尾張グダグダ戦国記   作:far

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う~ん、連投できない。


【茶会の】家康、お前天下人降りろ【メイン】

 

 はい。引き続き、茶室外交を進めている弾正小忠(わたし)です。今度のお客は、三河松平家より、のちの徳川家康。

 しかし考えてみれば、この茶会がはじめての夫婦の共同作業(実務)というのは、ちょっと世知辛い気もしますね。

 

 あと帰蝶に渡した官位の命婦(みょうぶ)は従五位下相当なので、従六位下の私より上になっちゃうのも、気になってきました。

 でも織田家家臣である以上は、当主の坊丸さまの従五位下の弾正忠と並んだり、越えたらマズいんですよねえ。

 

 しかも信長さんちの織田家は、織田弾正忠家を名乗ってきたというのが、また面倒なところでして。

 本来は従五位下だと弾正少弼(しょうひつ)になるんですが、朝廷が気をきかせてくれたんですよ。

 

『弾正忠だと本来は正六位だけど、特別に弾正忠のまま従五位を名乗っていいよ』

 

 という感じで、特例を認めてくれまして。

 織田弾正忠家として、織田弾正忠家のカンバンで尾張を獲ったんじゃあ! というコダワリをワカッてくれたようです。

 

 信長のお父さんの信秀は、素直に備後守をもらっていたらしいですが。

 

 まあ、それはそうと、坊丸さまが従五位下の弾正忠で、今の私が従六位下の弾正小忠でして。

 ここから官位をあげて、普通に弾正少弼になっちゃうと、なんか、こう、許されないかなって。

 

 じゃあ、諦めるとしますか。

 

 仕方が無い事は、スパッと諦めましょう。切り替えていきましょう。

 

 だから……

 

天下人への道は、諦めていただきますよ。松平家康さま

 

「えっ」

 

 あれっ。なんか『意外な事を言われた!?』という顔をしていますね。

 家康ですよね?

 天下統一を完遂した上に、江戸時代という200年ものの太平の時代を作る、強固な幕府を築き上げた英傑ですよね?

 

 この時から既に、天下人へのロードマップとか描いていて、それを着実に一歩一歩進んでいるヤベー大名じゃなかったんですか?

 

 さっき試しに、宗教勢力の扱いとか、東海道などの街道のあるべき姿とか、流通とか、戦国終わっちゃったら兵も武士もダダ余りする問題とか。

 色々聞いてみましたが、ちゃんと答えてくれたし、これはもう間違いないと思ったんですが……

 

「いえ、常日頃から、色々と考えを巡らせておりまして。あとはこの場で考えた事でございます」

 

 ええ…… アドリブで何とかするとか、それいつもの私じゃん……

 

 あれ? だとすると、さっきの小早川隆景も怪しいですね?

 利のからんだ話になったら『それはそれ、これはこれ』と、顔つきが変わって、割と話についてきてくれたと思っていましたが。

 あれもひょっとすると、上手く話を合わせて、アドリブで乗り切っただけだったり?

 そう言えば最後に『後日詳しい話は、隆元兄上に』って、言ってましたねえ。

 

 瀬戸内海航路の一元管理を、大山祇(おおやまつみ)神社に全ての帳簿を集めて可能にしようとか。

 そのシステムは臨済宗の帳簿管理を参考に。三好・毛利両家から監査役を派遣するのはもちろん、他の寺社の人間も採用しようとか。

 神に捧げる通行料(初穂料)を徴収の名目に、瀬戸内海共通の通行手形を発行。護衛や水先案内は阿波と村上水軍で独占。

 利益は全てを集めた上での、分配方式。

 

 などなど、色々と一気に流し込んだのに、だいたい肯定的な反応だったんですよね。

 唯一、大山祇神社ではなくて厳島神社ではダメかと言われましたが、さすがに『毛利の色が強すぎるので…』と言外に却下しました。

 

 大山祇神社は瀬戸内海の中心にありますし、何より古来より『日本総鎮守』という海賊衆の聖地です。

 源氏も平氏も、村上水軍も河野氏も、みんなここに武器を奉納して航海の安全を祈ってきたのです。

 もちろん、毛利氏も。

 その辺を指摘したら、厳島神社の案は引っ込めてくれました。

 

 逆に言えば、そのくらいしかツッコミがなかったんですよ。

 詳しく聞くとか、疑問点を聞くとかの質問が無かったのを思うと、やっぱり隆景さんは兄上に丸投げコースですかね、これは。

 

 まあ、いいんですけどね。

 『合弁会社作ろうぜ』って戦国武将に言って、即理解されてOKが返ってきたら、それはそれで怖いですし。

 

「あらあら。あなたもこんな勘違いをする事もあるのですね」

 

 現時点での家康を『すでに天下を狙っている野心家』と買いかぶったらしい私を、帰蝶が笑いました。

 こういうあからさまな失敗は、彼女の前ではまだ見せていませんでしたから、新鮮に思えたのでしょう。

 実は思い通りにならなかった事とかは、割りとあるんですけどね。

 

 尾張に武田家が援軍に来ちゃったり、信濃で信玄とガチバトルだと盛り上がったら、何でか来ちゃった謙信の方に行っちゃったり。

 三河の一向宗を伊勢に流したら、そこからさらに流れて浅井家の領土まで略奪侵攻しちゃって、そこで長政に取り込まれて、美濃に攻め込まれちゃったりとか。

 観音寺騒動に巻き込まれたりとか。暗殺実行した後に相棒に裏切られたりとか。松永サンに目を付けられたりとか。

 

 まあ、ホントにヤバいネタほど、だいたい表に出せないんですが。

 

 そういうアレコレに比べれば、今回のこれなんかは、実に微笑ましいミスです。

 笑って済ませましょう。

 

「いやいや、妙な勘違いをして申し訳ない。次の海道一の弓取りならば、そのくらいは企んでいるだろうと、つい警戒してしまいまして」

 

 先代の海道一の弓取り=今川義元なので、これは『武田家をはねかえして、今川家も食うつもりだろ? 騙されんぞ』というメッセージです。

 野心が無い? ウソつけ、こっちは見張ってるからな。というポーズでもありますね。

 今は勘違いだとしても、徳川家康ですからねえ。いつ覚醒するかわかりませんもん。

 

「いや、もう本当に勘弁して下され…… ただでさえ、このとんでもない式で疲れ果てておりますのに……

 なぜか帰蝶さまの斉藤家と敵対しているはずの、浅井家の当主自身が少数の供とだけ来ていて、しかもどうしてかイノシシを背負っておるわ。

 駿府でも見なかったほどの数の公家が、それもかなり高位の方々が、ゾロゾロおるわ。

 西の毛利家が見た事も無い大きな船でやって来て、なぜか水野家がその船を手に入れようとして、返り討ちにあうわ。

 諏訪家も当主自ら。明日には越後の上杉家からも人が来るという…… あなたはいったい、何者なのですか!? 

 

「本当にねえ」

 

 プレッシャーをかけすぎたせいですかねえ。

 なんか色々見ちゃったせいで、精神が弱っていた家康公に、泣きが入ってしまいました。

 それにのん気な相槌を打つ帰蝶。何者って、私はキミのダンナだよ。

 あと長政、なにやってんの。

 

「まあ、色々あったんですよ。色々。人間、生きていれば、色々とあるものでしょう?」

 

 あれこれを思い起こしながら、疲れた笑顔で言ったその言葉は、家康公の心に届いたようでした。

 

「…………そう、ですな。人生とは、まこと、ままならぬものですからなあ」

 

 幼い頃に母親が離縁して遠くへ行ったり、今川家に人質に出される途中で誘拐されて、織田家に売られたり。

 人質交換で今川家へ送られて、一部にいじめられつつも、高度な教育を受けて将来の今川家幹部へ…… と思ったら義元が突然討ち取られたり。

 

 そこからも不満を溜めた家臣 討ち取られないように、織田家と組めないので史実よりも厳しい状況に自家が滅びないように。

 難しい舵取りを余儀なくされてきた男は、遠い眼をして。

 

 そして、急に据わった眼をすると、雰囲気が変わりました。

 

「フーー…… あなたが何者であれ、朝廷にも通じる力を持つのは事実。そのお力を、使わせていただきたい」

 

 深く息を吐くと、家康公は私に交渉を持ちかけてきました。

 なるほど。これが藤吉郎くんや、ウワサに聞いていた、腹をくくった時の松平家康。

 強引で、しかし有効な強力な手を打つ、覚醒モード。

 

 ただし汚い手が増える。ともグチってましたっけ。

 

 『押し付けられる下は大変なんじゃあ!』と、伊賀だか甲賀の誰かが言ってましたねえ。

 今川館に潜入、人質の奪還と火付けをさせられた、とも言っていましたね。

 

 いや、受けた仕事の内容をバラしていいの? と聞きましたが『報酬が安くて、口止め料に届いとらんわ!』と返されましたっけ。

 あれはだいぶ不満に思っていましたねえ。

 

 あっ、思い出した。伊賀の伊賀崎さんから聞いたんでした。

 なんか甲賀の人たちの一部が、勝手に私の家臣ヅラというか、ヤンキーの舎弟みたいなムーブを始めまして。

 『伊賀に介入したいから、伊賀衆とのツテを』と頼んだら、紹介してくれて、とりあえず飲み友達になったんですよね。

 伊賀崎の名前は伊達ではないらしく、伊賀の幹部の1人なんだとか。ただトップは百地と服部と藤林なんだとか。

 他の人たちからも聞いてみたところ、伊賀崎さんは腕が立つ現場のリーダーなんだそうです。

 

 彼を取っ掛かりに、伊賀に顔を売りまして。

 で、魚屋(ととや)さん(千利休)も混ぜて、伊賀茶の増産に取り掛かったんですよ。

 とりあえず経済から入り込んで、利害関係を作った方が、婚姻関係とかよりも強い関係が出来るかなって。

 

 実際に家康公の情報を、ダダ漏れとまではいきませんが、ポロポロこぼしてくれるようにまでなっていますし。

 なんかごめんね、服部半蔵さん。

 

「朝廷、という事は官位ですか? ですがまずは織田家との和睦が先。そして同盟も。

 それから松平家のご先祖に、官位を得た前例はおありでしょうか? 無い場合は、改名か他家へ養子入りなどが必要になります」

 

「万事、よろしくお願いいたす」

 

 ペラペラと必要事項を述べる私に、ノータイムで頭を下げる家康公。

 でもそれ、カッコ良く丸投げしただけでは…?

 ちゃんとそっちでも、調べたり公家と交渉したりしてくださいよ? 仲介はしますから。

 

 でもまあ、とりあえず、ちょっとコンサルしておきますか。

 

「織田家も苦労しましたが、官位を得るには家格が重要なのですよ。なので、手に入れましょう、家格

 

「はい?」

 

「都合良く、知識と腕と立場をお持ちの公家の方々がいらっしゃいますからね。少々()()()()()()()()()()をしていただきましょう。

 まあ、少々()()()()()は弾まねばなりませんが、それであなたも源氏の末裔、いえ橘は無理でも、源平藤のお好きな氏族になれますよ」

 

「…………???」

 

 家康公が『えっ、アリなのそれ!?』みたいな顔をして固まっています。

 タヌキと言われて、こういう搦め手をむしろ得意としていた史実のイメージとは違いますね。

 まあ、まだ22か23歳ですからねえ。若いんでしょうね。

 

「その古文書1枚だけではなくて、朝廷で管理している公文書も手を入れねばなりませんから、手数料のケタを間違えないように。

 それと確か、松平家を遡ると、とくがわ、という官位を得ていたお家があったような覚えがあります。改名もご検討を」

 

「とくがわ…… とくがわ……」

 

 名前を忘れないように、と繰り返し呟く家康公は、なぜか少し必死そうでした。

 なんでだろう。

 

 まあ、いいか。さーて、紹介する公家は、順当に観修寺さまでいいですかね。

 

「繰り返しますが、和平と同盟が先ですよ? 今後は、松平家は東へ、遠江を。織田家は西へ、伊勢を取りに行きます。住み分けは可能でしょう?」

 

 共存共栄。共存共栄ですよ、家康公。

 

 ……しかし、今更ですが。私って、織田家でどういう立場で、どういう権限を持ってるんでしょうね?

 今回は茶室での話し合いなので、書状に調印どころか書状を作ってすらいない、前交渉なのでいいんですけども。

 

 まあ、丹羽様や村井さまや林パパがあとで何とかするだろうから、ええか……

 

 この結婚式の準備で大幅にお仕事が増えて大変だとは思いますが、今後も頑張ってもらって。

 文官系だけじゃなくて、武官系も、柴田さまは今も犬山城を落とそうと頑張っているでしょうし、森さまも警備や治安維持で忙しくしているでしょうし。

 

 いやー。織田家のみんなは大変だなー。私も手伝えたら良かったのになー。(棒読み)

 でもこの式の後も、私は京に戻らないといけないので、手伝えませんからね。しかたありませんよね。

 

 私は今、三好家の与力ですからね!

 

 しかも新婚だし。帰蝶、ついでですから途中で伊勢参りもしていきましょうか?

 

「あら、伊勢北畠家へ攻め込むための、下見ですか?」

 

「いえ、あそこは観光名所すぎて、あらためて調べるまでも無いんですよ。純粋に物見遊山です」

 

 新婚旅行っていう概念も言葉も、この時代にはありませんからねえ。

 でも、実行するのは勝手でしょう?

 帰蝶とすら共有できない、自己満足ですけれどもね。

 それでも、思い出作りくらいにはなるでしょう。

 

「得川か……? それとも徳川か……?」

 

 とうとう字を考え出したのか、引き続き念仏のように『とくがわ』と唱えながら、家康公は去っていきました。

 

「ねえ、あなた。とくがわなんて、本当にあったの?」

 

 おっと、不意打ちのアナタ呼びは、効きますね。

 通り過ぎたはずの、結婚への拒否反応が背筋を走りましたよ。

 

 『そっちの反応かい!』って?

 しょうがないでしょう。これはもう、前世から持ち越してしまったナニカですよ。

 

「見た記憶があるのは本当です。ですが、有っても無くてもいいんですよ。有った事に『なる』んですから」

 

「相変わらず、怖い人。結婚したのを、後悔させないでくださいね?」

 

 怖い人と言いつつも、帰蝶は笑っていました。

 大名が次々と向こうの方から会いに来る、というこの状況が楽しかったのでしょう。

 

 それを楽しめるだけで、あなたも怖い人だと思いますよ?

 普通の女性なら、きっと逃げ出しています。

 

 …………そう考えると、この人と結婚して良かった。んでしょう。たぶん。

 

「それにしても、ずいぶんと前向きになりましたわね?」

 

 『式をあげる前は、隙あらば逃げ出そうとしていたのに』と、顔と、こちらに突き出した扇子で責める帰蝶に、気の効いた返しも思いつかないので、正直に答えます。

 

「さすがに神前で結婚の誓いまでしてしまえば、私だって観念しますよ」

 

「あら。さすがのアナタも、神様には勝てないの?」

 

「勝てないんじゃないですかねえ? たぶん、恩がありますから」

 

 私を何だと思っているのか、意外そうな顔になる帰蝶。わりと失礼ですねえ。

 『たぶん?』と、いまいち納得していないようですが、たぶんとしか言えないんですよ。

 

 だって転生なんて、神仏の領域でしょう? でもお会いした覚えはありません。だから、たぶん、なんです。

 本当の『同類』にでも出会わない限りは、誰にもわかってもらえなさそうだから、口にしませんけどね。

 

 たぶん。

 




カクヨム より、本能寺の変から始める戦国生活 を推してみる
桐生 広孝 氏の作。サブタイトルは戦国美食譚!信孝のシェフ?「時空転移した先は本能寺の変前夜」というだけあって、食い物の描写が豊富。
本能寺の変の後、ご先祖っぽい人経由で信孝に取り入って、光秀討伐。なんとこの時点で天下統一がほぼ終了。そこから世界戦略を立てて、各国へ侵攻を開始した。
丹羽様がユーラシア横断して、現在カイロで会談してたり、中国大返し不発かつ、ちょっと暴君になってたとバラされた秀吉が、ウラジオストックあたりに飛ばされて苦労したり、公家も近衛前久とかが海外に派遣されたり。
なお主人公は国内の自宅ででグルメ三昧してる。グルメ三昧しすぎて、預かった浅井三姉妹が出て行くの嫌がって、そのまま居ついていたり。
途中で現代と行き来が可能に。現代に資料持ち込んで学者からかったり、金を持ち込んで企業家の友人に換金してもらったり、好きにやっているなあ…
ただ484話あって、まだ連載中なんだ。読むのは時間がかかるぞ。
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