【せまる】さあ自宅に出勤だ【衝撃】
「え~っと、ここでこうなって、そうなるとここはこれだけかかって」
はい。久しぶりに綿密な計画を立てている私です。
いや、別に物騒な話ではなくて。
ウソだっ! とか言わないで下さいな。とらすと・みー。
あっ、そういえばこの『とらすと・みー』、ちょっと京で流行りました。
刀を少し抜いて、すぐ納めてチンッと鳴らす、何かを誓う時の
武士以外にも、娘さんたちなら鏡やかんざし、坊主なら手持ちの風鈴みたいな
こないだ松永サンも使っていましたが、歌舞伎の見得のポーズをちゃっかり取り入れて、そこから大きく刀を抜いて戻し。
ツバも何かいじったのか、やたらいい音させての『トラスト・ミー』をキメてくれました。
発音も良かったので『とらすと・みー』ではなくて『トラスト・ミー』って感じでしたねえ。
元ネタ*1を知っている身からすると、微妙な気持ちにしかなりませんが。
なお金打は、江戸時代からの風習だと思われるので、これも現代知識チートですね。どやぁ。
まあそんな京でのトレンドは置いておいて。計画の話に戻りますと。
旅行計画です。
いや、出張計画かなあ? うん。ほぼ仕事ですし、出張計画ですね。
尾張、美濃、諏訪と回って京に戻ってくる、中部地方一周コースです。
なお期間は、一ヶ月以内 とする。
この時代なので、もちろん山道は徒歩だし、船もそこまで速くないぞ。
最初にこの話を持ってこられた時に『超高速参勤交代』って映画を思い出しましたよ。
ほぼ使えるネタはありませんでしたが。
今回の出張は…… あれ、尾張に帰るのに出張なんですかね? 地元に出張……?
まあ、いいや。今回の出張は、官位を渡す勅使の一行のお供です。
お供の立場ではありますが、一身上の都合で、勅使の一行に高速移動を強いていて、若干肩身が狭かったりします。
でもカネもモノもヒトも色々と動かしているし、毛利家にお呼ばれしているしと、忙しいですからねえ。やむをえないのですよ。
もう私だけ行って来て、官位渡したらダメですかね? とウッカリ聞いちゃいましたよ。
言ってから気付きましたが『アンタらいらなくね?』という大変失礼な提案でした。
勅使のリーダーの観修寺さまは、聞かなかったことにしてくれましたので、セーフです。あとでお詫びのモナカをお渡ししました。
で、まあザックリ計算してみたところですね。なんか、いけそうなんですよ。
この『ひと月で、三国回って官位を渡し、帰ってこれるか?』という、なんかの番組の企画みたいなお仕事を、むしろ短縮できそうです。
まずは回る順番ですね。尾張を最初… というのは、ありえないとして。
悲しい事に、我が織田家はこの中では一番の小物なので……
というわけで美濃斉藤家からになります。私も当初は『美濃の方から来た人』をやっていましたし。
京からはまず淀川と琵琶湖も使いつつ、中山道を行きます。
まだ参勤交代が無いので、未整備ですが原型はありますからね。
整備されていたら、江戸の日本橋から京都の三条大橋までつながる、大街道なんですけどねえ。
まあ、今あっても関所だらけになって、半ば封鎖されちゃいますか。
いや、敵軍が攻め込んでくる危険性があるから、そもそも作れませんね。
やはり戦国の世は終わらせねば。長慶さまと義興くん、もっと頑張って。
お前も頑張れって? 頑張っていいんですか? って前にもありましたね、このやり取り。
それで公家さんたちの移動距離次第ですけど、美濃まで3日。到着した日は休んで、次の日に官位を渡す儀式をやって、その日のうちに出立。
木曽路を諏訪へと向かいます。ここからずっと山道です。
諏訪の方向からですが、一度通ったから分かります。めっちゃ不便です。
関所も多いし。私から短刀カツアゲしたヤツの顔は、まだ覚えていますよアノヤロウ。
途中の遠山さんに、織田と諏訪と斉藤の交易に一枚噛んで力を付けて、関所の特権を独り占めにしたら? と以前にそそのかしましたが。
さて、どうなってますかねえ。一本化してくれたなら、周りの国人衆や寺社や村々が勝手に作りまくるより、はるかにマシなんですが。
やってる事はただのカツアゲで、街道整備すらしていないくせに「先祖代々の利権だ」とか言いやがりますからねえ。
ほな子々孫々ごと無くしたろか……
まあ、そんな黒い感情はしまっておいて。
山道を行くこと、おそらくは一週間。諏訪へと着くわけですが。ここでは美濃とは違い、翌日に儀式して出立。とはいきません。
たぶん、疲れてるでしょうし。どこか温泉でも浸かって、一日じっくり休まないと。
それに諏訪大社もたぶんスルーできません。挨拶か何かあるでしょう。というわけで2日プラスです。
そして尾張へも陸路の山道です。だって使えそうな川が天竜川くらいで、丸太流すならともかく、船や人は無理なんだもん。
木曽川や長良川は使えますが、それらの川は、諏訪からだと木曽山脈の向こう側です。
山越えするくらいなら、素直に歩きますよ。美濃から諏訪までよりは近いですし。
なんと2日も早く着きます。移動に4日間です。
いや、やっぱり辛いですね。ちょっとウソつきました。
そして尾張でなんやかんやしたら、後は船で帰るだけ。京までは3~4日というところだそうです。
何度も往復した、松永久秀の息子の久通さんから聞いたので、確かでしょう。いい船も紹介してもらいました。
合計すると(3+1)+(7+2)+(4+X)+4=21+X日となるわけですね。
一ヶ月よりもだいぶ早く済みます。計算上は。
尾張でどれだけかかるか、わからないのでX日としましたが、余裕は一週間以上あることですし、まあ大丈夫でしょう。(慢心)
とまあ、そんな計算を立てて、今回の旅の友になる公家の方々に提出したら『マジで?』という顔をされたりしつつも、旅立ったわけですが。
最初の美濃で、まず予定が狂いました。
というか美濃に到着する前に、アクシデントがありました。
「ぜひとも、我が歓待を受けていってくだされ」
どこからか話を聞きつけた、 浅井長政 のエントリーだ!
戦場で仕掛けて、仕留められそうになかった事で、私は彼に苦手意識がありますからねえ。
つい、気配を消して、公家の一行と他人の振りをしようとしてしまいましたよ。
踏みとどまりましたが。
天皇の勅使の一行の一員をやっていた方が、どう考えても安全ですからね。
むしろ群れから離れたら危ない。今回の旅にも付いてきてくれた、冷泉さん。離れないでね。
なお場所は、琵琶湖の南端の坂本の町。京から近江への玄関口で、比叡山延暦寺の門前町です。
思いっきり、浅井家と近江勢の係争地ですね。
元は六角家の勢力下でしたが、野良田の戦いで勝った浅井家の勢力が増して、その影響力が少し届くようになってしまった土地です。
こうして堂々と長政が姿を見せているという事は、観音寺騒動からの混乱で、また少し浅井家の影響力が増してしまった感じですかね。
そこに勅使らを歓待するという、ビッグイベントを開いてみせる事で、更なる影響力の強化を狙う。
以前に領内で一揆を起こした一向宗を取り込み、即座に美濃へ捨てた件もそうですが。浅井長政。ただの脳筋武将ではないようです。
見た目は、どこぞの世紀末覇者のくせに。
そしてそんな男に、個別で茶会へ招かれました。
なんでや。リーダーの観修寺さま呼んで下さいよ。まあ、行くしかないんですけど。
公式な使者で、礼を守って歓待されている以上は、こちらも失礼はできないので…… リタイアできない旅の途中なので、仮病も使えないし。
そして地元の商人の茶室を借りて、長政とタイマンでの茶会が始まります。
松永サンの時も思いましたが、茶会ってこんな物騒で緊張感あふれる物でしたっけ?
にじり口を宗易さん(利休)がもう開発してたら、長政はつかえて入れないんじゃ?
壁尻のマッチョマンとか誰得だよ。
普通の入り口から茶室へと入りつつ、浮かんできたそんなアホな考えを捨てて、正座。
湯が沸くのを待ちながら、長政との会話がスタートしました。
「さて。私の事は何処まで知っていますか?」
まず、主導権を取りに動いてみました。先程のアホな考えで、緊張と恐れが取れたようで、いつものように口が勝手に回ります。
いいぞ、言いくるめ技能。その調子だ。
「ああ、肩書きくらいは言いましょうか。従六位下 弾正小忠。織田家家臣で、斉藤家の使者で、諏訪四郎勝頼の盟友で、三好家の与力です」
「お前は何を言っているんだ」
長政は真顔で、即座にそう返してきました。
すごいぞ、普通は思考が止まるのに。
幕臣で、朝倉家家臣で、織田家に出向中です。という一時の明智光秀さんでも、よくわからないのに。
「事実です。近江にも、三河にもツテはありますよ。まあ、複雑な経歴でして。だからお聞きしました。『何処まで知っていますか?』と」
考える間が欲しかったのか、チラリと茶釜に目をやり、まだ湯が沸かないのを見て取って。
茶を点てる代わりに、長政は茶菓子をこちらへと差し出してきました。
「頂戴します。ほう、これは……」
それは茶色で、米粉と甘味料と、ニョッキ=シナモンを混ぜて伸ばして、アンコを包んだ茶菓子。
いわゆる、八つ橋でした。それも昭和に作られたはずの、生八つ橋です。
「近頃、京ではこういった新しいものが、いくつも流行っているようだな」
当然、作らせたのは私です。京都なのに、これがないのは何か違うなって思いまして。
なんで八つ橋って言うんだ? と聞かれて、覚えていなくて答えに困りましたねえ。
八個一組だから。と答えておきましたが『じゃあ、橋ってどこから?』という永遠に解けない謎が生まれてしまいましたよ。
「それだけですか?」
長政は茶菓子ひとつで『お前が京で色々と動いているのを知っている』と示して、マウントを取るつもりだったのでしょう。
しかし、全然、全く、足りていません。その程度で私の 闇 を暴けると思うなよ。
私の経歴は、京での活動だけを見ても、絶対に分かりませんからねえ。
むしろそれ以前が本番です。もし歴史に全部残ったら『これ何人かの行動がゴッチャになってるだろ』と疑われる事請け負いです。
常識的に考えて、オカしいですからね。だいたい全部成り行きですけども。
成り行きで暗殺キメるなって? それはそう。
「それなら、それなりのお話をしましょう。交易ですね? 今は薬を出来るだけ広めようとしています。浅井家が協力してくれるというなら、有難いこと」
京での産物というなら、商売かな? と決め打ちで、話を進めます。
ですが、何か言いたげだったので、ちょっと付け足しを。
「ああ、わかっています。京の周辺が安定していないと困る。後ろを気にせず、近江や美濃と殴りあいたい。大丈夫、三好家は浅井家を敵視していません」
「う、うむ」
たじろぐ長政に、更なる追撃を。ここで止まるなと、交渉スキルも言っています。
「六角家を追放した、蒲生家ら近江勢と話がしてみたい、というなら仲介も出来ますが…… どうされますか?」
再び茶釜に視線をやった長政を助けるように、ちょうど茶釜のフタが音を立てて、湯が沸いたのを知らせます。
そして無言で茶碗に抹茶を入れ、湯を注いで、やたら丁寧に茶を点てた長政は、まず姿勢を正しました。
それからフタの開いた茶釜の湯気の向こうから、こちらをまっすぐな目で見て、こんな事を言いました。
「いま一度、戦場にて会えないか?」
ナニイッテンダおめえ。
茶会じゃ逆に分からなくなったから、戦の中で人となりを確かめたい?
……浅井長政。ただの脳筋武将じゃあなかったですが、やっぱり脳筋武将ではあったようです。
まあ、いいですけどね。どうせ朝倉家を見捨てられずに、そっちに付くのは史実でわかっているのです。
そして朝倉家が、というか朝倉の当主が、基本引きこもりのくせに、自分より下と思える家が天下取っても従わないで出張ってくるというのも。
だからいずれ、三好政権と浅井・朝倉連合で戦になるのは、わかっているのです。
「では、いずれ戦場にて」
茶室ゆえに刀は持ち込めなかったので、代わりに拳を前に突き出すと。
長政は嬉しげに、爽やかな笑みを浮かべると、同じく拳を突き出してきて、私たちは拳をぶつけ合いました。
でも戦場で出会うって言っても、私の戦い方って、出来るだけ遠くからの狙撃なんですが。
長政殿は、出会っても、私を認識できるかなあ?
そんな突発イベントをこなして、一日余分にかかりましたが、無事美濃に入国しました。
残りの余裕は7日。ちょうど一週間です。
まだ余裕はありますが、変なイベントは起きないでくれよ。
って祈っていたんですけども。むしろフラグになっちゃいましたかねえ。
なんか、 帰蝶さまに結婚を迫られている んですが。
半兵衛どのも19歳のクセに『行き遅れかけた娘を出荷する父親』みたいなムーブを…
え? 9月11日が誕生日だったから、もう20歳? ああ、それはおめでとう。
「まさか官位とは。それも婦の文字の入った、女官の
こんなに惚れ込まれては、もうどうしようもない。いま一度美濃を離れて、嫁入りしてさしあげましょう」
ヤバい。
今だかつてないほどに、追い詰められている焦燥が、身を震わせています。
味方は。味方はどこだ。
半兵衛どのはダメだった。むしろあれも敵だ。
一緒に来た公家衆たちも、ニヤニヤして見物に回ってやがります。あれも使えません。
あっ! 不破さん! 婿候補筆頭(二位は半兵衛)の不破さん! あなたなら……
よし! 不破さんが、帰蝶さまに近付いていきますよ! そして頭を下げて……
「ご結婚、おめでとうございます。どうか今度こそお幸せになって下さい」
違う、そうじゃない。
引き止めろよ! 斉藤家の関係者の、美濃最後の1人だぞ!
あと織田家にひとり男の子が残ってるけどさあ。まだ年齢ヒトケタよ?
しかも不破さんが官位もらっちゃうから、無官のその子の立場、無いよ?
帰蝶さまに官位もらったのって、その辺を考えてでもありますからね?
あと私アルバイト、じゃなかった与力! この後も諏訪、尾張と回って、京に戻るから。
その後も、しばらく京から。もしかしたら何年か帰れないから。
尾張に一応、家は作りましたが、そこで待ってても何も出来ませんよ。
「まあ、ではワタシも京に行けるのですね」
強いな、オイ。
そうだ。この人、戦場で普通に戦えちゃうような人だったわ。
家で大人しくお嫁さんやってるだけの、この時代の普通の姫様じゃなかったわ。
えっ。じゃあ、私、これ、詰んでる…?
だっ、誰か! ここからでも入れる保険を知っている方は、いらっしゃいませんか!?