尾張グダグダ戦国記   作:far

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箸休め回。

……箸休め、になるのかなあ?


【タイマン】拳で解決。(解決できるとは言っていない)【バトル】

 

「ひが~し~ 武田 左衛門尉(さえもんのじょう) 義信~(よしのーぉぉぶぅ~) 左衛門尉 義信~」

 

 土を盛り、突き固めて踏んで作られた、平らな舞台。

 俵による縁の円こそありませんが、土俵に武田義信が呼び出しを受けて、上がりました。

 

「に~し~ 今川 刑部大輔(ぎょうぶたいふ) 氏真~(うじざぁあーぁねぇ~) 刑部大輔 氏真~」

 

 今川氏真も同じく呼び出しを受けて、土俵入りします。

 両者ともに上半身は袖なしの着物、肩衣(かたぎぬ)

 義信は赤地に黒の文字、氏真は赤紫に金の文字で、それぞれ刺繍した家名を背負っています。

 下半身には、膝から下が細く絞られた裁付袴(たっつけばかま)に脚絆も付けて、やる気十分なのが伺えますね。

 

 そしてその両手には革が厚く巻きつけられていて、その違和感を払うかのように、両者ともに拳を宙に何度も突き出しています。

 

 はい。ここでお解かりになったと思いますが、これ、相撲ではありません

 突然なんだ? 相撲か? と思わせておいて申し訳ありませんが、これボクシングです。

 それも私が生まれ育った村で、記憶が戻る前になぜか開催して、村人たちが気に入って定着しちゃった『ラリアットありの謎ボクシング』です。

 

 それをなんで義信と氏真がやる事に?

 

 はい。当然の疑問ですね。

 簡単に言うと、ケンカの決着のため、ですかねえ?

 

 義信からすると、武田家当主で親の信玄と内乱起こして戦ってまで、今川家の味方をしていたわけですよ。

 なのに、大宮城に篭ってからもロクな支援も無く、いざ信玄が本格的に攻めてきた時の援軍も無く。

 やむなく逃げ延びてきたというのに『なぜ来た。武田軍が今川領へ攻め入る口実になっただろう』と責められる。

 

 氏真からすれば、北条家も入れた三国同盟組んでたのに、攻めようとする方がそもそもおかしい。

 武田家が内乱を起こす前から、対徳川(当時は松平)の援軍を要請していたのに、一切送ってこなかった。

 余裕は無い中、それでも物資や金銭や兵糧の支援はしていたのに、配下にすら裏切られて、武田軍を引き連れて逃げ込むとか、何やってんだ。

 

 という感じでして、つまり『お前がもう少ししっかりしていたら!』とお互いが思っているわけですね。

 

 それで名家の御曹司同士での、取っ組み合いのケンカと口げんかを、繰り返していたわけです。

 徳川軍に完全に包囲された駿府城の中で。

 

 何やってんだ、こいつら。

 

 そしてそんな所に、和睦が成立した我々、織田家と徳川家と北条家の面々がやってきたわけでして。

 義信くんは甲斐の統治という罰ゲームで、氏真くんは嫁と一緒に北条家でお世話になってね。と両者に通達しました。

 一緒にいたので、丁度いいとばかりにその場で言っちゃったのが、今思うとマズかったですねえ。

 

「ああん? 俺が滅茶苦茶苦労しそうだってのに、コイツは悠々自適に楽隠居だと!?」

 

「はあ? 俺が隠居同然になるのに、コイツは国主ですか!?」

 

 お互い『気に食わないヤツが、自分とは真逆の立場になる』事が気に入らなかったらしくてですね。

 それまでの数日の経験と流れから、その場での殴り相手のガチ喧嘩に発展しましてね?

 

「見苦しい! いい加減にせんかお前ら!!」

 

 北条氏康の一喝で、我に返って即座に頭を下げていました。

 それで一件落着。さあ、あとは事前の打ち合わせ通りに事を運んで、解散……

 するのもなんか勿体無かったので、私がイベントを提案しました。

 

「まあまあ。ここでお別れ、としてしまっては、この2人にとっても納得がいきますまい。ここはひとつ、勝負をさせませんか?

 私にいい考えがあります

 

 はい。というわけで、駿府城の馬場に土俵が用意されて、謎ボクシングで義信 vs 氏真の試合が組まれたというわけですね。

 それにこの2人、ムダに戦うわけではありません。

 

 義信くんが勝ったら、氏真くんは義信くんの家臣か与力になって、甲斐統治を手伝う。

 なお甲斐が落ち着いて安全になるまでは、嫁の早川殿は実家の北条家に戻っての、単身赴任。

 

 氏真くんが勝ったら、駿河と甲府の間の商売の利権が氏真くんの物になる。

 

 そんな条件で戦うのです。

 

 義信くんからは、氏真を明確に下に置くというメンツの問題と『お前も道連れだ』という怨念を感じますね。

 一方の氏真くんからは、清々しいほどゼニへの欲しか感じません。

 まあ、家を失うので、嫁以外は家臣も収入も財産も、何もかもを失う事になるので、とりあえず収入を確保するのはわからなくもないですが。

 

 史実で今川家滅亡後も生き延びて、あちこちの家で世話になり。

 最終的に、江戸幕府で儀式や礼法を指南する高家という役職を作って、就職。

 家禄が1000石で、高家筆頭と高い格を保証され、氏真個人には隠居料として500石をもらって、京で優雅な隠居暮らし。

 そんな勝ち組の人生をキメた、氏真くんの強かさの一端が見て取れますね。

 

 しかもこれ、ヒドいんですよ。何がヒドいかって言うと、甲斐が経済的に上向くほど、当然取引が大きくなって、氏真くんの取り分も増えるという点です。

 つまり、言い換えると。

 義信くんが汗水垂らして働けば働くほど、氏真くんの懐が潤うシステムです

 

「俺が土地を差配し、国人らや領民の愚痴を聞いて回り、苦労している時に、コイツは横で雅に茶を啜りながら、中抜きしようというのか…!」

 

 実は経済に理解があったのか、それとも単なる野生のカンか。

 義信くんが氏真くんの出した条件を最初に聞いた時は、そのワナを理解して、顔を赤くしてふるふる小刻みに震えて怒っていましたっけ。

 

「さあ、さあ、大将同士の一騎打ち! こんな機会はまたとないですよ!」

 

 これを無観客試合にするのは、勿体無いな、と思いまして。

 所属を問わずに、大勢の兵にそう呼びかけたら、見物希望が殺到して収拾がつかなって困りましたねえ。

 なので、謎ボクシングのルールの周知がてら、見物の権利を賭けた勝ち抜き戦をする事にしまして。

 ほら、いきなりよくわからないルールの試合を見るよりも、実際に自分でやってみてからの方が、理解が出来て盛り上がるじゃないですか。

 

 しかし、選抜方法をどうするか、というのも問題でして。

 そもそもこの時代に、自軍の末端の兵の名簿なんぞは当然、無いわけで。

 ハチマキなどを配って、それを奪い合って、5本集めてきたら。とかもインチキやらかすヤツが絶対出るので、そういう意味でも困りまして。

 

 まずテキトーに20人集めて『4人抜きしたら見物できるぞ』と好きに戦わせて、雑に5人ほどを確保。

 そいつらを審判に、それぞれ20人ずつを集めて戦わせて…… と繰り返す事で、何とか4分の1にまで人数を絞り込みました。

 それでも1000人を越えていたので、そこからまた決勝トーナメントをやりましたが。

 北条家の兵が多すぎる。

 

 そこまでして見る権利を勝ち取った、観客達の前での試合です。

 無様な真似は出来ない。

 名門武家の面目までも、いつの間にか懸かってしまった義信くんと氏真くんは、真剣な表情をしていました。

 

 軽い気持ちで持ちかけた企画が、まさかここまで大きくなろうとは。

 ごめんね、深く考えてなかったんだ。

 

 心の中で謝罪しながら、発案者 兼 審判として、開始の宣言を叫び始めました。

 

「それでは、皆さん、ご一緒に! 5! 4! 3!」

 

 決勝トーナメントでもやっていたので、観客もわかっています。

 皆が同じく、カウントダウンを大声で、空気を震わせるのがわかるほどに叫んでくれています。

 ひょっとしたら、中には『数なんぞ数えられねえ』という人もいたかもしれません。

 そんな人でも、覚えてくれたのでしょう。叫んでいない観客は、1人もいません。

 

 その事実をかみ締めつつ、わざわざ甲冑を着込んだ朝比奈氏の部下の法螺役、法螺貝を上手に吹く人へと目で合図を送りました。

 ゴングみたいにいい金属音を出す物が、あのチーンという音の お倫 しか見つからず、あれを採用するのはイヤだったので、代わりに法螺貝を採用したのです。

 あのチーーーンという音だと、開始なのにむしろ終了みたいな空気になりますからね。あれが鳴ったと同時に『さあ戦え』と言われても、やりにくいわ。

 

「2! 1! はじめぃ!!

       ブオォーー!! オオォォ!!

 

 戦の開始を告げる法螺貝の音が、聞く者の耳ではなくて、腹を震わせながら響き渡りました。

 これは確かに武家の名門の音。吹き方の違いだけで、全軍を統制できたという戦場の法螺貝の音色とは、こういうものだったのでしょう。

 

「オラァ! 死にさらせぇ!!」

 

 その勇ましい法螺貝の音色に負けない威勢の良さで、最初に仕掛けたのは義信くん。

 しかしその突進の勢いと、言葉の激しさとは裏腹に、繰り出されたのは連続のジャブ。

 まずは牽制と、相手の力量を測る手堅い攻めです。

 

「そんなものは、当たらないぞ!」

 

 それを一切防御も使わず、華麗なステップだけで全てかわしていく氏真くん。

 あれ、おかしいな。この2人、戦国時代に妙に高度なボクシングやってるんですけど。

 

「ちょこまかと! それが今川の流儀か! 伝統か!」

 

「これは俺が学んだ物! これぞ塚原卜伝師匠直伝、新当流よ!」

 

 義信くんの挑発を軽く返して、氏真くんは近距離へと踏み込むと、左手を軽く持ち上げて視線を誘導。

 反対の右腕を、死角となる斜め下から脇腹へと叩き込みました。

 

「ス、スマッシュ?」

 

 うろおぼえのボクシング知識が、私の口から漏れ出ましたが、幸い誰も聞く者はありませんでした。

 聞いても意味がわからなかったでしょうが、説明が面倒なので。

 

「くっ、逆袈裟とはな。そうだな、確かに今は、刀は差しておらんよなあ」

 

 相手の左側を、下から斜めに切り上げる太刀筋を、逆袈裟と言います。

 刀を差す側なので、そちらからの攻撃は自然と腰に差してある刀に当たりやすくなってしまうため、普通は避ける傾向があるのです。

 しかしこの謎ボクシングには関係ないので、その選択肢も当然アリ。

 殴られてからそれに気付いた義信くんは、苦々しくそう吐き捨てました。

 

 ですが殴った氏真くんは、それよりも苦い声で私に話しかけてきました。

 

「審判。コイツ、腹にサラシを。それも異常に厚く巻いていますよ」

 

「卑怯だぞ!」

 

 私が何かを言う前に、声が聞こえてしまった観客席の誰かが叫んで。そして物が投げ入れられました。

 

「物を投げないでください! 物を投げないでください!」

 

 素早く土俵から避難して、安全を確保してから、観客らへと呼びかけました。

 選手は土俵から出たら負けなので逃げられませんが、私は審判なので出てもセーフです。

 

 しかし、どうしますかねえ、これ。

 武器・防具の使用は反則で失格ですが『サラシを厚く巻きました』というのは、グレーゾーンなんですよねえ。

 でもアリにすると、他の人もやりだしちゃうかもしれませんし。

 

「う~~~~ん……」

 

 ちょっと困ったので、氏康さまとも協議した結果『厚く巻くと動きを阻害するので、好きにしていいよ』となりました。

 つまり義信くん、まさかのお咎め無し。

 これには観客が納得しなかったので、ちょっと時間を取って、実際に体験してもらいました。

 納得しなかった観客から何人か、前に出てもらって、実際に腹にサラシを厚く巻いて、動いてもらったのです。

 

 ついでに顔面に、氏康さまがパンチ。

 

「腹が硬かろうが、ツラを殴れば良いのだ」

 

 まだ文句があるヤツは、こうなるぞ。いいから、もう黙れ。

 実際には言っていないのに、そう主張しているのがこの上なく分かる、いい説得でしたね。

 

 その後、大人しくなった観客たちの前で試合は再開されましたが。

 一度落ちてしまったテンションが戻ってくるのは難しかったようでして。

 残念ながら、イマイチ盛り上がらないまま、試合は終わってしまいました。

 

 …………悲しい、事件だったね。

 

 なお義信くんは反則モドキをした上に、試合に負けてしまったので、かなり人望を落としたらしく。

 そもそも敗北して、甲斐を追われてもいるわけで。

 ちょっとばかり、甲斐をまとめるカリスマとか、力量が足りない事になってしまったのかもしれません。

 まあ、どうしても無理だったら、更に分割統治するので、頑張ってみたらいいんじゃないでしょうか。(他人事)

 

 なお氏真くんも勝ったとは言え、決まり手が逆回転のラリアット、というか空手の内腕刀の原型ですかね?

 ともあれ、今までに無い技だったので、アリかナシかで物議をかもしました。

 『まあ、いいか』みたいに軽く認められましたが。

 

 サラシの防御力を生かして、顔面の防御だけを固めて戦うスタイル。

 そんな義信くんのせいで、塩試合になりかけた所を、盛大なフィニッシュで決めて、何とか格好がつく形に納めてくれたので『まあ、いいか』と。

 

 しかしどこまでもヒール(悪役)の道を行ってしまう義信くん。これが武田の血なのか。

 甲斐の国は、こうでもしないと治められない地だとでも言うのでしょうか。

 

 行きたくないけど『絶対行かない』とか決意したら、フラグになりそうなので決意できない。

 ならば義信くんの他にも、いざという時に任せるためのスケープゴートを用意しておくのが丸いですか。

 

 さあて。あのヤベー土地を一応は治められて、今後手の空く予定の武将。誰かいましたっけ?

 心当たりはありませんか? 藤吉郎くん

 




前に紹介した一時的に転生したカズマさんの続編があるので、一応あげてみる
作者さんが引退しちゃったので、未完なんだけど、57話まではあるから…

異世界悪徳貴族カズマSPACE
ttps://himanatokiniyaruo.com/blog-entry-30861.html

前作でキレイに終わった後、また寿命のロウソクが事故()で消えたカズマさん
また極貧スタートも文明レベルが低いのも幼少期もイヤだ!と主張。
人類が宇宙に飛び出した時代の、それでも王政国家の、大貴族15歳で当主。というところからスタート。
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