Overlord ――「遅延転移者〈エクシード〉」 作:パレット24
サービス終了の夜
ユグドラシルの最終日。
アインズ――当時は鈴木悟がギルド拠点に残り、最後の時を過ごしていた。
そして、もう一人。
黒衣のアバターを纏う男――エクシード。
「……終わりか。合理的に考えれば、ゲームは閉じる。しかし、心は閉じられない」
彼はモニターを見つめながら苦笑する。
現実では冴えない人生。だが、この世界では至高の一人。
仲間たちと笑い合った日々が確かに存在した。
だが、その瞬間――。
“接続エラー:ログアウトできません”
「……は?」
画面が暗転し、次に目を開いた時、彼はナザリックの中にいなかった。
⸻
彼が立っていたのは――虚無の空間。
時間が止まったかのように、砂粒のような光が漂う。
「……ここは?」
声が反響する。
自分だけが“遅れて”世界に転移している。
(つまり、私は本来の世界から“ワンクッション”外れて落とされた……)
その時、頭の奥に鋭い痛みが走る。
――知識が流れ込む。
――物語の筋、登場する国、人類の歴史。
――モモンガ…いやアインズ様が歩む“未来の筋書き”。
「な、何だこれは……!? なんの記憶だ?」
そして彼は理解した。
遅延転移とその副作用。
完全に同期できなかった代償として、“物語世界の台本”を一部インストールしてしまったのだ。
「ならば、合理的に考えれば――未来を知る私は最強」
だが同時に、胸の奥に疼く感情。
(……アインズ様)
原作知識では、彼は孤独に支配者として歩む。
だからこそ、エクシードは誓った。
「私は彼を孤独にしない。合理も、非合理も、すべて彼の隣で支える」
それは忠犬の愛であり、同時に“脚本を壊す存在”でもあった。
⸻
転移後、彼は時折ふとした瞬間に“未来の断片”を思い出す。
王国の戦場、シャルティアの洗脳、帝国との接触――。
それらを知っている自分は、果たして“この世界の住人”なのか?
それとも“傍観者”なのか?
彼の合理は常に囁く。
「未来を知っている以上、介入すべき」
「しかし、介入すれば原作が崩壊する」
矛盾の果てに彼が選んだのは――“アインズ様の一言に従う”こと。
それだけが、合理と非合理を統合する唯一の答えだった。
⸻現在へ
玉座の間。
アインズがふと彼を見やる。
「……お前は時々、未来を知っているようなことを言うな」
「気のせいです」
「本当にそうか?」
一瞬、視線が交錯する。
しかしエクシードはいつものように無表情で答える。
「私は合理的で、残念で、ただの忠犬です。
――ですが、未来を知ろうが知らなかろうが、変わらぬことが一つだけある」
「なんだ」
「私は、アインズ様の傍に在る。それが“唯一絶対の正解”です」
アインズは答えず、ただ静かに頷いた。