尾張グダグダ戦国記   作:far

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ちょっとうろ覚えな知識で仕上げたので、有識者の方がおられましたら
ツッコミお願いします。

そしてまたもや出番を伸ばされるあの人。


【オン】KABUKI【ステージ】

 

「かやうに候ふ者は、加賀の国の住人、富樫の左衛門にて候」

 

 独特の濃い化粧をした役者が、大道具も小道具もない、檜の白木造りの本舞台の上で見得を切る。

 歌舞伎の傑作、勧進帳のオープニングです。

 

 背景やセットが無いのは、仕様です。無駄を省くのをヨシ! とする美意識の、ちょっとした暴走の結果だと思われます。

 まあ、後ろに楽団は控えていて、効果音やらBGMを生演奏してくれていますけども。さすがに、そこは省けなかったようです。

 しかし笙やらツツミやら、小太鼓はありますが、残念ながら、三味線は抜き。

 あるにはあったんですが、まだ京で見るようになって数年の、新しい楽器なんだとか。三味線が最新の楽器とか、時代を感じますね。

 しかもまだ沖縄のサンシンに近いもので、三味線というか蛇皮線でした。

 

 蛇皮の代わりに、狼の皮でも使うか……

 と思ったら、猪や鹿を駆除してくれる益獣で、人によっては信仰対象だったので、止めました。

 犬や猫の皮は、私がイヤなので、三味線を諦めたというわけです。

 あなたがたも、犬猫は好きでしょう?

 

 なおこの室町時代に、歌舞伎の舞台、それも勧進帳などはありません。

 原形はあったみたいですけども。ともあれ今舞台でやっている、私が知っている形の勧進帳は、天保年間以降の歌舞伎十八番のそれです。

 

 天保年間がいつだったのかは、わかりませんが。(注:1831年から1845年です)

 

 まあ、つまりこの歌舞伎は私の仕業というわけです。

 一部の公家たちに『もうな~んも出ぇへんやろ? 田舎モンにしては頑張ったなあ。エライエライ』(意訳)などと舐められそうだったので、ちょっと大掛かりなのを出しました。

 

 ついでに松永久秀とタイマンでお茶会とかは、さすがに怖すぎたので三好長慶さまを巻き込んで、スポンサー兼協力者になってもらいました。

 個人で払うには、コンサートの開催費用は、さすがに大金過ぎます。劇団へのツテも無かったですし。

 

「近頃、遊び心を持った事は? 心の余裕は? 人生に、疲れてはいないでしょうか?

 芸能は、時に心を癒し、心を燃やしてくれます。この試みに、共に挑んでいただけたなら、ひと時、この世の煩わしさを忘れられる事を保証します」

 

 とかテキトーに言って口説きました。

 うつ病から回復したての、ストレス溜まりっぱなしの、日々重圧に苦しむ高い立場のオッサンに『ちょっと逃避できるよ』とそそのかす、簡単なお仕事でしたね。

 

 ちょろいもんだぜ。

 

 さすがに舞台公演のプレゼンはマジを通り越して、ガチでやりましたけどね。

 この時代の主流の能は、あんまり詳しくなかったので、知識にある歌舞伎を流用

 能のプログラムをベースに、歌舞伎の演目を当てはめて、一日通しの大舞台に仕上げました。

 舞台ももちろん、能舞台。背景に色々と無かったのはそのせいです。

 

 花道も無いんですよねえ…… まあ、何とか調整しましたが。

 まず能が1~5番の、コース料理みたいにそれぞれ役割の決まった演目をやるそうなのです。

 五番立てっていうらしいですね。なので、それに合わせて演目をピックアップ。

 

 一番が初番の神。神が主役の、天下泰平や五穀豊穣の祈りがテーマで、統治者であり太平を願うという意味でも武士的にもマスト。

 これは能から受け継がれたであろう、歌舞伎にも能にもあった『高砂』を採用。

 

 一度、能バージョンの高砂を見せてもらいましたが、能らしい、静かで厳かな舞の、これは劇ですね。

 どうも歌舞伎の高砂は、ラストの神が踊る祝いの舞の部分を抜き出して、めでたさを強調したもののようです。

 

 でもそうした方が田舎者のセンスっぽいから、歌舞伎風を採用。

 

 劇団の方々にも『長慶さまには、今は厳かさよりも華やかさ、賑やかさ。活力が湧いてくるようなものが必要なんです』って言ったら、通りました。

 

 この時代のトップ集団なので、ポッと出の若造の指図など、普通は聞いてくれそうに無いのですが、今回は色々ありますから。

 長らくウツ病状態で、お抱えの猿楽集団ではあったものの、ここ数年は新年などの恒例行事を除けば、めっきり出番が無かったとか。

 長慶さまにもし万が一があったら、たぶん存続できなさそう。少なくとも給料とか待遇は絶対落ちる、とか。

 まあ、危機感があったわけですね。

 

 そこに私が長慶さまを動かして、デカい話を持ってきたわけです。さすがのトップ劇団も、配慮くらいはするでしょう。

 

 でも二番の修羅。ここに戦いの場面でもあるからって『義経千本桜』を持ってきたら、ちょっと困惑されましたが。

 

 というのも修羅といいつつ、これがむしろ幽霊というニュアンスに近いんですね。悲しみ、無常を、戦の犠牲者や幽霊を使って表現します。

 信長さんの十八番、敦盛もここです。人間五十年 下天のうちをくらぶれば 夢幻の如くなり ってアレです。

 

 義経千本桜は、舞とか関係なく、ガッツリ演劇ですからねえ。狐が出てきて神通力で助けてくれたりしますし。

 

 でも、やってもらいました。話のスジだけ守ってもらえば、やりやすいようにやってくれていいんで、頑張って。

 

 ここまで来ると三番の女・蔓に、能では四番に持ってくるらしい安珍・清姫伝説の『道成寺』を採用しても、ちょっとの動揺で済みました。適応早いですね。

 またここからは、仕事を片付けた、長慶さまも参加です。

 

 ダンス、もとい舞を三番のテーマである優雅さ、華やかさに加えて、心情の表現と、早着替えなどの演出で豪華絢爛にまで持っていきます。

 

「畿内にお住まいの方がやらかしたとしたら、許されない事でも、私なら大目に見られます。所詮は尾張から来た余所者ですのでね。だから、この際です。

 好き放題、やってもいいんですよ

 

 伝統とか、しがらみとか、やりたいけど客や世間や特定団体や特定個人の反応が怖いとか。

 そんなあれこれで封じられていた、表現者のカセを、解き放ってみました。

 

「おい! あの衣装どこやった! 処分してねぇだろうな!」

「面! 勝手に作って怒られた、独自のやつ! これも使っていいのか!?」

「ワシも出ても、かまわんのだな!」

「品が無いとか言われて、引っ込めてたあれもやっていいの!?」

 

 かまわん。やれ。

 でも長慶さまの出演だけは、ちょっと相談しましょうね。

 

 四番は狂乱、雑。雑はその他とか色々という意味でしょうか。

 激しい感情の人間ドラマ。ということで『仮名手本忠臣蔵』を、室町時代でも通じるように魔改造しての採用です。

 色々スケールダウンして、赤穂藩じゃなくて赤穂家にして、幕府も徳川家、はちょっとマズいから、松平と混ぜて松川家にしますか。

 ついでにあの人も、ちゃんと名君にしておきましょう。

 

 朝廷からの正式な使者を接待中、江戸城内の本丸の松の廊下で、刀を抜いて、高家筆頭の、老人相手に、後ろから斬りかかって、仕留められずに、即座に切腹もしなかった。

 

 武士的に判定すると、1行動で8アウトという逆ミラクルをカマした人の敵討ちとか、この時代の武士相手には、共感を得られない気しかしないので。

 しかもその接待役だったのが自分。というのも含めれば9アウト。1人で3イニングを終わらせられますからねえ。

 

 長慶さまが『おのおの方、討ち入りでござる』って言いたいから、大石役をやる。とか言い出して、少し困りましたが『次にもっといい役ありますから!』と説得して、回避しました。

 

 偉いさんの屋敷に討ち入る三好長慶とか、劇は劇でも劇薬ですよ。

 心当たりのある公家とかが、変な反応しそうですからね。さすがに大事過ぎますからね。

 私のポッケに入りきらない嵐は、起こさないで下さい。

 

 ラストの五番は切能、鬼。天狗や鬼神が主役の、派手なシメの舞ですね。歌舞伎では荒事といいます。

 ここに『勧進帳』を持ってきました。学校の教科書によっては、載っていたりする、後世の一般の知名度も高めのヤツです。

 

 これも能に元ネタがありましたが。

 

 阿宅って名前で、これも見せてもらいましたが、やっぱり能らしく動きが少なくて、重厚な雰囲気重視。セリフというか、謡で心理描写を作り上げる劇でした。

 う~ん、重い。

 

 長唱と明るい演奏で、華やかな歌舞伎風で行きます。

 でないと出演決定しちゃってる長慶さまが、また病みますわこれ。

 

「というわけで、長慶さまには弁慶に扮していただきます」

 

「ほう。阿宅の弁慶とは、どう変わるのだ?」

 

 あっ、良かった。好印象っぽいですね。

 弁慶は義経を打ちすえた後に富樫に酒を勧められて、力強く舞うのがクライマックスなので、さっそくその稽古に入ってもらいましょう。

 体を動かせば、精神も少し回復するのは、確か医学的に証明されていたはず。

 『筋トレでもやっとけ』というウツ病対策が、まさか効果あったとは! と驚いた記憶がありますから、たぶん合ってる。

 まあ、それで誰でも回復ってほどの万能さは、もちろん無いわけですが。

 

 さて勧進帳のあらすじです。

 東北へと逃亡中の義経と弁慶が、関所で怪しまれて『お前が義経に似てるから、毎度迷惑だ』と弁慶が杖で義経を打つ。

 しかし涙ながらにやってるのでバレバレで、関所の役人の富樫さんが『確実に手配犯だけど、これ捕まえるとか、人としてどうなん?』とスゲー困って、悩んだ上で見逃すというものですが。

 

 歌舞伎風にすると、弁慶が結構ノリノリで打ちまくって、一杯引っ掛けて、華麗な舞まで披露して花道に消えていくというようにも見えるけど、大丈夫かなあ?

 

 まあ、それを見た松永久秀が驚きそうだから、いいか……

 

 

 

 と、そんな感じで京ででっち上げて、ここ大和へと持ってきた、劇団 金春(こんぱる)禅曲と私の能舞台は無事に終了しました。

 

 いや、無事かなあ。

 

 無事故ではあったから、無事でいいかな。

 一部の公家たちが『認めん! これは能とは認めんぞぉー!』とか騒いでいましたが、まあ能のフリした歌舞伎なんで、合ってるんですよねえ。

 外連味(けれんみ)と言って、邪道というか、『本道ではない、見た目重視の奇抜な出来栄え』が、歌舞伎の本道なので……

 そのエッセンスをたっぷり混ぜちゃった今回の能会は、能なのかと言われると、はい。

 

 ちょっと自信がないかなって。

 

 でもだからこそ気に入っちゃった人も、そこそこいますし。

 幸いその中にリアクション王の四条さんがいたので、こっちで何もしなくても、文句言ってる公家らを押し切れそうだからセーフで。

 

「寿ぎより始まり、武の無常を知り、優美な舞を披露し、人間の葛藤を見つめ、最後は忠実な力強い英雄で終わる。実に良き舞台ではありませぬか!」

 

「いや、能としてはどうかっちゅう話で」

 

「素晴らしき演劇であった。それで良いのでは?」

 

 あっ、実は四条さんも能としては違うなって思ってるのね。

 香川県の人が、全国展開してるチェーン店の讃岐うどんを食べて『讃岐うどんじゃないけど、これはこれで美味しい』って言ってるのに近い感じを受けましたよ。

 

 さて。そろそろあの弁慶の中の人が誰だったかを、こっそりリークしましょうかね。

 濃すぎる化粧で、誰だか解かってなかったみたいですからね。

 まさか天下人が企画段階から関わって、自ら出演までした舞台を、現場で即座にけなす度胸がある人物とか、いないでしょうからねえ。

 

 いたら面白い事になるかなって、少し様子を見ていたので、少し残念です。

 

 さて。

 

「松永弾正少弼さま」

 

 公家らの言い争いを収めて、近くでそれを見物していた五十がらみの男へ声をかけました。

 

「まさか招待したよりも早く、それもここまで派手に来られるとは思ってもいなかったよ弾正大疏」

 

 良かった、合ってた。

 実はヤマ勘だったんですよねえ。人違いです、とかだったらカッコつかない所でした。

 では早速本題に入りますか。

 

「三好長慶さまは、ご覧の通りに復調いたしました。義興さまも同じく」

 

 松永久秀。

 今回、舞台を作り上げる片手間で、彼の事も調べてみました。

 まあ実際に調べたのは甲賀衆ですが。ありがとう甲賀衆と、臨済宗の情報ネット。

 

 出身がなんと、斉藤道三と同じかもしれないそうです。場所は山城の国の西岡。

 道三が、朝廷勤めの武士(北面武士)の子で、出家して還俗して商人になってから、武士という異例のルートを辿っていて。

 松永が商人の子として生まれて、三好家に仕官して武士に、という普通のルートで、年齢も異なるので、知り合いではなかったと思われますが。

 

 どう出世したのかは、実はかなり謎です。ですが長慶さまの秘書ポジの右筆であったのは確かです。

 その後は、将軍の義輝の近くに派遣されたり、義興くんと同じ官位を同時にもらったりと、謎の立場にありました。

 

「お前は何処の、それと誰の家臣なんだ」

 

 この丹羽様のセリフが思い出されますねえ。

 あれ、地味に私のトラウマだったりします。意訳すると『信用できるのかお前は』という問いかけですからねえ。

 

 私の場合は、自分で言うもなんですが、他家で働きすぎ&手柄を上げすぎ。それも複数の家で。という謎ムーブのせいです。

 松永の場合は、出世し過ぎて家臣かどうか怪しくなっているのです。

 

 幕臣の一人として御供衆にまで出世して、義興くんと同僚として出勤する一方。

 一昨年には、その義興くんと一緒に六角家と戦っていたりと、本当に立場が不透明なのです。

 

 そしてその義輝亡き後に、どう動くつもりなのかも不透明です。

 

 松永の今のホームは大和の国で。

 大和の国には、興福寺があって。

 興福寺には、覚慶という名前の坊主がいまして。

 

 その坊主の、史実での後の名前が、足利義昭なのです。

 

「お前は何処の、それと誰の家臣なんだ」

 

 松永久秀は、史実では三好長慶の生きている間は、下克上のそぶりもありませんでしたし、その後継者の義継も見捨てたりはしませんでした。

 しかし足利義輝にも、背いてはいないのです。

 

 三好家連続暗殺犯の容疑と、義輝暗殺犯の疑いはありますが。

 

 大和には筒井家という地元に根ざした大名がいるので、大和を手に入れようとしている松永は、数年の間は大和で戦い続けるでしょう。

 しかしその政治的立場は? 何処に属して、何処を目指すのか?

 選ぶのは三好家か? 足利家か?

 

 さあ、松永弾正少弼さま。

 あなたは私を見定めるつもりで呼んだのでしょうが、私は三好長慶さまを連れてきてしまいましたよ。

 だから、見定められるのは私ではありません。あなたです。

 

 さあ、松永弾正少弼さま。

 あなたと私と、長慶さまとの、三者面談です。

 茶室へ、行きましょうか。

 

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