尾張グダグダ戦国記   作:far

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今までノープランで勝頼と1対1で引き抜き交渉させようとも、蒲生家で武装した集団に取り囲まれようとも、筆が止まることなく動いてきた、動かしてきた主人公ですが
結婚させようとしたら、筆が止まりました。構想はあるのに。
結婚自体が、本気でイヤだったみたいですねえ。

まあ、もう逃げられないんですが。

あとこれで今年最後かも? 師走は色々あるので。


【コーホー】尾張 帰国したあと【コーホー】

 

 はい。稲葉山城からは、無事に出所できました私です。

 開放はされなかったんですが。

 人が入れる大きさの籠(カゴ)を、棒に縛り付けて吊るした物に入れられて、えっほえっほと運ばれております。

 

 籠というか、駕籠(かご)だこれ。

 

 あれですよ。江戸時代の人々の足だった、時代劇で見るやつ。この時代にもあったんですねえ。

 なら勅使で、しかも急ぎの旅だったんだから、もっと早く使わせてくださいよ。

 なんで私が逃げないようにだけ使ってるんですか。

 

 えっ、需要が無いから駕籠屋が無いの? 自家用の駕籠を持っている人らが居るくらい、と。

 

 駕籠って、この時代のマイカー(人力)なんだ……

 

 この時代に生まれて、もう27年になりますけれども、まだまだ知らない事が多いですねえ。

 逆に言えば、新鮮な驚きは、まだまだありそうです。

 人生が楽しそうで、いいですよね。

 

 でも突然の結婚とか、そういう驚きはいらなかったかなー。

 

 あと駕籠って、乗り心地悪いんですね。めっちゃ揺れますよ。

 その揺れに対応するのに、身体が常に強張っているせいか、すごく疲れますし。

 駕籠も初期型なんで、あの中にぶら下がってる、捉まるためのヒモ。電車でいう吊り革がありませんし。

 

 もう逃げないんで、自分の足で歩かせてくれませんか?

 え? 急いでるからダメ? あっ、はい。

 

 おかしいなあ。私もそこそこは出世して、正式な官位ももらって偉くなったつもりだったんですが。

 なぜか誰も彼も、みんな私のいう事を聞いてくれません。

 私って、こんなに無力でしたっけ?

 

 そうして世の無常と人生の儚さに想いを馳せるようになった、二日間でした。

 無理やり駕籠ごと船に載せて川を下っている途中に、転覆しかけた時は『あっ、終わるんだな』ってアッサリ人生諦めましたよ。

 たまたま後ろの船とぶつかって、それで安定を取り戻して助かりましたが。

 

 心身が弱ると、人ってあんなに弱くなるものなんですねえ。

 長慶さまには、もう少し色々と手加減した方が良い気がしてきました。

 

 夜に寺なり城なりの宿泊施設に泊まる時や、食事やトイレ休憩などでは駕籠から出られますが、そういう時も見張りはいますし。

 なんなら、寝る時も寝ずの番として護衛()がついています。

 私はどれだけ逃げると思われているんでしょうか。

 

 まあ、ちょっと考えてましたけど。

 

 帰蝶さまが相手というのもあるのですが、それよりも結婚というイベントに拒否感が出るんですよ。

 こう、背筋に震えが走る感じで。

 前世で何かあったんでしょうか。なぜかよく思い出せないのですけども。

 思い出そうとすると『うっ、頭が』ってなるんですよね、マジで。

 

 そしてそうして護送されてきた先は、尾張でした。

 

 知ってた。

 だって太陽の向きで方角くらいはわかります。南の方に向かっていましたからねえ。

 

 そして木曽川を渡って、少し進んで神社に入り、今日の宿はここかと思って駕籠から出れば。

 出迎えてくれたのは『今世の家族』でした。

 と言っても、母一人子一人の母子家庭だったのですが。

 その母は、祖父母や叔父と一緒に少し離れた位置にいまして。それで私の近くには、1人の壮年の武士がいるのですよ。

 

 知っている方でした。

 今の織田家を差配する五奉行ならぬ、五家老の1人。林 秀貞 さま。

 直属の上司の丹羽様でもなく、同僚の誰かでもなく。林さまが何故か一番に出迎えてくれたのです。

 それも尾張に入ってすぐの、現代では一宮市の真清田(ますみだ)神社までわざわざ足を運んで。

 (当然私は呼んでいないので)呼び出したであろう、私の家族と並んで、です。

 

 イヤな予感しかしねえ。

 

 ここ、真清田神社は一ノ宮です。寺に格があるように、神社にも格があって、その最上位ですね。

 神社の中では、ですが。神宮とか大社とかはまた別です。一ノ宮からは二ノ宮、三ノ宮と続きます。

 そんな格の高い神社の境内で、尾張林家の家紋、○の中に二の入った、二つ引き両*1を白く染め抜いた紺色の礼服、素襖(すおう)を着て。

 袴(はかま)も、裾(すそ)を足首で縛らない、切り袴。大小二本の刀を差して、ヒゲも髪型も、きれいに整えた林さまは、硬い表情でまっすぐ立って、こちらを見ていました。

 

 最高 に嫌な予感がしましたねえ。

 

 そして林さまは、予感どおりな事実を、私に告げました。

 

「よく帰って来たな。もう察しているだろうが、私が、お前の父だ」

 

 NOOOOOOOO!!

 

 って叫びたくなる衝動が襲ってきて、必死で抑えました。

 口を手で抑えて、体を丸めてだったので、だいぶショックを受けたように見えたのか、皆さん動揺していましたねえ。

 でもしょうがないじゃないですか。

 

 『アイム ユア ファーザー』って言われたら『ノーーー!』って叫びたくなるでしょ。スターウォーズ的に考えて。

 

 まあ、そんなアホな衝動と戦っていた私に、林パパは勝手に勘違いして罪悪感マシマシになったのか、うろたえながら謝罪を始めました。

 

「すまなかった! 奇矯な行動ばかりするお前が、吉法師(信長)さまと重なって見えて、お前を見捨てていた……

 だがあの方も、お前も、おかしな行いこそしていたが、それだけではなかった。私はそれを、見ていなかった。本当に、すまなかった…!」

 

 う~ん。耳が痛い。

 『今世の私』は、記憶が戻る前でも、何となく色々と残ってはいたらしくて、色々とやらかしていますからねえ。

 林パパは父親とは言っても、母は間違いなく農村の住人なので、領地に囲った愛人だったんでしょうし。

 

 その愛人の子が、村の子供達を組織して、勝手に炭焼きして売りさばいて市場価格を荒らして怒られたり。

 流人の力の強い大人を雇って、腕相撲で勝ったら賞金だと、参加料を取って稼いでたら、流人が勝手に仲間集めてあちこちで同様の商売始めちゃって怒られたり。

 山で小規模な土砂崩れがあったのをいい事に、そこに勝手に柿を植えまくった結果。育ちきる前に新たな崩落を招いて怒られたり。

 それでも懲りずにもう一度植えて、今度は上手くいったが、やっぱり勝手にやったので怒られたり。

 

 そんなあれこれをやらかしていたら、そりゃ村に寄り付かなくなるでしょう。

 自分が見ていた若様も、女装して仲間らと乱交したり、勝手に船で伊勢まで遊びに行ったり、バイク、もとい馬で領内を集団で暴走したりと無茶苦茶だったらしいですからねえ。

 同類に見られて見放されるのも、まあ、うん。はい。

 

 ですが、そんなアレだった若様も、吉法師から元服して信長になって、アレなままでしたがちゃんと仕事もして。

 稲生の戦いで討ち死にはしましたが、(分裂した)織田家の(片方の)大将は、やれていたわけで。

 私にしても、謎ムーブからの謎の出向からの、謎の出世をして、正式な官位持ちにまでなっているわけで。

 

 そんな私が、このたび結婚する。そう聞いて、林パパは何を思ったのでしょうか。

 

 このまま名乗り出ず、上司の1人としてだけ接していくのに、勝手に後ろめたさと罪悪感を持ってしまった。というあたりでしょうか。

 こちらが何も知らず、気にしていないというのもわかっているのでしょうに。

 

 しかし、どうしたものでしょうねえ。

 これで誰も信じてくれていなかったとはいえ、私の特徴のひとつ、農民出身というネタが薄れてしまいましたよ。

 『農村育ち? でも父親の林に教育は受けていたんでしょ』みたいに、思われてしまうんですよ。特に、後世の常識的な研究者あたりに。

 

 やめてくださいよ。私の手柄がなんか減っちゃうじゃないですか。パパは関係ないんですよ、パパは。

 

 いや、この再会イベントを使えば、そこはイケるか…?

 実際、父親だとサッパリ知らないほどに接触は薄かったわけですし。

 そこからの初顔合わせに近い、父親の名乗り。という感じに、詳しく何かに書き残すか、劇にでもしてしまえば……

 

 よし。なら、ここは少し盛り上げましょうかね。

 

「父親というものを、私はこの歳になるまで知らずに過ごしてまいりました。父親とは、いったいどういうものなのでしょうか」

 

 盛り上げるなら、まずは落とさないと。谷からの山。それが盛り上がりというものです。

 私の意図して冷たくなった目で見つめられて、林パパはややひるみながらも答えてくれました。

 

「……親か。親というよりも、家の長として、私は生きてきてしまったように思う。親とは本来、子を守り、育てるもののはずであるのにな」

 

 今思い返してみると、母は養育費はもらえていたようなので、一応養育の義務はギリギリ果たしている気はします。

 でもここはもうちょっと、追い詰めてみましょう。なんか楽しくなってきたし。

 

「かつて見捨てたのは、家の役に立ちそうに無かったから。今、こうして名乗り出たのは、家の役に立ちそうだからですか?」

 

 冷たい眼差しから冷たさすら無くして、興味が無いものを見る目に変えて、それでも林パパから視線を動かさずに聞きました。

 

 『お前、なに言ってんだ! 空気読め空気ぃ!』

 

 と『今世の親族たち』が、わたわたと林パパの後ろで必死でジェスチャーを送っているのが実に愉快。

 『家族の問題じゃなくて、武士の社会の話だから』と、立ち入ってはいけないものだと思って直接介入してこないのは、少し悲しいですが。

 『わかってる、わかってる』と、林パパに気付かれないように、こちらもジャスチャーを返しておきました。

 

 そして私の演技にも、そんな背後にも気付かず、ひとりシリアスを続ける林パパ。

 

「そう、だな。確かにそういう面もある。林家の長という立場から、私はどうしても離れられない、自由になれないのでな。だが……」

 

 そう言うと、地面に座り込み、脇差しを抜きました。

 

「ちょっ…!?」

 

 切腹?

 そう思って、止めようとした私が一歩踏み出すよりも早く、その脇差しは振るわれて、マゲが飛びました。

 

 はい。マゲです。

 まとめた髪の毛ですね。

 

「すまないと思っているのも、また事実。私は出家するよ。本当に、すまなかった」

 

 そして林パパはそのまま、キレイな土下座をキメました。

 

 くっ、やられましたね。

 これはここで許さなかったら、こっちが悪者になるやつです。

 日本の最終奥義に近いですからねえ。土下座って。まあ、これ以上のヤツも有……

 

「まさかとは思いますが、陰腹は?」

 

「いや、今の織田家の状況では、死んでいる場合では無いのでな……」

 

「ちょっとだけ、考えたんですね?」

 

「考えただけだ。ほんの少しな」

 

 陰腹とは『どんな問題を起こしても、切腹したらだいたいチャラ』という武士ルールを逆手に取った裏技です。

 『あらかじめ切腹してあるから、この無茶を通してね』という、いわば切腹の先払いですね。

 主君に意見する時などに使われたようです。切ったあとはサラシできつく締めて、でも相手には『あっ、やってるな』と悟らせるくらいに、匂わせるのが作法。

 主張が通った後は、本格的に切腹したり、許されて治療したりとケースバイケースだったようです。

 

 それと織田家の文官の労働状況は、ブラックなままのようです。

 信長さんがいなくても、尾張一国だけでも黒さは変わらないとか、これはもう宿命かな?

 歴史の強制力だとしたら、イヤな強制力ですね。

 

「謝罪は、確かに受け取りました。孫の名前くらいは、付けさせてあげますよ」

 

 所属している家の家老に、ここまでされては打つ手がないですからねえ。

 潔く敗北を認めて、仲直りする事にしました。まだ父上とは呼んでやりませんが。

 

「ところで、織田家中にこの話って、広まっていたりします?」

 

「いや、それがこれからでな?」

 

 うっそだろ、オイ。

 たぶん結婚式を、これから尾張でやると思うんですが。

 その新郎側の出席者が急遽変更とか大丈夫ですか? 諸々の手続きとか、席順とか。

 

「まあ、仕切っているのは丹羽殿だ。問題なかろう」

 

 う~ん、やらかしておいて、他人に丸投げ。血のつながりを感じますねえ。

 でもそうかあ。丹羽様が結婚式を仕切ってるのかあ、

 

 助けてくれるかなあと希望を持っていましたが、やはり裏切られましたか。

 ああ。もう、するしかないんでしょうかねえ。結婚。

 

*1:
足利将軍家の家紋だが、足利―斯波―林の流れで使用許可をもらって代々使っているか、単にカブったと思われる




カクヨム iwai 氏の 廃嫡された王子の隠遁生活 を推してみる。
廃嫡、城から出されて、ひとりで町の外ポツンと一軒家で、絶望のあまり今世の意識死亡で、前世の意識覚醒からスタート。廃嫡ついでに去勢済という独自ポイントがエグい。
その後はイージーモードで、異世界旅日記っぽくなっていくので、気楽に読めます。
城側の人々も、アレな事情が暴露されたりザマァ要素もあり。
今95話。

あとタイトル長いけど
災禍級魔術師はサイコロを砕く ~正史ルートだとバッドエンド直行のゲーム世界に転生したから特殊エンディングを目指していたら、ネームドキャラたちに執着されてヤバいことになった件~
も推してみる。カクヨム、竜胆マサタカ氏。現在111話。
少ない魔力ながら、ファンタジー世界で長距離マジカルスナイパーになって戦場で活躍。
実在しないゲームの世界で、原作知識で活躍。という形ですが、各地で意識せずにヤンデレスイッチを押しては次に移動するので、結構ひどい事に…
返しや、ウチの男。とか修羅場がね?
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