なので一歩一歩すすみます。
月日が経つのは早いものですねえ。伊勢へ来て、一日一発、感謝の砲撃を大河内城へと撃ち込み始めて20日が経ちました。
その間に、職人さんたちが勝手に木砲を改良して、四枚の板を組み合わせていた木枠が八角になって、頑丈さがアップ。
爆発を受け止める底の部分も、樫の木のブロックをミゾではめ込み、横から栓をして、ゴムでピッタリはめ込んで元から気密を確保していたのですが。
それも中華ナベのような形の金属パーツが追加。単純な補強だけではなくて、ニカワなどに直接爆発での熱が及ばなくなって、壊れにくくなりました。
結果。600mほどだった射程が、1km以上に! 狙いがつけられる、有効射程も500mほどに伸びました。
早ければ三発。今までの最高でも七発までしか耐えられなかった耐久性も、十発は耐えられるほど向上しています。
おかしいな。現代知識チートした私よりも、現地の職人さんたちがチートなんですが。
そのチートした職人さんたちが頑張った理由が『もっといっぱい撃ちたかったから』というのも、なんか納得いきませんね。
いや、まあ、いいんですけどね。いい物を作ってくれたのは確かなので。
射程が延びた分、発射候補地も増えた事ですし、一日一発から二発に増やしても、困りませんでしたからね。
そんないい仕事をした職人さんたちに、ご褒美として赤福モチを作って食べさせたら、すごく喜ばれました。
砂糖も蜂蜜もマジでお高いので、甘味がすごく貴重で喜ばれるんですよね。
伊勢の名物だと思って作ったのですが、そういうわけでまだ赤福モチは開発前だったようです。
たぶん、江戸時代からですかねえ?
赤福モチよりマイナーで老舗な、二軒茶屋餅もありませんでした。こちらはきな粉もちなので、こっちなら今でも商品に出来ますね。
よし、乗っ取ろう。うちの大番頭の長秀、いや名前変えたんでしたっけ。秀長にお手紙お手紙、っと。
他にも職人さんたちとは色々と遊び歩きましたね。
だって雨だったり、サイコロ2個振って丁(偶数)が出なかったら、その日は休みですし。
丁が出た日でも、移動と砲撃で半日がかりですが、逆に言えば半日はヒマですし。
ちょっと桑名で家を建てるなど、大工仕事で稼いで、全部酒に換えて宴会してたら、気付けば知らない人たちも参加してて。
酒が足らなくなったのか、勝手に追加注文されて、翌日支払いがこっちに回されてきて、アシが出ちゃって借金したり。
それを返すために、伊勢神宮の神官の家系の人が、宴会の参加者にいたので巻き込んで、お守りを売りさばいたり。
そのお守りのご利益が『これを家に置いておけば、最近ウワサの山の神の祟りにあわない』というものだったり。
その反発で『まともな商売もしたいな……』と商人魂に火がついてしまったので、手分けして商材を探し回ったり。
そうして見つけた、伊勢名産のたまり醤油と、まだ全国区ではない桑名のハマグリ。この2つを使った、
1ヶ月は持つ、この商品を新たな土産物として、材料の買い付け、生産、販売のルートを整えて、職人さんたちの親族を呼んで任せたり。
そうして片手間に色々やりながらも、私と職人さんたちに砲撃を撃ち込まれ続けて、日に日にちょっとずつ壊れていく大河内城。
その真の狙いは、北畠
いや、効いているとは思うんですよね。城から兵が『こんな所にいられるか! 俺は逃げさせてもらう』と、ちょいちょい逃げていっていますし。
でも北畠具教は逃げ出さないんですよねえ。
武道で鍛えた精神と、陰謀で鍛えた面の皮は伊達ではないようです。
でも『その気になれば、いつでも沢山撃ち込んで滅ぼせるぞ』という、こちらのメッセージは通じていると思うので、そろそろ交渉に行こうと思います。
例のお手紙を持って、織田家からではなくて、朝廷の使者を名乗れば、殺されたりはしないでしょう。
そうして乗り込んだら、なんか大怪我して寝込んでる具教パイセンの前に通された件について。
なんか、砲撃で崩れてきた天井に、押しつぶされてしまったそうです。
ハンパに運が悪いですねえ。死ぬほどでもなく、回復しないほどでもなく。
「朝廷の使者、と聞いたが、和睦を斡旋していただけるのかな?」
肋骨もやっているのか、呼吸しづらそうな様子で。しかし気迫の乗った表情の具教パイセンが、そう聞いてきました。
ナメられたら終わりな戦国の時代の大名として、ここまで追い込まれても、なお威勢を張り続ける。張り続けなければいけない名門の誇りがそこにはありました。
あったら困るんで、削りに行きますが。
「いいえ、もはや北畠家に勝ち目無し。ですが滅ぶのは忍びないので、逃げ延びてはいかがか? という提案です」
「…………」
おお、絶句してる、絶句してる。
まさかここまで、それも朝廷の使者がスパッと言い切るとは思っていなかったのでしょう。
ついでに連日の砲撃の黒幕だとも思っていないでしょうけども。
さあパイセン。私の手の平の上で、踊ってくださいな。
「ここ大河内城は、尾張織田家などからの侵攻から、伊勢を守るために造った城。それが今や風前の灯」
「毛利家に海を抑えられているので、ここで篭城していたら、むしろ手薄になっている本拠地の多気館や霧山城が危うい」
「連日の山の神の祟りとやらで兵の心が折れていて、野戦もままならない。というか、相手は近寄ってもくれないので、そもそも戦えない」
次々と現状を言葉にして、追い詰めていきます。
『そんな事は無い』と、言い返すことすら出来ずに、だんまりを決め込むパイセン。よし、いい感じに削れていますね。
ではここで、お手紙を渡しましょうか。
そんな状態からでも、入れる保険がありますよと、ささやくために。
「時に、北畠さま。今、公家で国を運営できる人材というのは、あなた以外にお心当たりはございますか?」
手紙を読み『これは… まさか陛下が』とか言ってるパイセンに、頭を再起動してもらうべく、まずは軽い問答を投げかけます。
そうしたら持ち上げて、こちらの思う方向へと誘導します。
「はい。北畠家より他はありませぬ。北畠家、いや、あなただけです。あなただけがなしうるのです。
どうか若狭の国を、朝廷の元、統治していただけませんか?」
はい。若狭です。
「若狭はかつて京と大陸とを結んでいた、王城の門。あなたにはその門番として、朝廷の
京の北の、現在だと福井県。塩や海産物、特に干したサバは近畿地方へと運ばれ、その道が鯖街道と呼ばれるほど。
他にも食材が豊富で古代から『
今、めっちゃ滅びかけてますけどね。
若狭守護の武田家が、裏切られるプロで、反乱されるプロなのが悪い。
明智光秀の母の実家という説もある、若狭武田家は、一番有名な甲斐の武田家の、分家の分家です。
元寇の時に安芸の国(広島県)に分家が出来て、その分家の安芸武田の当主が、色々あって当時の若狭守護を暗殺。
その褒美に若狭守護職をもらったので、分家を作って実際に治めさせたのが始まりですね。
現在の当主は八代目、武田義統。読みは『よしむね』もしくは『よしざね』。
よしむねだと、江戸幕府の八代目将軍の徳川吉宗と読みは同じですね。実績は天と地ですが。
武田のほうのヨシムネさんは、義輝の妹を嫁に迎えて、順当に次期当主の座を固めていました。
が、それではオイシい目が見れなさそうだと思った家臣らが、弟を擁立して対抗。
更に父親が、それとは別の弟を擁立しようと画策。
見事なまでのお家騒動となりました。
それに勝って、家臣も父親も追放するヨシムネさん。ここまではお見事。
しかしお家騒動というのは、内乱であって。得る物はなくて、むしろ消耗するものでして。
そんな弱った主家へと、更に反乱を起こす家臣(国人)とかも出てきちゃったわけで。
朝倉家に援軍を頼んで、何とかそれも撃退しますが、別の家臣がまた反乱を起こして、その朝倉家を相手に戦い始めてしまいまして。
また、足利義昭が、朝倉家を頼る前に若狭武田家を一度訪れた時の事です。というのも、ヨシムネさんの嫁は義輝の妹。
つまりは、義昭の妹でもあるのですからね。親戚を頼った、という事です。
しかし頼られた若狭武田家では、家臣らがなぜか反発して、ヨシムネさんの息子の元明くんを擁立して反乱を起こしたので、義昭は朝倉家へと逃げて行ったのだとか。
史実だとヨシムネさんが死んだ後に、その元明くんが15歳で九代目になりましたが、当然のようにまとまらず。
そのグダグダっぷりに『ええ加減にせえよ』と、とうとうキレた朝倉家が本格的に攻めてきて、若狭武田家は終わります。
残念でもなく当然の結果ですね。
ただ若狭支配の口実に、と武田元明くん自身は生かされて、朝倉家で面倒を見てもらっていたので、まだ逆転の目はありました。
だって、織田家がやってきて、その朝倉は滅びて、やはり支配の名分にと、織田家に面倒を見てもらえるようになっていましたから。
しかし本能寺の変。
そして光秀の母の実家だった説が正しかったのか、光秀を支持しちゃった武田元明くんは……
秀吉に、まあ念のために消しとくか。みたいなノリで軽く謀殺されて、若狭武田家ごと終わりました。
史実ではそんな残念な若狭武田家ですが、今世ではまだ滅びていません。滅びかかってはいますが。
朝倉家が攻め込むまで、まだ4年。ヨシムネさんが死ぬまででも3年も時間があります。
なので『朝倉家に取られる前に取っちゃおうぜ』というプランを立てたのですが。ですが。
若狭武田家も、若狭の国人らも、グダグダすぎて手を突っ込みたくない。
という、面倒くさい案件になるのが目に見えている、厄介事でしかないという事実もありましてね?
そら朝倉家も4年間ガマンしますよ。最終的にリターンはプラスでしょうけれども、そこまで持っていくのが面倒すぎます。
でもそこに、そういうのを押し付けるのにちょうどいい北畠家があるじゃろ?
京で大人しく普通の公家やってくれるとも限りませんし。
国を統治できる、という公家では激レアな特性も捨てるのは惜しいですし。
おそらくは浅井家とセットで、敵に回る朝倉家。そこに対抗する戦力として、期待できそうですし。
京周辺の安定化という意味も込めて、若狭一国を北畠家に任せてみたらどう?
というプランを、砲撃の日々の合間に考えて、お手紙で長慶さまと相談しつつ決めたんですよね。
ちゃんと今回は報連相した私を、誉めてもいいんですよ。
えっ、それが普通?
いや、私は普通ではないらしいので。
普通の武士は、支配下でもない大名家の国替えを企画して、実行しません。
さあ、具教パイセン。
私と契約して、朝廷の直轄領になる若狭の国の、支配者になってくださいよ。
カクヨムで、くずもち氏が新しく連載してたので推してみる。
ダンジョン学園サブカル同好会の日常
現代ダンジョンもの。スキルではなく、ステータスに出ない権能なるものを得た主人公。AIっぽい、情報なら何でもくれるっぽい、ささやいてくるナニカを攻略くんと名付けて、仲間を巻き込んで無慈悲なダンジョン攻略へと乗り出していく。
川でボートに乗ってモンスターを挑発すると、突っ込んできて川に落ちます。そこを殴ろう。などゲームチックな感じの無慈悲。
ダンジョンを改造してメイド喫茶作ったり、竜宮城を旅館にしたり、そこで原稿書いたり、仲間達もかなり自由。
くずもち氏は、俺と蛙さんの異世界放浪記 などで作家デビュー済みの作者さん。