尾張グダグダ戦国記   作:far

4 / 91
【蛙の子は蛙】織田信行、覚醒してた【ノッブの弟もノッブ】

 

 武田軍襲来。その情報に私は当初激しく動揺して、滅茶苦茶ビビッていました。

 だって武田ですよ。自国だけでは、民衆に飢え死にが普通に出るので、他国に集団で強盗に行く。そんなヤツらですよ。

 しかもそれが常態化しているので、罪悪感とか、ためらいとか無いんですよ。

 一切の躊躇無く、こちらを殺して奪いに来るんですよ。それも国が主導して!

 しかも戦国最強と言われるほど強い軍団で、同盟を組んでも不可侵条約を結んでも、絶対にいつか裏切って攻めてきます。

 

 その攻められる当事者のひとりに、いきなりなってしまったのです。それはビビるってものでしょう。

 小一時間ほどは、思考停止していました。

 

「あれ? でも待てよ」

 

 ですが冷静になって考えてみれば、今回の武田軍の移動ルートは山梨県から愛知県西部。しかも室町時代。

 道が、ぜんぜん整備されていないわけですよ。

 一旦南下して、東海道を西へというのが普通ですが、さすがの武田も、今川の領土になっている三河を無断で通れません。

 たぶん。いや、いくらなんでも、やれないでしょう。同盟破棄10割を誇る武田でも。

 盟友の敵討ちを口実にしながら、その盟友の領土を略奪しながら進軍とか、さすがに。

 

 ……しないよね? してないよね?

 

 すごく不安ですが、確認できない事には話が進みません。だから今日のところは解散で。

 油を絞った後の大豆に、摩り下ろした山芋をツナギに使った豆ハンバーグで、茶碗に残っていたメシを片付けて、今日の所はここまでとしました。

 

 しかし余ってるんですよね、絞った後の大豆。こうして料理に使えないかと、試行はしているのですけれども。パサついてしまうので、ツナギが必須なんですよね。

 パン粉はパン自体が無いし、卵は高いし。山芋もいいお値段ですし。何か丁度いい物はありませんかね。

 牛馬に食わせてもいいし、肥料にしてもいいのですが。

 食べられるし、栄養価も高いので、何かもったいないんですよね。

 

 などと考えつつ、会計をしていると、看板娘の1人が思いつめた顔でやってきました。

 

「お願いします。あの人を許してやってください」

 

 そして頭を下げられました。

 ええ… こんな時に面倒くさそうなサブイベント、起こさないで欲しいんですが。

 そもそも、あの人って誰?

 ああ、この間クビにした元店長ね。この店よこせってトチ狂ったんで、叩き出したヤツ。

 何をいきなり血迷ったんだか。

 

「あの人、わたしと一緒になるんだって。それで、雇われのままじゃカッコつかないからって…」

 

 あほくさ… おっと、つい本音が出そうになりました。

 それなら普通に相談しなさいよ。味噌煮込みうどん専門店でも作ってやって、こっちはそこへの仕入れで稼ぐとかすぐ考えてやったのに。

 それをいきなり店ごと強奪する方向に走るって、ダメでしょう。

 

「あいつは裏切りました。だからもう、仲間じゃないんですよ」

 

 そこはハッキリさせないといけません。ケジメやスジは大事。だってまともな法律とか無いんだもん。

 特に民法は、大名が独自に分国法で定めていなかったら、掟や慣わしという、下手すると明文化すらされていないローカルルールが支配しています。

 だからこそ、最低限の倫理は守らないと、信用というものが無くなってしまうのです。

 

 でも情が無いって言われるのも、評判に関わるんですよね。

 

「ですが、あなたは違います。あなたが独立して、なにか店を、商売をやりたいというのなら、相談に乗りましょう」

 

 それであいつを食わしてやるもよし、店員として使ってやるもよし。

 カッコつかない夫として、妻に頭が上がらないまま一生生きていくといい。

 

 

 

 そんな風にサブイベントをこなしつつも、東海道に網を張っていると、なんと武田軍が別方向から襲来しました。

 

 確かに東海道以外にも、道はもうひとつあります。木曽路です。

 長野県から奥三河あたりを経由しての、細々とした道です。

 細々なので、大軍が通るには向きませんが、それでも4千人ほどの武田軍が、尾張へとやってきました。

 

 緊急事態だと清洲城へと集まっている我々のもとへ、その知らせが届きます。

 

「ご報告します! 四つ割菱の旗を確認! 武田が現れました!」

 

 そしてスックと立ち上がり、信行さまが堂々と命じました。

 

 

「よし。用意していた兵糧を、渡してやれ」

 

 

 武田を迎え撃つどころか、歓迎して、兵糧を渡せと命じました。

 

 

 え? また即行降伏ッスか?

 

 そう思った家臣は、私だけではないはずです。ねえ、丹羽様。

 私と一緒に兵糧の手配をしながら、信長様が生きていらしたらって、また愚痴ってましたからね。

 

 ですがこれ。どうやら「予定通り」だったようで。

 私達、旧信長派閥には、情報が降りてきていませんでしたが。

 

 そう。現在丹羽様の助手っぽいポジなので、私も旧信長派扱いなのです。

 足軽とはいえ、信行さまの下で戦っていたのですが。

 しかも実は仕留めたとき以外、織田信長にお会いした事はないのですが。

 

 あ、それと物頭に出世しました。事務方の重臣の丹羽様の、秘書的存在なので。

 いや、秘書と言うか、補佐? サラリーマンなら部長補佐くらいですかね。

 

 そんな一応は重臣なのに、ハブられていた丹羽様と私は、まったく知らなかったわけですが。 

 どうも信行さま。尾張統一に手こずっていた時から、武田に同盟を打診していたようなのです。

 

 武田は、今川と北条と同盟を結んでいます。

 この三国同盟により、北条は関東に専念でき、武田は諏訪など北へ領地を広げ、今川は三河、尾張へと対処できる。

 今川義元の師匠、太原雪斎、渾身の策。

 

 織田の武田への接近は、それを台無しにしようぜ! というムーブになります。

 

 だって武田が織田と同盟を結べば、今川は織田を攻めにくくなりますからね。

 そうなったら今川は、東の北条、北の武田、西の尾張、南は海と、どこにも勢力を伸ばせなくなってしまいます。

 三国同盟を結んだ意味は? しかも発起人の今川だけ意味が無くなるとか。

 それは武田の今川への裏切りでしょう。普通なら、そんな事はしません。

 

 普通なら。

 

 武田なら、ワンチャンあるかな。そう読んだ信行さまが、正しそうだから困る。

 この武田を使って、今川への盾に使う計略は、意外と上手くいきそうでしたが、そうなる前にタイムアップ。

 今川が織田に仕掛けてきてしまって、信行さまは即降伏してしまったわけです。

 

 戦って、勝っても負けてもボロボロになっては、その先生き残れない。そういう判断だったのかもしれません。

 家中の士気もやる気も、正直グダグダでしたし。この判断も間違いとは言えないから困る。

 

 しかしそこで、まさかの事態。

 

 歴史の修正力でも働いたのか。桶狭間にて、今川義元が討ち取られ……

 ……あれ。これって。この状況って、もしかして、つながってる?

 

「丹羽様。…………武田が来るの、やけに早かったですよね」

 

 もしかして。

 武田を盾にするのが間に合わず、今川が仕掛けてきたので、時間稼ぎをした…?

 降伏して、従順であると見せて、義元を尾張へと呼び込んで。そこを山口親子を炊き付けて、 襲撃させる。

 もし討ち取れたら儲けものだが、襲撃の事実だけあれば良い。

 

 これで鳴海城を攻める大義名分と、今川を混乱させての足止めが出来る。

 

 とはいえ鳴海城を織田家だけで落としても、あとを継いだ今川氏真に誉められて終わり。

 しかし武田を呼び込んで、鳴海城を取らせたなら?

 かねてからの狙い通りに、武田を今川との間の壁に出来る。

 

 そして尾張は再び、織田家のものに……

 

「まさか、尾張を今川の支配から、解き放つために…?」

 

 もしかして。丹羽様も同じような推測に、思い至ったのでしょう。

 硬い表情で、それだけを言って、あとは口を閉ざされました。

 

 しかしこっわ。

 優柔不断に見えていた信行さまも、戦国の大名でしたよ。織田信長の弟でしたよ。

 

 信長の遺体を前にして、ただただ信じられない物を見た。とばかりに立ち尽くしたり。

 その後の統治も基本顔見せしないで、城にこもってばかりいて。

 自民党下した後の野党連合みたいにグダグダ状態で、配下のまとまりがなくても、ロクに統制に動かなかったのに。

 

 裏で、やる事はやっていたみたいです。外交は確かに、大名の仕事。

 でも尾張国内の事を、部下に丸投げするな。

 

 信長も、その父親も兄弟姉妹がたくさんいて、その子供も含めて織田シリーズは大量生産されていまして。

 それぞれ律儀だったりちゃっかりしてたり、信雄だったり色々いますけど。

 織田信行。彼は間違いなく信長の弟で、只者ではなかったようです。

 

 しかし義元の仇を討つ。と攻めてきた武田が、味方という発想はありませんでしたよ。だって武田だし。

 今の織田家は、今川に降伏した傘下の家。

 武田は、その今川の当主の敵討ちにやってきた。

 じゃあ味方だな。といえば、理屈の上では、そうなのですが。

 

 しかし、まさか状況を動かして、武田を味方として呼び込むとか。色んな意味で怖い。

 

 これで鳴海城のついでに大高城、沓掛城を取り返して。鳴海城を武田にお礼として譲渡して、狙い通りに今川との間に、武田がフタをしてくれたならば。

 義元は亡くなったし、仇は討って義理は果たした。そういう感じに織田家が独立しても、わりと世間的には許されます。

 今川的には許されませんが、そこは武田がカバー。

 

 同盟を組んでいるのに、この武田の動きが許されない。と今川が動いたとして。

 今の義元亡き弱った今川と戦えるのは、武田には願ったりな状況なわけで。

 

 その火種にして、橋頭堡の鳴海城。

 補給は、甲斐の国からは道が悪いし距離もあるしで、織田家に頼らざるを得ないので、当面織田家は安泰。

 

 信行さまの目論見くらいは、当然のように読んでいるだろう武田信玄。

 彼が「尾張を先に取るか」とか、考えてなければ安泰。

 もしくは将来、今川を飲み込んで大きくなった武田が「次はお前だ」してくるまでは安泰。

 

 武田が牙をむいてくるまで、武田相手に下手に出て好感度を稼いでおけば、また即行の降伏をキメられるかもしれないし。

 そうなる前に、美濃か伊勢を攻め取れていれば、武田も戦をためらって、上杉なり北条なり、姉小路なりにターゲットを変えてくれるかもしれません。

 頑張ってください、信行さま。

 

 まあ、1番頑張らないといけないのは。

 山口親子の次に、武田の相手しないといけない、三河の松平元康。のちの徳川家康ですかねえ……

 山口親子は、尾張から来る武田と、駿河から来る今川の板ばさみ。

 家康は史実どおりに三河で独立したら、清須同盟抜きで、西にも気を配らないといけないし、そのうち武田が来る。

 独立しなかったら、たぶん三河武士が不満度を上昇させて、父親や祖父と同じく家臣による暗殺コース。

 家臣らを説得できたら、しばらくは大丈夫かもしれませんが。それでもやはりいつかは、独立せざるを得ないでしょう。

 

 ……あれ? そういや秀吉はどこでしょう。

 少なくとも、織田家中では見た事が無いんですが。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。