尾張グダグダ戦国記   作:far

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昨日の夜だけ、日刊95位でギリランキング入りしたら、色々数字が伸びました。
投票してくれた方々、ありがとうございます。

ところでここまで書いてきて、主人公の名前を決めていない事にやっと気付くというウッカリをしましたが
名無しでいけるとこまでいってみようかなって。
まあ、彼は今回は1回お休みなんですが。


【問おう】HIDEYOSHI【あなたが主役か】

 

「私に、付いてきてくれ」

 

 10以上年下の、自分の子のような年齢の小男に、まともな着物を着た武士が、頭を下げていました。

 

 下げた武士は、本多正信。

 史実では桶狭間の戦いの前哨戦で、足を負傷して戦働きを断念。以降軍師としての道を歩みました。

 しかし桶狭間が一回キャンセルされた今世では、まだピンピンしていて、血気盛ん。

 

 このままだと、逆に軍師になれないかもしれませんね。

 史実では三河一向一揆の後に帰参を許されずに、諸国を放浪して苦労したのと、足の不自由さとで、慎重な考えの持ち主になって。

 それが我慢強い家康の思考と嗜好に合ったからこそ、徳川の軍師となれたんだと思いますから。

 まあ、色々流れ変わってるんで、逆に幸いするかもしれません。未来はまだまだ未定です。

 

 その血の気の多さのせいでしょうか。

 本多正信、史実でも主家を離脱して参加した三河一向一揆に、今世でも参加する気満々です。

 出来るだけ参加者を増やそう。何なら本多家ごと参加しよう。それほどにやる気に満ちています。史実では個人で参加していたのですが。

 一向宗がすでに鳴海城を占拠。尾張東部と、三河西部という根拠地があるところに、勝機を見出してしまったのかもしれません。

 

 本多正信だけではなく、松平家には一向宗の信者が多く、酒井忠次の叔父やら、のちに家康の身代わりになって戦死する人とか。

 家康の父や祖父の代から仕えてた人らとか、のちの徳川十六神将のひとりとか、結構な重要人物が参加しまくっています。

 前にも述べましたが、他にも家康の家臣らの参加者は約800人です。

 史実よりも家康に不利なこの状況で、これ以上の人材が一揆に加わってしまえば、本当に松平家は滅ぶかもしれません。

 

 頭を下げられている小男、木下、いや今世では本多藤吉郎は、そこまでは解かっていないでしょうが、ここが分水嶺です。

 彼の行動で、家康の今後が大きく左右される事でしょう。

 

 そんな事は知らず。しかし藤吉郎は知っていました。一向宗と、一向一揆のロクでもなさを。

 一向一揆で荒らす側も民衆ですが、荒らされる側も民衆です。

 進めば極楽、退けば地獄と言いつつ、地獄に落ちるような略奪を行わせる。その胡散臭さを、当時の人々もわかっている人はわかっていました。

 生きるのに都合が良いから、目を瞑っていただけで。

 

 一向宗の支配下になった三河は荒れる。絶対にいい国にはならない。

 

 藤吉郎には、そんな確信がありました。

 そしてそんな結果に、本多正信に手を貸して欲しくはありません。

 彼は藤吉郎を認めて、猶子とはいえ養子にまでしてくれた人です。

 農民の出で、武士ではなかった自分を、武士にしてくれた人です。

 絶対に後悔するであろう結果に、突き進んで欲しくはありませんでした。

 

 しかし藤吉郎にも、弱みがあります。

 子であるということ。頭を下げられてしまったこと。説得を任されて引き込んだ鳴海城が、この三河一向一揆の遠因であること。

 

 しかし彼はタフなので、それは心の棚に一旦上げておきます。

 

 この一揆は、参加したら本多様には後悔する未来しか見えないのです。何としても、止めねばなりません。

 問題なのは、説得の手法です。

 

 素直に、ロクな事にならないからやめましょう。と言っても、通じないでしょう。本多正信は、熱心な一向宗の信者です。

 しかもたぶん今は、熱に浮かされている。おそらくは、加賀のような国一揆の成功。三河も百姓の持ち足る国に、という夢を見てしまっている。

 ならまずは、少しでもその熱を下げる。

 

「お願いいたします! いま一度! 一度! 一時だけでも! 冷静に考え直して下され! お願いいたします!」

 

 ゴン! と床に音を立ててぶつけるほど、勢いよく頭を下げました。

 説得には、勢いと熱が必要な時もある。機先を制するのも大事。物は言いよう。その人が受け入れやすい、欲しがる言葉で語る事。

 今までの人生で学んだ事を、藤吉郎はフル活用しようとしていました。

 

「事が成った後のことも、事が成る途中のことも。どうか。どうか!」

 

 ロクな事が起きないし、ロクな結果にならない。そう言っても聞いてくれそうにないから、自分で考えて気付いてもらおう。

 藤吉郎は下げたままの頭の中をフル回転させながら、本多正信に判断の材料だけを渡します。

 

「武田、織田、今川。三方を敵に囲まれては……」

 

 マズい。

 それは松平のままでも同じです。ですが松平は武家なので、外交が出来ます。一向宗はあまり出来ません。

 だってお腹がすいたら、勝手に攻めて行くから。その信用度は武田未満です。

 本家の本願寺なら、大名が副業で坊主やってるのか、あるいはその逆か、というくらいですし。朝廷とも付き合いがあるので、ある程度の信用はありますが。

 一向宗名乗ってるのに、本部の本願寺の言う事をあまり聞かずに、ほぼ独立して好き勝手やってる、地方の一向宗。特に加賀は…… はい。

 たぶん、三河一向宗も同じように見られるのではないでしょうか。

 

「オレは本多様に、武士にしていただきました。その本多様に、武士を捨てて欲しくないです…」

 

 人を動かすのは、利益と、知恵と、情。

 今回、本多正信は利益では動いていません。人生で蓄えた知恵でもありません。信仰という感情だけです。

 ゆえに真に説得するのは、情を動かす必要があります。

 利と知で説得して妥協させるだけでは、とうてい本多様は納得してくれないので、他に道はないのです。

 

「藤吉郎よ。私は、真の浄土を作る手助けがしたいのだ。だが、それは…… 無理なのだな?」

 

「はい。武士の支配が、坊主どもの支配に代わるだけかと」

 

 ひとまず、知恵の条件を突破できたようです。

 戦国の世で力で1地方を勝ち取っても、その後も戦い続きだよね。という理屈は、この時代の武士には否定できないただの事実です。

 そんなものは浄土でも何でもありません。それは乱世です。ただ、支配者が松平か一向宗かという違いだけ。

 同じ立場での、ただの領土争いです。

 

 そんなものに一向宗を、教徒を巻き込んでよいものなのか……?

 

 本多正信はここへ来て初めて、一向一揆そのものに疑問を持ちました。

 一向宗の教えは確かに、尊いものであった。しかし、それを実現させるためとはいえ、戦をするのはどうなのだ?

 国を手に入れるのに、戦をするのは当たり前なので、考えた事も無かったが。そもそもなんで坊主が戦をやっとるのだ。

 寺は砦か城のように、塀をめぐらしてあるし、兵糧や武器は蓄えてあって、戦う訓練をつんだ僧兵もいて、坊官という戦闘指揮官までいる。

 いやいや、戦国の世で身を守るためには、それくらいは必要。

 ましてや、いざという時には、民衆を受け入れて匿うためだ。城のようにもなろう。

 

 だがそれは、普通の大名も同じだな……

 うん。大名と同じだな…… 一向宗は。

 

 そうなると、私が鳴海城へと合流するのは、ただの寝返りでは?

 

「藤吉郎よ。私は夢を見ていた。だが、夢は、夢か。……礼を言うぞ」

 

「ははっ」

 

 あっ。流れ変わったな。

 やはり下げたままの頭越しに空気を読んでいた秀吉は、本多正信の心変わりを察知しました。

 この流れなら、言える。

 松平に踏みとどまった本多様になら、と。秀吉は、自分が作り上げた細工を語りだします。

 

「本多様。川並衆はご存知でしょうや? ワシはあそこに一時期世話になっておりましてな」

 

「ああ、知っておるぞ。美濃と尾張の境の、木曽川沿いの土豪だろう。そやつらがどうした?」

 

「美濃斉藤が、動くそうです。尾張は、大変な事になりそうです」

 

 秀吉の生まれ故郷は尾張の中村です。現在は名古屋市中村区で、清洲城から約7km。

 巻き込まれないか不安はありますが、本題はそこではありませんし、これは公私の私の部分。

 ついさっきまで「私を選ぶな」と諭していた秀吉が、言ってはならないことでした。

 

「ワシを気遣って、川並衆のカシラが教えてくれたのですが、その時にふと思い出しまして。そういや鳴海城にも、見た顔がおったなあ、と」

 

「うむ?」

 

「ほれ。鳴海城へと入れたのは、一向宗だけじゃのうて、傭兵も入れたじゃーないですか

 そいつら、一向宗の邪魔はせんかったんで、味方扱いで今も城におるんですわ」

 

 それで、出すもん出してくれるなら、こちらに付いてくれるそうです。城門を開くも、兵糧に火をつけるも、思いのままですわ。

 

 笑顔で語る秀吉に、本多正信は冷や汗が止まりませんでした。

 もし自分が一向宗に走っていたとしたら、こいつはどうしたのだろうか。

 確かめたいが、さすがに聞けぬな。しかし、抜け目が無いにも程がある。

 

 いっそ親戚の娘でもくれてやって、本格的に取り込むか…?

 

「な、なんですか、本多様。今更、やっぱり鳴海城に行くとかはナシですよ!?」

 

「そうだな。その場合は、まずこの場で、お前を斬らねばならんだろうなあ」

 

「本多様ぁ!?」

 

 カッカッカ。

 冷や汗をかかされたお返しにと、本多正信は秀吉をからかって笑いました。

 思い詰めていた所から、幻想を壊されて、破滅一歩手前だった事に気付かされて。精神的なリセットが必要だったのです。

 

 だからその元凶である秀吉を少しいじめても、彼は悪くありませんよね。

 

「ところでお前。どんな女が好みだ?」

 

「いきなりなに!? どうされたんですか、本当に? 誰か呼びます???」

 

 とりあえず振り回して遊ぶくらいのようなので。

 まあ、セーフかなって。

 

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