暗殺が終わって即消えるのも、怪しまれるかもしれない。
そういう口実で、歴史に消えた小京都、一乗谷の安養寺に引き続き潜伏中の私たちです。
「流石に工房の見学は断られちゃいましたね」
「そりゃそうだろ。職人技はだいたいどこでも秘伝だぞ」
「それ、たまに秘密のまま、当人がいなくなって失伝したり」
「「「あるある」」」
職人さんたちは、進んだ技術の産物に触れたのが、色々といい刺激になったようです。
楽しそうに毎日あちらこちらを見て歩いては、何かを発見して、仲間内でわいわいと楽しげに語り合っています。
同じ職人という事で、少しは技術を教えてもらえたりもしているようですね。
いやあ、いいですねえ。実にいい隠れ蓑です。
彼らを見て、私達の一行が実は覚慶暗殺の実行犯だとは、とても思わないでしょう。
甲賀衆の方は、ちょっと怪しいですけど。
ニコニコとしていて、人当たりもいいんですけど『あっ、何か探ってるな』というのが、わかる人にはわかるというか。
どこかしら、ほのかに胡散臭さが漂っているというか。
隠し切れない隠し味というか。
彼らも商人のフリをしているのですが、職業病なのか、クセなのか。
ついウワサを集めようとしたり、裏道に詳しくなろうとしたり、街並みを記憶しようと真剣な顔で眺めていたりするのですよ。
やめろと言うほどでもないし、城門では厳しい検問がありましたが、一旦中に入ったら割とゆるいですし。
セーフという事にしておきましょうか。
はい? 偉そうに言うじゃないかって?
彼らは私の配下ですよ? とうとうできた、私だけの部下で手下ですよ?
いきなりスカウトされて美濃所属になっちゃった覚円さんと違って、どこにもいかないんですよ?
ちょっとくらい、いい気にさせてくださいな。
そんな私は一乗谷で何をしているのかといえば、観光です。
まずはグルメ。旅先での楽しみと言ったら、これですよね。
さすがは栄えた土地。この安養寺での食事すら、京の普通の寺のそれよりも、手が込んでいて上です。
そろそろ春という事で、ハシリの山菜や牛蒡の煮物。越前名物、大豆を潰して乾燥させた打ち豆の入った味噌汁。
そろそろ旬が終わる、越前ガニ。メスの卵を持ってるヤツが、特にいいんですよ。
こう、パキッと2つに割りましてね。そうすると、外に出てた卵とは、また違った鮮やかな色の卵が中にありましてね?
それぞれ
外子の方は、ご飯に乗っけて、出汁をかけて湯漬けですね。プチプチとした食感が、楽しくて気持ちよくて。
内子は、温めたドブロクに入れて。味が濃いので、酒に入れてもしっかりわかるのですよ。
むしろ一緒に頂くと、その相性の良い味が、タッグを組んで口の中で見事なコンビネーションをキメてくれます。
贅沢を言うなら、ドブロクじゃなくて、清酒。それも米を磨きぬいた吟醸酒だったらなあ。
あとソバも食べたい。越前おろし蕎麦。そば切りがまだ無いんで、絶対食べられませんが。
しかしさすがにここで披露して、誰かに商売のネタにされるのは面白くありません。
かといって、流石に自分で商売立ち上げるわけにも行きませんからねえ。
仕方が無いので、京ではなかなか味わえない、海の幸を堪能して満足するとしましょう。
まずはサヨリ。酢で〆て、サッパリと。上品で繊細な白身魚なので、シンプルに食べるに限ります。
そしてこの時代だと、幻の珍味のサクラマス。
この時期に川を遡上するので、海の幸かは微妙ですが、美味いのは確かなので、甲賀衆にこっそり密漁してきてもらいました。
はい。密漁 です。
なんか朝倉家当主の、義景クラスでないと口に出来ないほど格が高い食べ物に設定されているらしくて、市場に出ないんですよ。
でも、食べたいじゃないですか。
現代人として、マス寿司食べたいじゃないですか。
だから一時的に一乗谷を出て、海のほうへと走ってもらってですね。
ちょっと監視をかいくぐるために、昼間から伏せていてもらって、夜中に獲ってきてもらったんですが。
これはまあ、少しばかり悪かったかなと、私も反省しています。
後悔はありませんが。だってマス寿司美味しいんだもん。
獲って… 盗って? きてくれた、甲賀衆の人もマス寿司や塩焼きを美味そうに食べていたので、後悔は無いと思います。
残念ながら一乗谷に温泉はありませんでした。
北に数日行けばあるらしいですが、面倒ですし。
ですがサウナなら、ありました。蒸し風呂ですね。
温室と書いて『うんしつ』と読む、大浴場が安養寺にもありまして、カネに物を言わせて毎日用意してもらっています。
マキが意外と高いので、サウナも毎日とはなかなかの贅沢になってしまうのですよ。カネで解決しましたが。
ここのサウナは、薬草を入れた水を煮立たせて蒸気を作っていますが、その香りが気に入りまして。
それに蒸し風呂というだけでも、まだ寒いこの時期には、実にありがたいものです。
風呂上りの牛乳、は当然ありませんが、冷やした甘酒もまた乙なもの。
ただ足らぬと嘆くよりも、前向きに楽しむ努力をしませんとね。人生は前向きですよ。
そうして楽しんでいた私たちに、寺社ネットワーク経由で、丹羽様からのお手紙が届けられました。
突然、現実に戻してくるじゃん。
いや、もう、ねえ? 想像してみてくださいよ。
出張先で、早めに仕事が片付いて、じゃあ残った時間で楽しもうか! ってなって。
実際にたーのーしーい^^! ってエンジョイしてる時にかかってきた、上司からの電話。
いかに尊敬している上司だろうと、これはウザいですよ。
『空気読め』とか思いますよ。
でも無視するわけにも行かないんで、電話に出る、もとい手紙を読みますけども。え~っと、なになに……
『言語道断に候』 (意訳:やりやがったなテメエ)
……そういえば覚慶さま消してきますって長慶さまには言って来ましたが、丹羽様には何も言っていませんでしたっけ。
それで『また独断専行か』と怒って……
あれ? それなのに、なんで分かったんでしょう?
私の仕業という事はおろか、覚慶さまが亡くなったのは、事故ではなくて殺人だとバレてすらいないのに。
それに亡くなったのすら、つい先日です。
それも私たちですら、明智光秀さんからのリークで知ったわけで、世間には未だに死亡情報は流れていません。
手紙が届くまでのタイムラグを考えると、届くのが早過ぎます。
『覚慶さまに何かあったらしい』という情報を耳にして、反射するようなスピードで即『私の仕業だ』と勘付いて、手紙を出してきたとしか思えません。
さすがに私の所在まではわかっていなかったと思…… いや、たぶん、わかってなかった、はず、なので。
一旦は三好家へ届けられて、越前方面へ向かう、と伝えておいたので、こちら方面へ運ばれて。
あとは寺社ネットワークで『こういう人を知らないか?』と呼びかけたら見つかった。という流れなのだとは思いますが。
なにこの上司、怖い。
覚慶さまが怪我で寝込んでから、亡くなるまでに10日ほど粘ったのですが、それを考えても早過ぎるんですが。
なおその覚慶さまの亡くなるまでの様子ですが。
口が固まって開かなくなり、水も飲めなくなる。当然、薬も飲めない。
常に激痛に襲われていて、全く眠れない。
しかし意識はハッキリしていて、耳も普通に聞こえる。
筋肉がけいれんして、顔の筋肉も引きつり、笑って見える。
徐々に体が反り返っていき、身動きも取れなくなり、苦しんで死んだ。
という、ものすごくタタリっぽい亡くなり方だったようでして。
確かこれ、破傷風での亡くなり方なんですが、印象があまりにアレなので。
『タタリだ』『バチが当たったんだ』と朝倉家中で密かにウワサなんだとか。
なんのタタリなんでしょうねえ。(すっとぼけ)
しかし冷静になって手紙を読み返す、いや一言だけなんで、読み返すほどもないんですが、読み返してみますと。
詳しい内容どころか、大まかな内容にすら触れていません。
なにせ『言語道断に候』の一行だけですからね。もしかすると、関係者ですらわかりませんよ。
私の関係者だと『ああ、なんかやったんだな』って理解は出来るでしょうけども。
ですが、まあ。こんなお手紙が来てしまった以上は、仕方がありません。
楽しかった休暇も、ここまでのようです。
「皆さん、撤収準備を」
京に帰る…… 前に、尾張に寄って、丹羽様に説明しないとですかね、やっぱり。
そして尾張に戻って、丹羽様のところへ顔を出した私が、長時間の説教を受けたのは、詳しく語るまでも無いでしょう。
しかしせっかく来たのだから、働いていけ。と、ついでに仕事を投げられてしまいまして。
それが林パパの補佐として、徳川を名乗る事になった、家康さんとの和睦の調印のお手伝いでした。
丹羽様としては、この間の結婚式の直前に手打ちしたとはいえ、それまで敵対していた林パパと、私への粋な計らいのつもりだったのかもしれません。
私たちは『突然現れた、しかも遠距離になって顔も合わせられない父親』と『その父親と仲直りしたばかりの息子』ですからねえ。
お互い、語り合う時間が必要と言えば必要なのです。
正直、面倒ですが。
なんかしんどいんですよね。身内の人間関係って。
もつれたり、こじれると特に。
いや、林パパとの関係は、もつれてもこじれてもいませんが。むしろからんですらいませんが。
「正直、距離感が分からないのですが」
どうすればいいのかわからないので、林パパ本人に聞いてみました。
『正解なんて無いぞ』とか言い出したら、結構長く語るだろうから聞き流そう。と思っていましたが、幸いシンプルにまとめてくれました。
「こう、と決めずとも良い。その時、その時で適度に、で良いのだ」
「そんなもので、よろしいのですか?」
「これが母と子だと、また違うのだがな。男親なんて、そんなものだ」
まあ、この時代、男親とか子育てに参加しませんからねえ。大名クラスだと、ロクに顔も合わせない事もザラだとか。
そりゃ情が薄れて、親子で争うわ。
肉親だろうと、争う事になる場合が多々あるので、情をあまり持たないようにしておけ、という方針なのかもしれませんが。
かといってこれは薄すぎて、争うのに心理的抵抗が少なくなりすぎていると思うのです。
林パパもそんな風習に従って、あまり子育てをしてこなかったのでしょう。
気付けば、そんな関係になっていた。
そんな悲哀も感じますねえ。それでも林家はまだ上手くやってる方だと思いますが。(武田家の方を見つつ)
言っている事は要約すると『テキトーでいいよ』というだけなのですが。
久しぶりに、大人に人生を教わった気になって、悪い気分ではありませんでした。
だから家康さんに、つい、こんなブッチャけと提案をしていたわけで。
「武田義信が、そろそろ今川家に逃げ込みますよ。そして武田信玄に、まとめて踏み潰されます。
それで、その時です。横合いから、武田本陣ごと信玄を吹き飛ばしませんか? いいのがあるんですよ」
一乗谷から尾張まで、せっかくだからと甲賀衆も職人さんたちも一緒でしたからねえ。
作れるんですよねえ。木砲。あとは本陣が作られそうな場所を特定できて、撃ちこむのにちょうどいい距離に、いい場所があれば……
フフフ。覚慶は表沙汰にできませんが、今回の信玄は公表してもいいでしょう。
戦国を終わらせるための、木砲部隊。その名を上げるための、いい生け贄になってくださいね、武田信玄。
それと生きててくださいよ、その息子の義信。
甲斐を治めるという罰ゲームなんて、みんなゴメンですからね。君が責任持って、やってくださいよ。
あっ、それとも、家康さん、やりたい? お勧めはしませんよ?
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よし、貴族生まれ。悪徳… する余地がない貧乏下級貴族。幼少時に親を寝たきりにして領地運営開始。若干、地に足のついたっぽく現代知識チートを決めていくのが好きだった。いい娯楽作品だよ!