尾張グダグダ戦国記   作:far

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情景の描写に力を入れると文字数が稼げるけど、読み飛ばされそうだな、と気付く。

最近、絵札氏のせいで株価の動きがアレで総資産が減りまくっててマジで困る……
なんで原油がこの状況で高騰しないねん… 平均は下がりまくるのは分かるけど。


【久々の】裏切り者のロンド【お仕事】

 

「誰か! 手を貸せ! 早く! 御所様が! 御所様が!!」

 

 1564年も三月に入って、雪も溶け始め、獣が姿を現すようになってきた越前の山に、悲鳴のような誰かを呼ぶ声が響き渡りました。

 着慣れていないのか、いささか似合っていない狩り装束を着た短髪の男性が倒れていて、その男性に次々と人が駆け寄っていきます。

 

 おや、口々に何かを言い合って、軽く争いだしました。

 声は聞こえませんが、責任の擦り付け合いでしょうか?

 倒れた男性の手当てをしている人は、何となくですがそれにイラッときている気配がしますね。

 

 苦労して作った手製の望遠鏡から見える景色に、私は『今回のミッションも成功だな』と得意げな笑みを浮かべました。

 

 いやあ、本当に大変だったんですよ。レンズを作るの。

 天然の水晶から削りだして、木で作った型に薄く砂を入れ、そこでひたすら回転させて整形したんですが、なかなか削れなくて。

 水晶って、固いんですねえ。

 

 しかも一個出来た! と思ったら、もう一個作らないといけなかったという。

 対物レンズと、接眼レンズですね。

 

 しかもしかも、両方凸レンズじゃダメで、片方は凹レンズでないといけなかったという事に、凸レンズを二個作ってから気付くという痛恨のミス。

 凸レンズ同士の組み合わせでも、ちゃんと拡大されて見えるんですが、見える景色は上下反転するんですよ、これが。

 

 しかたがないので凹レンズも二個作って、望遠鏡を二個仕上げてやりましたよ。予備があるのは良い事ですからね、ええ。

 

 まあ、そんな過去の苦労は置いておきまして。

 今回は何処で何をしているのかといいますと。朝倉家の治める越前の国での、まあ、暗殺かなって。

 

 そこ。暗殺を『いつもの』って読まない。

 

 朝倉家という時点で、勘の良い方はお気づきでしょうが、暗殺対象は一乗院覚慶。のちの、足利義昭

 通称、お手紙将軍です。

 

 史実では、先代将軍で兄の義輝が暗殺されたあと、ついでに殺される前に細川藤孝らに救出されて、若狭経由で越前朝倉家へ。

 そこで上洛して自分を将軍にしてくれと頼み続けましたが『今ちょっと一向宗で忙しくて』と断られ続けて。

 じゃあ他所を当たるよ。と探して、織田信長を動かすことに成功しました。

 

 それで織田家に大変に世話になりまくって、ほぼ織田家の力だけで京に返り咲いて。

 そうしたら『将軍だぞ』と好き勝手を始めて、パワハラや身内びいきや名門びいきをカマして、信長に怒られて。

 そうしたら『織田家を討て』と、武田家に朝倉家に毛利家に浅井家。武家だけではなく本願寺や比叡山まで送りまくりました。

 その送った先は、とりあえず10以上

 

 有力な大名のヒモになって、将軍として立ててもらう。その後、次第に世話になった有力な大名その1を邪魔に思い始めて、処分しようとする。

 でも足利将軍家に大きな武力はないので、他の有力大名その2を動かして処分しようとする。

 結果、戦乱が起きる。なお、当然利用した有力大名その2も、またしばらくすると邪魔に思い始めて、有力大名その3にお手紙を……

 

 これが室町システムです。(ガチ)

 将軍のワガママで、戦乱がエンドレスなんですよ。

 そりゃ、ちょっとした説得と工作で朝廷に、というか公家達に見限られますよ。

 室町幕府は本拠地が京なので、公家達も京ごと戦乱に巻き込まれますもん。

 

 応仁の乱からとしても、100年以上。足利将軍家の統治下で、迷惑したり苦しんできた人々の恨みや怨念。

 将軍位を継ぐ、というのは、そういう負の遺産もセットだと知るべきでしたねえ、覚慶さま。

 

「楽しかったですよ。あなたとの主従ごっこ」

 

 いや、これは私が言ったんじゃありません。聞こえてきたのは、すぐ横からです。

 ぎょっとして横を見ると、30代半ばくらいの、地味な格好をした男が、山の冷たい空気よりも冷えたナニカを身体のどこかから放出していました。

 もう一つの望遠鏡を覗きながらなので、多少はマイルドに感じられますが、それでも怖いです。

 

 さすがは明智光秀。主君を殺す時の切れ味は、キレッキレですねえ。

 

 はい。光秀です。

 今回の、覚慶暗殺任務にあたって確保した、現地協力者さんです。

 織田家に未だに来ていないので『まだ朝倉家にいるのかな』と思っていたら、やっぱりいました。

 

「覚慶様はお怪我はされたようだが、命に別状はなさそうだ。次の手はどうする?」

 

 そしてこの光秀さん、現地協力者の割には、殺意が高いんですけど。

 

 兄の義輝と同様に、鷹狩り中に仕留めたい。と私がちょっとしたワガママを言った時も『それはいいな! 是非やろう!』とノリノリでしたし。

 なにかよっぽど、覚慶とかその周囲の幕臣から、ひどい扱いでも受けたんでしょうか。

 元々、能力はあるのに、家格や出自が低いからと、朝倉家では重用されずにくすぶっていたようですし。

 ストレスとか、すごい溜まってるっていうのも、あるんですかね、たぶん。

 

 まあ、だからこそ『一乗院覚慶を始末するのに協力して欲しい』というこちらの依頼に乗ったんでしょうけども。

 

 普通の朝倉家の人は、逃げ込んできた足利将軍家一門の暗殺に、手を貸してくれません。

 

 朝倉景鏡(かげあきら)さまは乗ってきましたけど。

 

 はい。朝倉景鏡です。朝倉家の当主の義景の従兄弟にあたる、血の繋がった親族です。

 史実だと最終的に義景をだまし討ち。そのクビを信長に差し出して降伏して、汚名を残してしまった人です。

 そうまでして生き残ったのに、その後に起こった一揆で討ち取られちゃったから、なおさら武士としての名誉は、うん。

 

 統治はちゃんとしていたし、越前に引きこもる義景の代理として、浅井家への援軍を率いて信長と戦ってもいますし。

 伊達に親族衆でも筆頭だったわけではないようなのですが、晩節が汚すぎて、何ともならないというか。

 

 今世でも、ある意味普通に裏切っていますからねえ。

 裏切らせたのは、ですけど。

 

 いや、その、ね? 私は悪くないんですよ?(言い訳から入るスタイル)

 

 そろそろ覚慶と細川藤孝が何処に行ったのか、探らないとなあ。と思っていたら、寺社のネットワークで越前の方へ行ったと判明しまして。

 甲賀衆の小隊と、伊勢で暴れた職人さんたちの数名を家来にしていたので、その人たちも連れて、さっそく現地へと飛びました。

 

 『ちょっと覚慶さま消してきます』って長慶さまに言ったら、座っていたのに立ちくらみを起こして、クラッとしてましたっけ。

 ちょっと刺激が強すぎたみたいです。だから少し安心してもらうために、こう付け加えました。

 

「大丈夫です。細川藤孝はヤりませんから」

 

 返事は『お、、おぅ…… ヨキニハカラエ』と、なぜか少しカタコトでした。

 でもちゃんと許可は出たので、セーフ。

 

 そして天王寺屋のコネを使って、若狭から船で一乗谷へと移動。

 この時代、朝倉家は一乗谷をガラス工房まで備えた、オーパーツ生産拠点として整備していまして。

 それら生産できる工芸品を主力に、明や朝鮮との独自に貿易をするという、現代知識チートっぽい事をしていました。

 

 一切合財、信長が燃やしましたが。

 

『自分の手元に置けない危険なお宝だ。残しておいたら、誰かが力に換えて歯向かって来るだろう』

 

 裏切られるプロの信長は、そう判断したのかもしれません。

 

 しかしそんな一乗谷も、今はまだ無事です。

 東西を険しい角度の山に挟まれた、マジの谷。

 南から北に伸びる、細長い空間の中央。そこに広めのまっすぐな道が通っていて、側溝まで作ってあります。

 その谷を守る城門を潜って街に入ると、どこからか香の香りがしました。

 京から公家も多数逃げてきているので、香道などの公家文化も持ち込まれているのでしょう。

 

 道の左右には武家屋敷や商店、越前和紙の紙漉きや、びいどろなどのガラスの工房。寺社が隙間なく建てられています。

 しかし雑然とした印象は受けず、計算されているように見えます。美意識を感じますね。

 でもこれは火事に弱そうですねえ。これはよく燃えるわ。

 

 谷の一番奥には、豪華で精緻な彫刻がされた唐門の、城というよりも館と呼ぶべき美しい建物がありました。

 あれが朝倉家の館なのでしょう。

 

 城門では一向宗ではないか厳しくチェックされましたが、そりゃこれだけ発展した街を守るとなったら、検問は厳しくしますよね。

 堺の豪商、天王寺屋のご威光で、割と楽に通れましたが。これがコネの力だ…!

 

 そうして入った、一乗谷の入り口近くにある、安養寺。ここに私達は拠点を置きました。

 ここは浄土真宗の寺ではありますが、一向宗こと浄土真宗本願寺派とは違う出雲路派のお寺なのです。

 

 その本願寺派も、こっそりいましたけども。

 

 テキトーに選んだのですが、どうやら盗人宿ならぬ、スパイの拠点になっていたようです。

 むしろ好都合だなと、そのままそこで情報を集めていたら、まず明智光秀さんが見つかりまして。

 

 即行で口説きに行きました。

 だって謀反で主君を討つレジェンドですよ。相手の家臣にいたら、そりゃ口説くでしょう。

 実際、ホイホイ乗ってきましたし。

 

「今なら、美濃の領主のひとりとして帰り咲く事も、天下の三好家の家臣となることも、夢ではありませんよ」

 

 という具体的な報酬が決め手でしたね。

 私が帰蝶のダンナだというのも知っていて、それが会って話してくれた理由だったようですが、美濃時代に知り合いだったとか、親戚だった説は正しかったんでしょうか。

 そのへんは聞くのも野暮かなって思ったので聞けませんでしたが、少し気になりますねえ。

 でも嫁の昔の話とか、聞きたくない気もしますし。やっぱりこのまま聞かないでおきましょう。

 

 それで朝倉家を出る事を決めた光秀さんは、覚悟も決まったようでして。色々と大胆に動き始めました。

 朝倉景鏡の引き込みも、彼の仕業です。

 

 だから私は悪くない。悪くないのですよ。俺じゃない、と言い張る勇気…!

 レじゃない、イツがやった、らない。んだこと。

 時にはこの『オ ア シ ス』を活用するのも、人生にはきっと必要なんだっ…!

 

 お前はそれよりも『ホウ レン ソウ』を忘れるな? ええ、まあ、それは、はい。

 

 それは置いておきまして、朝倉家でも各種情報は当然集めていまして。

 浅井家と美濃の斉藤家の緊張が高まっている事。三好家が安定した事と、若狭への介入。

 この2つから、どうもそのうち三好家が朝倉家の敵に回るかも、と推察したようなのです。

 

 私の結婚式は、斉藤家と織田家のつながりを大変にアピールした事になりますからねえ。

 斉藤家に残った唯一の姫を、織田家の重臣の息子に嫁がせる。式は尾張の熱田神宮。出席者は近隣の大名も複数。

 そりゃあ織田家の権威も上がるし、斉藤家も、というか美濃と尾張の連携は強固だと思われますよね。

 

 そんな所に出席しちゃった、敵国の領主の長政は、本当に大丈夫だったんでしょうか。その後の立場とか。

 

 その結婚式のメインだった新郎が、なぜか三好家にいて、その三好家が越前の隣の若狭に手を突っ込んできた。

 朝倉家の強固な同盟国、のはずの浅井家は、去年美濃に侵攻したばかりで、今も和睦などなく敵対中。

 いやあ。これはきな臭い。戦のニオイを感じるというものです。

 

 だから今のうちに、勝っても負けてもいいように、三好家とつながりを持っておくぜ!

 

 勝っても、京まで攻め込むのは無理かもだし、三好家の本拠地は四国だしと、攻めきれないから、結局は交渉になる。

 負けたら、降伏や寝返りも可能になるように、あらかじめ話し合える関係をね?

 

 というのが、朝倉景鏡の思惑だそうです。

 彼の性格を知っていて、その思考を読みきって誘導した光秀さんの仕業と、景鏡の素の反応の合作です。

 

 イヤなコラボレーションですね。

 

 ですがそのおかげで、僧侶育ちで、自分の手を直接汚すのを嫌う覚慶を、鷹狩りに出かけさせられたわけでして。

 ええ。覚慶を『武家の慣わし、心得を覚えるため』と、そそのかしてもらいました。

 事実、朝倉家当主の義景からして、犬追う物や鷹狩りなど、雅な武家の趣味が好きなので、そういうのが嫌い、出来ない、というのは朝倉家中での好感度が下がるのです。

 そのあたりを突けば、藤孝を始めとする面倒な幕臣たちも、反対は出来ませんでした。

 

 後は甲賀衆らに、ワナでイノシシを生け捕りにしてもらって、その牙に『義輝を仕留めた矢にも塗ったトリカブト』を塗って、機を見て解き放つだけです。

 ついでなので破傷風菌を期待して、赤錆の粉でも混ぜておきますか。そうしたら乾かないように、油でコーティングして、と。

 イノシシを伏せておく場所と、当日の覚慶の行動の先読みは甲賀衆がやってくれました。

 かつての裏切りの相棒、杉谷善住坊ほどではありませんが、複数人で相談しながら決めたおかげか、悪くない精度でした。

 今回は弓や銃ではなくて、生き物を走らせるので、だいたいの位置で良かったので、それで充分でしたよ。

 

 というか、独りでチームを上回る精度だった杉谷は、やっぱり凄腕ではあったんですねえ。

 射撃の腕は、イマイチだったくせに。

 

 まあ、ヤツは裏切ったし、その場でキッチリ仕留めたので、もうどうでもいいと言えばいいんですがね。

 もし今回の暗殺が表沙汰になったら、名前だけ使って、ヤツの仕業にしますけども。

 良かったですね、名前だけは上がりますよ、杉谷善住坊。いっそ義輝の史実の時世の句*1みたいに、雲の上まで上げてあげましょうか。

 もしかしたら、来世まで届くかもしれませんよ。

 

 と、ここまでの経緯を説明してきたわけですが。

 

 この『謀反後の明智光秀』という危険人物が、三好家入りを希望しているのですけれども。

 三好家でも謀反、しないよね?

 本能寺、しないよね?

 

 くそっ。この危機感は、転生者以外は誰も分かってくれませんよねえ!

 いたらいたで、そいつのスタンス次第で面倒ごとになるんで、いないならいないでいいんですけど。

 それでも、たまに会いたくなりますよ、転生者。

 どっかに、落ちてませんかねえ?

 

 とりあえず光秀さんには、毒を打ち込んだので、覚慶はそのうち死ぬから、と伝えて落ち着いてもらいますか。

 その場で亡くなるんじゃなくて、鷹狩りで獣相手に不覚を取って、怪我を負い、その後ねこんだまま死ぬ。

 そういう、殺人事件だというのを気付かせない、まさに暗殺なのが今回のコンセプトですからね。

 あくまで影働き。表沙汰になっちゃマズいんですよ。

 

「安心してください。これは間違いなく、世のため人のため。戦国を終わらせ、太平の世へと続く一手です」

 

 決して『あいつムカつくし、ロクな事しねーから消しとこうぜ』という 私心 からの殺しではない、というのも大事な所です。

 いいですね、光秀さん。そういうの、大事ですからね!

 

*1
五月雨は 露か涙か 不如帰(ほととぎす) 我が名をあげよ 雲の上まで




最近、更新再開というか十章の投稿が始まった、カクヨム の 百均 氏の

モブ高生の俺でも冒険者になればリア充になれますか?

を推してみる。現代ダンジョンもの。モンスターを倒し、たまに落とすカードから召喚して戦え。なお最初のカードはギルドで買ってね。百万円だ。
主人公は高校生。オタクグループの仲間が、その百万を貯めて冒険者デビュー。もうお前らとは違う。とか元友人になっちゃったので、自分もクラスカーストを上げようと百万をバイトで貯めて、親も説得して許可もらって…
正規のカードを選んで買うんじゃなく、カードセットのパックを買うw
そういうところでギャンブルに走ってしまうガチャ好きの発作が出たのだ、たぶん。
それで引き当てた、座敷ワラシ。彼女は、グレていた… でも言う事聞いてくれないツン期(甘め)は、すぐ終わるし、他のカードも育っていくしと展開は早いから安心。
ピンチになっては突破していく展開が多いけど、ピンチがマジのピンチなので、突破した時の達成感や爽快感があって楽しい。現在244話と実にボリューミー。
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