いやあ、武田信玄は強敵でしたね。
信濃で上杉謙信に痛い目にあって、領土も信濃と富士郡周辺を失って。
交易ルートが半減。それもメインだった南の道が塞がれてるのに、どうやって戦力を回復できたんでしょうね?
その努力も、無に帰したわけですが。
いつ頃攻めてくるのかも、侵攻ルートも。その全てが分かっていましたからねえ。
そりゃあ、つい油断してしまいそうな場所に、木砲でキルゾーンも作るってもんです。
ありがとう、藤吉郎くん。
いや、別に彼が単身甲斐に入り込んで、スパイ活動してくれた、というわけではありません。
それをやらせたら、さすがの彼でも死にます。たぶん。
普通なら絶対に死ぬんですが、ワンチャンありそうなのが何とも言えませんね。
実際、奥三河へは単身で乗り込んで、徳川家へと地域ごと鞍替えさせた上で、武田家内部に内通者まで作ってきましたし。
その内通者、曽根昌世からの情報は、実に助かりました。
あんな便利な人がいるとは知りませんでしたからねえ。
当初は、史実の知識と実際の地理と情報から侵攻ルートを予想して、延々と待ち伏せる予定だったんですよ。
家康さんに『信玄を砲撃しようぜ!』って提案したら『ならいい人材がいますよ』と紹介してくれまして。
曽根昌世は、真田昌幸とともに信玄の両目の如き者どもと信頼された、信玄の側近。
嫁が義信の乳母だったので、義信の離反以降はちょっと立場が弱まりましたが、それでも地位を失ってはいません。
つまり、信玄の顔もスケジュールも、バッチリ知っています。
彼に商人のフリをした甲賀衆を派遣して、事情を説明しまして。
それで独自に抱えた忍として、甲賀衆を入れてもらって。信玄の顔を覚えた甲賀衆を複数用意できました。
武田信玄といえば、影武者ですからね。
正直、部下の甲賀衆に指摘されるまで、忘れていましたが。まあ、思い出してこうして対策できたからセーフ。
あとは望遠鏡を頑張ってもう1つ作って、3つになった望遠鏡で、薩た峠を通る武田家の軍を観察しました。
幸い、最も似ていたという信玄の実の弟の信繁は、3年前に川中島で戦死しています。よくよく見れば、見分けられるでしょう。
顔だけではなくて、家臣の態度や輿の豪華さや色なども観察対象です。
この時のために用意した木砲は八つ。これ以上の砲の改良は、どうしていいのか分からないのでやっていませんが、弾は工夫しました。
今までは遠距離の砲撃だったのでやっていなかった、散弾の採用です。
しかしただ石などをたくさん詰めて、ドカンと撃ち出しても、射程がすごく短いのです。
石を詰める前に、木のフタなどを入れて爆発が逃げないようにしても、まだ短い。1000mが300mくらいに縮まってしまいます。
そこで石を袋に入れて、炭の粉で隙間を埋めて、油を流して固めたブドウ弾にしてみると、発射後に少し飛んでからバラけるし、初速もあまり落ちないのでいい感じに。
中に詰めるのも、石だけではなくて、金属片や陶器の破片など尖った固い物も入れると殺傷力が増すと気付きました。
しかしそれでもまだ職人さんたちも私も満足できなかったので、更に袋を皮袋にして、人工ゴムで強化。火薬を仕込んだ竹筒も入れる。
木のフタに小さく穴を開け、竹筒からの導火線を出しておくと、発射の時に着火して、目標の手前で散弾になるという理想的なブドウ弾にまでたどり着けました。
アレがとうとう出来た時には、さすがに思いましたっけねえ。
『やりすぎてしまったかもしれません』
あなたは今『そうだよ』と思った事でしょう。いや『もっと早く気付け』と思ったかもしれません。
ですが、出来ちゃった以上は、仕方が無いわけでして。
独りで作ったわけではなくて、チームで知恵を持ち寄って試行錯誤して作り上げたので、無かった事にもできないわけで。
使うしかないわけですよ、はい。
しかもこれ、木砲ですからねえ。普通の大砲とは違って、重さが半分くらいなんですよねえ。
だいたい150kgです。
神輿のように担ぎ棒を付ければ、大人6人で持ち運べてしまいます。
なぜか修羅という名前の、スキー板をつければ、3~4人でいけます。
これらと併用して縄を使って引っ張れば、山道だっていけちゃいます。というか、伊勢でいけました。
日々景気よくぶっ放していましたが、思えばあの日々で職人さんたちと木砲が鍛えられたんですよねえ。
それがこうして今や、私の主力になっているとは。
『実は遊び半分だった』とか、今更言えませんね。『この時のための、深謀遠慮だったんだよ!』という事にしましょう。
誰も幸せにならない真実よりも、優しいウソをね?
ほら、それで大怪我しちゃった北畠パイセンの名誉とかもありますし。
というわけで、私の思惑通り(という事になった)強化された木砲を、いい感じに配置します。
侵攻ルートが駿府への道なので、かなり今川の領土の奥深くになりますが、今川家は現在わりとボロボロですし、私達20人もいないので、まあ。
でも一応これは軍事行動で、後詰がいないのは怖いですからね。
家康さんたちにも、毛利家、というか村上水軍の船で駿府へと奇襲をかけて包囲してもらっています。
なお村上水軍への代金は、今後の貿易払いです。
家康さん、支払い交渉、頑張って。
そんな祈りは置いておいて、まず狙うのは街道のこの地点。というキルポイントを設定。
隠して設置したそれぞれの木砲からの距離を、長い縄を巻尺代わりに、だいたい測定。
弾の届くまでの時間を、やはりだいたい割り出します。
あとはそれぞれの木砲の担当が『この地点にきたら発射だな』というポイントを、木や草や石などの自然にある目標で覚えて、実行するだけです。
そして砲の音は、轟きました。
DDOONN!! DONDONDONDON!!
発射はほぼ同時だったのか、重なって聞こえて。
散弾が弾ける音は、少しずつズレがあったようで、連続して聞こえました。
「やったか!?」
と、つい言いそうになった口に手をやって止めて、こちらへと武田の兵が向かってきた時のために、次弾の装填を急がせます。
こちらは少数ですからねえ。大勢で追っかけられたら、たまったものではないのです。
「やりましたか?」
意図して少し言い方を変えて、望遠鏡で信玄かどうかを見極めていた甲賀衆に確認しました。
本人確認とともに、戦果の確認も任せていたのです。
「頭と胴の鎧を貫いて、血が勢い良く吹き出していました。あれはもうダメでしょう」
「ヨシ!」
幸いにして逆上した武田軍がこちらへ向かってくる事も無く。
彼らは立ち止まって集まり、何やら話し合った後に、来た道を引き返していきました。
よし。これは上手く信玄本人を仕留めたと見ていいですね。
大いに騒いでいましたし、まず間違いはないでしょう。
「徳川殿に伝令を。『成功、北上願う』と」
私は甲賀衆にそう命じて、この場からの移動の指揮に移りました。
ピンポイントで信玄とその供回りだけをキレイに排除しましたが、そのせいで他の武田軍は無傷ですからねえ。
ここで叩いて減らしておかないと、また周辺地域へ山賊にやってきかねません。というか来ます。
甲斐の国は『苦しい時ほど、他所に奪いに出ればいいじゃない』という思考が、たぶん確立してしまっているので。
信玄という大親分がいなくなると、統率が取れなくなった山賊の群れになる。
信玄がいたら、統率された強力な山賊の群れになる。
どちらにしても最悪です。もう、信玄を消して、山賊らも叩いて減らさないと、解決にならないんですよ。
だからこその徳川軍による追撃と、木砲による支援です。
信玄が死んだ事で士気は落ちているでしょうが、兵力はほぼそのまま残っているので、支援しないとマズいのですよ。
最悪な事に、武田軍が強いのは、ただの事実なので。
そのためにまずは徳川軍との合流です。ちょうど江尻城というお城が、薩た峠と駿府城の間にあります。
合流して、即そこを攻め落として、北上です。急いで武田軍に追いつかねば。
そして予定通りに武田軍を追撃して、木砲の撃ち込みからの徳川軍の突撃――
という時に、東から軍勢がやってきました。
望遠鏡を持ったままだった甲賀衆が、それを使って見た情報を教えてくれました。
「報告! 東よりの軍の旗は、ミツウロコ! 北条です!」
え? 今川軍じゃなくて?
すると、援軍? 今川領を横切って来たの? ここまで?
富士川から東は、確か北条家と今川家で、どちらの領地かモメていたはず。
あとお前、あとでちゃんと望遠鏡返せよ? ドサクサでそのままパクるなよ?
「氏真が、領地を渡す代わりに、援軍として呼び込んだか…?」
余計な思考を挟みつつも考えを巡らせて、答えらしきものを得ましたが、あまり意味はありませんでした。
敵襲なのは確かなのです。
彼らが武田軍の味方か敵かは分かりませんが、私たちにとっては間違いなく敵でしょう。
そして困った事に、徳川軍よりも多そうなんですよね。北条軍。
万を越えた数がありそうなんですよ。
さすがのオーパーツ化している木砲と言えども、たった8門。
それも信玄暗殺と江尻城攻めとで、4~5発撃ってしまって、安全に撃てるのは残り5発では対処し切れません。
つまり。
「撤収!」
逃走一択です。でもただ逃げるのはムカつくので。
「でもその前に、 一発撃ち込んでから です! その後、砲は油かけて燃やせ!!」
「えっ、いいんですか?」
「コレはそもそも使い捨てでしょう。作り方さえバレなきゃいいんですよ! あっ、やっぱり1個だけ残して!」
まだ撃てるのにもったいない。とか言いそうな職人さんを急かして、北条軍へと砲撃。足を止めさせます。
特製ブドウ弾もまだ残っていますが、まあ持ち運べるだけ持っていけばいいでしょう。
これだけを残していっても、意味が分からないでしょうし。今は逃げ延びる事が優先です。
「さあ、江尻城まで逃げますよ! 急いで。皆さんには、やってもらう仕事がありますからね」
本物の木砲を1つだけ、頑張って高所に配置して、砲撃。
その横に、いくつも並べた、ガワだけのニセモノの木砲。
見せてやりますよ、私なりの、空城の計をね!
まあ、それで北条軍が退却してくれなかったとしてもです。
木砲を警戒すれば、城を近くで包囲するとかは無い、はずなので。
距離がある包囲なら、村上水軍の船に迎えに来てもらえれば、海から逃げられる、はず。
だからきっと、大丈夫ですよ!
こんな所で、まだ死にません。
だから皆、今は頑張って木砲を運んでくださいね。
gulu 氏の 現代でモンスター駆除業者をやってたら社長が赤字を何とかするために無理をしたせいで社員のほとんどが死んだからずっと一人で仕事をしてたら凄いことになりました
を推してみる。小説家になろう にありますが、コミカライズしたものの、微妙に売れずに打ち切りに…
やる夫スレ作者でもあって、この作者さんの主人公はとにかく発想がオカしい。どうオカしいかは是非読んで確かめて欲しい。大丈夫、面白いから。
あえて多くは語らないでみる。