山口親子に引き入れられていた、今川勢の大将の岡部。
彼が山口親子のいなくなったあとに、スムーズに鳴海城を占拠していますし。
裏切ってきた、それまで最前線でこちらに敵対していた山口親子に、そのまま城を任せるとか安心できませんし。
全ては、今川の予定通りだったんじゃないでしょうか。そう、私は思います。
まあ、裏目ったわけですが。
今川方の手に落ちた鳴海城、大高城、沓掛城の近くに砦を造って補給を断ちつつ、隙を伺う。
城主交代のわずかな時間で、信長得意の付け城戦術が成功してしまったのです。
これで逆にピンチになった今川軍を救うため。
あるいは、そこまで予定通りだったのか、義元自らの出陣。そして桶狭間へ……
というのが史実だったわけですね。
だが無くなった。
でも蘇った。
信長ではなくて、信行が織田家を継いでも、やっぱり寝返った山口親子。
まあ、あのグダグダだった日々を思えば、これはアカン。と見切るのもわからなくはないですが。
その後、信長と違って信行は、鳴海に入った今川との交渉から入って。
そのまま、素直に降伏。
結果、義元が尾張どころか三河へも入らず、出陣すらせずに終了。
これに山口親子はどう思ったか。
着々と進む、今川の尾張支配。いち早く今川に着いた自分の目は確かだった。成功した。
そう思ったかもしれません。しかし、その割には、報われていない。
旧主である織田家に、デカい顔ができるわけでもない。むしろほぼ無傷で力を落としておらず、あちらが上。
裏切ったのが後ろめたくはあるし、しかも同じ今川家中なので、何かとやりづらい。
織田家が、というか信行があまりにもアッサリ降伏したので、裏切りの功が軽く見られている。
あいつが裏切ってこなくても、何とでもなったんじゃね?
今川家臣の言動の端々から、そんな空気が読み取れるのです。
たぶん、自分でも否定できなくて困ったと思われます。
そうなると、自分達の今後が心配になるわけで。方々に探りを入れていたらしく。
史実ルートの予定、つまり利用だけして始末する。というのを、知ってしまったようで。そんな時に。
一度、占領地の尾張の様子を見たり、信行との面談をするため、義元が尾張へ行く。だから歓待の用意をせよ。
そんな命令が来てしまったわけで。
はい。お・け・は・ざ・ま。
半ば以上、ヤケクソだったんじゃないかなあ……
史実の桶狭間でも、奇しくも本能寺でも。トップと一緒に、その周りの有能なスタッフ一同が全滅したので、その建て直しが無理だった、という事実がありまして。
丹羽様によると、今回も、まあ、わりとそんな感じらしくて。
「ああ、それと、だな。これはまだ、確認が取れてはいない話なのだが…」
いい蒸留器を職人が開発してくれたので、トロリとした濃さで作れるようになった麦焼酎。
最近のお気に入りのそれをチビチビと舐めながら、丹羽様が奥歯に物が挟まったように言う事には。
なんか、武田が義元の敵討ちするって言って、甲斐を出発しちゃったらしいです。
「ちょっ、マジですか!? どこです。どこから、どこに。いつ頃来るんですか!」
私は悲鳴のような叫びをあげてから、それでもこれは周囲に聞かれちゃダメだと、小声に抑えて聞きました。
しかし頭を抱えた丹羽様は、答えてくれません。
いつもならだいたい何だって答えてくれる戦国人力インターネットにも、現代のネットと同じく限界はあったようです。
狙いはどこかなあ? どこに来るかなあ?
言い分の通りの敵討ちなら、鳴海城に来ますが、これ絶対ただの口実でしょ。
その道中での略奪がメインの目的でしょ。だって武田だし。
今川は承知してたりするのかなあ? 今川領土を通って、尾張まで攻め込んできちゃうかなあ?
それとも、とりあえず今川領は武田が保護する。なお返却時期は未定。とかやるかなあ。その場合、尾張はとりあえず無事だけど。
武田が動いたのは未確認情報ですけど、永遠に未確認になりませんか? ダメかなあ?
それとも、山口親子がもう一回奇跡起こして、武田を追い払ってくれないかなあ?
あいつら、絶対そのまま居座るじゃん! なんなら尾張方面に来たら略奪放題するじゃん!
なんなら、美濃の斉藤家も怪しいじゃん! この機に動きそうじゃん! …まあ、そっちは責任者っぽい立場になった森さんの仕事か…
ああああ、そんなに偉くないのに、なんでしょう、この国がヤベーって危機感。
そんな大望とかないんですけどね? この戦国で、しかも尾張で、平穏な生活とか夢見てるお花畑でもないですけどね?
記憶やら意識やらが戻った後も、普通に戦に出てましたし。
何が言いたいのかって? 何がしたいのかって?
ほどほどでいいんですよ! この時代の、この地方なりの。ふつーの人生でいいんですよ!
それこそ、最近はさあ! それなりでさあ! そこそこでさあ! いい感じになってきてて、そのままいけそうだったじゃん!
国ごと滅ぶとか、ないじゃん!!! あー! もー!
なんとか、なれー!
下手人は私。
を信じた人は挙手。