詠んでくださっている方々への、プレゼント代わりに。
はい。今日はここ尾張は熱田の、私が買い取って改装中の
この戦国時代に旅籠は一応はありましたが、そもそも宿泊所自体がまだあまり発展していませんでした。
寺社が経営している宿坊。民間の経営する、燃料代のみ払って泊まる木賃宿。
それと食事つきの旅籠、ただし相部屋が基本で、ゴザを敷いて雑魚寝する程度のもの。
その程度しかなくて、おエライさんの一行が来た場合などは、適当な屋敷を借りて丸ごと転がりこむというスタイルでした。
言葉を飾らずに言うと、屋敷の乗っ取りに近い、イヤな民泊です。
参勤交代などで、そのおエライさんの一行が珍しくなくなると、本陣と呼ばれるそれ専用の大旅籠屋が出来るんですが、この時代だとまだ需要も少ないですからねえ。
でもホテル業って、利益率高いって聞きますし。
お金を払って、快適に宿泊できるというシステムを作るというのも、現在知識チートかな。
そう思い、ちょっとやってみようかな、とウチの大番頭の長秀(豊臣秀長)に命じて、ハコだけは確保していたんですよね。
旅館というか、宿泊施設付きの料亭。
手紙で伝えていたので、まだそういうふわっとした情報しか伝えていなかったはずなのに、なんかもう工事に入っているんですが。
仕事が速いってレヴェルじゃないですよ。さすがもう1人の豊臣。ヤバいですね。
知っているから気付けましたが、おエライさん用の部屋の横に『聞き耳を立てる用の仕掛け部屋』が作ってあります。
そういうのもあったら便利だよね、とサラッと書いた覚えはありますが、あいつ完璧に実現していやがりますよ。
この分だと、完成した折には、香炉や洗面台や、フサ楊枝(使い捨ての歯ブラシ的なもの)に、貸し出しの浴衣などのアメニティも期待できそうです。
いやあ、本当にあの人材を確保できたのは、僥倖でした。
ゴメンね、藤吉郎くん。
その将来性のある旅籠の一室。まだ板の間の殺風景なその場所は、今、とても重苦しい空気に満ちています。
集まっているメンツは、尾張のおエライさんと、美濃のおエライさんです。
まず尾張のおエライさんは、丹羽様と、林パパと、森可成さん。
美濃のおエライさんは、半兵衛どのと、遠藤慶隆さん。
遠藤さん以外は、面識があるというか、森さん以外はほぼ身内ですね。
遠藤さんは東美濃の郡上八幡城の城主で、一昨年に亡くなった父親が、東という一族から下克上して郡上郡の支配者になっています。
東氏も、朝倉軍の侵攻を退けていたりと頑張っていたのですがねえ。
その過程で従わない国人衆を遠藤家に滅ぼさせて、空いた土地を褒美にする、とかしていましたし。
何より、遠藤さんの父親の兄を暗殺しちゃったのが悪かったですねえ。
『娘を嫁にやると言ったのに、家臣にパスしたから』という理由も、イマイチ共感できませんし。
そんな遠藤さんがこの場にいるのは『美濃の一般国人からは、どういう見解と意見が出るのか』というサンプルです。
半兵衛どのも不破さんも、西美濃の人ですからね。東の方の国人が、今の美濃をどう考えているのかというのは知りたいところ。
14歳ですが、頑張ってもらいましょう。ちょっと重圧に怯えてそうですけども。
なお今回の会談の議題は『美濃の統治どうしようか』というものでして。
これ、答えの決まっていない会議です。
はい。グダるのが確定でございます。絶対これグダグダするぜ。
というか暫定美濃の統治者の帰蝶さまが結婚するというのに、後継者はおろか、続投なのかどうかすらこの期に及んで決まっていないとか。
そのくせ結婚式の準備だけはサクサク進んでいるとか。
どういう事なの。
この会談の前に、尾張側のメンツと、というか丹羽様と林パパと私で三者面談をした時に現状の説明を受けたんですけども。
本当にこう、何と言ったものか。
実はどうやっても良いのだけれども、どうしたら最良なのか、正しいのかが不明で、みんな戸惑っているというか。
帰蝶さま続投で、私は京に、帰蝶さまは美濃にと別居婚。
帰蝶さま嫁入り、私と共に京へ。美濃は道三の末っ子が名目上継いで、不破さんと半兵衛どのが統治。
もしくは左衛門尉、従五位なので左衛門大夫の官位をもらった不破さんが国主になる。
などのコースがありますが、実はどれをとっても実務は現状の体制と変わらないので、本当にどれでもいいという。
ただ 私が国を治めるのは、なんか怖いから無し な。という点で全員見解が一致しているのは解せませんが。
現代知識チート全開で、化学工場から毒ガスと綿火薬量産でもしてやりましょうか…?
あと、この事前の打ち合わせの時ですが、丹羽様に 私と林パパが血縁関係 がある、というか 親と子 なのも報告しました。
「は?」
なんか予想もしていなかった方向から殴られたオッサンの顔をしていましたね。
そこからどういう感情に向かうのかがわからなかったので、落ち着く方向へと誘導しました。
「と言っても、ほぼ絶縁状態で、父親が誰かすらも私は知りませんでしたからね。教えられたのは、ついこの間、尾張に戻った時です」
林パパも、その流れに乗っかって、言い訳に見せてグチりました。
「素行が、普通とは違った意味で良くなかったからな…… 悪いのではなく、良くなかった のだ。わかるだろう?」
「ええ。はい。わかります、わかります…!」
なんか妙に共感していましたねえ。
悪くないんなら、それでいいじゃないですか。ねえ?
それで美濃のトップをどうするかという名目上の問題の他に、織田家がどの程度美濃の支配に手を出すのか、という実利の問題もあるそうでして。
木曽川で隔てられていますけど、美濃も尾張も、同じ濃尾平野ですからねえ。
統治しようと思えば、統治出来ちゃうんですよ。
新しい領地をイチから治めるという、お仕事ができちゃいますけども。
戦国の世に、そこまでいちいち面倒見ている余裕がないので、土地に根付いた国人に色んな手段で頭を下げさせて。
下げてきたなら、領地安堵して、統治を任せて兵なり米なりを頂く。
それが戦国式の領地の増やし方です。
なお一向宗にはあらゆる意味で通じません。怖いね、宗教。
まあ、一向宗は置いておいて。
つまり『美濃の支配に手を出す』という事は『美濃の国人衆をいくらか織田家に鞍替えさせよう』という事になるのです。
で、まあ、お城単位で考えますと、東美濃。現在は烏ヶ峰城と呼ばれている、のちの金山城。あと明智光秀の関係か? と言われる明知城と、その近所の岩村城。
その辺りをもらって、信濃に織田領土が接する形にしたいですねえ。
万が一、援軍を送る、送られるとなった時に、他国の領土を通って、とか面倒ですし、ムダに時間がかかるので。
その辺の領主も、どうせここ数年のドサクサで、下克上したりだまし討ちしたりで、城を取ったり取られたり好きにしてるんでしょう?(正解)
それで半兵衛どのらの指示とか聞いていないんでしょうし。実際、浅井家の侵攻の時にも動きませんでしたし。
なら切り取り自由で、織田家がもらってもいいんじゃないですかねえ。
という事を、無責任に言い放っておきました。
結婚は確定で、でも美濃の統治に直接は関われないのも確定で。
まだしばらくは京の都で、三好家への与力として働く事は変わらないと分かりましたからね。
私に直接関係が無くて、余計な仕事も増えないのなら『まあ、そんなものかなあ』と、思った事を言って、あとはよろしく図ってもらいますか。
そう思っていたら、会談にもきっちり呼び出されまして。
いい加減答えを出さないといけないけれども、美濃側は『戦をしたわけでもないのに、領土を渡すのはイヤ』だと主張していて。
尾張側は『どうせ実効支配できてないんだからええやん』とゴリ押そうとしていまして。
「そういえば犬山城の織田信清ってどうなりました?」
私がふと思い出した事を聞いてみたら、信清自体は以前に森さんが謀反した後に、なんか独自に反乱を起こしたので討ち取っていましたが。
息子か縁者かがまた反乱を起こしていて、なんと今この時も、柴田勝家さまが城攻めの真っ最中だと判明しまして。
「金山城よりも手前の犬山城もまだ支配下にないというのに、気が早い話ですねえ」
と、半兵衛どのに、穏やかな声のせいで嫌味に聞こえないイヤミを言われてしまったり。
「軍を動かすのには、時間がかかるものだ。ゆえに先々の予定は早めに立てておくものよ。それとも、1人で動いて、何とかしてみるか?」
それに林パパが私をダシに使いながら、言い返したり。
何というか、予想通りのグダグダっぷりでしたね。
そしてそれを見ていた私の心中に、湧き上がってくる想いがありました。
ああ、帰ってきたんだなあ。
懐かしさと諦めと、やるせなさが混じった、なんとも言えない想いでしたねえ。
ですが苦笑とともに、その想いを一旦は心の奥に沈めて、仲裁に入ります。
今日ここで決めてしまわないと、マジで時間が無いみたいでしたので。
式の当日まで押し込めておくはずの、逃亡の恐れの有る私を引っ張り出して来ている段階で『あっ、だいぶ切羽詰ってるな』というのが分かります。
なら丹羽様の手前、期待された仕事くらいはしませんと。私、一応はあの人の家臣のつもりですから。
でも丹羽様のために働くのが、ずいぶんと久しぶりな気がするのは何故でしょうね。
やだ、私の出張多すぎ…?
いや、今更過ぎますね。
といわけで、そんな悲しい気付きも心の奥にしまいこんで、発言しました。
「まずは不破さまから、当地の国人らに領地換えを命じて下さい」
「うん? ヤツらは従わんぞ。特に金山城の城主は土岐の傍流だ」
不破さんが素直な反応をして、それを『同類』の共感か何かで察した半兵衛どのが補足します。
「それで討伐の名分になりますから、良いのですよ。そして織田家に居られる斉藤利治さま(道三の末っ子)が、彼らを討伐する」
「斉藤さまは織田家の保護下のままなので、討伐で得た領土も、織田家預かりになる、というわけです」
私の意見なのに、全部言われると半兵衛どのの提案になって、手柄も全部持っていかれてしまうので、最後は私が〆ました。
この方がなんかいいコンビネーション決めた感じになって、気分もいいですし。
そして取り合えず形になった所で、ここまで無言だったゲストに意見を聞いてみました。
「さて。こうして上の方で東美濃の扱いが決まってしまったわけですが。遠藤どのはどう思われますか?」
まだ14歳の少年は、年上ばかりのこの会談の空気に緊張していたのでしょう。
あまりにも素直すぎる意見を放ってくれました。
「はい。うちの領地は、もっと北なので大丈夫です!」
う~ん、この国人目線よ。
マジで自分の事しか考えていませんねえ。
やっぱり完全に戦国を終わらせるには、もっと減らさないとダメですかね。国人衆は。
しかしまだ遠藤くんは少年なので、私は一つだけ忠告を送る事にしました。
「遠藤どの、郡上八幡の山には、良き水が湧いていますよね? 良い水が出る場所には、人が集まり、そして欲が溜まります。
いずれ、その水を巡る争いが起きるやも知れません。今のうちに帳簿の付け方を覚えておくと良いですよ。臨済宗流がお勧めです」
私もこの時代に京に行って、初めて知りましたが。なぜか複式簿記を開発していましたからねえ、臨済宗。
現代の複式簿記は、西洋のベニスの商人のひとりが1494年に出版した本から広まったので、それとは別に、独自に発展した物だと思われます。
近江商人などにも伝わっていたらしいので、別に秘伝ではなくて、有料でしょうが教えてもらえる物だと思います。
私の言葉に、遠藤どのは14歳らしい困惑を見せましたが、隣で聞いていた半兵衛どのは何かイヤな予感を覚えたのか、私に『あとで詳しく』と目で語りました。
単に水の町と呼ばれるほど、豊かな水源で農業が発達して、それに不正役人やダメ領主が過剰な検地増税からの大一揆が江戸時代にあったってだけなんですけどねえ。
私が何か企んでるんじゃないか、という疑いは濡れ衣なので、皆さん、そんな目はやめてください。
攻め込む先が美濃という事もあって、そっち出身の森可成さんが『その時は森家が中心に――』などと張り切り始めたのを横目に、私は丹羽様に気になっていた事を聞きました。
「ところで丹羽様。今日は何故、この場所を?」
城とかじゃダメだったんですか? なぜ改装中のここを。という素朴な疑問に、出てきた答えは。
「うむ。三好やら松平やら、諏訪やら浅井やら、多くの国の方々がやって来ていて、あちこち宿泊されているので塞がっておってなあ」
「は?」
待って。
諏訪は勝頼さまが来るって手紙が着ていましたし、松平は和平交渉を進める一環でしょうから、わかります。
三好も、よく来るのが間に合いましたね? 誰が来たの? という疑問はありますが、まあ、いいです。
でも浅井ってなに。
来ちゃったのか、あの世紀末覇王。何しに来た… って祝いに来たんですよねえ。
もしかして、茶室でのアレで友達判定だったのか、長政。
「な? 死んでいる場合ではないだろう?」
なぜそれを誇らしげに言えるんですか、林パパ。丹羽様なんか、もう目が死んでいるのに。
あと『やら』ってなに。
他にどっか来ちゃったんですか? 来てないですよね?
来てないぞって言って下さい、丹羽様ぁ!
「浅井家は、当主の浅井長政が直々に、手土産まで持って、いや連れてきたぞ。大きなイノシシを3頭も」
違う。(聞きたいのは)そうじゃない。
「それと毛利家も来たな。何故来たのかは、ワシが聞きたい。村上水軍の大きな船がいくつも来て、水野家あたりと軽い戦になったんだが」
後半は聞かなかった事にしていいですか?
ああ、もう、なんだか大変な事になっちゃったぞ。
そこそこ出世はしていますけども、私の結婚式ひとつで、なんでここまで大事になってるんでしょうか。
国ひとつってレヴェルをはるかに越えてるんですけども。国いくつ動いたんですか、これ。
結婚式の着席順決めパズルが、とんでもない難易度になってるんですけども。
あれ? 私って、そこまで大物でしたっけ?
多分今年最後かな、という推しに、ここハーメルンの
ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”
を推してみる。速筆魔王LX 氏の作品。
キン肉マンII世の二次創作ですが、過去にタイムスリップして、超人タッグトーナメント終了直後が舞台なので、キン肉マンやロビン、テリーマンたちも普通にいるし、2世を知らないでも大丈夫。
というかノリがまさにキン肉マンなので、大丈夫。読み応えが原作にかなり近いのよ。
主人公はネプチューンマンだけど、場面が切り替わると、その場の主役も変わる感じで多彩。
ほぼ日刊で増えていく。現在100話オーバー。年末年始の空き時間に、しおりを挟みつつ読み進めるのはどうでしょう。