尾張グダグダ戦国記   作:far

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前話で、それまで戦場や依頼で行っていた殺し、それも暗殺を
誰に言われたでもなく、自分で企画して実行する、という普通の主人公なら闇落ちに当たる行為をした、と思ったのですが

何で皆さん「いつもと違いがわからない」という反応なのかw

あれえ? 風車の弥七が、黄門さまの邪魔になりそうだからって、独断で幕府の大物を暗殺しちゃったようなものですよね?

叩かれなくて安心したけど、なんかちょっとモヤる。


【元ネタは】クビになるまで、なんアウト?【星空までは何マイル】

 

「………………出来うる最上の茶会にしたいので、せめて2日待って下さい」

 

 なんかすごく追い詰められた顔をしていた松永久秀サンが、搾り出すように出した言葉がこれでした。

 やれやれ、あなたにはガッカリですよ。

 松永久秀。アンタはカッコいいヤツだと思ってた。会った事なかったけど

 

「いや、無理に抜け出してきたので、それではワシの都合がつかんな。明日だ。弾正の最上の茶会に興味はあるが」

 

 惜しかったですねえ。長慶さまの都合さえついたなら、その時間稼ぎ、通ったかもしれないのに。

 一日がかりの能(歌舞伎?)が終わったところなので、すでに日も落ちていますから、明日に伸びたのもほぼ無意味ですね。

 まあどの道、私が封じてましたけど。

 

「いえいえ、その場で、その人の考えうる限り。できるだけの事をすれば良いのです。それが客を持て成すという事でしょう」

 

 このどこかで聞いたような、それっぽい理論で。

 それに加えて。

 

「松永さまは築城の名手と聞きます。信貴山城には、見事な天守と、茶室があると評判です。この多聞山城にも、さぞ見事な茶室があるのでしょう?」

 

 誉めて、煽る。京に来てから、公家らにさんざんやられてきた手法です。

 おっと、いけない。『なかなかお見事ですなあ』という、あの持って回った都ことばの幻聴が……

 

 京から約50km。徒歩で一日がかりで、自動車だったら1時間とちょっと。

 多聞山に造られたこの城は、松永サンが大和支配のために建築した、実際すごいお城なのです。

 

 未完成ですが。

 

 正確には改築中ですね。

 石垣やら土台はできていますし、外装にも取り掛かっているので、来年あたりには完成しそうですね。

 『ええっ、そんな状態でお茶会を!?』という無茶ブリを、松永サンは仕掛けられてしまっているわけです。

 

 嫌がらせです。

 

 無論、ただの嫌がらせではありません。

 『こちらはお前を疑っているんだぞ。性根を据えて返答せえよ』という、長慶さまからのメッセージです。

 なのでもし、ここで適当にお茶を濁しちゃった場合は……

 討伐軍でも、そのうち差し向けられるんじゃないですかねえ。

 

 なおこの多聞山城、すごい場所に建てられていまして。

 すぐ西のお隣に、古墳があるんですよ。もう、接してるくらいに。

 

 聖武天皇と光明皇后の陵墓です。

 

 しかも、曲輪(くるわ)に取り込んでいて、ガッツリ防衛施設として利用しちゃっています。

 さらに多聞山は、南東に東大寺、南に興福寺を見下ろす位置にありまして。

 オマケに、石垣などの石材を、そのへんから石仏や墓石を持ってきて使っちゃいまして。

 

 大和の国は、現在では奈良県になっていまして、昔から仏教など宗教勢力の強い土地柄でした。

 それを全部纏めて敵に回す、とんでもない所業だったわけですね。

 

 承知の上での事でしょう。だって松永久秀ですから。

 その程度のリアクションは、普通に読めていたでしょう。

 

 でも造りたかったんでしょうねえ……

 

 ぼくのかんがえたカッコイイおしろ

 もう、造りたくて造りたくて、仕方が無かったんでしょう。

 

 屋根は板ではなく、瓦葺き。壁は漆喰塗りの真っ白な土壁。そしてこの地の名をとって多聞櫓と呼ばれるようになった、連立した長屋状の櫓。

 これらを日本で初めて採用した、軍事的に見ても当時最先端の城であり。

 

 同時に、凝った茶室があるのはもちろん、狩野派の絵師らに絵を描かせ、金細工師にも装飾をさせた、安土桃山時代屈指の豪華絢爛な城でもありました。

 

 信長さんに『この城エエな。デザインパクッて安土城にしたろ。パクリ元ってバレるとイヤだから徹底的に壊せ!』と闇に葬られましたが。

 それが逆に幻の城として、名前が残る結果になったりするので、歴史は面白いですね。

 

 ですが今はその城も、絵もなく装飾も無く、白い壁も無い、化粧前。

 さあ、こんな状況で松永久秀は、どんな茶会を見せてくれる?

 

 

 

 改装中だからか。壁が一時的に取り払われて、吹きさらしになった、四階建ての矢倉の最上階。

 舞台のようなその場所に、野点のように赤い毛氈が敷かれて。私と長慶さまが座る前で、松永サンが炭を組み、茶釜で湯を沸かしている。

 その手つきは滑らかで優しさを感じさせるもので、ついこの間の圧迫茶会で出会った、堺の三宗匠を思い出させます。

 

 真夏だというのに、山の上の、更に建物の上だからか、風が涼やかで心地いいですね。

 さえぎるものが無い風景も、強いけれども激しくは感じない日の光も、不思議と『ひとつの場』になって、心を落ち着かせてくれています。

 おや。湯が沸いたようですね。

 

 あれが、平蜘蛛か。

 

 よほど熱心に見つめていたように見えたのか、松永サンが『これはやらんぞ』と軽く視線で釘を刺してきました。

 やはり執着はあるようです。これは自爆伝説達成、ワンチャンありますね。

 

 そして私でも知っている茶碗、黒くて中に光るツブがいっぱいの茶碗に抹茶と湯を注ぎ、茶を点てて、まずは長慶さまへと差し出されました。

 

 あの茶碗、曜変天目茶碗といいまして、令和では世界で3つしか現存していないシロモノ。

 中国原産なのに、さすがに所有者は別々ですが、なぜか3つとも日本にあったはず。

 

 いや、あの大陸の文化じゃ、古い物は残らなかっただけか……

 

 それはさて置き、この茶碗はもしや4つ目じゃないですかね。

 本来の歴史だと、松永サンや平蜘蛛とともに、炎の中に消えた茶道具の一つ。

 どうせなくなるなら……

 

「それも渡しませぬぞ」

 

 あっ、今度は口に出して言われた。

 長慶さまも苦笑いしてる。そんなに物欲しそうでしたか?

 

「獲物を前にした、狼のような顔だったぞ」

 

「意外と、顔に出るのだな」

 

 松永サンも苦笑いして、少し場の空気が緩んだところで、長慶さまがおもむろに問いかけました。

 

「弾正。お前はまだ、三好家の、ワシの家臣と思っていいのか

 

 晴天に恵まれていたはずの空が、陰ったような気がしました。

 スゥッ… と明るさが落ちて、山の上なので涼しかった風も、止まったように感じさせられました。

 細川家の配下から、天下を差配するまでになった男の気迫が、そうさせていました。

 

 ある程度、長慶さまの近くにいたので解かります。これは気力を振り絞って、無理をしているのです。

 打ち合わせでは、ここまで本気で問い詰めるとは言っていませんでしたが、おそらくは松永サンのためでしょう。

 

 だって現状既に、詰んでますからねえ。

 

 せめてそっちから頭を下げて来い。そうすれば結果はまだマシになるから。早くしろっ。手遅れになるぞ弾正ゥー!

 

 という長慶さまの心の声が聞こえるようです。

 私には。

 松永サンには聞こえているんでしょうか。届いているんでしょうか。

 

「長慶公、ワシは、ワシは……」

 

 あっ、聞こえてないわ

 

 これは独立したい野心がありましたねえ。それでいて、長慶さまへの忠誠心も、情も捨て切れなかったって所ですか。

 長慶公という、公的な場所では使えない呼び方も、それを表していますね。

 茶室、ではありませんが、茶会という私的な場だからこそ、情が強く出てしまった、という感じですかねえ。

 

 さて。ネタばらしと行きますか。

 私には茶が出てこないようなので、飲み物は自前のを出します。

 京で腕のいい職人さんと出会えたので、特注して造ってもらった、真鍮のスキットルボトルです。

 尾張でも飯ごうは造ってもらえたんですが、スキットルボトルは、そんな小さいの嫌だって断られちゃったんですよ。

 

 中身は私の好きな蕎麦焼酎です。

 単に私が飲みたいから、加藤さんに運んでもらう荷物に小さな樽で入れておいたんですよ。

 

 そしてグイッと飲んだら、それを長慶さまにパス。

 

 長慶さまも、それを無言でくいっと傾けます。

 この先はシラフじゃ、あの人にはキツいだろうという気遣いです。ここも、もちろん打ち合わせ通り。

 

「どうですか。苦悩する弾正少弼さまをサカナにしての一杯は」

 

意外と、悪くない。自分でも本当に意外なのだがな」

 

 あれ、思ったより図太い反応ですね?

 昨日の能で、精神も少し回復してるんですかね?

 まあ、いい事なので置いておいて。『あれ、流れ変わった?』と驚いている松永サンに色々と解説いたしましょうか。

 

「幕臣として地位を高め、影響力を増してきた松永弾正少弼さまには言い難い事ですが――――足利の幕府、もう終わります

 

「なっ!?」

 

 いきなりの奇襲に驚きながらも、反論しようとする松永サン。

 ですがそれも打ち合わせの中での想定内。『ですが覚慶さまが』とか言い出す前に、先回りします。

 

「終わるのは足利の、です。幕府は続きますよ。執権の、三好家のもとでね」

 

 鎌倉幕府もそうでした。頼朝の跡継ぎ達がアカン方々だったので、北条氏が仕切るようになりました。

 特に領地とかないけど、政治できるし公平に揉め事を裁いてくれるから。と上に置かれた鎌倉の将軍でしたが、二代目がいきなり身内びいきして廃嫡からの暗殺コースをキメまして。

 三代目はそれ以前の問題で、北条氏らが政治やるなら俺は和歌に生きる! と放り出して、なんやかんやで甥っ子に刺されて死んで、お家断絶

 

 そして足利氏も、だいたいアカン方々が 多く を占めています

 そんな代々やらかしてきた家に、重要な役職を預け続けるとか、普通は無いでしょう?

 子供が出来たから、そいつに任せて俺は隠居する! 子供が年齢ひとケタ? イケるイケる! とか。

 父の義満が最高だったって? 知るか全否定してやる! 日明貿易も政策も全部無しだ! なお代わりの政策も後継者も決めずに早死に。とか。

 嫁と弟で後継者問題起きちゃって、応仁の乱 になったけど、私は元気です。銀閣造るよ! とか。

 

 もうなんアウト目か、わかんないんですよ。

 しかもこの先も、後継者なんて決めずに死んだから、残った弟同士でまた戦乱のタネになるのがほぼ確定しています。

 

「もう足利、クビで良くないですか?」

 

 官位の手続き中に、話の流れでポロッと言っちゃったんですよね。

 それが義輝と直接親交があった山科言継卿が相手だったんで、問い詰められちゃいまして。

 仕方なしに、上記の理由を述べまして。

 

「大事なお役目を代々任されて、何代もそれをしくじっても、公家ってお咎めなしで、お役目を外されないんですか?」

 

 と、わざと素直で素朴な目で聞いてみたら、ぽかーんとした顔をしていましたね。

 あれは『その発想は無かった』って顔です、たぶん。

 

 それで話が転がって。公家の上のほう、公卿らの間でもだいたい『確かに……』という空気にはなったのですが。

 『だが代わりがおらんじゃろ』と、二条晴良を中心に、保守派が粘っていたそうです。

 

 そこに三好長慶、突然の復活。

 

 ついでに二条晴良、突然の死。

 

 じゃあもう執権・三好家でいいか。ちゃんと後継者もいるし。しかもひとりだけなんで、誰が継ぐかで揉めない。

 

「という流れに、京ではなっているんですよ。ああ、将軍家は存続はしますよ? お飾りとして。京にも入れませんが。預かりは近江の蒲生家です」

 

 はい。蒲生家とも話がつきました

 

 彼らも近江統治の権威が欲しいだけで、上洛して天下に号令だ! ヒノモト全部面倒見てやるぜ! というガッツがあるわけではありません。

 むしろそんな終わらないブラック労働はイヤです。

 そこで将軍は将軍でも、権威だけで権力が無い『口出しされても聞き流すだけでいい』都合のいい『お飾りになった将軍』を手に入れる事で合意したわけです。

 

 これで『次期将軍を手に入れて、近江も手に入れる』という蒲生賢秀に吹き込んだ策も成立です。

 

 ヨシ!

 

 丹後とか丹波とか若狭とか、根来とか雑賀衆とか本願寺とか日蓮宗とか、まだまだ畿内に火種や問題が とありますが。

 それはまあ、ボチボチ頑張って解決してもらうとしまして。

 

「そういうわけです。もはや、執権三好家の下で、働くしか道が残っていないと思うのですが。

 まだ打つ手はありますか? 弾正少弼さま」

 

 ドヤ顔になりそうな表情筋を極力抑えながら、私はチェック・メイトのつもりで宣言したのですが。

 しかしここでさすがは梟雄、松永久秀。『参りました』ではなく、反撃をしてきました。

 

 改めて茶を点て、私に渡しながら。キッ! と目つきを鋭くして、語りだします。

 

「……長慶公の天下太平への御意図、ワシを救おうという御心。この弾正、しかと承りました。そして、弾正大疏(だいさかん)殿の周到な準備も、な」

 

 だいたいその場のノリと成り行きだったんですけどね。

 

「和田是政を追い落とすため、公方様の遺品を盗み出させ、それを売り払う。まこと手慣れた仕事よ。

 誰が、そう仕立て上げたか。誰が、京で『タタリ』を起こしたか。ワシは知らぬ。知ろうとも思わぬ」

 

 おお、一晩でタタリの事も調べていましたか。まあ、状況証拠しかないので、どうにもできないでしょうけども。

 和田是政の件は、深堀りすると、たぶん立証できちゃうかなあ……

 ワイロとして、遺品を権力者にバラまいて『みんな共犯、もといオトモダチ』作戦が進めば、バレても大丈夫になりますが。まだ渡す相手を慎重に吟味中なんですよねえ。

 

 まあ、バレても実行した三雲家が叩かれるだけで止まるから、ええか……

 

「長慶公、ワシは御屋形様ともあろう者が、このような若輩者の策を鵜呑みになさるとは、思ってもおりませんでした。それがワシの最大の誤算でございます」

 

「いや、ワシも聞いておらなんだぞ」

 

「えっ」

 

 ふっ、驚いていますね。まさかこれほど大きく動いておいて、全部独断専行で、報告は後回し事後承諾とは思うまい。

 尾張じゃ日常茶飯事だぜ!

 

「私はそもそも、三好家の家臣ですらありませんからね。全部自力で整えましたよ」

 

いや、それでも途中で報告はしろ。一度に色々と情報を流されても困惑するわ」

 

 あっ、これマジでちょっと根に持たれてる。

 こめかみに血管が浮き出ていますよ、長慶さま。

 それと恐ろしいものを見るような目で見るなよ、松永サン。アンタはもっとカッコ良くあってくれ。

 

「長慶公。コヤツ、まさか抱え込むおつもりですか? お勧めはしませんぞ」

 

「安心しろ。驚くべき事に、ちゃんと尾張に飼い主がいるそうだ」

 

 誰が手におえない狂犬ですか。

 

「…………ハァ。なにやら、どっと気が抜けましたな」

 

 ズズー……

 私に渡したはずの茶を、取り返して自分で飲み干すと、毒気の抜けた顔になった松永サンはこう言いました。

 

「隠居したら、ダメですか?」

 

ダメだ逃がさん、お前だけは

 

 そして即座に、長慶さまに否定されていました。

 『ひとりだけ楽にはさせねぇぜ』という、この間、美濃で私が半兵衛どのに強く思ったアレですね。ええ、全く同じやつです。

 

 ひとりだけ先に成仏しようとする仲間の足を、つかんで離さないゾンビみたいな……

 

 まあこの分なら、松永サンは長慶さまの家臣でいてくれるでしょう。

 これで畿内も、だいたいは片付きましたかね。

 

 さて。

 

 松永サン、私のお茶、まだ?

 




小説家になろう より、古寺谷 雉 氏の 項羽と劉邦、あと田中 を推してみる
感想欄で、縦横家の単語を目にしまして。
古代中華にタイムスリップした、日本のサラリーマンの田中さん。しかし幸運な事に彼はいいハンコを持っていました。田中。デン・チュウと勘違いされて、王族の田一族に拾ってもらえます。
国は滅んでましたが。ここは秦が統一して、まだ国が安定していない最初期の頃だったのです。
という所からスタートして、主に口先で生きていこうと縦横家を目指して、田家を出て他所で功績を立てようと、項羽の叔父の下にいる頃の劉邦について奮闘中。
というところまで漫画化が進んでいますね。出版+コミカライズで止まっていますが、それでも159話まであります。
大丈夫。ウチの子と違って、性根はまっすぐないい子だから…
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