尾張グダグダ戦国記   作:far

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これでまた書き溜めに戻りますので、しばしお待ちを。
書いて少し寝かすと、変更や書き足しとか思いつくのですよね。


【獄中の】ちょっと文通するだけの話【祈り】

 

 助けて下さい。

 私は、美濃、尾張、諏訪と各地に官位を渡しに行く、公務で旅の途中だったはずです。

 

 それがなんで稲葉山城の一室に、見張りつきで閉じ込められているんでしょうか。

 

「殿方というのは、こういう時には逃げるものでしょう? 知っております」

 

 前回の結婚宣言の直後です。

 この帰蝶さまの言葉に、男衆の全員が目を逸らして、それからすまなそうな顔をして、私を捕まえまして。

 それで適当な部屋にポイッと放り込まれてしまったわけです。

 

 捕まった狩りの獲物の気持ちってこんななんですかねえ。不安で仕方ないんですが。

 

「せめて手紙を書いて、出させてください」

 

 そう要求して、助けを求める(ふみ)を書きました。取り繕う余裕なんか、ありません。

 中身を見られようが、どうでもいいです。現状をつづった手紙を、助けの手を期待できる相手。勝頼さまと丹羽様に出しました。

 

 長慶さま? 長慶さまは、松永サンと組んで、結婚させようと敵に回る確信があります。

 なんなら、祝いの品と使者を送ってきかねません。

 今はまだ帰蝶さまが結婚すると言い張っているだけですが、天下人の承認が付いてしまったら、逃げられないじゃないですか。

 

 何もかもを投げ出して、別人になって東北か九州か、いっそ海外にまで逃げたらイケそうですが。

 さすがにそこまで人生全部を投げ打ってまで結婚キャンセルするのも、しんどいですし。

 

 勝頼さまには現状をストレートに説明する文を。

 丹羽様にはそれに加えて、道三、義龍、龍興と三代続いて美濃の国人衆に認められたので『国主が斉藤家で固定されている』美濃の統治の問題。

 龍興が行方不明()のままだし、帰蝶さまもいなくなったら、美濃の統治の名分はどうなる事か。

 織田家の土豪たちの中にも、絶対に愚か者が出てしまうでしょう。

 

『今や美濃国主の帰蝶さまが織田家に戻った。つまり美濃は織田家の物。さあ手に入れるための軍をあげましょう!』

 

 とか言い出す、織田家の統治限界というか、人手不足っぷりをわかっていない愚か者が。

 あいつら愚か者だから『統治にクソほどの役にも立たないんで参加してない』せいで、どれだけ人手が足らないか、事務方の仕事が大変なのか分かってないんですよ。

 などと、グチっぽくなりながらも問題点を指摘した文を書いて、届けてくれと見張りに渡しました。

 

 なお見張りは知らない人でした。知っている人だと、言いくるめられて逃がすかもしれないからダメだという、半兵衛どのの指示です。

 くそっ、さすが『同類』。分かっていやがります。

 

 そうなると、手紙を出した後は、何もやれる事がなくなりまして。

 見張りの人員は1日に3交代の24時間制で、話しかけても「答えるなと言われております」としか言ってくれませんし。

 

 食事は出てくるので、どうせならと、食べたいものを出してもらうように要求しました。

 それで、お好み焼きが食べたくなりましたが、キャベツとソースが無いんですよね。

 初冬で、いい葉野菜も思いつきませんし。

 

 仕方が無いので、大根の葉と、カブの葉を刻んで代用。それぞれを小麦粉を出汁で溶いた生地に入れて焼いてもらって、食べ比べをしました。

 研究の結果、ネギも加えて、大根の葉5に、カブの葉3、ネギ2のブレンドが至高と決定。

 ソースの代わりにミソを塗って、少しだけ焼いて焦がしたのが私のフェイバリットです。

 いやあ、完成まで3日間。試作を重ねて、食べまくりましたね。満足、満足。

 

 と思っていたら、半兵衛どのが来て、怒られました。

 

「この忙しい時に、自分だけ楽しそうな事を。それも城内を巻き込んで何をしておられるのですか?」

 

 静かにキレていましたねえ。

 でも私は、この部屋から出ていませんし、料理の事以外は誰ともしゃべれていないので、何もしていないはずなのですが。

 

「……ハァ……」

 

 あっ、伝わってないな。

 そう悟った半兵衛どのは、ため息をひとつつくと、事情を解説してくれました。

 私が頼んだお好み焼きの試作の数々は、当然、作った人も味見はします。

 種類がいくつもあったので、試食する人も一人増え、二人増え、と、いつの間にか城内に広まっていて。

 気付けば、具はキノコがいい派とか、塗るミソには味噌溜まりを混ぜるべき派とか、色々と派閥が出来て、楽しそうに対立しているのだとか。

 

「部屋から一歩も出ないで、城内を混乱させるのはやめてくれませんか」

 

「そんなつもりは無かったのですが。ちなみに半兵衛どののお気に入りは?

 

「生地に山芋を擂って混ぜると、美味しいと発見しました」

 

 あなたもしっかり参加してるじゃないですか。

 私の脳裏に、きのこたけのことか、目玉焼きには何をつけるかとか、塩とタレとか、懐かしき前世の終わらない論争が浮かびました。

 

「いいじゃないですか。実に楽しそうで」

 

「いや、確かに楽しくはあるのですが。今、本当に忙しくてですね」

 

 何が忙しいのかは、教えてくれませんでしたし『手伝いましょうか?』と聞いても断られたので、事情が見えてこないんですよねえ。

 いったい何が起こっているのやら。

 

「次の食事にはササガキにしたゴボウと、もやしも生地に入れて、塗るのは濃い目の出汁に米粉を溶いて入れた、アンかけでお願いします」

 

「また派閥が増えそうなものを…… しかし美味しそうなので、私もそれにしましょうか」

 

 しかし5日もここにいて、余裕が無くなっていく公務は、大丈夫なんでしょうか。

 期限まで、余裕があと2日間になってしまいましたよ。

 

 まあ、ひと月以内に帰れなくても、三好家と堺の方々には、代わりにあちらの仕事が増えるだけだからいいんですが。

 毛利家からのご招待は、さすがにすっぽかせないんですよねえ。

 朝廷の公務中なので、いくらでも言い訳は効きますけど、心証がね?

 

 毛利家には中国地方、せめて瀬戸内海に面する山陽方面を統べて、瀬戸内海の流通を守りつつ促進してもらいながら。

 プチプチと少しずつ国人衆を減らしていくという、真の仲間になってもらいたいですから、心証は大事なのです。

 

 あそこは国人衆から大大名になった家。

 それも元就は次男坊で、隠居する父親に連れられて隠居所の城へ行き、9歳(数えで10歳)で父が酒の飲みすぎで死んだ所からスタートした武将。

 

 どうでもいいですけど、戦国時代ってハードモードな年齢ヒトケタ多くないですか?

 

 そしてスタート直後に、家臣の井上元盛という人に城と領地を乗っ取られ、殺されはしませんでしたが追い出されて路頭に迷うのが人生の第一歩でした。

 人呼んで、乞食(こじき)若殿。初期元就さま、人生がマジでハードモード。

 しかも母親もすでに亡くなっていて、そちらも頼れないという。

 

 しかし捨てる神あれば、拾う神あり。哀れに思ったのか、父の側室として隠居所にも付いてきていた杉大方という女性が、義母になって保護してくれました。

 そのまま義母に保護され、元就が15歳の時です。

 

 城を乗っ取っていた井上元盛が『急死』します。

 そして『同じ井上一族の人』や、乗っ取っていた井上さんの『次男』が動いて、城と領地を元就さまに返してくれたそうです。

 なお井上元盛の『死因は不明』です。何も、伝わってはいません。

 

 い、イイハナシダナー。(目逸らし)

 正統な主君への忠誠がうかがえますね。(大本営発表)

 

 まあそんなウサンく、もといキナくさ、いや、いい話は置いておいて。

 

 この後、元就さまは元服して、少輔次郎元就と名乗るようになりました。

 なお急死した人の名前は元盛です。

 しかし『元』という字は毛利家が通字として代々使う漢字なので、ただの偶然です。

 たぶん。

 『就』の字のほうは、京の坊さんに付けてもらったやつです。

 

 京には当時大内義興が軍を率いて上洛、畿内の統治を何年も頑張っていました。

 元就さまの父から家督を継いだ兄も、ずっとそちらへ行っていまして。それが元就さまがボッチになった時も保護に出てこなかった理由ですね。

 それがこの頃にようやく帰ってきて、活動を始めます。

 同じく京から帰って来た大内義興の娘婿だったけど、帰ったら即行離縁して暴れだした安芸武田家の信繁と戦い、破ったりとか。

 

 武田家が裏切って暴れると、むしろ安心しますね。ああ、武田だなって

 甲斐武田が本場ですが、安芸武田もなかなか。若狭武田は、逆に裏切られる方で、家臣にも身内にも同盟相手の朝倉家にも裏切られた、ある意味プロです。

 

 そんな安芸武田家を破った兄ですが、父と同じく酒で死にます。享年24歳。

 京での暮らしで、精神が弱って酒に逃げていた、とも言われています。

 長慶さまもそうでしたが、やっぱり京の暮らしは精神に悪いのでしょう。

 

 むしろ元気になった私や松永サンとかの例外は除いて。

 

 兄の子が2歳なので、後見人として毛利本家の差配もするようになった元就さま。

 ちょっとアレな闇系のニオイもしますが、兄の死は普通に悲しんでいたらしいので、暗殺とかではないと思われます。

 それがポーズで、悲しむフリだったりしなければ。

 

 そして兄が死んだのを好機と見た安芸武田家が、また攻めてきます。

 元就さまは周辺の国人衆をまとめて、迎撃する事になるわけですが。なのですが。

 

 各々が身勝手に、自分の都合や感情を言い合うだけで、グダグダで何も決まらないという通常営業になりまして。

 いまだ上洛中の大内義興からの書状が届くまで、彼らが動く事も、まとまる事もありませんでした。

 多分この時が、元就さまが『国人衆を知った』時なんじゃないでしょうか。

 

 元就さまが21歳の時に大内義興がようやく帰ってきますが、それでも戦いは終わらず。

 安芸武田家もまだ滅びず、帰って来た大内家が領地とした厳島神社のあたりで、不満が爆発して反乱が起き、お隣の出雲から尼子家が攻めてきました。

 

 そして大内家から尼子家にスカウトされて寝返る元就さま。

 

 この時に初陣を飾ったらしい、兄の息子のかつての2歳児、当時9歳児は、戦の後に病に倒れてひっそりと亡くなっています。

 偶然だぞ。

 あまりに早い初陣で、元服前でまだ幼名だったけど、そこに不正は無かったんだ。きっと。

 初陣と言っても、城攻めだし、9歳児は前に出ていないはずなので。

 相手の叔父を寝返らせて落城させるという、元就さまの計略での勝利なので、本当にただ居ただけの初陣だったと思われます。

 元服前なのに連れて行ったのは、元就さまが単独で動いて手柄を上げたり、軍を率いると、兄の子の立場が無くなってしまうからですし。

 

 いちいち胡散臭いのは、まあ、もうここまで来ると 仕様 かなって。

 

 なお尼子家の当主の経久は、相手の叔父を約束を守らず処刑して、戦功第一とした毛利家への褒美もケチったせいで、元就さまに不信感を持たれました。

 この少し後に、家臣たちが腹違いの弟を担いで反乱しようとしましたが、その事件にも尼子家が関わっていた事で、それはより強くなります。

 家臣らの反乱理由は、兄の子が死んだので家督相続した元就さまを不満に思ったからですが、必要になる兵糧や武器、反乱後の後ろ盾など尼子家の支援があったのは明らかでした。

 

 普通に仲が悪化した両家を見て、大内家が毛利家に帰って来いとスカウト。毛利家もこれに乗ります。

 大内義興は喜び、1700貫以上の領地を与えたそうです。

 更に反乱しようとした家臣の家を滅ぼして、直轄領として組み込んで、毛利家は国人衆とは言えないほど大きくなりました。

 

 しかし一部の国人衆は、同格だった時代の感覚のまま、毛利家に接し続けます。

 あれですよ。出世した同期と会った時に、昔と同じ態度で、いやむしろ少し偉そうな態度をわざと取る人、みたいな。

 特に考えがあってやっているわけではなくて、比べてしまうと自分の心にダメージなので、虚勢を張って、勝手に精神的マウントを取って、自分の心を守っているだけです。

 反射で、思考を挟まずにやっているので、損得とかも考えていません。軽く流して、相手にしないのが吉ですね。

 

 舐められたら死ぬ戦国の世では、そうも行きませんが。

 

 そんな感じだった家臣、初期ユニットだった井上一族もこの時期に、完全にではありませんが粛清されています。

 そうではない、生き残るために強者を見極めてコビを売れる家臣や国人衆らを従えて、大内家と共に戦って。

 安芸武田家は滅ぼしたものの、尼子家に大事な戦で負けて、膠着状態に。

 

 そして大内家で大寧寺の変が起こり、陶興房と対立を深めていきます。

 陶興房が『国人領主上がりの、小大名』と、いまだに毛利家を舐めていたからです。

 

 実際、戦になったとして、毛利家が動員できるのは5千人に満たず、大内家が動員できるのは3万人以上なので、間違った見方ではない、とも言えます。

 が、しかし。元就さまは、謀略に親しみ、謀聖と呼ばれた尼子経久を越えて、謀略の神、謀神と呼ばれる戦国武将。

 敵に回してしまうと、すごい事になります。なりました。

 

 おそらくですが。まずは大内配下の吉見氏に、策を授けて反乱を起こさせました。

 証拠はありませんが、タイミングが良すぎたのと、陶興房にしては苦戦しているので、疑いは濃厚です。

 そして思うように行かずイラだっているだろう、その時に毛利家も反乱を起こしました。

 

 激怒した陶興房が差し向けた部下を討ち取り、ますます陶興房を怒らせて。

 そして攻め寄せてきた陶興房の本隊を、とある場所にまで引き込みました。

 

 厳島神社。

 

 その場所へ陶興房が到着した夜、ちょうど嵐がやってきました。

 その嵐の海に船を出し、上陸した4千人の兵で、2万人の陶興房の軍へと奇襲をかけた毛利軍。

 織田信長の桶狭間のように、見事敵軍の将の首、この場合は陶興房の首を取ったそうです。

 

 それから大内派だった国人衆の領地を取ったり、陶興房の方が勢力が大きいし、と毛利家に敵対していた家を滅ぼしたりして安芸の国を地固めして。

 かつて大内義興と取れなかった石見の国を取り、尼子家相手にも有利に戦い、九州大友家にすら手を出している。

 

 そして元就さまは66歳。史実の寿命までは、たぶんあと10年もありません。(あと8年です)

 その長い人生で、国人衆とイヤというほど関わってこざるを得なかった人です。

 『政権安定させて、安心して国人衆をツブせるようになろうぜ!』という提案に、きっと良い返事をくれると思います。

 

 そんな毛利家との、最初の印象が決まる会談に、このままだと間に合いません。

 だから早く来て助けて下さい。勝頼さま、丹羽様。

 

 そんな祈りが届いたのか、手紙の返信が届けられました。

 良かった、ちゃんと手紙は出してくれていたんだ。しかも5日で諏訪と美濃を往復とは、早馬でも使ってくれたんでしょうか。

 妨害どころか、望外のお手伝いですよ、ありがたいですね。

 無言の見張りさんから手紙を受け取り、いそいそと開いてみましたところ。

 

恐々謹言 ご結婚の由、至極に存じ候 めでたく存じ候 間、早々在所へ参上つかまつるべく候

 別して祝儀の品を準備いたし候 御落着の程 楽しみに待ち候 恐惶謹言

 

(意訳:結婚するのか。ええやん。すぐそっち行くわ。祝いの品を楽しみに待っとき)

 

 違う、そうじゃない。

 純粋に祝われても、困るんですよ。

 半兵衛さんたちみたいに、陰謀やら思惑アリアリで祝われても、ムカつきますけども。

 

 ああ、丹羽様。こうなったらもう、あなたが最後の希望です。

 助けて下さい。




ここ、ハーメルンより 鬼になった社畜【完結】(作者:Una)を推してみる。
ここのオリ主は推せない性格だけど、結果的にはいい結果を出すから…
生活も、社蓄生活に適応してしまって、心がアレになっただけだから… たぶん。
平成人の社蓄が大正の時代にタイムスリップ、そして無惨さまに鬼にされて始まるストーリー。
初手捕まって、選抜試験の山に放り込まれるけど。
試験に来たオリキャラや善逸と仲良くなって山から出たり。
精神が人のままなので、食べずに、でも血は美味いからって献血してもらったり。
何なら鬼から無惨さまの血だけ抜き出して飲んだり。
なお精神が変わってないのは、辛い現実を自己暗示で乗り切る社蓄スキル。
無惨さまに再発見された時も、社蓄スキルで無惨さまのパワハラの呼吸に対応して乗り切った。
色々やらかすけど、最終的にはいい感じになるから。50話完結済。
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