Overlord ――「遅延転移者〈エクシード〉」   作:パレット24

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第2話「影差す合理――初陣と犬」

 

 

漆黒の玉座に座すアインズ。

その前に、アルベドが一歩進み出る。

 

「アインズ様。報告がございます。トブの森の周辺に、複数の武装集団の気配が……」

「ほう、侵入者か。人間の冒険者共だろう」

 

その声に、黒衣の賢者――エクシードが冷ややかに口を挟む。

「違いますね。数は五十。編成は軽装歩兵中心、ただし後方に魔法行使者四名。おそらく“調査隊”です」

「な、なぜわかる!?」(アルベド)

「〈無限演算(インフィニティ・ロジック)〉――足音の間隔と鎧の擦過音から、兵装と人数の誤差±1で算出できます」

 

守護者たちはどよめく。アインズは小さく溜息を吐いた。

「お前はいつも、余計なところまで冷静だな……」

 

 

 

森に進軍する冒険者たち。その先に、不意に現れる影。

黒衣を纏い、無表情の仮面めいた顔。

 

「――止まれ」

 

冷たく告げる声に、隊列がざわめいた。

「な、なんだこの男は……!」

「骸骨……いや、人間か?」

 

エクシードは首をわずかに傾げる。

「合理的判断を勧告します。ここで引き返せば、命は繋がる。進めば――死」

 

隊長格の男が怒鳴り返した。

「脅しに屈するものか! かかれ!」

 

一斉に剣が抜かれる。次の瞬間。

 

 

 

 

「〈再現魔法(リプレイ・アーク)〉」

 エクシードの手に、青白い光の球が灯る。それは以前アインズが披露した「ファイアボール」の劣化模倣――だが、弱体化しているはずの炎が、まるで暴走したかのように敵陣を呑み込んだ。

 

「ぎゃああああっ!」

「く、くそっ……!?」

 

隊列が一瞬で崩壊する。

 

だがエクシードは眉一つ動かさない。

「再現率87%……不足分は〈因果書換(カオス・エディット)〉で補完」

 

空間が歪み、敵の必殺の矢が軌道を逸れて木に突き刺さる。

敵魔法使いが唱えた雷撃は、彼の目前で“ほんの数センチ外れた”。

 

「おかしい……必中のはずが……!」

「それが“結果の編集”です。――合理的に絶望してください」

 

 

 

 

遠くで戦闘を観察するアインズと守護者たち。

シャルティアが目を輝かせて叫ぶ。

「すごいですわ あれじゃまるで、アインズ様の影みたい…」

アルベドは冷ややかに腕を組む。

「影? いいえ……。アインズ様の“犬”。ご命令ひとつで狂気に吠える番犬ですわ」

「……犬ね」

アインズは小さく呟いた。

心中には複雑な思いが渦巻く。頼もしい。しかし――同時に、彼の存在は“物語を知る者”の影でもある。

 

 

 

 

生き残った調査隊はわずかに三名。

震える彼らに、エクシードは淡々と告げる。

「命は取らない。帰れ。そして語れ。“この森の奥に、絶対者がいる”と」

 

調査隊たちは転がるように逃げ去った。

 

黒衣の賢者はゆっくりと振り返り、虚空に呟く。

「アインズ様。これで布石は打ちました。

――この世界が“原作通り”に動くとは限らない。

だが、私が居れば確実に“別解”へ導けるでしょう」

 

その眼光は冷たい計算であり、同時に忠犬のような執着でもあった。

 

 

戦場を制し、ナザリックに帰還するエクシード。

その姿は黒衣の知将、無表情の賢者。守護者たちは一斉にひざまずく。

 

「さすがは至高の御方……! 圧倒的でございました!」(デミウルゴス)

「アインズ様と同格、いやそれ以上の恐怖を人間に刻み込みましたわ!」(アルベド)

 

アインズは玉座で腕を組み、威厳を保ちながらも、内心は複雑だ。

――実力は確かだ。しかし、コイツは問題がある。

 

その予感は、すぐに現実となる。

 

「では報告を」

アインズが促すと、エクシードはおもむろに巻物を広げた。

 

「本日の戦闘結果。死亡者ゼロ、敵被害率94%。

そして――ついでに、シャルティアの一日の酒量をシミュレーションしました」

「え?」(全員)

「現在のペースを維持すると、半年後にはナザリックのワイン在庫が枯渇し、代替財源として“村の葡萄を強奪”に移行する確率、93%」

 

「ちょっと待つでありんす!? 私そんなに飲んでないでありんす!」

「数字は嘘をつきません」

 

シャルティアが真っ赤になって暴れるのを見て、アインズは額を押さえた。

「誰もそんな計算頼んでない……!」

 

 

さらに、エクシードは胸を張った。

「次に私の〈再現魔法(リプレイ・アーク)〉の成果を披露します」

 

地面に手をかざす。

「――死者再生!」

 

現れたのは……ぐにゃぐにゃに歪んだ半透明のゾンビ。

片腕がゴムのように伸び、もう片方は短すぎて体を掻けない。

呻き声も「アウ……ア、ウー……?」と妙に間抜け。

 

「どうですか? 愛嬌がありますよね」

「ないわっ!」(アインズ)

「きゃー♡ 可愛いですわアインズ様♡」(アルベド)

「可愛くない!!」

 

守護者たちはドン引きし、マーレは泣きそうになった。

「ご、ごめんなさい……僕、笑っちゃいけないけど……ぷふっ……」

 

 

「では最後に、〈言霊演算(コード・オラクル)〉で締めましょう」

エクシードは立ち上がり、胸を張る。

 

「――この場は祝勝会だ!」

 

瞬間、先ほどの宴会モードが再起動。

ワインが噴き出し、料理が舞い、守護者たちがまたも酔い踊り始めた。

コキュートスは再び氷マイクを握り、デミウルゴスはノリノリで手拍子を取る。

 

アインズが叫ぶ。

「だからやめろと言ってるだろう!!」

「合理的に考えて、勝利の後は祝宴。これは自然な流れです」

「お前の合理はいらん!!」

 

混乱の渦中、エクシードはふと玉座を仰ぎ見た。

「……アインズ様。合理は私の信条。しかし、非合理に踊る貴方もまた至高。

――だから私は、この混乱をこそ“正解”だと断言しましょう」

 

「全然正解じゃない!!」

 

ナザリック大墳墓、再び混乱の渦。

それでも、至高の一人が二人いる――それだけで、守護者たちは幸福だった。

 

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