と頑張って更新。鮮やかに逃げるぜ!
「今の一矢が、私に出来る全身全霊でした。それが外された以上は、私の負けです。
――――あなたの勝ちですよ、長政」
弓を下げて、文字通りに兜を脱いで。
私は長政へと、敗北を認めました。
とりあえずグダグダになった、少なくとも私の中ではそうなった、なってしまった長政とのラスト(だったはずの)バトル。
せめてその結末は取り繕おうと、気持ちシリアスに決めてみたとも言いますね。
「そ…」
そして何かを言おうとした長政の言をさえぎって、一方的に宣言します。
もうこれ以上、この脳筋に付き合ってグダグダするのはゴメンなんですよ!
こんな所にいられるか! 私は帰らせてもらう!
「ですがこの首までは渡しませんよ! この首が欲しければ――――」
そこまで言ったところで、前を向いたまま後ろへとダッシュ。
よし。長政はあっけに取られたのか、動いていませんね。
それを確認できたので、くるりと半回転して、投石器のある陣地まで全力疾走。
「総員、撤収!! 手はずどおりに!」
そして味方へと指示を出しました。
撤退じゃなくて、撤収なのがミソですね。
撤退はそのまま逃げる事ですが、撤収は人や車両や機材や、その場所を片づけて移動することを言います。
私の撤収の命令を聞くや、甲賀衆や臨時のバイト兵たちが投石器に油を撒いて火を付けました。
そして今まで銃弾を防いでくれていた、野戦築城の杭や盾にも油をぶっ掛け、その少し後ろに掘ってある溝へと点火。
そこから炎が走り、次々に燃え移って行って。浅井軍と私たちの間の、炎の壁となってくれました。
「私の首が欲しければ、その火を越えて来て下さい!」
関係ないとは思いますが、これを言った時に私の脳裏に、焚き火の向こうに立って『私が欲しければこの火を飛び越えて!』と言ってる金髪の女性が思い浮かびました。
関係ないとは思いますが。確かにちょっとシチュは似てるけども。
「ではサヨナラです! 今回はその兜でガマンして下さいよ。では、いずれ、また!」
でも気にはなってしまったので、ちょっと言葉を付け足して、走り出します。
そして斜面を登り、尾根を越えたところに用意してあった、斜面を降りるための綱までたどり着きました。
退路というのは、常に確保しておく物ですからね。
用意する時間があったら、そりゃ入念に用意しますよね。
ましてや今回、かなり少数で浅井軍の本隊を相手する予定でしたからねえ。
こうして冷静になってみると、わりと、いやかなり無謀な試みでしかありません。
ですがイケると思ったんですよ。あの地形と状況なら、大軍のまま突っ込んで来れないだろうし。
なにより長政なら、必ず先頭で突っ込んできてくれるだろうと思ったので。
結果はまさかの鉄砲隊の登場で、結構なピンチになったんですが。
投石器用のバイト兵はともかく、甲賀衆にも被害が出ちゃいましたからねえ。
部下を死なせたのは、久しぶりです。尾張で事務方に回される前、足軽組頭をやっていた頃以来ですよ。
まあ戦なんで、殺し合いですから、恨んだり憎んだりは筋違いなわけですけれども。
というか間違いなく私たちの方が、それも投石器で雑に大勢殺しているわけで。むしろ恨まれるのはこっちかなって。
幹部も仕留めちゃいましたからねえ。
一回飲み会しただけの間柄だから、深くは知らないけど。
おっと綱渡りの順番が回ってきましたね。
立って手を伸ばしたくらいの高さに、山すその上からふもとまで綱を渡しただけの、
イザという時の脱出用に作ったというのに、兵たちの遊び道具と化した人気遊具。
開戦までほぼ時間がなかったはずなのに、使いすぎて一回切れちゃったとか、何やってんですか君たち。
あとこういう時って、トップである私を先に逃がすものなんじゃないんですか?
なんかふつーに順番待ちしちゃったんですけど。兵たちにナチュラルに混ざってるんですけど。
おいタラオどこ行った。さすがにこれは教育ものですよ?
軽く見回しても見つからないので、とりあえず綱に手ぬぐいをかけて、斜面を滑り降ります。
下草や、ぶつかりそうな枝や低木は刈り取ってあって、快適に滑れます。
時々左右にゆるやかに曲がるのも面白いですね。これは兵たちが『もう一回! もう一回』と遊び続けたのもわからなくはありません。
この快適さは、その繰り返されたテストプレイの賜物でもあるのでしょうし。
そう言えば現代でも、こんなアトラクションありましたね。
ワンチャン、商売になるでしょうか? この時代なら、怪我をしても問題にはなりにくいでしょうし。
自力でぶら下がるタイプじゃなくて、座席を吊るして乗せるタイプなら事故も減りますかね。
スキーのリフトみたいに、登りと降りで円を書くようにすれば、座席を上に戻すのもスムーズですし。
問題は、座席を上に上げる手間くらいですかねえ? それも複数まとめて持っていけば、手間は減りますか。
さて後は何処に作ろうか。京の近くの観光地に……
いや、この時代ならワンチャン清水寺の舞台から降りるやつとか許可を取れませんか?
などと怪しい方向に思考が行っている間に、いつの間にかふもとまでたどり着いていました。
そこで兵たちが、降りてくる味方を待って、迎え入れていました。
しかしそこにもタラオさんがいません。
まさか……? と思って、甲賀衆の人に聞いてみたところ。
「多羅尾
という答えが返ってきました。
えっ、
むしろ真っ先にここまで逃げてきていて『さすがは私の部下です』とか皮肉混じりに誉められる人だったような。
「
納得がいかないという、怪訝な表情をしていた私の心情を読んだのか、甲賀衆の人はそんな事を言いやがりました。
誰が真っ当な行動をしない変わり者ですか。
私ほど控えめで自重している転生者は、たぶん少ないですよ? 絶対誰にも理解してもらえないだろうから、言いませんけど。
弓はグレードアップして、木砲も作りましたが、銃を改良、量産して大砲作りまくってる転生者なんかザラですからね。
内政チートも、少々の鉱山先取りと、特産品開発からの商業振興程度です。
農法、農具、品種改良やりまくりの、無差別楽市楽座を開催の、私鋳銭に、法令設置に、ガレオン船にと好き勝手する転生者のなんと多い事よ。
実に羨ましい。私も早くやりたい。
楽座はともかく、楽市くらいは開催したかったんですけども、それすらまだ無理ですからねえ。
残念。権力が足りない。
未だに村ひとつの領土も持っていないので、農業チートにも手を出せません。
酒や料理に菓子に調味料に油と、二次産業の加工業には手を出していますけども。
酒造を私が推し進めすぎたせいか、尾張では江戸時代の中ごろから始まったはずの二期作が始まってしまったという、間接的な農業チートはありましたが。
でもあれ、私が知らない間に勝手に起きてたんで、別に私の手柄でもなんでもないんですよね。
二期作は、米を早春に早めに植えて、初夏に早めに刈り取って。
そうすれば直後にもう一回田植えをして、晩秋にもう一回収穫できて取れ高2倍。という農法です。
『いや、一回抜いて植えなおして、ってやらなくても、そのまま茎からもう一回生えてくるから大丈夫だよ?』
あまりに大変そうだったので、そうアドバイスしておいたので、来年には再生二期作にたどり着いているかもしれません。
なお、ちゃんと肥料をやらないと、二期めの米の出来が悪くなる。
勿論その後に植える、二毛作の麦も粒が小さくなってしまいます。
だから『肥料が売れるよ。というか売らないと不作で皆不幸になるよ』って熱田商人の元締めの加藤さんにお手紙しておきました。
なんか激しいお叱りのお手紙が帰ってきました。
私はただ、豪族や庄屋や土倉と組んで、麦や蕎麦やアワやヒエで焼酎を造って、米で清酒や吟醸酒を造って、ちょっと大儲けしただけなのに。
それで組んだ相手たちの欲の皮が突っ張っちゃって、無茶な原材料の増産に走ったせいで、そのフォローのために動く事になってしまっただけなのに。
何故諸悪の根源のように言われるのか。これがわからない。
結果的には、加藤さんも肥料が売れて幸せになるでしょうにねえ?
ああ、肥料の作り方というか、原料の入手方法として現在式の地引網を教えておきました。
地引網自体は諸説ありますが、900年頃にはもうあったらしいです。
ですが陸地を網の両端の起点にして、沖合いに2艘の船で網を張りまわしてから引く、大地引網は江戸時代から。
これでイワシが沢山取れます。干したイワシは金肥と言われる、売れる肥料のひとつです。
問題解決。これでみんな幸せになれます。めでたしめでたし。
微妙に死亡フラグが立ってた気もするタラオさんも、ちゃんと帰って来てめでたし。
さあて。では生きてる人たちは全員集合した事ですし。出発しましょうか。
バイトの人たちは、落ち着ける場所まで行ったら、そこでお金を払うんで、そこで解散ですね。お疲れ様でした。
甲賀衆の人たちにもボーナスです。今回、思っていたよりも厳しい戦になってしまったので。
亡くなった方々にも、ご家族がいたら見舞金を出します。タラオさん、預かっておいて、そちらで配ってください。
他の人は、タラオさんが着服しないか、見張っといて。
では行きましょうか、尾張まで! この先も急ぎですよ。
まだ北伊勢が安定していないから、やりたくはなかったんですが、こうなっては仕方ありません。
長政がこの後、大人しく帰ってくれればそれでいいんですが、予定通り美濃勢と戦を始めちゃうと、ちょっとヤバいです。
残った西美濃三人衆の最後のひとりの稲葉一鉄とか、総大将の不破さんとか、意外と前線に出そうな半兵衛さんとか。
美濃の行政を回す貴重な人材が討ち取られかねません。
そうなったらただでさえ人材が足りていない、どのくらいかと言うと『織田家より足りてない』美濃の政治が破綻しかねません。
それを防ぐために、今すぐにでも織田家の軍勢を動かさないと。
具体的には『浅井家の領土の近く、国境ギリギリ、なんなら少し越えたくらいまで。
そこまで織田家の兵を動かして『どうしよっかなー。ガラ空きなら攻めようかなー』と、チラ見させないと!
そうなったらさすがの長政も、兵を返さざるを得ないでしょう。
長政本人は戦闘続行したくとも、兵と家臣がイヤがる。『いや、オレんち守らせてくれよ』と。
そうなるまでの時間だけが問題です。
あらかじめ『こういう事態になったら動いてね』と丹羽様たち織田家の五家老には伝えてありますが。
ここ関ヶ原から、織田家の国境まで駆けて、そこで狼煙を上げて合図して。
それが伝達されて、Goサインが出て、それが伊勢にまで伝わって。
う~ん。2~3日で済みますかねえ?
失敗したなあ。携帯でなくとも、電話でもあれば一発なんですけどねえ。
「もしもし私ですが。例の件、よろしくお願いします」
というやり取りだけで、終わるのに。本当に欲しいですね。電話。あとネット。
ですがさすがに電話を再現するのは、よほど極まった転生者でもないと、やっていませんし出来ませんから、仕方ないですね。
諦めて、走っていくとしましょう。
でも私が走るより確実に早いので、甲賀衆の人たち、誰か先行よろしく。
Arcadia の投稿掲示板、オリジナル から ポンチ◆8393dc8d 氏の ヴァルチャー を推してみる。
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=original&all=1501&n=0#kiji
2007年の作品ですが、ヴァーチャルMMOの自キャラに転生。しかも複数人が世界のあちこちにバラまかれる。おまけに主役は触手系異形キャラ。という盛られまくった設定。
たぶん時代的に早すぎた作品。
落とされた先の世界がわりとダークで世知辛い。中世は異端者に厳しいのじゃ…
でもいい人もいるし、プレイヤーは強力なので、頑張れば生き抜けるよ。ファイト。
14話+番外2話。完結済。