尾張グダグダ戦国記   作:far

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京の都偏、開幕です。
そして構想と試行錯誤と書き溜めに入ります。今までより間が空くか、すぐさまか、どっちかです。



  ❙ 京都編 ❙
【ああしたら】思わぬ死闘と出会い【こうなった】


 

 いやぁ。人生って突然の死ってあるもので、事故というのは無くならないものですよね。

 でも自分に降りかかってくると、どうして? という思いでいっぱいになりますよね。

 まあ、即死とまではいかずとも、生き死にの戦いが突然始まっちゃった私も、そうなりました。

 

 なにがあったかというと ある日 森の中 この単語に続くフレーズです。

 そう、熊ですね。令和でも問題化していましたね。

 裏切りの杉谷善住坊にトドメを刺して、山道を京へと進む途中で、出会ってしまったんですよ。

 

 不意の遭遇で、向こうも驚いていました。そして威嚇して早々に、こちらへと襲い掛かってきたのです。

 

 あの時は、手持ちの武器、道具の何を使うのか。脳内を高速でアイコンが流れていったような感覚を味わいましたね。

 命の危機を感じての、極度の集中力というやつが発揮されていました。

 

 そして選んだのは、山椒玉。

 

 四つ足でリズミカルに、ドスッ ドスッと、体を揺らしながらこちらへと駆けてくるクマの、頭部を狙って。

 『できれば口に入れ』と念じつつシューッ!

 同時にバックステッポォ! そのまま突っ立ってたら噛まれて死ぬ!

 

「グォッ… ガッグシュッ! ガグッ!」

 

 おお、効いてる効いてる。

 効果は胡椒と同じようなものだろう。と、実験してなかったのでやや不安でしたが、ちゃんと効果を発揮していますね。

 この隙に逃げろ、と理性ではなく本能だか感情が叫びますが、却下です。

 ツキノワグマの走行速度は、確か時速40キロ。ママチャリの2倍の速度です。2~3分のハンデ程度じゃあ逃げ切れません。

 

 毒矢が残っていたら良かったのですが、そもそも3本しか用意しなかったし、危ないからって逃げる途中で捨てちゃったんですよねえ。

 まさかここまで切実に必要になるとか、思わないでしょう? でもなんで捨てちゃったんだ自分。

 

 普通の矢じゃ仕留めるのは無理。肋骨が邪魔して、心臓を射抜けない。首や関節も、分厚い毛皮と脂肪と筋肉と、生命力でたぶん耐えられる。

 両目を射抜いたら逃げられるかもしれませんが、今は激しく、不規則に頭部を動かしているからこれも無理。

 

 じゃあ、コレ使うしかないな。

 

 火薬を注いで、鉛球を入れ、また火薬を注いで、棒で押し込む。

 それから、え~っと、確かここを、火蓋でしたっけ。これを開いて、ここにこっちの火薬を入れて。

 フタ閉じて、火。火は…… このヒシャクみたいなヤツの中に…… 火縄に火をつけて、これに挟んで……

 

 思い出せ。思い出せ。使った事がないけど、使っているのは何度か見た。

 火縄銃の使い方を、思い出せ。

 

 ははは。命懸かってると、頭の血の巡りが実に良いですね! いっそ爽快ですよ!

 手のほうは緊張と焦りで、プルプル震えるんですけどね。心臓もバックバク言ってますよ。

 

 さて。装填が間に合って、狙って撃って、仕留められたら私の勝ち。

 ダメだったら、この二度目の人生の終了です。

 

 杉谷善住坊から、慰謝料代わりに貰ってきた火縄銃。まさかこれに命を託す事になろうとは……

 アイツが素直に甲賀に帰っていたら、この火縄銃はここに無かったわけで。

 アイツが裏切ったからこそ、こうして生きる目が出てきたとは。塞翁が馬とはこの事ですか。

 

 火縄銃の扱い方を間違えていて、弾が出なかったらアウト。

 威力が低くて、クマが暴れる力が残ってもアウト。

 

 さあ、その結果を出しますか。幸い、装填は間に合いました。

 出来るだけ威力を落とさないために、まだ苦しんでいるクマの、手が届かないギリギリまで近付いて、と。

 

 だんだんクマも動きが落ち着いてきましたね。でも焦るな。撃てるのは一回。

 首に狙いを定めて、当たるタイミングを待て。待つんだ。

 あと即発射じゃなくて、一瞬置いて弾が出るから、そこも忘れるな。

 深呼吸だ。酸素を目に送れ。目を凝らせ。

 

 あとは引き金を引いて……

 

 カチッ

 

「あれ?」

 

 カチッ カチッ

 

 おかしいな。発射されないぞ。

 なんだ。何が違うんだ。何をやってないんだ。

 

 ……って、ああ、火蓋が開いちゃってるじゃないですか。これを閉じて。

 よし、今度こそいっけぇぇ!!

 

 

 ズドン!!

 

 

 

「……ヨシ!」

 

 

 

 いやあ、ツキノワグマは強敵でしたね。いやマジで。

 野生動物、バカに出来ませんねえ。いつもイノシシやらキジやらツグミやらを狩って来てくれている山人さんたち、ありがとう。

 おかげでそれを売って、儲かっています。尾張に帰ったら、ちょっと買い取り料金上げようかな。

 

 ふむ。せっかく仕留めたんだし、何かこいつから剥ぎ取っていきますか。

 全部を持っていくには重すぎて無理だし、急ぐので一部だけになりますが。

 まあ、一番高く売れそうなトコにしますか。でも解体できるかな、これ。武器として使って戦うのを諦めた、刀くらいしかないんですが。

 とりあえず、やってみますか。え~っと多分、この辺を切って。

 

 いや、ひらめいた。腱ももらっていきましょう。これを使えば、弓矢を強化できるはず。

 弓本体は竹を細長く裂いて編んだのを軸に、パーツを組み合わせた戦国後期モデルですが、弦の方は普通の麻糸のままだったと、この間気付いたんですよね。

 これを試しに絹糸に変えたら、それだけで矢の初速が目に見えて違ったんですよ。将軍を苦しむ間もなくあの世に送れたのも、このおかげだと思われます。

 

 で、この腱を細く裂いて、ニカワで纏めて芯にして、絹糸を撒きつけて弦にしたら。

 私の弓は、どこまで届く事ができるんでしょうか?

 ワンチャン、長政の反応を超えられる。かもしれません。

 

 おっといけない。腱だけじゃなくて、こっちもちゃんと取らないと。

 この時代だと、ガチで高級品だったはずですからねえ。

 

 

 

 と、そうやって手に入れたブツを売りつけようと、医者へのツテはないかと、合流した冷泉さまに聞いたところ、堺の半井(なからい)という方を紹介されまして。

 で、丁度京まで来ていた半井さんにアポを取って、売りつけに行ってみると、滅茶苦茶に喜ばれまして。

 

「これであの方が助かるかも知れん! よくぞ持ってきてくれた! 天の助けや!」

 

 とまあ、大変にテンションを上げていらっしゃいました。

 上げすぎて、値段交渉を忘れて、私を連れてその『あの方』とやらの所まで、連れて行かれましたからね。

 それだけ喜んでいる人に「すみませんが、お支払いは……」とも言い出しにくくて、道中では堺や京の最新事情を聞いたりしてましたね。

 それはそれで、必要な情報でしたし。ガイドの冷泉さまも、さすがに離れて数年経っているので、詳しくはないでしょうし。

 

 で、まあ、やっぱり治安は悪いそうです。

 応仁の乱の頃に作られた、町中にある土塁や塀が、必要だからとまだまだ現役で残っている程なんだそうな。

 

「この前も徒党を組んで略奪しに来た、ちょっと遠くの住人らと、地元の自警団が抗争しとったわ」

 

「えっ、それを見物(けんぶつ)してたんですか?」

 

「まさに、見物(みもの)やったで」

 

 おい、医者。それでいいのか、医は仁術の医者。

 終わった後に、自警団の手当てはしてやった? なら、ええか……

 

 三好家と六角家や北畠家らの、数々の戦で燃えた跡や、壊された跡。そういった戦の傷跡も多々残ってはいますが。

 町衆の頑張りで、祇園祭だけは復活したりと、復興の兆しくらいは見えてきているのだそうです。

 

 そこに将軍殺害事件、しかも三好家が犯人っぽいというニュースが入ってきたら、その兆し消えるんじゃないかなあ。

 

 そう思うと、悪い事をした気がして、罪悪感が湧きますね。

 いや、実際、暗殺なので悪い事なんですが。

 

 そんな話をしながら、たどり着いた大きめのお屋敷には、思った以上の大物が寝込んでいました。

 

 三好義興。三好長慶の嫡男が、そこにいました。

 

 三好長慶は、三好家の当主で、今現在の畿内の覇者。つまり天下人で、義興はその正統な後継者なのです。

 

 どっちもそろそろ死にますが。

 

 いや、史実の話です。三好家については、正直元々あまり詳しくない上にうろ覚えですが、長慶の晩年については覚えています。

 支えてくれた弟達や家臣が次々に死んでいき、唯一の後継者だった嫡男までもが亡くなったことで、心身が弱って病に。

 残った安宅冬康だったかいう弟も、謀反の疑いをかけて自分で殺してしまい、それを後悔しながら、重くなった病で亡くなりました。

 まさに病は気から。というか、最期近くの辺りは、うつ病だったんじゃないでしょうか。

 

 一度は天下を取りながら、儚く滅びる、ある意味日本人好みの生き様ですね。

 

 あまりに芸術的に、物語的に滅んだので『これ誰か仕組んだんじゃね?』と思われて、犯人に仕立て上げられた人物がいます。

 松永久秀という、戦国きっての悪人と『かつては』言われた戦国武将です。

 平成を過ぎ、令和に入って再評価が進み『三好長慶には忠実だった』という評価が一般的になってきています。

 

 個性を失ったな。昔のアンタは、もっとギラついていたぜ。

 

 まあ今世では、会った事無いんですけど。

 

 今はどこで何やってるんでしょうか。

 もしも古い説の通りに、三好家から独立してやるぜ! ってスタンスだと、こっちを何かに利用してきそうでイヤなんですが。

 歴史的にはマイナーな存在で、娯楽的にはメジャーで脚色されまくりなんで、人物像がサッパリわからないんですよねえ。

 主君の三好長慶、というか三好家自体が、活動がほぼ畿内と四国で治まっていた事もあって、一般的にはマイナーだから、よくわかりませんし。

 

 より苛烈で分かりやすくて、派手に生きて派手に死んだ上に、全国へ手を伸ばして、戦国時代の終わりへの道を築いた乱世の覇者。

 オマケに殺した光秀の、謀反を起こした動機が謎のままというミステリー要素まで兼ね備えた、日本一のフリー素材。

 そんな歴史的にも娯楽的にも大物な織田信長が、すぐ後に来ちゃったので、仕方が無いと言えば仕方が無いのですが。

 

 しかし嫡男がこうしてまだ生きているという事は、三好長慶も、もう少しは寿命があるんでしょうか。

 嫡男が先に死んでいたのは、間違いが無いので。

 

「いやあ、いい薬が手に入りまして。新鮮な熊の胆ですわ。義興さまは肝の臓の病。これぞ特効薬。きっとすぐ良うなります」

 

 えっ。

 肝臓の病気なの? じゃあワンチャン、本当に治っちゃうじゃん。マズいじゃん。

 

 現代で、私も一時期飲んでいた、え~っと、ウルソデオキシコール、だったかなあ。

 とにかく、肝臓関係のお薬があったんですよ。で、これってどんな薬かといいますと『人工的に合成した熊の胆(くまのい)』なんですよ。

 

 熊の胆は漢方薬の一種で、クマの胆のうを干したヤツですね。

 私がこの間、ゲットしたやつです。

 正確には胆汁に薬効があるのですが、クマの胆汁って、なぜか乾燥させると固まるんですよ。

 上物は、俗に琥珀胆とも言われるような色合いになります。

 

 クマ狩りはだいたい毒を使うせいで、胆のうも使い物にならなくなるので、なかなか手に入りにくくて、代わりにイノシシの肝臓が出回っていたりします。

 しかし色や効能がハッキリ違うらしくて、本物の熊の胆は高く売れるのです。

 だから、回収したわけで。ちょっとでも予算の足しになったらいいな、という軽い気持ちだったのですが。

 

 なんか歴史が予測できない方向に変わりそうなんですけど。

 

 え、待って。ちょっと待って。

 三好家存続ルートとか、聞いてないし望んでないよ? どうなるのか、予想もつかないんだけど。

 

 えっ、なになに。これは、どうすればいいの?

 また暗殺すればいいの? 安易に連打したくないんだけど。そればっかりになると、人生歪みそうだから。

 

 ん~~…… よし。

 

 三好義興。コイツがいいヤツかどうかで、決めようと思います。

 友達になれたら、いいですね。

 

 まあ、まだ助かると決まったわけでもないですけど。

 とりあえず、半井さんから紹介してもらいますかね。

 




ちょっと毛色の違ったところで、だったらイケるぜ!blogという、個人のブログを推してみる。
週刊チャンピオンで長期連載中のバキなどのレヴューをやっているサイトですが、こっち読んだら、マンガを読む必要が無いなってくらい理解できます。
短くギュットまとめてあって、しかもツッコミも解説も入れていてバランスがいい。
まあ肝心のバキはここのところ休載中なんですけどね。でも過去の膨大な分があるから、まあ…
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