せっかくなのであの人とも対面させようかなって。
誰ですか、そう呼び始めたおバカさんは。
何なら賞金かけてでも見つけ出して、シバきあげたい気分ですが。
そんな事をしても、名前が天狗玉から戻らない気がしてならないので、やめておきます。
犯人め。運が良かったな。
しかし本当に誰なんでしょうねえ。
最初に試作品をお見せした時に、丹羽様が『なんと。これぞ天狗の仕業じゃ!』と叫んでいましたが、あの場に居た面々の口は塞いだはずですし。
この発明で、軸を利用するものを悉く改装したり、新造して他領へ売りさばかないといけなくなって。
そのせいでクッソ忙しくなった、尾張の商人と職人たちの総意による嫌がらせという、どうしようもない予想もあったりしますが。
その場合は、私にもどうしようもないので、その可能性には気付かなかった事にします。
だって、その忙しさには、私は全く関わっていない事ですし。
じゃあ何をしているのかと言えば、また出張です。
京に置きっぱなしの帰蝶がまた勝手に動き出さないだろうかと、そろそろ怖いんですけどねえ。
ですが、命じられちゃったからには、従わないといけないわけでして。
ちょっと部下を泣かせましたし、何なら上司も泣かせましたが、その分キッチリ色々と用意して、指定の出張先まで移動して。
こうして今、甲斐と信濃の国境に立っていて。眼前に『毘』の旗を掲げたガチの軍神を見上げているわけでして。
ええ、はい。今度の出張も戦への援軍です。
しかも相手は上杉謙信です。
武田信玄の次は浅井長政で、その次に上杉謙信とか。豪華にも程がありますね。
もし私がカブキ者だったり、バトルスキーだったりしたら大喜びだったでしょう。
でも全くそんな事は無いので、しんどいだけです。
歴史好き的に、ちょっとだけテンションが上がらなくもないですが、これ他人事じゃなくて当事者なので、盛り上がれないと言うか。
目の前の現実に対処するのに、必死にならざるをえないと言うか。
まあ、大変なんですよ、ええ。
だから出来たばかりの天狗玉仕様の荷車を根こそぎ徴収して、活用しても許されるのです。
「もう売り先が決まってるんだ!」「せめて半分、いや10台だけでも!」「それは改装を請け負っただけのヤツだぞ!」
などなどの苦情をブッチして、とにかくかき集めましたからねえ。
流石の私も、あれは心に堪えました。皆さん、最終的には諦めてくれましたが、漏れなく『覚えてろよ』って眼をしていたんですよ。
後で酒でも持って、謝罪行脚しましょうか。
実際に戦で使って、役立った品。という箔と売り文句が付けば、より一層売れるでしょうし、許してくれる、といいな。
そんなものが無くとも、爆売れしそうでしたからねえ……
さて。そうやって持ち出した荷車たちを、どう使ったかと言えば、もちろん荷運びです。だって荷車ですからね。
燃える物を満載して、《color:hsv(12, 96%, 94%)》火《/color》をつけて敵陣向けて突撃! 改装した車輪の速さを知れ!
とかは、絶対にしませんよ。半ば借り物ですし。
まずは尾張からと、道中で買い集めた物資。兵糧や火薬や武具を運びます。
今までよりも少ない負担で運べるので、少ない人数で素早く運搬。素晴らしいですね。
運びこむ先は、諏訪。
そう、今回は諏訪家への援軍なのです。
上杉謙信が、諏訪へと攻め込んできた。というわけではありません。
上杉謙信の軍事行動は『義が成り立たないといけない』というルールがあります。
かつて庇護下に置いていた、武田信玄にやられて、諏訪から逃げてきた小笠原家などの諸侯たち。
謙信は彼らを支援して、武田家から諏訪が独立するのに手を貸しました。
だというのに、その諏訪へと攻め入るのは、謙信の義に背きます。
たぶん。
いや義とか言ってるけど、ただのポーズで大義名分で、カッコつけで世間への言い訳的なところも割りとあるし……
都合が良かったり、言い訳が成り立ったりしたら、普通に攻め入るんじゃないかなって。
上杉さんの家も、武田さんの家同様に山賊なので。
ですが今回は違いました。上杉謙信が攻め込んだ先は、諏訪ではありません。
甲斐です。
内乱が一応は終わって、武田義信が罰ゲームとして統治する事になった、甲斐の国です。
『内乱が終わったのなら、横合いからの卑怯な手出しにならないな! ヨシッ!』
とばかりに、まだ統治が安定しているとは誰が見ても言えない、不安定な甲斐に襲い掛かったのです。
「助けてくれ!!」
武田義信は、これが言える男でした。
織田家や徳川家、北条家など、他の同盟国とは違って何枚か落ちる、保護国的な位置ではありますが。
甲斐武田家も、一応は三好家を頂点とする同盟国の一員になったので、救援要請が出せたのです。
まあ、助けを呼ばれても、普通はすぐには出せないわけですが。
この当時、軍は常に編成しているわけでもなくて、まずは兵を呼び集める――
――ための会議をするために、家臣を城に集める使者を、それぞれの領地にいる家臣らに送る所からスタートです。
皆さんも、ちょっと思い出してみてくださいな。
結婚式や葬式の手配でさえ、親戚や友人知人に連絡を取って集めるのが実に面倒だったでしょう?
連絡手段の発達した現代でさえ、あんなに面倒だと言うのに、中世戦国の世でのそれは、数段上の面倒くささを持っています。いました。
その手間を何とか緩和しようと、寄り親・寄り子制度など、普段から親分子分でネットワークを築いておいたり。
せめて家臣たちだけでも、城下に住まわせておいて集合の手間を省いたり。
いっそ編成しっぱなしの常備兵にして、手間を全カットしたりと、戦国次代の軍制は進歩していったわけですね。
それぞれ今川レベル、六角レベル、信長レベルです。信長レベルにまでなれれば、天下だって狙えますよ。
それで諏訪はというと…… その、まだ、そのどれにも達していないかなって。
じゃあ何で今回は動けたのかと言えば、まあ、思ったよりもグダグダしていたせいですね?
ほら、この間、私が長政と戦った時。というか、長政が美濃へと攻め込んだ時ですよ。
朝倉家の、浅井家への援軍を通さないために、諏訪家の軍に通せんぼしてもらったじゃないですか。
実は行きたくなかった、朝倉家の大将の朝倉景鏡と話は付いていたので、結局にらみ合いだけしていたアレです。
にらみ合いだけあって、お互いに被害が出ないので『せっかく来たのに、何もせずには…』と、なかなか帰る機会をお互いがつかめず。
長政が私に被害を受けつつも撃退しても。そのまま美濃へとなだれ込んでも。織田軍が近江を脅かしたので、撤退しても。
その詳細情報が流れてくる、少し後まで、お互いのにらみ合いは続いたそうです。
つまり、ついこの間までグダグダしていたせいで、まだ軍が解散していなかったんですね。
これは怪我の功名なのか、瓢箪から駒なのか。
ともあれ諏訪家の軍は動けるわけで。
しかも諏訪は甲斐のお隣の国なわけで。
『同盟を代表して、援軍に行ってね』と、三好家から要請が出てしまったわけです。
そして『軍神』との呼び名も高い上杉謙信を相手取るに当たって、諏訪家もまた援軍を要請しました。
援軍の援軍です。
呼んだのは『かつて武田家から諏訪を独立に導いた奇跡の軍師』だそうですよ。
いったいダレのことなんだー。
いや、まあ、ね? やりましたよ?
新しく武田家の後継者に指名されたばかりの、武田勝頼を引き抜いて、諏訪勝頼として、諏訪家の当主に立ってもらって。
こっそり諏訪の国を越えて信濃のあちこちに手を伸ばして、根回しもして、越後の上杉謙信にも助力を頼んで。
思ったより早く信玄が攻めてきたけど、なぜか謙信本人が援軍に来てくれたり、勝頼が戦でハッスルしすぎたりで、結果として独立は出来ましたよ?
でも色々予想外の事がありすぎたのと、ただの成り行きと、藤吉郎くんこと秀吉の助力とで、私の手柄とはあまり思えないんですよ。
あれこそ瓢箪から駒でしたね。
なのに何でか、信頼が重いんですよね。特に勝頼さまからの。
誰があなたの軍師ですか。いや、確かに当時手紙でそう名乗っていたのは私ですけども。
あれ? じゃあ私が悪いのか…?
まあ、確かに『期待を裏切るのもな…』と、ハンパに応え続けちゃった私も悪かったかもしれません。
今回も、こうして頑張っちゃいましたし。
朝倉家とのにらみ合いで消費した兵糧などの物資を補填して、上杉軍と戦うための火薬なども追加。
更に上杉軍に先回りして、進軍ルートに存在する兵糧を買い占めて、プチ兵糧攻めにしてきました。
長政と直接対峙した時ほどではありませんが、シビれましたね。
普通は足が遅い荷駄隊を率いて、追いかけてくる上杉軍と追いかけっこするのは、かなりおっかなかったです。
馬術に物を言わせて、単独で突っ込んできた騎馬武者とかまで出ましたからねえ。
幸い、長政ほどアレではなかったので、特製弓矢の一撃をさばけずにお亡くなりになりましたが。
名のある武将っぽいんで、死体もちゃんと荷車に乗っけて回収しましたが、まだ誰だかわからないんですよねえ。
誰なんでしょう、あれ。
それと武将さんの乗っていた馬が、未だに武将さんの死体から離れようとしないんですが、どうしたもんですかね?
無理やり引き離すのも、なんか悪い事してる気になるんで、みんなやりたがらないんですよねえ。
「探したぞ、ここにいたか」
『毘』の旗が存外暴れているのを見て『鉄砲も矢も流されそうですね』と、強風を懸念したり、先日の武者の正体に思いを馳せていた私に、声をかける者がいました。
「総大将がこんな前まで、ひとりで出歩かないで下さい」
「ハハハ、お前がこっちに来ないのが悪い。さっさと顔を見せないからだ」
腰の軽い総大将、諏訪 信濃守 勝頼がそこにいました。
戦場なので甲冑を着込んでいますが、金属は表面だけの飾りという私とは違って、当世具足ではありますが、しっかり金属を使った音のする、重そうな物を着込んでいます。
まあ私は圧縮した皮革を複数枚重ねた、積層構造の革鎧なので防御力では負けていない、はずです。
軽さでは大幅に勝っているので、機動力では勝っていますし、音をたてにくいように工夫して、待伏せする時などの専用マントもあるので、隠密性では圧勝です。
……あれ? これ武将の鎧じゃないな?
これも対長政に向けて作った装備の一つだったんですが。
なんだか、盛大に方向を間違えていた気がしてきました。
そうして人知れず反省している私に、勝頼さまが何気ない態度で、とんでもない事を言いやがりました。
「お前が仕留めた 斉藤
ただし、身柄はお前が直接向こうまで持って行くという条件付きでな」
は? 斉藤朝信? 思ったよりも大物来ましたね。
戦も内政も外交もできる重臣という、越後の至宝とか
なんでこんな所で事故死してるんですか。
いやお前が殺ったんだろうって? いえ、あんなもん交通事故みたいなものですよ。
それでこれは、どういう解釈をすればいいの?
歓迎代わりの斬撃だ! 的に歓迎されるの? こんな事になってしまったけどこれからもよろしくね。とか外交されるの?
いったい私、どうなっちゃうの?
「なんなら、一緒に行こうか?」
それだけはおやめ下さい、勝頼さま。
なんか逆に私の死亡フラグになりそうなんで。
「あっ、そうだ。酒を持って来いとかもあったな」
それ重要なやつぅぅ! 『まあ、冗談だろうが』じゃねーですよ! マジのやつですよ!
うわ、これ『飲み会へのお誘い』ですね。
『ちょっと何があったのかくわしく聞かせろ』ってヤツでもありますね。
なにこの地獄のような飲み会。かつての松永サンの茶会に招待された時よりも怖いわ。
しかも今回は工作するような余地も時間も無いというね。
向こうの軍の撤退が条件だから、行かないという選択肢も取れないというね。
お、おぉぅ…… 逃げ場が、ありません。
だっ、誰か! ここからでも入れる保険をご存知の方はいらっしゃいませんか!?
犠牲者を誰にするか、少し迷ったり。
全力で逃げてるんで、一騎か少数で突っ込んでこないと遭遇も出来ないんでボツにしたけど、長尾政景、殺りたかったなあ…… ちょうど没年だし。
それはそれとして、異世界をキメすぎて、とうとうKDOKAWAの株価下落を招いちゃったという影響を出した、小説家になろう より、左高例 氏の
イエス・キリスト(インド味)
ttps://ncode.syosetu.com/n9138dz/
を推してみる。短編でサクッと読めるよ。
ちょっとボケの入ったブラフマー(インド神話最高神、創造神)が荒野をさまようイエっさんを見て、いい苦行してんな。と加護を与えちゃって、見てたガブさんも、全知全能の神ならこれも知ってたろ。ヨシッ!とスルーして始まる、やたら頑丈でパワフルな救世主伝説。