尾張グダグダ戦国記   作:far

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主人公を蒲生家に、蒲生氏郷を見に行かせようとしたら
当時の彼はまだ7歳だったので、断念しました。
わざわざショタを見に六角の六宿老のひとつの家に、面識も無いのに来ました! とか不審者が過ぎるw

六角編は今回と次回で区切りです。

感想で想定してたのと違う史実に気付いて、ちょっと書き直しました。気になる点やツッコミがありましたら、引き続き皆さんお願いします。


【スペシャル】命を懸けて 話をしました【トーク】

 

 私は前回に引き続き、義治の評判を下げて、六角家のグダグダ状態をできるだけ長く維持するために、六角家重臣の家々を回っていました。

 観音寺城での暗殺の現場で何があったかの報告(報告とは言っていない)と、六角親子の悪口で盛り上がるだけの、簡単なお仕事です。

 

 特に平井家では、意外なまでに歓迎されて宴まで開いてくれました。

 平井家は、娘さんを浅井長政に正室として嫁がせた家ですね。

 

 『六角家相手に戦うぜ!』って決意した長政に、離縁されて突っ返されましたが。

 一説によると、息子まで生んでたらしいのに。

 

 そりゃあ平井家の立場からすれば『舐めんな』の一言でしょう。

 それで戦になったのは望むところだったでしょうが、それで六角家が負けちゃいましたからねえ。

 『頼りねーな』と六角家に失望していたのではないでしょうか。

 

 そこに今回の観音寺騒動です。

 六角親子の追放の知らせに、フィーバーしちゃったのも仕方が無いかなって。

 六角親子追放と一緒に、溜まりに溜まっていた、色んなストレスも放出しちゃったんじゃないでしょうか。

 

 なお史実では、この平井家の方々の消息は、不明です。

 

 信長さん侵攻時に、他の家々と一緒に降ったのはわかっていますが、その後がサッパリなのです。

 突然の病か事故かで死亡したのか、出家して以降俗世に関わらなかったのか。

 

 個人的には、浅井長政が自分の娘は離縁したのに、織田家と敵対してもお市の(かた)とは離縁せずにギリギリまで一緒だったのにガチギレして、攻めすぎての戦死じゃないかなって。

 

 そんな可哀想な平井さんの家での宴で、酒が入った私はつい喋りすぎてしまったらしいですね。

 あるいは状況証拠から、なんらかの推理でもしたんでしょうか。

 

 次の日に訪ねた、蒲生家。

 そこで私は屋敷に通された後に、刀を持った家臣たちに包囲されて、当主の蒲生賢秀に詰問を受ける事になってしまいました。

 

 奥の部屋まで通されて、家の主人と相対したところで、フスマがバタンバタンと開いて、家臣がズラリ。

 時代劇でよく見るシーンですねえ。

 

 内心、そんな事を考えましたが、別に余裕があるわけでもありません。

 ただの現実逃避です。

 

「正直に答えよ。お前は、将軍暗殺をもくろむ、不忠のヤカラであるな?」

 

 あれ、そこまで話した覚えは無いんですけど。

 『甲賀忍者を雇いたい、特に杉谷っていう家の鉄砲打ちを』とは言いましたが。

 あとはちょっと『鷹狩りっていいよね』とか『私は弓の腕だけは自慢できる』とか。

 将軍とか、その将軍の居る朽木とか、クリティカルなワードは出した覚えが無いのですが。

 どうしてそういう結論になったのでしょう?

 

 当たっているから困りますが。

 

 さて。

 ここからどうしましょうか。

 とは言え取れる手段など、武力による脱出が無理な以上は、ひとつだけ。

 

 さあ、いつものように唸りをあげろ、我が最強のスキル、言いくるめよ…!

 

「半分だけ当たっていますね。足利の将軍に、忠を誓った覚えも、尽くす価値もありませんから」

 

 ザワッ… と、周囲の方々の感情が動いた音が聞こえた気がしました。

 ここで間を置くと『よし、わかった死ね』と斬られそうなので、畳み掛けます。

 しかし焦った感じを出してしまうと、説得力が落ちるので、そこは気を付けて。

 その余裕を持つために、頭の中で時代劇の勝利確定BGMを流しながら、言葉を発し続けます。

 

「細川や赤松、六角。あるいは大内、尼子。様々な管領や大名に世話になっては、その大名が立場を強めると邪魔に感じて、他の大きな勢力に泣き付く」

「当然、争いが起こる。御所が京にあるから、その争いに京ごと朝廷まで巻き込む。もはや両方荒れ放題とか?」

「戦を調停する、と言いつつゼニを積んだ方の味方なだけ。細川の家督争いなど、応仁の乱にまでなっても調停しない、できない」

「当代の公方さま(将軍)に至っては、たびたび無理な戦を起こしては、負けて六角を頼って逃げてくるとか」

 

「そんな戦国乱世を生むためだけの存在に、どうして忠誠を誓えましょうや」

 

 あっ、周りの圧力が下がった。

 『ワカる~』みたいな、ヌルい空気を感じます。さすがは被害者の家の方々。

 しかし蒲生賢秀はさすがに真面目だったようで、その空気に乗ってくれません。『痛い所を突かれた』みたいな顔はしていますが。

 察するに、彼は六角家という『古い秩序』を守ってきた側の人。言うなれば保守派ですね。

 その彼にとって、将軍家の権威は揺るがしてはならない、というのは語るまでも無い常識だったのでしょう。

 実際、そんな事を言いかけました。

 

「しかし公方さまは公方さまじゃ。秩序のためには従わ…」

 

守れてないでしょ! 秩序を乱す側でしょうアレは!」

 

 なので、勢いで言い負かします。止まるなよ、私の説得スキル。

 

「あなたはこの近江の秩序を守るのに、将軍家とか六角家が必要だと思っているかもしれませんが…… 別に無くても守れます

 

「えっ、いや……」

 

守れます

 

 言い切るのが大事。自信満々に。

 あとはそれっぽい理屈をつければヨシ!

 

「実際に、ここ数年の近江を仕切っていたのは、後藤さまだったでしょう? むしろ義治は邪魔だったのでは?」

 

 あっ、また『痛い所を突かれた』みたいな顔をしてる。

 ならば続けて『くらえっ!』

 

「今回の暗殺騒動で、その六角義治は取り除かれます。残念ながら後藤さまも亡くなられたので、少し混乱はするでしょうが、それでも近江は問題無く回るのです。

 後藤さまの嫡男や、進藤さま、目加田さま、平井さま、お会いした皆さまは、間違いなくそれが出来る方々でした。もちろん、蒲生さま。あなたもです」

 

 よし、理論は分かった。

 『近江を守る』という大義名分のもと、そのためにはむしろ六角親子とかいらなくね?

 その権威の保証になってる将軍も、手放しちゃおうぜ。と持って行けばいいんですね。

 頑張れ、私の弁舌スキル。舌先三寸に命燃やすぜ!

 

「おそらくあなたは、その『いらないもの』を『いるもの』だと考えて、六角義治を呼び戻そうとしてしまうのでしょう?」

 

「……」

 

「やめて下さい。ボロクズになって捨てられた(にしき)を拾ってきても、それはもう輝きませんよ。誰もありがたがりません

 あなたが守りたいのは『六角家の権威』ではありません。この『近江の国の秩序』のはずです」

 

 おっ、ちょっと効いた。『秩序』が蒲生賢秀の説得に効果的なキーワードのようですね。

 

 よし。とりあえず『じゃ、殺そうか』という空気じゃなくなりました。

 でもこのまま帰っても、頭が冷えたら「あれ? アイツ将軍暗殺については何も言ってないぞ」と気付かれるので、そっちもこの場で解決しておかないと。

 とはいえ『美濃の不破さんが舐められたんで殺すって言ってるんですよ~』とか言っても、誰も納得なんてしてくれませんからね。そこは何とか上手く誤魔化さないと。

 

「この近江のために、六角家というボロボロに腐った屋根は取り除かれました。でもまだもう一つ、取り除く、いや取り替えるべき『カヤ』がありますよね? 屋根の上に乗っていた『カヤ』が」

 

「……公方さまの事か」

 

「ええ。あの『カヤ』は屋根と長年同心していましたからね。屋根にとっても、自身を守る壁で、高みに居るために必要なものなのですよ」

 

 例えが過ぎてしまったので、少し説明しますと。

 オノレ細川ー、とかオノレ三好ー、とかやって負けては、六角家の領土の近江の朽木谷に逃げてきていた将軍義輝。

 そんなのでも将軍なので、それを受け入れた六角家は『将軍の守護者!』と畿内にデカいツラを出来ていたわけです。

 

 平たく言うと『家出してきたエラいさんを匿ってる俺んちスゴいだろ!』という感じになります。いやマジで。

 

 この威張っているヤツが六角親子なので『だからお前達、俺のいう事を聞けよ!』と、つながるのがマズいのです。

 

 じゃあそのエラいさんも、消してしまったらいいのでは?

 今までやってきた事を見ると、どの道ロクなヤツじゃないんだし。

 というのが私の提案ですね。

 

 将軍を殺さないメリットは、その多くを六角親子が握っています。ゆえに、殺さないなら六角親子を呼び戻さなければいけません。

 しかし殺すデメリットも、無視はできません。

 史実でその汚名を被ってしまった松永久秀という人は、それをあまり苦にしなかったように見えますが、きっと悪名には苦しんだはずです。たぶん。

 

 松永よりも真面目な蒲生さんは、きっと悪名の重さに耐えられないでしょう。

 それに『近江の秩序』が、悪名の影響で普通に壊れます。

 

 だから、悪名は他の人に着てもらいましょう。

 

犯人は、三好の手のものです

 

「何を……」

 

「そういう事にします。そうしましょう。それで、近江は安泰です」

 

お前は、何を…… 言っている!

 

 あれ、おかしいな。

 即興だけど、いいアイディアだと思ったんですが。

 蒲生賢秀さんが理解できない、おぞましいナニカを見るような目で、こっちを見てるんですが。

 

 あっ、賢秀さんが刀に手を伸ばしてる。

 刀を握った。手に力が込められていく。これは本格的にマズいかも。

 

 これ、どうしたらいいですかね? と横にいる家臣の人の方を向いたら、目を逸らされました。

 うん。とりあえず、君らは襲いかかってこないのね。それはそれで助かるから、それでいいや。

 

 では説得相手が本格的に賢秀さんひとりに絞られた所で、続きと行きますか。

 

「近江の国の秩序を、六角家抜きで保つためには、何が必要かという話ですよ

 六角家に結びついた、義輝を取り除きます。そして、次の将軍となる義輝の弟のどちらかを確保。擁立に動けば……」

 

「将軍家という権威が、我が物に……」

 

 いや、後藤家で確保してもらうつもりだったんですけど。

 実質近江の国を仕切ってた、後藤さまの後継者として、ですね。そのまま立派に六角家の後釜にとか考えていたんですが。

 

 『我が物に』とか言ったぞ、このオッサン。

 いきなり野心むき出しにするな。温度差で風邪引くわ

 

「と、とにかく、六角家がダメになったので、六角家に代わる秩序の担い手が必要になるわけですよ。そのための将軍の代替わりです」

 

「他国人のお前の眼から見ても、六角家では、もういかぬのだな?」

 

 いきなり乗り気になった賢秀さんが、そう確認してきました。

 質問ではなく、確認でした。彼も薄々、六角ではダメなんだろうと分かってはいたようです。

 ただ保守に寄った常識的な思想のために『自分たち家臣で補佐すればいい』とか考えてしまっていたのでしょう。

 看板を付け替えるのも、割と大変ですからね。

 

「はい。六角家に代わる、新たな秩序の守護者が必要なのです」

 

 あっ、なんかこのワード、気に入ったみたいですね。「近江の守護者か…」とか小さく口にしてる。

 周囲の家臣たちも、なんかその気になってますね。「我が家が頂点に…」みたいな下心の発生を感じます。

 

「甲賀衆の協力の下、私は朽木でやるべき事をする予定です。近々将軍が鷹狩りをするようでして、そちらと合わせて上手くいくといいですね。きっと三好家もそう思ってくれるでしょう」

 

「そうか。ところでお前は一体なんなんだ。悪魔か」

 

 正義の味方、と言いたくなりましたが、この言葉もまだこの時代に無いですからねえ。

 確か月光仮面という、昭和の、それも戦後に近いあたりの舞台かテレビの芝居かなんかが出展です。

 でも「織田家の部将です」って言っても、余計にワケわからないでしょうし。

 なんで尾張の人間が、近江六角家でお家騒動にガッツリ関わって、将軍暗殺を企んでるんだ。

 

 いけない。これ以上考えると、身動きが取れなくなる。自分でも『マジで何やってんだ私!』ってなる。というか成りかけてる。

 

「巻き込まれた人間ですよ。そして、問題を見た。それで荒れるだろう、世間を思ってしまった。だから動き出した。ただそれだけの、そう…… 私は通りすがりの、善意の人間です」

 

「フフフ、善意で、将軍を殺すか」

 

 いい感じにキメた! と思ったら、即座に賢秀さんからマジツッコミが。真面目すぎる対応は、やめてくれませんかねえ。

 まあ苦笑してるんで、ただの皮肉なんでしょうけども。

 実際は『ただの依頼』と『官位を得る費用と手間の節約のため』って知ったら、どんな顔をするかなあ。

 

 さて。

 こうして蒲生家を巻き込んだ以上は、後藤家も巻き込むべきですね。

 そして甲賀衆から、もっと本格的な協力を取り付けましょう。

 よく知らない場所で、知らない相手を暗殺するとか難易度が高いのです。義治の時みたいに『ヤッたと思えば人違いでした』とかシャレにならないので。

 

 それに事後に『これも全部三好って家の仕業なんだ!』とあちこちで触れ回ってもらう、情報操作のお仕事も頼みたいですからね。

 

「松永久秀の息子の久通が、朽木で盛んに活動をしている将軍を危険視して、脅すために鉄砲打ちを雇ったらしいぞ」

 

 とかを、実行前日あたりに流してもらってもいいですね。

 やはり義輝殺害の濡れ衣を着せるのなら、松永でないとね。

 あと、現場に残していく『三好家の関係者の家紋入りの小物』とかも用意してもらって。

 

 私個人は、畿内では知名度など無いし、そもそも冷泉さまに五山へと寺格を買いに行ってもらっていますから、それがアリバイのようなもので、犯人ではないと言い逃れできるので必要は無いですが。

 蒲生家などには、身代わりになる犯人は必要になっちゃいましたからね。

 

 さあて。

 焚き付けすぎて、我こそが近江の守護者なり。とか思い始めちゃったっぽい蒲生賢秀さんを、少し正気に戻して。

 『一つの家だけで一国を運営するのはブラックすぎる』という、斉藤家や諏訪家が現在進行形で味わっている悲しみを理解してもらうとしましょうか。

 でないと、独り占めを狙って、後藤家を巻き込むことを許してくれないかもしれませんから。

 

 蒲生さま。蒲生さま。実はまだ少しお話がですね……

 

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