え~…… ひょっとすると私、浪人になるかもしれません。ちょっと織田家が危うい感じでして。
と、なると転職活動、ですか。就活ですね。戦国でのそれって、どんな感じなんでしょう。
その場合、主家である織田家がなくなってますからね。履歴書に書くことなんて『前職で城ひとつ切り取りましたが、上司に横取りされました』くらいしかありませんよ。
面接官、どんな顔するかな。
……いや、本当に笑えない状況なんですけどね。
その前にちょっと、現状を改めて認識するため。これまでの武士としての職歴を詳しく振り返ってみましょう。
履歴書に書く事がアレだけなのは、さすがに寂しすぎるので。
まずは足軽から。戦で手柄を立てて足軽組頭。立てた手柄が、信長殺しなのが一味違うかな。
そこから勘定方に回されましたが、今思うと、ひょっとすると左遷のつもりだったんでしょうか。
しかしそこで、そんな空気は読めなかった私は、丹羽様に取り入って、物頭まで出世しました。
う~ん。こうして見ると、これは上から悪い印象を持たれているっぽいですね。
道理で、前回の服部党への計略。
向こうの財布と人手で城を建てさせて、始末して乗っ取る。というのを1年くらい掛けて成功させたというのに。
城も領土も、取り上げられてしまったわけですよ。
そもそもロクな後ろ盾も、家臣もいないヤツには任せられない? それはそう。
でも自力で切り取った土地じゃないですか。てっきり、自分の物になると思っちゃうじゃないですか。
城を造らせるのに、口だけじゃ動いてくれなかったんで、少しだけですが資金援助とかもしちゃったんですよ。
足軽大将への出世とかで、誤魔化されませんよ。
しかも信行派の角田って人に城と土地を任せるとか、ないです。せめて旧信長派でしょう。
森可成とか、丹羽様とか、前田慶次郎とか、意外と残ってるでしょうに。
あまりに頭にきたので、つい。
尾張に来ている武田軍に荒らされた村々に、補填の食料を渡すついでに、こっそり槍や弓矢の武器も渡してしまいましたよ。
もちろん、私の領地でもなんでもないので、私が直接やるとマスい。
なので、なじみの商人を経由して、尾張一向宗にやってもらいました。
はい、一揆。
土地の農民たちにしてみれば、武田が居座って今川方面の、この間まで織田方だった城を攻めているとか、わけがわからなかったのでしょうね。
雑に、敵だと判断していたようです。
しかもそれを、殿様である信行さまは、いつまでたっても討とうとしない。それどころか兵糧を渡している。
そこに米と武器と、一揆を起こさせるプロである一向宗の坊主が流れてきたら。
はい。一揆。
教えた覚えも無いのに勝手に流行りだした「一気! 一気!」という飲み会でのコールくらい気軽に起きちゃいました。
「今の織田の殿サンは頼りねえ! 俺たちであいつら叩き出して、三河の奴らと合流して独立するぞ! 第二の加賀になるんじゃあ!」
しかもこんな感じに、なんか、こう。予想以上に盛り上がってしまいまして。
そのわりには、正面から戦うとかではなくて、少数に分かれて潜み。隙を見せた敵を少しずつ削っていく、ゲリラ戦を展開。
手馴れているように見えるので、たぶん一向宗の仕業だと思われます。史実の長島一向一揆でもやってたらしいですし。
しかも同じ一向宗ということで、鳴海城に入っていた、三河一向宗とも連絡を取って。
鳴海城に入っていた兵士の、その半数以上が一向宗の門徒だったせいで、乗っ取りに成功してしまって。
勢い余ったのか、山口親子が追放じゃなくて首を取られちゃって。
ここで、武田軍が撤退します。
なんだかんだ被害が大きくなっていたのと、今川の注意を尾張方面に引き付ける、という戦略目標は達成された、と判断したからでしょう。
もう自分たち武田が頑張らなくても、一向宗が代わりに引き付けてくれますからね。
話が違う。と、キレる信行さまの抗議を、知った事かと受け流して、悠々と木曽路から帰っていきましたよ。
妙に素早い撤退で、そこに違和感はありましたが。彼らも実は後ろめたかったか、帰りたい理由でもあったのでしょう。
そうして武田が消えて生まれた、三河西部から尾張東部の一向宗ゾーン。
命令系統の確立、というか誰がトップになるかのグダグダはあったものの、空誓上人を筆頭に一応はまとまって。
彼らは引き続き、三河を切り取らんと侵攻します。そう。三河一向一揆。史実よりも大規模に勃発です。
おかしいな。ちょっとスイッチ押しただけなのに、大変な事になっちゃったぞ。
私はただストレス解消にと、ちょっとした嫌がらせをしようと思っただけなのに。
ま、まあ。ここまでの結果になったのは、思った以上に火種がくすぶっていたのか、追い風が強かったのかですし。
なんか大火事になっちゃったけど、消火は尾張の管理責任者の、信行さまにポイーで。
いい感じに今川に攻め込んでいた家康も、急いで岡崎まで取って返して、守りを固めるようですし。
それで一息ついた今川も、何度も呼んでいるのに援軍をよこさない武田にキレかけているようだし。
武田は武田で、援軍を出す派の長男の義信と、逆に攻め込みたい信玄で内乱やってるみたいです。
はい。内乱です。
史実だと、義信が内乱起こすまでも無く。味方が処刑され、身柄を拘束されて、本人も処刑されて終わったのですが。
展開が早かったせいで、勢いで内乱までイケてしまったようなのです。
これには甲斐の人々も大混乱。尾張にいた武田軍が未練なく急いで帰ったのも、このせいだったんですね。納得。
この間、稲の刈り入れも終わって、戦をするにはいい季節です。そして甲斐は、もうすぐ雪が積もる時期。
つまり、雪が降る前に決着がつかない場合。来年の春の雪解けまで、お互い冬篭りという、グダグダな年越しになります。
だからきっと、長続きはしないでしょう。
言っていてフラグな気がしてきましたが、たぶん大丈夫です。尾張以外もグダグダだなんて、そんなわけはないでしょう。ないといいな。
それで現状、武田も今川も松平も動けない。織田も一向宗にかかりきり。
そう読んだ美濃の斉藤が、とうとう動き出しました。
北近江の浅井とやり合っていたはずですが、こちらの方が攻め易そうに見えたのでしょうか。正解ですね。
斉藤軍は、秀吉がいないので織田に取り込めていなかった、蜂須賀正勝率いる川並衆を使って、密かに木曽川を渡河。
かの有名な墨俣一夜城から13kmほどの所にある、鎌倉街道沿いの黒田城を奇襲で乗っ取ったのです。
平野部の城なので、篭城には向いていませんが、攻め取りやすくもあったのでしょう。
そしてそこから、冬の間。雪のあまり積もらない尾張で、戦が続きました。
何としても、熱田と津島は守るのだ。と、自ら清洲城に詰めて、防衛ラインを敷く信行さま。
その2つの町が戦火に焼かれてしまうと、権威と銭を失ってしまうので、必死です。
特に熱田は、熱田神宮があります。なぜか日本3種の神器のひとつ、草薙の剣が奉納されている神社です。焼かれても奪われても、マジでシャレにならないのです。
まあ、奪われちゃったんですが。
直接は、奪われなかったのですが、こう、陣取りゲームの如く、熱田の廻りのエリアを囲まれてしまったというか。
斉藤家の軍は、黒田城から西へ進み、再度木曽川を渡って尾張の西側から清須城を目指す……
と見せて、大半の軍は陸路を北上。岩倉城など尾張北部の城を攻略しながら南下し、さすがに途中で織田に気付かれ奇襲はできなくなったものの、清須城の包囲に成功。
そこからの、手紙や使者での各城や氏族の調略に入った。のですが。
ここで斉藤義龍。寿命でございます。
享年33歳。
一代で商人から武士に、美濃一国の太守にまで下克上で成り上がった斉藤道三の息子にして。
その父を下克上して国主を乗っ取り、史実では織田信長を跳ね返し続けた名将。
病死と言われていますが、あまりに早すぎる死でした。
勝手に敵がいなくなる、信長の豪運エピソードのひとつでもありますね。
そして織田家が滅亡までリーチかかったこの状況で、義龍が亡くなり。斉藤家は美濃へと帰り…… ませんでした。
せっかく手に入れた土地と、有利な状況を放棄したくない。と、参加者達の合意が出来たのと。
単に美濃はもう雪が積もってて、帰りにくかったからです。
豪雪地帯は、冬の間は雨は降りません。降るのは全て、雪です。
しかも結構な頻度で降ってくるので、高く積もってしまうのです。
今と違って、どこを見渡しても家がある。とか、道が整備されている。とかはありませんので。
遭難の危険も、極めて高いのです。あと単純に寒いしキツい。
そして義龍が亡くなって、10日。
未だに解かれない包囲網に、もはやこれまで… と思い極めたのか。一つの事件が起こります。
織田信行、暗殺される。
犯人は、池田恒興。
何でそういう事するの。
そもそも、何でいるの? あなた尾張を出奔して、松平家に行ってましたよね? 鳴海城にいるって聞いて……
…あっ(察し)
一向宗に追い出されちゃったんですね。もしくは山口親子と違って、うまく逃げられたか。
それで織田家が、というか尾張の地がピンチと聞いて、駆けつけていたと。
出戻りなのに、しかも信長の乳兄弟という近い立場だったのに、清洲城に入れているのは、尾張に残っていた旧信長派のよしみでも頼ったかな?
もしかして:丹羽様
さらにもしかして:信行暗殺の黒幕
信長様が生きていたらって、何度も言ってましたからねえ。不満たらたらでしたからねえ。
色々溜まってて、しかも結果が織田家滅亡の危機。と、あっては。
もう、ヤっちゃうしか無かったのかもしれませんね……
でもこれ、ヤっちゃった後の事って、考えてないんじゃないでしょうか。
つもりにつもったストレスが爆発してついヤっちゃって、虚脱状態に。後の処理がグダグダになって、破滅。
本能寺の変で信長をヤっちゃった、明智光秀の解釈に、そんな説がありましたね。
まあ、私の想像に過ぎないわけですが。でも、妙に確信が持てるんですよ。やっちゃったんだろうなあ……っていう確信が。
さて。
足軽大将に出世したとは言え、まだ自前の軍と家臣がそろっていないので、小数を率いて防衛のお手伝いをしながら、成り行きを見守っていたわけですが。
あちこちから、ツテやらカネやらで集めた情報も出揃った事ですし。
これからの行動を、考えてみましょうか。
ぶっちゃけ、食っていくだけなら、居酒屋チェーンのオーナー社長でいいんですよね。
この時代、商人への税金なんてないし。戦渦さえなければ、うっはうはです。
たまに矢銭という名の、臨時徴収はされますが。
でもそっちはあくまで副業。本業は武士。のつもりなんですよね。
しかし主家を持たない武士は、ただの浪人なわけで。
というか、織田家自体がもう、だいたいほぼほぼ滅んじゃってるんですよ。
まだ希望はありますが。
本能寺の変で、信長と後継者の信忠がまとめて亡くなっても、まだ信忠の子の三法師がいたように。
信行が亡くなっても、坊丸という息子がいます。確か清洲じゃなくて、末森に、信行の母親とかと一緒にいたような。
彼を確保できたら、旗印にして斉藤家との交渉、できますかね。
向こうも義龍が亡くなって、息子の龍興でしたか。いきなりの代替わりで時間が欲しいはず。
その後は……
この状況からでも織田家が入れる保険、じゃなかった、いやあながち間違ってないわ。織田家の存続を勝ち取るには。
この尾張に残っている、有力な勢力を糾合して、力を合わせられる体制を築きあげるしかありません。
1から自力で立て直している時間など、ないのです。借りて集めないと。
ただ、ね。その戦力がね。
柴田とか前田とかの、旧信長派には丹羽様経由でツテがあるのですが、そちらはもうフル回転中で、これ以上の余裕は無くてですね。
日和見に走っている、土豪や豪族、国人衆の戦力を借りねばならないわけでして。
でも、ですね。
私、知多半島の水野とか、佐治水軍とかの有力な土豪には、特に面識すら無いんですよね。
酒造りしている中小の土豪とは仲良しですが、そいつら金儲けにウツツを抜かして、戦力にならないという。
戦力で脅されて利益分配で不利にならないから、平時は私にとって都合がいいけど、今は困るんですよね。
そもそも斉藤家は尾張の各勢力に、どういう呼びかけをして、どういう交渉をしているのか。
そこも含めて、改めて織田家として国人らと交渉する必要も出てくるでしょう。
織田家として。
そのためには、足軽大将じゃ貫目が足りない。各勢力との交渉の人手も、処理能力も足りない。
なら、仕方が無いですね。
あの人を、どうしても救い出さねばならないようです。
正直、私としてもあの人を助けられるなら、助けたいですし。
しかし自分がそこそこの生活が出来ていれば良かったはずなのに、気付けばこうなっていますよ。
全く、人生というのは、不思議で、ままなりませんね。
さあ、斉藤家に包囲されている清洲城から、どうにか丹羽様たちを助け出しましょか。
「ミッション・インポッシブルです」