Overlord ――「遅延転移者〈エクシード〉」 作:パレット24
王国と帝国の国境付近。
草原地帯に仮設陣営が築かれていた。
そこには、帝国の魔法詠唱者部隊と、スレイン法国の密偵部隊が合同で潜伏している。
「“黒衣の賢者”と“死の支配者”。二体の怪物が存在すると? 馬鹿げている……」
「だが、冒険者や村人の証言は一致している。残念なる予言者と、不死なる王」
「残念、などと舐められてはならぬ。我らが討ち果たす!」
人間側は知らない。
その瞬間、既に“観察者”が彼らの存在を掴んでいたことを。
深夜、月光を背に二つの影が草原に降り立った。
一人は、死を象徴する骸骨の王。
――アインズ・ウール・ゴウン。
もう一人は、漆黒の外套を纏う賢者。
――エクシード。
「敵の数、百二十。魔法詠唱者は八名。合理的に見て、殲滅可能です」
「ふむ……だが俺の役目は“恐怖を刻む”ことだ。お前の合理と俺の威厳、両方を見せる必要がある」
二人の声は静か。しかしその静けさは、嵐の前触れに過ぎなかった。
敵陣に突如、死の霧が広がった。
「〈デス・フォッグ〉」
緑の瘴気が兵士たちの肺を焼き、咳と悲鳴が草原に響く。
指揮官が必死に叫ぶ。
「魔法詠唱者! 防御を張れ!」
だが、次の瞬間。
「〈グレーター・マジック・シールド〉」
アインズが放った結界が、まるで檻のように敵陣を閉じ込めた。
「逃げ場はない……さあ、見せろ、エクシード」
エクシードが一歩前に進み、指先を弾く。
「〈無限演算(インフィニティ・ロジック)〉――予測完了」
虚空に展開する光の数式。
それは敵兵一人ひとりの未来の行動をシミュレーションし、即座に“破滅の答え”を導き出す。
「〈再現魔法(リプレイ・アーク)〉――フレイム・カタストロフ」
紅蓮の火柱が複数同時に立ち上がり、敵兵の逃げ道を焼き払った。
人間たちは絶叫する。
「オリジナルより威力が劣る? ――では、〈因果書換(カオス・エディット)〉」
炎の軌道が“有効範囲を拡大する結果”に書き換えられ、炎の壁が敵陣全体を飲み込んだ。
「アインズ様、左翼突破を試みる三十。私が抑えます」
「よかろう、右翼は任せろ」
エクシードは言葉を吐き捨てた。
「――転べ」
〈言霊演算〉。
敵兵三十名が一斉に地面に倒れ込み、その直後に炸裂した火球が彼らを一掃する。
一方のアインズは、右翼へ死の宣告を放つ。
「〈デス〉」
次々に兵士が膝を折り、命を奪われていく。
二人の力はまるで表裏一体。
死の王が“威厳と恐怖”を刻み、黒衣の賢者が“合理と狂気”で補完する。
生き残ったのは帝国軍の指揮官、そして法国の高位詠唱者二名。
彼らは必死に魔法を詠唱し、巨大な光槍を顕現させた。
「これで……終わりだァ!」
放たれた光槍は、アインズへ直進する。
その刹那。
「〈因果書換〉――外れろ」
光槍は軌道を逸れ、天空へと消えた。
「馬鹿な!? 必中のはずが……!」
「結果を編集しただけ。あなたの“必中”という前提が誤りに変わったのです」
エクシードは冷ややかに歩み寄り、指を鳴らした。
「――沈め」
法国の詠唱者が一斉に地面に叩きつけられる。
そのままアインズの死の呪文が彼らを呑み込み、灰すら残さなかった。
指揮官は膝を震わせ、最後に叫んだ。
「怪物ども……!」
「違う。我らは――至高だ」
二人の声が重なった瞬間、指揮官の命は潰えた。
戦場には死と炎の残滓だけが残る。
月明かりの下、二人の至高は静かに立っていた。
アインズが口を開く。
「……やはりお前がいると戦場が効率的すぎるな。俺の見せ場が削られる」
「合理的に考えれば、効率の良さは至高の証。ですが――」
エクシードは玉座の主を仰ぎ見て告げる。
「――私の合理は、アインズ様の威厳を輝かせるために存在します」
骸骨の王はわずかに沈黙し、やがて静かに笑った。
「……ふむ。それなら良い」