尾張グダグダ戦国記   作:far

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最近、主人公がムチャなってないな。と思ったので。


  ❙ 回天編 ❙
【過激に】北畠家の料理法【ファイヤー】


 

 『一発だけなら誤射かもしれない』

 

 これは、日本に弾道ミサイルが叩き込まれたら? という問いに対する、日本の有力新聞の伝説の答えです。

 そうなっても日本への攻撃とは限らないから! 攻撃じゃないから!

 と、必死に言い訳しているように思えてしまう、反国家的すぎるフレーズは、ネットミームとして今も残っています。

 

 で、なぜこのフレーズを持ち出したのかといいますと。

 

「あっ、風が止みましたね。今です。点火!」

 

「あいよっ!」

 

 職人らしい、威勢のいい返しをしてくれた男が、手元の導火線に火を近付けて着火。

 そのまま素早く後方へと待避していきます。

 長めの導火線が、パチパチと火花を立てながら燃えてゆき、丸太に見えるように偽装してある特製の木砲へとたどり着きました。

 

 ドン!!

 

 腹にズン、と響く音と、空気の振動。火薬の燃えた煙と臭い。

 それらをこの場に残して、弾は発射されて、1km以上先の大河内城へと飛んでいきました。

 

「さあ、どうだ?」

 

「いけいけ! 当たれ!」

 

「よーしよしよし! そのまま、そのままだ!」

 

 ここ、大河内城の南東の神路山(かみじやま)まで、木砲や弾を一緒に運んできた職人さんたちが、はしゃいでいます。

 この日のために練習はしてきましたが、本番はこれが初めてですからねえ。テンションが上がっちゃっているんでしょう。

 楽しそうで、何よりです。

 

「あ~~~……」

 

「惜しい! あとちょっと!」

 

「ダンナ! もう一発! もう一発だけ!」

 

「ダメです。1日1発って言ったでしょう」

 

 結果は、惜しくも本丸まで届かずに、手前にある馬場に落ちてしまいました。

 次は当てるから! と職人さんたちが主張しますが、却下です。そもそも弾は一発しか持ってきていないでしょ。

 ほらほら、撤収しますよ。誰か見に来ないとも限りませんからね。

 

 さて。

 

 私がこうして、どこで何をしているのかと説明しますとですね。

 ひとことで言えば、まあ…… テロ かなあ。

 嫌がらせとも言いますね。

 

 ちょっと伊勢の国の北畠家の実権を握っている、隠居の爺さん、北畠具教(きたばたけ とものり)の心を折りたくてですね。

 まずは精神的に弱らせようと、ちょっと『山の神の怒り(物理)』を味わってもらおうかなって。

 具体的には、私がサイコロ2個振って、丁(偶数)が出た日に砲弾を撃ち込みます。

 ああ、今はあえて真昼間に撃ち込みましたが、夜中に撃ち込むのもいいですね。時刻はまた別にサイコロ振りましょう。

 

 それとこれは、嫌がらせですからね。弾も安全に気を使って、特製ですよ。

 樫の木の芯に、粘土をラグビーボールみたいな形に塗りつけて、中に多少空洞も作って、油や染料を仕込めるようにしてありまして。

 その上から布を巻いて、申し訳程度ですが尾翼も付けて、発射に耐えられるように底だけは厚めの板を付けて、でも弾道が安定するように発射後はすぐ分離するようにして。

 そんなあれこれが詰まった。そう、私と職人さんたちとの試行錯誤と工夫の詰まった、特製の弾なのです。

 

 最初単純に弾を軽くしたら、初速が増しただけ飛距離が伸びたのは良かったんですが、狙いが甘くなりすぎて使い物にならなくて困りましたねえ。

 そこから色々とアイディアを出し合って、作っては試射、作っては試射をして。半月後に何とか形になって。そうしたら……

 

「もうここまでやったんなら、最後まで面倒みるしかないだろ!」

 

 と、職人さんたちが盛り上がってしまいまして。

 それで北畠家へのテロ行為に嬉々として参加してくれているというわけです。

 

 やだ、この時代の人たち、血の気が多すぎる。

 

 まあ、一応は機密作戦なので、関わる人間が少なくなるのは、助かると言えば助かりますが。

 

 北伊勢の攻略戦の中で、木砲は城攻めなどに大いに使われました。主に丹羽様が撃ってましたっけ。

 

 点火する役は、万一逃げ遅れたら危ないからと止めていたはずなのに、何度か実行していたと、金森さんから聞きました。

 今度説教された時のカウンター用に、覚えておこうと思います。

 

 まあそれはそれとして、この木砲の砲撃を『山の神の祟り』とウワサを流しはしますが、わかる人には、犯人は織田家の者だとバレバレなわけで。

 でも、すっとぼけて、言い張ろうと思います。

 もしバレても、そんな事はやっていないと言い切る勇気。

 

 まあ、実害はそう出ないはずなので、それでいけるかなって。

 運悪く直撃でもしない限りは、瓦が割れるとか、壁に穴が開くとか。その程度の話でしょうから。

 『なんだこんなもんか』と思われたら困るので、そのうち一発だけガチのヤツを撃ち込みますが、それも爆発はしない、ただの布を巻いた岩……

 

 だと面白くないですし、織田家の撃った弾と同じだとさすがにアレですね。

 よし、布に油を染み込ませて、火をつけて撃ちましょうか。あの城には井戸もありますし、そうそう大火事にはならないでしょう。

 いけるいける。たぶんいける。

 

 あ、そうそう。そもそもなんで、北畠具教の心を弱らせたいかと言いますと。

 陛下に、釘を刺されちゃったから、ですかねえ…?

 

 はい、陛下です。今の天皇さん、正親町(おおぎまち)天皇陛下ですね。

 儀式の費用が用意できなくて、2年間も即位できなかったりと貧乏エピソードでいっぱいの、おいたわしい方です。

 その費用を出してくれたのが毛利元就で、その長男を救ったというのも、私への好感度の高い理由のひとつじゃないかなって。

 

 その陛下が、何をおっしゃったのかは、わかりません。私は直接お目にかかれる身分ではありませんからね。

 そういうのは殿上人、従五位から上の官位持ちからで、私は従六位下なので、少し足りません。

 足すのも、織田家家臣なので、主君の坊丸さまと同格以上になったらマズいのと。

 あちこちから、なぜか長慶さまからすらも危険視されているせいで、当分無理そう。

 

 しかし直接ではなくとも、陛下の意向は伝えられました。

 私につながりのある、菊亭さまから『陛下が北畠家の行く末を案じておられた』と、聞かされたのです。

 

 ついでに少し事情を詳しく解説してもらいましたところ、北畠家は准三宮という、皇族に準じる程の名門なんだとか。

 伊勢国司で、鎌倉幕府の任じた守護や地頭を押しのけて生き残っている、鎌倉時代より前からの名門だとは思っていましたが。

 どうも私の思っていた以上に、名門だったようです。そりゃ陛下にも案じられるわ。

 

 その北畠家ですが、今どうなっているのかと言えば、まあ、目に見えて滅びそうかなって。

 

 一時は伊勢を越えて、南の志摩を制して紀伊や近江にまで影響力を持っていたのが、今や南伊勢と志摩のみですからねえ。

 伊勢の北から中央は織田家が取りましたし、養子を送り込んで乗っ取った分家の木造家すら寝返っています。

 そして志摩にも、近江から手が伸びている。というか、私が誘導しました。

 

 志摩から追放された海賊衆の九鬼家の再興を大義名分にして、攻め込んで実効支配して、大名にならない? どの家が大名になるかは、皆さんで相談で。

 

 そんな感じで、蒲生家や後藤家をそそのかしたんですよねえ。

 あっ、大丈夫ですよ。この件は、ちゃんと丹羽様にも長慶さまにも了解を取っていますから。

 織田家の処理能力が限界を迎えていて『これ以上の領地なんてムリ! というかイヤ!』と文官たちから泣きが入っていまして。

 でも北畠家の勢力は削ぎたい。そんなワガママをかなえるための、ステキなプランです。

 

 自分で管理できないなら、他所に任せましょう。丸投げ。もしくはアウトソーシング。

 

 それで伊勢ならともかく、志摩なら近江勢に投げてもええか。と話がまとまったわけです。

 誰が志摩の大名になるかで揉めて、ちょっと近江で内乱が起きかけて慌てましたが。

 やだ、この時代の人たち、血の気が多すぎる。

 

 甲賀衆経由で知らせを受けて、調停に乗り出しましたよ。

 ここで近江で内乱発生とか、そんなグダグダやってるヒマはないのです。

 長政がいつガマンできなくなって、美濃なり近江に襲い掛かってくるか、わかったもんじゃないのですよ。

 ただでさえ美濃が、国内に入り込んだ一向宗を掃除し終えたか確認中で、まだ動けないのに、ここで近江までしばらく動けませんとか、勘弁して下さい。

 

 そして始まる、命を懸けた話し合い in 近江 パート2。

 パート1は、前に観音寺騒動の後に、蒲生家で家臣の人らに取り囲まれながら、蒲生賢秀さまに『お前、将軍暗殺企んでるだろ』と詰められた時ですね。

 いやあ、あの時は危なかった。

 足利将軍の産廃っぷりをアピールして、家臣たちの共感を呼んで。近江の秩序を守るという大義名分を蒲生さまに意識させて。

 それから野心をあおって、下克上を決意させて、ついでに将軍暗殺の仲間に引き込めたんで、生き残れたんでしたっけねえ。

 

 ……我ながら、何で成功してるんでしょう? すごいな言いくるめスキル。

 

 それを思い出して、私は気付きました。

 そうか。蒲生さんって、将軍暗殺という大事件の共犯だったんだ。

 なら、その共犯には出世してもらっておいた方が、都合がいいな。

 

「鶏口牛後*1。お飾りの将軍の下の、近江の連合政権の1人であるよりも、志摩の大名になって下さい」

 

 まずは蒲生さまに、そう吹き込みました。

 元々乗り気であった蒲生さまは、私も後押しする気だと知って嬉しそうでしたね。

 

 と言うのも今、蒲生家の影響力が落ちて行っているからです。

 というのは、蒲生家は琵琶湖の水軍衆を差配していた家でもあったのですが。ここ最近は、浅井家に北近江を取られてしまったせいで、ね?

 目加田はおろか、坂本にすらも影響力を持った浅井家に、琵琶湖の水軍衆が、一斉になびきそうで、ね?

 

 そもそも琵琶湖の北端の近くに、浅井家の居城の小谷城があるので、琵琶湖も北の方は浅井家の領分だったのです。

 京に直接繋がる、南の方が栄えていましたが。それでも琵琶湖の水軍衆にツテはあったわけです。

 その水軍衆の、最近の浅井家と蒲生家の支持率の割合が、ね?

 

 そのあたりの蒲生家の事情を、むしろ他家への説得材料にしました。

 

「あそこの家、この先苦しいんですよ。譲ってやってくれませんか」

 

 蒲生さま自身だと、プライドもメンツもあって言えないし、頭を下げられないけど、私が勝手にやるならセーフ

 これはむしろ報告連絡相談しちゃダメなケースですね。私が勝手に言っているだけだからこそ、許されるという。

 

「それと志摩は、地元の小さな国人たちが、まとまりも無く内輪で小競り合いしている、少し前の北伊勢みたいな土地でして…」

 

 だから上から治める力として、近江でも格の高い蒲生家の、と続けようとしたら、後藤さまはここで下りてくれました。

 

「そうか、そういう土地なのか…… うむ。我が後藤家は近江で将軍様を守るとしよう」

 

 とかカッコよさ気に言っていましたが、顔には『そういう面倒はゴメンだ』と書いてありましたねえ。

 史実では観音寺騒動で、父親とともに斬られて亡くなっていた、後藤賢継さま。どうやら中々いい性格をしておられるようです。

 

 進藤さまはちゃんと最後まで聞いてくれましたが、結論は同じでしたね。

 大名と言えば聞こえはいいが、新天地でイチから苦労するのも確かなのだな、というのが進藤さまの結論。

 降って湧いた好機に、ついテンション上がってしまって争いかけていたのが、冷静になったら面倒が目に付いた、という事なのでしょう。

 

 そうなると、あとは実務の話です。

 いつ攻めるのか? 兵の数は? 物資は? 織田家の援軍は? などなどの打ち合わせと事務仕事。

 それを大義名分が確保できるまでの間に、進めておかねばなりません。

 皆さん、頑張って下さいね。

 

 えっ、私ですか? その辺の権限も兵も領地も無いので、私の仕事ではないですね。

 なぜか物資の確保やら輸送やらは回ってきますけど。まあ、比較的マシかなって。(尾張の方を見る)

 

 ところで、ひとつ不安があるのですよ。まあ、不安と言っても、彼なら大丈夫だとは思いますが。

 単身で南伊勢の朝熊山まで投げ出されて、そこで山賊やってるらしい九鬼嘉隆を説得して連れて来る予定の、藤吉郎くんはうまくやってくれているかな、という不安です。

 

「北畠が後ろ盾になってまとまった、他の志摩の国人たちに追ン出されて、そっからの返り咲きを手助けするっちゅーんじゃ。こりゃ楽勝で釣れるでよ!」

 

 丹羽様からの手紙によると、そんなフラグが建っちゃうような事を言っていたらしいので、若干不安なんですよねえ。

 九鬼嘉隆は、今回の作戦でマジで重要なパーツなので、確保できないと困るのです。

 

 というのも、志摩が片付けば、北畠家は何処にもいけなくなるのです。

 北は織田家、西も近江勢がフタをしていて、南も志摩が取られて、海賊衆もこの間、毛利家にちょっかいをかけて返り討ちにあっている。

 つまりは、まさに四面楚歌。

 

 そこに撃ち込まれる『山の神の祟り(物理)』。

 

 そうして無力感に心が折れるか、弱りきったところに、救いの手を差し伸べたら?

 

 ちょっとしたお手紙を、用意してあるんですよ。

 『京へと参って、助けてくれないか?』という、とある高貴な方からのお手紙を。

 差出人のお名前は書いてありませんが、とても高貴な方で、恐れ多くてお名前が出せない方からですよ、ええ。

 

 北畠家は、伊勢国司。つまりは公家大名ですからね。ただの公家に戻っても、問題無いですよね。

 なんなら高位の公家に相応しいお屋敷と、剣術道場も付けちゃうぞ。

 大和の柳生さんちみたいに、自分の流派を立ち上げる時間と場所と、ケンカに明け暮れてる京の三好家の面々とかだけど、弟子もできるよ!

 

 さて、顔も見た事がない、北畠具教さま。説得される準備と覚悟はよろしいですか?

 こちらの、いえ、こちらの説得技能の、セールストークの準備は万端ですよ。

 その前に、砲撃しまくりますが。とりあえず、どこから撃ちこむかの候補は、30箇所あるぞ。

 

 さあ、今日も陛下の願いで北畠家を救うために、北畠の城に砲弾を撃ち込みましょうか!

 

 え? もう一発だけじゃないから誤射でもなんでもない?

 一日一発だからセーフで。

 

*1
鶏の口になっても、牛の後ろになるなかれ。大手の一員であるより、小さな集団でもテッペンだろ!という意味の故事成語




始まってまだ10話の作品を紹介してみる。
カクヨム より、 @Sakura-shougen 氏 の戦国タイムトンネル
一人称だけど、地の文が若干関西弁入ってるのと、歴史ものなのにゲーム的なステータスとスキルが主人公に付与されるとか、好き嫌いは出ると思われる。
時代考証はちゃんとやってるから、そこは安心して。スキルの中にネットスーパーあるけど。

庭にあったほこらの、謎の穴に入ったら、秀吉の弟、小一郎の息子(数えで10歳)に憑依。
なお憑依しなかった場合、その子は普通に病気で死んでいたのでセーフで。
まだいくつかのスキルを試運転しつつ、(現地の)親孝行をしてる初期段階。
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