に、ブチまけられる、いとも簡単に行われたエゲつない行為の数々。
それを知らされた丹羽長秀の取った行動とは…?
え~、仕事が終わると、何があると思いますか?
まあ、色々あると思いますが。打ち上げとか、帰宅とか。
したいです、帰宅。帰蝶は宿に帰ったのに、私は帰れずにまだ茶室にいます。
そんな私を今、待っているのは……
反省会です。
『みんなで、何が悪かったのか反省しようね』っていう一般的な反省会ではなくて。
『丹羽様に 私が 反省させられる会』という、ちょっと変わった反省会です。
それただの説教って言わねぇか。
ただでさえ、くつろげない茶会を乗り切って、疲れていると言うのに。
思いやりとか労わりの心とかは、無いものでしょうか。私が今日、何杯お茶を飲んだと思っているのですか。
ハチミツも点てた後に入れるより、先に茶碗で少量のお湯で溶いてから、抹茶を入れて点てた方が美味しいと気付きましたよ。
生姜と柚子ジャムと、お湯ではなくて温めた豆乳で点てる味変も駆使しましたよ。
柚子ジャムは、気に入った長政に強奪されていきましたが。長政アノヤロウ。
「蜂蜜生姜入りの茶か。邪道にしか思えぬが、飲んでみると実に美味い。爽やかさすら感じる。まさにお前そのものだな」
決して誉めているようには聞こえないのに、表情はにこやかに、丹羽様は見事な青磁の茶碗を両手で持ちながら言いました。
今日の大名たち相手の茶会でも使わなかった、取って置きの茶碗です。私の唯一の
素晴らしい事も、ヤバい事も、共有しないとね!
「丹羽様。その茶碗ですが」
「うむ。いい色合いだな。青磁というだけでも一級品だが、これは鮮やかではない、灰白色に近い、落ち着いた青。
このクシで引っかいたようなマダラの模様も面白い。これもまた正道ではない。これがお前なりの茶道というものか」
「先代足利将軍、義輝さま所有だった珠光青磁茶碗です」
ブーーーーッ!
おお、茶ぁ吹いた。
せき込んでる、せき込んでる。
攻めるなら、今のうちだな。
「反省せよ、と言われるのなら、何があったのかを、まずは正確に知っていただけねばなりませんね。さあ、心の準備はよろしいですね」
「…ゲホッ、グ… ちょ、待っ…… エッフ、ゴホッ」
「全てをお伝えする『松』と、表向きの事だけの『梅』に、その中間の『竹』と用意していたのですが、まさかどれかを聞く前に『松』を選ばれるとは。
さすがは丹羽様。いいお覚悟です」
何かを必死に訴えようとしていますが、何を言っているかわかりませんねえ。
サクサク行きましょうか。サクサクと。
素晴らしい事も、ヤバい事も、共有しないとですからね!
何なら私の全ての行動は、丹羽様の名と責任においての事とか、後世に伝わっちゃいそうですから……
せめて何があったのかぐらいは、知っておいてもらわないと可哀そうかなって。
すでに可哀そう?
うん。まあ、はい。
では、まあ。行きますよ丹羽様。耐えてくださいね。
「まずそちらの茶碗ですが、盗品です」
「えっ」
「美濃の不破さまの依頼で、将軍義輝を暗殺する事になりまして。ですがただ殺しても、もったいないなと思いまして」
「もったいない」
「いい刀を蒐集していると聞いていましたので、ついでに茶器などの遺品を甲賀衆に頼んで、回収してもらったんですよ」
私も知らなかったんですが、足利義輝は将軍家の遺産をちゃんと引き継いでいたんですよ。
ほとんど京にいなかったくせに。
応仁の乱も無視して文化全振りだった室町八代将軍義政。
彼が集めに集めた文物に、その祖父の足利全盛期を築いた義満の唐物などを加えた、東山の山荘などに残された宝物たち。
総称を東山御物と呼ばれるようになる、絵画、茶器、花器、文具、武具などです。
その目ぼしいヤツを悉く、パクッてしまったという。
ほんの思いつきの軽い気持ちだったのに、思ってもいなかった、とてつもないお宝を私と甲賀衆は手に入れてしまったわけで。
そりゃ甲賀衆の一部が、私の下に勝手に入ってきますよ。
手に入れた宝物の中には、かの有名な至高の青磁、
処理に困って『どうしましょうか』って、弱りきった甲賀衆に相談されて、私も困り果てましたっけ。
事件直後は、かなりの大金と、名刀2振りと、茶器少々をもらって無邪気に喜んでいたんです。
でも手に入れた宝物たちの重さに甲賀衆が耐えられなくなって、泣きついてきたんですよ。
「こんなヤバ過ぎる物をいくつもさばいて、もし表沙汰になったら、族滅どころか甲賀ごと灰になりますよ!」
『せやな』って思わず素で返したら、泣きついてきた人がマジで泣いてましたねえ。
それでお偉いさんたちに宝物を貢いで、共犯になってもらおう。という策を考えて話したら、救われた顔をしていました。
名前を聞くのを忘れましたが、あの人誰だったんだろう。
もちろん、そのあたりのアレコレも話します。ああ、それと。
「丹羽様が今お持ちのその青磁も、そのひとつ。珠光青磁茶碗。かの茶人、村田珠光の愛用の品だそうですよ」
あっ、なんか丹羽様も泣きそう。
がんばって。まだこれ、序の口なんですよ。
これから室町幕府の幕引き編、元関白二条晴良毒殺もあるよ。とか。
近江動乱、なんか巻き込まれて、その中で調子乗ったら、なぜか蒲生家が下克上決意した話とか。
その時に追放された六角親子が、甲賀衆を頼ってきて、今も匿ってるけど『そろそろ始末していいですか』って相談されちゃってるんですけど、どうしたらいいですかね?
私としては、ただ始末するのももったいないんで、顔の似たヤツ用意して入れ替わって、何かに利用できないかって思うんですけど。
あと屏風とか絵画とか余ってるんですけど、何か要りません? 出山釈迦図・雪景山水とかどうです?
淡い色合いで、やや抽象的に描かれた、これぞ山水図の極みとも言える良い物です。
あっ、その前に茶のおかわりですか。はい、少々お待ち下さいね。
「……うむ。お前を斬るべきかどうか、じっくり考えたいから、時間をかけて丁寧に点ててくれ」
「アッ、ハイ」
湯を珠光青磁茶碗に注いで捨てて、洗いながら温めなおしてから、抹茶を入れて湯を注ぎ、茶筅で泡立てる。
濃い一日だったせいか、妙に茶道スキルが身に付いていますねえ。さほど意識せずとも、こなせるようになっています。
その余裕を使って、言い訳スキルで丹羽様に命乞いをしておきますか。
「私を斬ったら、代わりに全てを引き継いでくださいね。具体的には――――
三好長慶さまとの契約、室町将軍の復活を目論む細川藤孝と、覚慶の始末。
浅井長政との約束、戦場にて戦う事。
諏訪勝頼さまとの口約束ですが、危機には駆けつける事。
徳川に改名しそうな、松平家康さまとの約束、公家衆への紹介。それと……」
「まだあるのか」
「ええ。丹羽様との約束を。『今度帰ってきたら、ご馳走しますね』っていつか言ったでしょう?」
「ああ、そうか。そんな事もあったな……」
丹羽様は、少しほだされたように表情を緩めて。
それからすぐに『いやダマされんぞ!』とばかりに、険しい顔になりました。チッ、ダメでしたか。
「まったく。始末に負えんとは、この事か。煮ても焼いても食えないヤツめ」
バリバリと、生ではない方の八つ橋を、八つ当たりのように噛み砕きながら、忌々しそうに言う丹羽様。
よし。斬られないですみそうですね。
「だが、それはそれとして、本当に反省はしろ。何が悪かったのか、お前わかってないだろう」
反省点、ですか。
う~ん。正直、将軍や公卿を独断で暗殺したのは、実は私も悪かったと思っています。
でも相談してたら、確実に止められていますし。
実際、実利はこうしてハンパないわけですし。実行する価値は確実にあったんですよねえ。
失敗したら、自爆して身元不明の死体になる準備は出来ていましたし。
将軍暗殺の時は三好家の、遺産を盗んで売りさばくのは和田是政と、三雲家の二重の
きちんと保険はかけてあったので、いいんじゃないかなって。
「あのな。お前がやった事はな。どれかひとつだけでも、表沙汰になったら、確実に、織田家を巻き込むのだ。わかるか?」
一語、一語。幼児に噛んで含めるように、丹羽様が語りかけてきました。
顔には『なんでこんな事、いちいち言わなきゃいけないんだ。父ちゃん情けなくて涙出てくらぁ』と書いてあります。
「もし、何かの事故かなにかでお前が死んだら、それでもその身代わりや保険は効果があったのか?
斬ったら引き継げ、と言ったが、そうでなくとも死んだ場合は、残された我らに、それは降りかかってくるよな?」
あ~~。言われてみれば、そうですねえ。
自分が死んだ後の事なんて、考えてもいませんでしたが。
『知ったこっちゃねえ』と駆け抜けるには、少し事が大きすぎて、無責任すぎましたねえ。
私に少しは通じたのが分かったのか、トーンダウンした丹羽様ですが、それでもまだ語ります。
どうやら、よっぽどナニカが溜まっていたようです。
「お前の所業は、お前しか出来んのだ。分かるか? お前は、お前しか扱えない毒や火薬を、勝手にあちこちの家の蔵や屋敷に積み上げているのだ。
しかも本人は、その前や上でのん気にくつろいでおる。妖怪か、天魔の仕業にしか見えんのだ。巻き込まれるこちらの胃や心の負担も考えよ」
あっ、勢いが落ちた分、気持ちも落ち込んだのか、丹羽様また泣きそう。
「戦を起こし、国を広げるのが普通の武家よ。だがお前は、むしろ戦を無くし、なのに国を富ませてきた。
近隣諸国の均衡も保ち、畿内にまでひと時の平和をもたらした。この戦国の世にだ」
急に持ち上げますね?
と思ったら、丹羽様に肩をつかまれて、物理的にも持ち上げられました。
ちょっ。痛い! 肩、痛いです丹羽様!
「わかるか? お前はな。もはや死んではならぬのだ。お前しか出来ない事を積み上げて、お前にしか出来ない平和を保つためにだ」
いや、だから肩がですね! うわ爪が食い込んできた!
「お前が悪かったのはな! 独りだ! 独りで全部決めて実行しきった事だ! どうせ巻き込むのなら、最初から巻き込め!
ワシはな。 お前の上司なのだぞ!」
ドサッ
急に肩を放されて、茶室の床に尻もちをついた私は、さすがに悟らざるを得ませんでした。
好き勝手放題している自覚はありました。振り回しているという自覚も。
ですが、そんな部下でも心配してくれているという自覚は、ありませんでしたよ。丹羽様。
もっと信じて頼れ。そういう想いもあるのでしょうね。
『どうせ理解されないだろうから』
何も言わずに独断専行していたのは、私にそういう諦めのような思いがあるのを、解かってくれていたのでしょう。
信長さんにも、そういう所があったからかもしれません。
信長さんは独自の価値観と、時代に合わない合理性からで、私は転生者ゆえの価値観の相違から。
いちいち行動を止められたり、説明する必要があったりと。そういう経験が幼少期から積み重なると、だんだんと面倒くさくなって、他人の理解など不要と、無視するようになるんですよね。
まあトイレが臭いからと、バイオトイレにしようと米ヌカとおがくずを放り込もうとしたり。
村中の子供に文字と計算を覚えさせようとする子供は止められますよね。
ですが、そうか。巻き込んでいいんだ。
そうですよね。素晴らしい事も、ヤバい事も、全部 共有しないとね!
「わかったか? 逃がさんぞ。お前だけは」
「ええ。あらためてよろしくお願いします、丹羽様」
いやあ、おかしいですねえ。
結婚のために戻って来た(連れてこられた)故郷で、なぜ新婦とではなくて、上司と絆を結んでいるんでしょう。
悪くは無いし、悪い気分でもないのですが。
「出山釈迦図・雪景山水だったか。もらってやる。あとで届けさせろ」
つまりそれは『共犯になってやる』という事ですね。そういうところですよ、丹羽様。
さて、さっそくですが。
六角親子の始末をどうするのか、相談に乗ってもらってよろしいでしょうか?
あと、複数の大名が拠点を留守にしたこの機に、たぶん武田信玄が動き出すと思うので、その対処方法も。
たぶん、武田義信。そろそろ限界だと思うんですよねえ。
『そういうところだぞ』って? ははは、お互い様でございますよ。
残念ながら15話でエタッてるけど、サクッと読めて面白いので、カクヨム にある
日本人、異世界でもなんでも食べる
を推してみる。「フグか」「毒よ」「よし食べよう」「なんで!?」そんな物語。
以下は紹介文から引用。
魔物たちの間では恐怖の象徴として、人間にはやばい奴として語り継がれることになる『ニホンジン』なる一体の怪物がいる。
曰く、異常なまでの食への執着と、美味しければどんなものでも食べるというとち狂った生態を持つ。
曰く、毒があろうと関係ない。
曰く、あらゆる生物は、ニホンジンの前では等しく食料である。
そして、とある古竜は言った。
「ニホンジンから逃れるためには、不味くなるしかない。少しでも美味しい部位があれば、抵抗は無意味である」と。
一人のゲテモノ好き日本人が異世界に転移するところから始まる、異色の異世界グルメ(コメディ)ファンタジー!