「はい、引いてー。引いてー。 ……はい放すー!」
太い竹が3本ほど束ねられて、その先端にこれまた太い縄が結ばれていて。
その縄を兵たちが引っ張って、大きくしならせては、解き放つ。
30分ほど前から、ずっと繰り返している単純作業です。
もちろん、ただ無意味な事をしているわけではありません。
竹束の先端には、長い縄と丈夫な布。それに包まれた、ムシロでくるんだ大小さまざまな石が入っているのです。
そしてしならせた竹束が戻る勢いで振り回された縄の先から、その石たちが打ち出されて、遠くへと飛んでいくわけですね。
まあ、ひとことで言うと『投石器』による攻撃です。
『なんでこんな事をやっているんだ? いつもの木砲はどうした?』
そんな事を思われたかもしれません。でも仕方が無いのです。
長慶さまから、今回の戦での木砲の使用禁止令が出ちゃいましたので。
だから職人さん達も連れてきていないわけです。ほら、前回言ったじゃないですか。甲賀衆と光秀さんだけ連れてきたって。
禁止された理由は『浅井家にパクられたり、マネされたら困るから』だそうです。
「いや、この前、今川家や武田家や北条家を相手に使いましたよ?」
と、過去の実績をもとに私も反論したんですけどねえ。
「北条家はそもそも予定外だったし、今川家も武田家も滅ぼす算段はついていたからいいのだ」
というストロングなお答えが返ってきまして。
『一色家もそうだったろう?』という更なる追撃までキメられてしまいまして。
確かに秘匿兵器の運用として、納得できる話ではあります。
さすがは長慶さま。ごもっともなご意見です。
だが断る。
って、言いたい。すごく言いたい。
だって長政との最終決戦ですよ。私の持つ全力で当たりたいじゃないですか。
戦国版ハイエンド木砲は、オーパーツの域にまで両足突っ込んだ、私と職人さんたちの傑作なんですよ!
ですがまあ『砲撃で長政が討ち死にしちゃったら、なんかヒドくね?』と言われれば、まあ、はい。
でも強いんですよ、あいつ。武将としては、倍の戦力をひっくり返すくらいですが、単独だと何倍まで倒せるのか分からないくらい。
普通は何千何万の多数同士の戦いの中で、個人の武勇なんかあまり意味はないはずなんですが、あいつはその中で輝きますからね。
先頭に立って、敵集団を切り開いて進みますからね。
以前私が美濃でたまたま討ち取った、磯野という家臣も同じタイプだったようですし、長政が唯一というわけではないみたいですけど。
それでもレアなオカしい存在である事は間違いありません。
そして今回、そんな長政と戦う戦場は、関ヶ原です。
徳川家康と石田三成らが天下分け目の合戦をした事で名高い、実は他にも古来から度々戦場になっている古戦場ですね。
観光気分で、京との行き来の際に一度見に行った事がありますが、なんか思っていたのとは違いました。
というのも、想像だともっとなだらかな平原で、もっと広いと思っていたんですよ。
実際には平原ではなくて、山々に囲まれた盆地で、そこそこ広いものの、未開発で沼や森まであって見通しが悪すぎて狭く思える。
盆地の中にも山があったりと、起伏に富みすぎていて、本当に見通しが悪かったです。
道は通っているものの、東山道の一本のみ。
そこを外れれば、ヤブや笹が生い茂っていて、とても歩けたものではありません。
ここで戦うのは正直、気が進みません。
ですが万近い兵力同士で戦える戦場というのは、あまり多くは無いわけで。
このご近所で、他にいい物件はないわけで。まあ、やるしかないのかなって。
だからせめて、木砲ブッパで敵戦力を削って、動きを誘導して、それを待ち伏せて。
美濃の時みたいに、長政とのそこそこの距離での一騎打ちっぽい感じに持ち込みたかったんですよ。
このド田舎の山野を切り開きながら進軍したり、虫やヒルに悩まされつつ戦うとか、イヤですからねえ。
私は山より海派なんです。
でも木砲を禁止されちゃったわけでして。
まぁ、ねえ。命令を無視しても、これくらいなら怒られるだけで許される、とは思いますし、やれると言えばやれると思いますけどもねえ。
ごく一部で、私を粛清しようという動きが、無くも無いんですよねえ。
『怪しい奴め。成敗いたす』
いつぞや近江で私が言ったセリフですが、この言葉が私に返ってきている感じですね。
なお言ってる奴ほど、私をよく知らないで、ウワサだけで盛り上がっている人だったりします。
つまり、だいたい下っ端か、能力的に使えない人たちです。
まあ、松永サンから聞いただけなので、本当にそういう人たちなのかはわかりませんが。
それと長慶さまが、私にそいつらを始末させようかと考えたりもしたそうです。
しかし『それで私が止まらなくなったらどうしよう』と怖い考えに至ってしまって、取りやめたとの事ですが。
「だからお前は動くなよ。ワシがやるからな。本当に動くなよ」
妙に念を押してきましたが。松永サンは、私の事を何だと思っているのか。
家中の無能な働き者をコッソリ始末に動くあたり、松永サンも大概だと思うのですが。
いや。今思えば、あそこまで強調するという事は、逆に『やれ』というフリだったのでは…?
でもさすがにまだ、世に漫才が広まり始めたばかりの段階です。
そういうお笑いのお約束が理解されているとは、思えません。だから言葉通りの意味でいい、はず。なんですが……
摂津の伊丹城の城主の伊丹なんとか言う人が『上洛してきたら従います』とか覚慶に手紙出してましたっけ。
越前に行った時に、甲賀衆の人たちが色々調べて、判明したネタの一つです。
でも覚慶は死んだし、まあいいか… と今まで見逃していましたが。
この戦が終わって余裕が出来たら、ちょっと消してみて松永サンの反応を見てみるのも……
っていけない。死亡フラグです。
『この戦いが終わったら』とか、モロに死ぬやつじゃないですか。
仕方が無いですね。長慶さまと松永サンに手紙でチクっておくだけに留めましょうか。
運が良かったですね、伊丹ナニガシ。
え~っと、で、なんでしたっけ。
木砲が禁止になったところでしたっけ。
かの王妃、マリー・アントワネットは、言ってないけど言った事にされました。
「パンが無ければ、お菓子を食べればいいじゃない」
木砲が使えないなら、投石器を使えばいい。私はそう考えました。
要は『手が届かない遠距離から、一方的に攻撃を受けている。それをツブしに行かねば!』と浅井軍を誘導できれば良いのです。
まずは寺社ネットワークも使って、目が粗くてもいいからと、ワラで編んだムシロと、大小さまざまな石を関ヶ原に集めてもらって、弾を確保。
たぶん、近隣の村々ではちょっとしたフィーバータイムだったんじゃないでしょうか。
なんでもないものがカネに換わるのです。目の色変えて、励んでくれた事でしょう。
投石器は急遽、職人さんたちとでっち上げました。
まずは固定。大人が埋まるくらいの深さの穴を掘って、そこに岩なり丸太なりを放り込んで、それに竹束を結び付けます。
竹束の竹は、節をくり貫いてニカワを流し込んで、しなりを強化。
竹と竹の間に、削った木を挟んでニカワで接着して積層化して、復元力も強化。
先端に付ける縄は、古くなった注連縄を採用してエコかつ入手難度を下げる。
それでいてスリング(投石ヒモ)の働きをするので、飛距離が大幅アップ。
固定式ではなくて、支点を作ってシーソーみたいな構造にして。
根元の方に木箱を付けて、そこに石を入れまくって重石にしたタイプなら、もう少し飛距離は伸びましたが、現地で作成する手間と難度から考えて妥協しました。
それでも600mほどは飛ばせるので、許容範囲内です。
そうして実際に関ヶ原の、松尾山という場所に作った投石器12台から、ぶおんぶおんと石の雨を浅井軍目掛けて降らせているわけです。
ここ松尾山は、関ヶ原の西の入り口を完全に見下ろせる高台。
つまり一本道の街道を埋め尽くす浅井軍の長蛇の列を、真横からボコボコに叩ける場所なのです。
まあ、裏切り者のレジェンド枠のひとり、関ヶ原で裏切った小早川秀秋が陣地を構えていた場所なので、縁起は悪いんですけどね。
いや、あれはまだ起きていない裏切りですし、今世では起きなくなった裏切りなので、セーフかな。
『前回ウダウダ言ってた割には、簡単に殺戮してる。やっぱり人の心とか無いんだ』
とか思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、それは違います。
私にもちゃんとありますからね、人の心は。
今もこうして浅井軍を一方的に叩きながらも、不安になっていたりするのですから。
『これで長政が投石で討ち取れちゃったらどうしよう』という不安ですが。
まあ、アイツの事だから大丈夫だろうとは思いますけどね。それでも心配にはなるんですよ。人間ですから*1。
さて長政。私はここに居ますよ。
ここであなたを待っています。だから早く来てくださいね。でないと……
「そろそろ石だけじゃなくて、火も降らせましょうか。油壺に火を付けて飛ばしてください!」
私たちが一方的に攻撃するだけで、この戦が終わっちゃいますよ?
「それとそろそろ、西の
本当にね。
さあて、私はここに居ます。ここに居ますが。
まずは2択を当てて、こちらに来てくれますか、長政?
……あれ? もし長政が光秀さんの方へ行っちゃったら、どうしましょう。
考えてなかったんですが。
投石器の命中率が木砲より悪いなら、数をそろえて、陣地も分けて十字砲火して殺し間を作ればいいじゃない。
という所までしか、考えていませんでしたよ。
あとなんか、無意識に長政はこっちへ来るものだとばかり思い込んでいたかもしれません。
さりげなく、私はここに居るというアピールをすべきでしょうか?
でもちょうどいい何かとか、思いつかないんですよねえ。
…………よし! ここは長政の運命力を信じましょうか!
決して諦めたとか、そういうわけではなくて! 友との間の運命的な何かを信じるというアレ! アレですよ!
頑張って下さい、長政。私はここで待っていますよ。
ちょっとユウジョウってなんだろう?と疑問を抱いたので、まっとうな友情の物語を推してみる。短編。小説家になろう。より、俺の勇者
ttps://ncode.syosetu.com/n1392cj/
田舎の村の少年2人、ひとりは勇者に選ばれ旅立ち、もうひとりは迷子係として同行した。
この勇者、全自動でワープっぽく迷子になる厄介さんだったのだ。
そして見つけ出せるのは、もう一人の少年だけ。
そこには理由があって、友情があった。