尾張グダグダ戦国記   作:far

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あけましておめでとうございます。
投稿久々な気がします。年末にも投下したはずなのに。
とりあえず1話分投稿。ちょっと時間がまだ取れません。


【千客】だから茶室ってくつろぐ場所だってばさ【万来】

 

 はい。私はいま、心を殺して儀式が終わるのを待っています。

 もうね。結婚とか、葬式とかって、イヤなんですよ、私。

 いや、やらなきゃいけないってのも分かりますし、必要だとも思いますよ?

 

 でも参加するの面倒。

 

 これが祭りとかイベントだったら、むしろ運営する側に回る勢いで参加するんですけどねえ。

 自己分析してみるに、たぶん、自分の裁量で好き勝手できる箇所が無くて、大人しくお決まりの儀式をこなすだけっていうのがダメなんじゃないでしょうか。

 それでいて、信長さんのように、父親の位牌に抹香を掴んでシューッ! 超! エキサイティン! ができるほどロックをキメていませんからねえ。

 ただひたすらに面倒に感じつつも、粛々と儀式をこなすわけです。

 

 とはいえ、今回の婚儀が大名クラスの多数参加という、新郎の屋敷で式をする、従来の方式では無理そうな規模なのと。

 それに加えて、私と一緒にいた公家の方々に、急ぎ近江や京から追加でやってきちゃった方々も参加するというムダに高めの客層なので。

 普通の結婚式とは、だいぶ違ったものになったようでした。

 

 記憶にありませんけれども。

 

 結婚に対する拒否反応で、心を閉ざしていましたからねえ。

 刺激に対して反射で行動する、半ば酔っ払ったような状態だったと思いますよ、たぶん。

 今回の婚儀は、私にはほぼ強制イベントですからね。ささやかな心理的抵抗と言うヤツです。

 

 場所が熱田神宮を借りてという事になったせいで、神への結婚の誓いという形になってしまったので、逃げられませんが。

 

 そこは名古屋でも清須でもお城でいいじゃないですか。

 加藤さんが『せっかくだから』とか言って、計画したらしいですけども。

 これを機に、婚姻ビジネスにでも手を出すつもりなんでしょうか、あの人は。

 

「では新郎新婦は、茶室へと移動を。皆様は引き続き宴をお楽しみ下さい」

 

 司会的なポジは、この時代にもあったようでして。

 媒酌人というんでしたっけ? それを勤めている丹羽様の指示に従って、移動。やっと式場を離れられます。

 

 この時代、普通の婚儀では新婦が輿(こし)に乗って新郎の家に移動、そこで三々九度の杯事などをこなして、翌日、翌々日は宴会、という流れです。

 そこは今回の式も外さずに、今は2日目。

 ただ、宴会の飾り物として上座に座らされるのが普通ですが、今回はその代わりに、茶室で個別に『来客たちとお話』するお仕事があるのです。

 来客たちが来客たちだけに、外交のお仕事は避けられないのですよ。

 

「お前に任せるのは不安だが、手が回りきらぬし、適任なのも確かなのだ…… いいか。妙なマネはするなよ?」

 

 って丹羽様が、なんとも心細そうな顔で言っていましたねえ。

 いいな? わかったな? って何度も念を押していましたが、もしかしてフリなんでしょうか?

 大名クラスだけでも、毛利に松平に斉藤に諏訪、それに三好に蒲生。大名本人なのも何人か。もうちょっとした戦国サミットですよ、これ。

 

 そこである程度好きにしゃべってもいい、とか。

 いやあ、やっと心が生き返って、生き生きとしてきたじゃあないですか。

 

 ああ、そういえば引き出物なども、この時代にもあるんですよねえ。あの豪華なメンツに何を渡すのやら。

 いや、お前の式だろうって?

 いやだなあ。私は今回、だいたいカヤの外ですよ。

 全く関わらせてもらっていません。何かやらされていたら、ストレスから逃亡の意欲が上がっちゃっていたでしょうから、それが正解だったと思いますが。

 きっと、丹羽様と半兵衛どのの判断でしょう。あの2人に組まれると、ここまで私の行動や性格を先読みされて、対策されてしまいますか。

 

 ふぅむ。

 これがだとどうなるのか。すこーし興味が出てきましたねえ。

 

 やりませんけども。

 どちらとも、勝っても負けても後味が悪いじゃないですか。

 戦っている最中は楽しそうですけれども。というか、戦っている時しか楽しめずに、あとは苦いだけとかイヤですよ。

 

 だから、ちょっと考えてみるだけです。

 

「あなたとともに、半兵衛どのと不破殿から美濃を奪い取り、織田家を飲み込み、松平家、諏訪家とともに武田家を破り

 近江勢を味方に浅井家、朝倉家をも下す。そして三好家と天下分け目の大戦(おおいくさ)。ホラ話としては、上出来でしょう?」

 

「いえ、そこまで戦だけの人生は、楽しくなさそうですから、イヤです。もっと楽しい人生を夢見させてくださいな」

 

 夫婦の共同作業として、茶室で客を待つ間のたわいも無い冗談を楽しもうと思ったのですが。

 帰蝶さま、いや帰蝶は、普通の戦国乱世成り上がりルートは好みではなかったようです。

 

 このルート。実はやろうと思えば、出来なくはないと思うんですが。

 

 残念ながら、嫁さんの反対にあったので、ボツですね。

 これまで通りに、織田家家臣で、色々な他家にも立場のある、謎ルート継続です。

 いや実に残念ですね。ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、やってみたくはありました。

 

 

 

 ドッ ドッ ドッ ドッ

 

「御免!」

 

 重い足音がしてから、フスマを勢い良く、しかし丁寧な手つきで開けて入ってきたのは、大柄な筋肉質の男。

 北近江の主。浅井家の当主の長政でした。

 

「おや、あなたが一番ですか?」

 

 丹羽様らが苦心して決めた席順でも、一部ギスギスしていたというのに、公家衆や織田家の同盟国を差し置いて、浅井長政が?

 そう思って聞いてみましたが、帰って来たのは単純な答えでした。

 

「さすがに無理を通しての参加だったのでな。この後すぐにでも帰らねばならぬのだ」

 

 ですよね。

 というか、本当によく来れましたね、あなた。

 敵国同然の他国に、当主自ら、それもろくな共も連れずに。

 いやマジでよく家中の承諾が取れましたね!?

 

「良き式であった。織田の婿どの、そして帰蝶殿。あのイノシシは、我らが木曽川を越える前に景気づけに狩った物。ぜひ、夫婦で食してくれ」

 

 その輝く笑顔がまぶしすぎるんですが、色々と自覚があるんですかね、この人は。

 私が言えた義理でも、心配する立場でもないんですが。『お前が言うな』と言われたら、返す言葉が無いですし。

 

「大物をありがとうございました。私はああいった肉も扱う、居酒屋という店もやっていましてね。そちらのツテで、捌いて熟成中です」

 

「強い獣を食らえば、強い子が生まれると言う。縁起が良いかと思ってな」

 

「あら、それは楽しみな事」

 

 帰蝶は初対面の長政にも、全くひるみません。

 デカい身体と、勇ましい顔つきと、盛り上がった筋肉のかもしだすオーラも平気のようです。

 強い嫁で頼もしいですね。(前向き思考)

 

 あと『子』のワードで帰蝶が獣の眼光を一瞬見せたので、話題を変えましょう。護身、護身。

 

「浅井家中もそうですが、朝倉家なども、今回の出席にはうるさかったのでは?」

 

 あまりにも時間が無かったので、話を聞いた長政が、その場のノリで即旅立った可能性もありますが。

 さすがに当主なので、後は頼むと誰かに留守を任せるくらいはしたでしょう。

 

 ……したよね?

 

 まあ、したと信じましょう。

 すると当然『ちょっと待て』と止められますし、その間に朝倉家へと情報を流すヤツも出るわけで。

 

「とくに爺様たちがうるさかったな。勝手に出歩くな、とまで言われて、頭にきたのでな。『公務である』と、押し切ってやったわ」

 

「公務。……ああ、朝廷の勅使一行も参加していますから、言い訳にはなるわけですか」

 

「そういうことだ。実際、勅使の方々と少々話も出来た」

 

 少し悪そうな顔で笑ったあと、長政はこういい残して、部屋から出て行きました。

 

「六角家がいなくなったとしても、近江を巡っての戦いは終わらぬ。茶室での約束、果たしてもらうぞ、友よ」

 

 応。以外の答えだとカッコつかないヤツでした。

 あれは卑怯ですよ。戦わないとか、何のことでしたっけ、とかトボける選択肢が消えますもん。

 南北の近江の境界どうするの、というメンドクサイ問題になんか、手を突っ込みたくないのに。

 いやはや。やっかいな宿題が出来てしまいました。

 

 

 

「入るぞ」

 

 入れ替わりに入室してきたのは、長政ほどではないけれども、やはり大柄で筋肉質の武士。

 やけに私に好意的な、諏訪 四郎 勝頼さま。いえ、今はもう諏訪 信濃守 勝頼さまでしたね。

 この式に先駆けて、ここ尾張で勝頼様に任官の儀式が行われたのです。

 

 結婚式のせいでスケジュールが無茶苦茶になったのと、勅使の方々の『山登りめんどくせぇ』という意思などの、大人の事情の成果です。

 

「お久しぶりです。半年振りくらいですか」

 

 もっと時間が経った気がしていましたが、そんなものなんですよねえ。

 本当に、去年一年はもう色々と濃すぎました。

 

「そうだな。不思議なヤツだと思っていたが、諏訪で俺を助けたように、美濃でも近江でも、京でも誰かを助けていたと聞く。

 そしてその結果が、この前代未聞の盛大な式だ。思っていた以上に、お前は大したヤツだった。それが、嬉しくてならない」

 

 いかん。この方、マジで言ってます。

 目が笑ってないとか、そういう事も無く。一切のウソもコビも無く、私を誉めてくれています。

 ヤバい。交渉技能が誤作動しそう。

 『私はそんなヤツじゃないんだ』と、全力で説得し始めそう。

 

 その衝動を抑え込むために固まってしまった私を、帰蝶がフォローしてくれました。

 

「それは式に来られた方々から、直接?」

 

「ええ。自己紹介がてら、新郎とのつながりやらを色々と」

 

 う~ん、積極的に外交もこなしている。あのボッチ気質だった子が、ちょっと見ない間に立派になって……

 

 そんな謎の感動のおかげで硬直が解けた私も、会話に参加します。

 

「そういえば名馬を三頭もいただけたとか。改めて御礼を申し上げます」

 

「いやいや、まだまだ返し足りぬほど、働いてもらったのだ。あれくらいはな。ところで港の方に毛利家の船が来たと聞いたが。次はそちらへ行くのか?」

 

 勝頼さまの中で、私はどんな存在になっているのでしょうか。

 あちこちの家に入り込んでは、問題を解決していく『さすらいのヒーロー』になっていませんかね?

 いや、まあ、実際に毛利家には行く予定でしたけど。

 

「その予定でしたが、先に向こうの方から来てしまったようですね。たまたま手に入れたウワサを、教えてあげただけなんですが」

 

「あら。大船三隻で駆けつけるとは、何を教えたのです?」

 

 聞きたそうにしている2人には悪いですが、言っていいものかどうか、わからないんですよね。

 

「教えた結果までは、まだ私も聞いていないので、明かせません。この後に毛利家の方が来たら、一緒に聞きましょうか」

 

 勝頼さまは、独自で聞き込みしてね。

 

 

 

 噂をすれば影。というべきか。

 三人目の来客は、毛利家の人でした。

 毛利家も織田家や斉藤家の同盟国ではありませんが、持っている官位が高いですからね。

 

「毛利元就が名代、小早川 中務少輔(なかつかさしょうゆう) 隆景にございます」

 

 う~ん、持っていたイメージと違いますねえ。

 能吏で智将。知性派のデキる男というイメージを持っていたのですが。

 浅黒い、日に焼けた肌に、染み付いた潮の香り。妙に鋭い眼光。

 31歳の、現役の武将にして海賊がそこにいました。

 

「この度は! わが兄の命の危機をお知らせくださり、まことにありがとうございました!!」

 

 一見、茶室が似合わなさそうなその海賊は。

 キッチリと着こなした礼服と、綺麗な姿勢で、まるで一流のマフィアのような貫禄で場になじんでいて。

 大きな声で、私に礼を言いながら、畳にぶつける勢いで頭を下げました。

 

「助かったんですか?」

 

「はい。おかげを持ちまして」

 

 いや~、良かった良かった。ギリッギリまで忘れてて、間に合うのかどうか、気をもんでいたんですよ。

 

 毛利家の長男の暗殺。

 

 いや、違いますよ? したわけじゃないですよ?

 そういう歴史イベントがあったんですよ。毛利隆元暗殺事件。

 国人の館に招かれて、食事を頂いて、翌日、その帰り道にパッタリと…… となったのが8月4日。

 

 それを思い出したのが、8月1日。

 

 『三好義興が死に掛けてた、という事は今年は1563年で確定でいいかな。本当に色々あったなあ。でもまだ8月なんだよなあ』

 

 そんな風に、京でのんびりと。鴨川の川辺で、床机(しょうぎ)(折りたたみイス)に座って川面に素足を突っ込んでいた時です。

 

 『まだ川床*1が無いんだ。でも、作るにしても治水工事してないから、大雨で確実に壊れるよなあ……』

 

 と、つらつらと考えていて、引っ掛かりを覚えたのです。

 あれ? なんだっけ。何かを忘れているような…?

 

 そこで『ま、いいか……』と流しても良かったのですが、何か気になって考え続けて。

 夕方。夕飯のメニューを考えていたら、思い出しました。『あっ、毛利の長男、もうすぐ死ぬわ』と。

 

 そこから大急ぎで、菊亭さんの家に駆け込んで、早馬で朝廷の使者扱いで、毛利家へと情報を届けてもらいました。

 毛利家は朝廷への献金が手厚くて、関係が深かったのです。

 面識の無い私から直接よりも、朝廷を通した方が信用してくれるでしょうし、話が早かろうと思ったのです。

 それでも時間が無かったので、助かるかどうかは運だな、と思っていたのですが。どうやら、いい方へと転がってくれたようです。

 

「『毒殺の恐れあり』と聞いていたので『体調が思わしくなく…』と、出された食事にはほぼ手をつけずにいたのですが、それでも倒れまして」

 

 今は元気で、後遺症なども無い、と。

 良かった。いや、ほんっと~に良かった。

 毛利隆元がいなくなると、毛利家が経済的に衰退し始めますからねえ。

 戦は毛利元就と、息子の小早川隆景と吉川元春が武将たちをまとめて何とでもしますが、国の経営をする官吏をまとめられるのは、隆元だけなんですよ。

 現に、毛利隆元が亡くなったら、商人達が毛利家にお金を貸してくれなくなったとか。

 

 ただ、その事を毛利元就すら、いまいち理解できていないという、悲しい事実。

 

 なんか重要な仕事してるんだろうけど、そこまでとは思わなかった。

 居なくなって初めて気付く、大切さ。なんかいわゆる『追放系』みたいな話ですね。

 

 そう考えると、倒れたのも良かったかもしれません。

 代わりに彼の仕事をやってみたら、気付く人は気付くんじゃないでしょうかね。

 

 ともあれ、彼が生きていたなら、プランを進めても大丈夫そうです。そういう意味でも良かったです。

 

「海路の安堵の朱印状をいただけたとか。実にありがたい物ですが、毛利家とは、より踏み込んだお話をしたいと思っていたのですよ」

 

 中国の覇者になった毛利家と、四国の覇者になった三好家で、瀬戸内海を平和にして仲良く分けようぜ。

 

 共存共栄。いい響きだと思いませんか?

 

*1
川へ付き出した、木製のテラス。京都の夏の風物詩




新年の推しに、小説家になろう より

江戸時代の遊郭の楼主に生まれ変わったので遊女の待遇改善に努めつつ吉原遊廓の未来も変えようと思う

を推してみる。江戸の吉原で現代知識チートを決めまくる転生者のお話。
当時の吉原の様子などの描写も楽しい。当時の楼主たちって、わりとヒドい経営してるんだなとか。
そういう悪習や、梅毒などの性病などを対策しつつ、桜餅作ったり、化粧品やら養蜂やらをキメつつ、あくまで吉原の楼主で生きていくオリ主。
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