フォーチュン・ライト   作:お じ さ ま

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幕間 日常風景
第十話 サイトの目的、アリスの目標


「……サイトが顔を隠している本当の理由、か」

 

 サイト達が執務室を出てから、少しして。イニティウムは椅子に腰掛けながら、顎に手を添えて悩ましげにそう呟いた。

 厄者に追われている、は理由としてはありえるだろう。命を狙われているのならば、分からないように顔を隠すこと自体は不自然ではない。

 しかし、彼の言い方を聞けば、隠しごとをしているのは明白だった。

 

 言い慣れている。訊ねられた質問に対し、定型的にその様に言い返せば良いと考えているような、そんな答え方。

 今まで色々な種類の人物を見ていたからこそ、イニティウムはそこに気が付いた。

 そして、気が付いたが故に。サイトの中にある歪な心の在りようを、深く感じ取る。

 

「わざわざ自身にとって負担となるように動く。その行動自体に共感を抱かないわけじゃない。しかし……この違和感は、放置しすぎるとまずい気がする。いずれ、サイトがどこかで崩壊しかねないかも、しれない」

 

 グッと、拳を握りしめる。

 彼はもう、助けられる筈の存在を助けられないのは、嫌だから。

 

「注意深く、アイツのことは見ておこう。その心が、壊れないように。そして、孤独にならないように」

 

 静かに、イニティウムはそう決意していく――――。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 イニティウムと別れてから、サイトはあることを確認する為にアリス達とは別に、ギルド内部にある書庫へと訪れていた。

 片っ端から、資料に目を通していく。その全てに、文字が不自然に掠れていたり無くなっている箇所があった。

 (ページ)(めく)るサイトの表情は、フードの中で曇りきっていく。

 確認している内容、それは。

 

「オウンズ家に関する記述が、尽く消え失せてる……!」

 

 元々、気付いてはいた。

 アストラに来る前、小さな村に訪れた際にもオウンズ家に関することを話した際、あからさまに分からないという顔をされていたから。

 その村は、(サイト)がよく自ら足を運んで関わりを持っていた村だった為に、兎の少年は不自然に感じて予測した。

 そして、その予測は最悪な形で答え合わせされることになったのだ。

 顔を顰めさせるサイトは、本棚に書類を戻していき、一人ため息をついていく。

 

「くそっ。こんなこと、あっていい筈が、ないだろ……!」

『……サイト。今は怒っても、仕方ない。やるべきことを、やらねばな』

「あぁ、分かってる。俺はちゃんと分かってるさ、ハヤテ。俺の、為すべきことは……厄者メモリを、殺すことさ」

 

 額に手の甲を当て、少し疲れた様子を醸し出しつつ、兎の少年はそう口にする。

 その様子に、ハヤテは……黙って兎の少年を見守るのみ、であった――――。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 一方、アリスはと言うと。

 ソウジにギルド内部の様々な設備を教えてもらっていた。

 施設についてを知っていくアリスの表情はとても生き生きしており、その表情をソウジは面白がって隣で尻尾を揺らしながらクスリと笑う。

 そうして一通りの説明が終わり、ギルド内部の休憩所で二人は会話をしていた。

 

「ソウジさんはヒノモトってところが出身なんですね! わー、何か凄い!」

「ははっ、おだててもなんも出ねぇぞ? ……後、ソウジって呼び捨てにしていいからな。俺、あんまし堅っ苦しいのは苦手だから」

「そ、そう? じゃあ……ソウジ! あはは、なんか故郷を思い出すな〜。こうやって軽口で呼びあって、皆で話してたっけ」

 

 タハハ〜と笑いながら、アリスは朗らかにソウジとの会話を楽しんでいく。

 そんなアリスの様子を、ソウジはジッと見つめていた。

 彼は気になる事を、アリスへと尋ねていく。

 

「なぁ、アリス。お前、覚醒石(デザイアギット)を持ってねぇよな? 何でギルドに入ったんだ? 確かにここには戦闘以外での仕事もあるにはあるが……大抵の奴は、厄者と災厄を倒す為に戦いに身を投じるのが殆どなのによ」

 

 ソウジの疑問は、至極当然のものだろう。

 戦えない力を持つ者が、何故戦う事の多いギルドの職に就こうとしたのか。

 何より彼女の身の上なら、戦う事は怖く恐ろしいものの筈。

 それなのに、どうして?

 そんな彼の問いに、アリスは腕を組んで悩んでいく。

 うーん、と何度か唸りを上げた後に、彼女は答えていった。

 

「色々理由はあるよ。村の皆を殺した厄者に敵討ちをしたいとか、ただこのまま何もせずにいるのは嫌だ、とか。本当に色んな理由」

 

 彼女の言葉には、様々な想いが混ざっている。それを、ソウジは感じ取っていた。

 

 ――――昔の自分と、重なる様な気がして。

 

 彼は後頭部を掻きながら、困った様にアリスへと語りかけていく。

 

「……お前、それ。自分でも何を目的にすればいいのか分かってねぇんじゃねぇのか? それだと、覚醒石は覚醒しねぇと思うぜ?」

「えっ!? な、なんで?」

「覚醒石は、()()()()()()になる力だ。だから、明確にこうなりたいっつー意志が無いと、そもそも力は目覚めない……って、ティムさんは言ってたな」

 

 ソウジの解説に、アリスはわたわたと慌てだす。

 

「そんな!?」

「まぁでも。決意した事とか、秘めてる想いとか。お前にもそれはあると思うんだよ。じゃないと入ろうだなんて思わないからな。思い返してみろよ。何か気づくかもしんないぜ」

「……決意した事、秘めてる想い。私は、そうだ――――」

 

 アリスは立ち上がる。

 何かを思い出したのか、満面の笑みで彼女はソウジへと語り出した。

 

「サイト君の隣に立つこと! そこから私が……あの子や、他の人を()()()()()()()になりたい! どんな逆境にあっても、屈せず折れず前向きな、そんな自分に! うん、そうなりたい! そう思った!」

 

 自分に言い聞かせるように、アリスは自身の想いを放っていく。

 それは悪い意味ではなく、寧ろ良い傾向の表れであろうか。

 ソウジはそんな彼女の様子を見て、ニンマリと笑う。

 

「それ、良いじゃねぇか。守れるような人……なる為には、強くなんねぇとな」

「うん! なんか目標が決まったら、やる気もモリモリ湧いてきたよー! よしっ、早速特訓だね!」

「あー、その事なんだが……アリス、俺がお前の特訓に付き合うよ。つーか、その特訓のメニューも色々考えてやる」

 

 ソウジの言葉にアリスは一瞬驚いたが、すぐに笑顔を花開かせた。

 彼の手を取り、ブンブンと大きく振りながらアリスは感謝を口にする。

 

「ほんと!? ありがとうソウジ、ありがとう!」

「おぉぉおぉ……いや、いいんだよ。俺も自分の経験になりそうだから、ちょうど良い」

「……でも、不思議。何でソウジはそこまで私を気にかけてくれてるの? 会ったばかりなのに」

 

 アリスの言葉に、ソウジは耳をピンとさせる。

 次いで、彼は気恥ずかしそうに視線をそらすと、言葉を漏らしていった。

 

「なんつーか……放っておけなかったんだよ。それに、勇者はそういう困ってる人は見過ごさないからな」

「なるほど……そういう所も勇者足り得る素質なんだね! 参考になります、先輩!」

「それむず痒いからやめてくれ! ……まぁ、とにかく。これからよろしくな、アリス。それから、サイトにも良ければこの事伝えてやってくれや。んでまぁ、全体訓練とかを通して皆で強くなろう」

 

 そうして、彼らは交流を深めていく。

 これから先の未来がどうなるかは、まだ分からない――――。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 あれから二日が経った。ボーデンへと出発するまでの日時も残り二日となったある時。

 サイトは訓練場へと訪れていた。

 理由は、任務までの間に実力を少しでも磨く為。相対するのは、ソウジであり。

 両者共に、木剣と木刀を手に持ち構えていた。

 

 見合って――――先に仕掛けたのは、サイト。

 

 足で地面を踏み込み、一気にソウジの懐へと入りこみ木剣を横薙ぎに振るう。

 手加減をしているが、それでも並の相手ならば防御出来ず横っ腹に叩きつけられてしまう一撃。

 その一撃を、ソウジは……構えていた木刀で防いだ。

 

「っ、防がれたけど……押し切ればぁ!」

 

 防がれた所を力任せに押し切ろうとするサイト。しかし木剣はびくともしない。それどころか、逆に押し返されそうになっている。

 力では敵わないと悟り、サイトは木剣の切っ先を放して間合いを取る為に後方へと飛び退いた。

 飛び退いた先で、サイトは脳内で思考を張り巡らせていく。

 

 あのスピードでの攻撃を防がれた上、力でも敵わない。

 単純な力押しでは、ソウジ(狼の彼)には勝てないのだろう。そうサイトは考えた。

 で、あるならば。

 

「手数で押し切る!」

 

 再度間合いを詰める。

 そして、木剣を何度かソウジへと打ち込んでいく。吹き付ける業風の如き乱打を、繰り出す。

 何回かは防がれても、その内の一回でも打ち込めれば――――!

 

「早いな! けど――――ふっ! はっ! せいっ!」

 

 しかし、ソウジはその風を難なく捌いた。

 木刀を使い、上下左右から打ち出される襲風を悉くしのいでいく。

 その対処に、サイトは心を乱される。

 

 油断。慢心。

 

 全てを防がれ、サイトは攻撃の手を緩めるという愚策を行なってしまった。

 その結果。

 

「そらっ、そこだ!」

「うわっ!?」

 

 サイトの手を打ち、木剣を弾く。

 そしてそのまま、ソウジは流れるように胴を打った。

 衝撃に身悶えるサイト。横っ腹を押さえる間に、ソウジが後頭部の首元へと木刀を――――振り下ろす。

 

「っ! ……負け、です」

 

 首に接触する直前で、木刀はピタリと止められた。

 完全な、敗北。

 その事実に、サイトは歯噛みした。

 と、周りから歓声も上がる。

 観戦していたギルド員達が、両者共を称える声を上げたのだ。

 その歓声に、ソウジが手を上げて応えた。

 

「おーおーありがとなー! ……サイト、大丈夫か? 打ちどころ悪かったらごめんな。もし痛みが長引くようだったら、後で医務室に行って診てもらってくれ」

「だい、じょうぶ。……それにしても、ソウジ強いんだね。全く歯が立たなかったよ」

「いやいや。お前、若いのにあんな動きをするんだから凄いよ! 集中しっかりして気を張らねぇと、逆にやられてたのはこっちだった。強いぜ、お前も」

 

 ソウジがサイトへと手を向ける。

 それが握手のサインだと気付くのに少し時間がかかった後に、サイトはその握手に応じた。

 そこからソウジは、更にフォローを入れていく。

 

「それに、覚醒石(デザイアギット)無しの純粋な打ち合いだったろ? これが覚醒石有りになった時、勝敗がどっちに転ぶかはいよいよ分からねぇからな」

「……どうなんだろ。多分覚醒石が有ったとしても、ソウジが勝ってたと思う。何となくだけど」

「おいおいそんなに卑屈になるなよ。つっても、勝った俺がそれを言っても嫌味にしかならねぇが……そうだ、反省会しようぜ! んで反省会ついでに、お互いの覚醒石についても共有しておこう! 次の任務の為にな!」

 

 ソウジが名案とばかりに手をポンと打って、そんな提案してくる。

 サイトは少しばかり悩んだ。覚醒石の詳細についてを聞かれた時に、どう答えるべきか迷ったからだ。

 しかし、心の中でハヤテが。

 

『コイツは何となくだが、信頼できそうだ。それに、恐らく聞かれたくないことには踏み込まない思慮深さもあるだろう。そこまで心配しなくても大丈夫じゃないか?』

 

 そう助言をしてきたので、サイトは了承して頷いた。

 そうして昼下がりの時に、二人はギルド内でちょっとした軽食を取りながら反省会をしていた。

 

「サイトは動きが結構直線的何だよな。搦手を使おうって気持ちが出ちまってんだよ。だからまぁ、対処が出来る奴には直ぐ様対応されちまう」

「なるほど……じゃあ、相手に気取られない様に立ち回るには、どうしたらいいの?」

「うーん、表情には出さねぇことだな。後は、突拍子の無い行動で敵を動揺させるとかも手だ。動揺させりゃ、敵は一瞬だけでも隙を生むものだからな。パターンは違うが、さっきのお前みたいな感じで」

 

 そうして話は盛り上がっていき、やがて話題は覚醒石についてになる。

 サイトは翠色に輝く拳大の大きさの石を見せ、解説していく。

 

「僕の覚醒石は、『繋ぐ意志は、風と共に(リガーレヴェレ・カムヴェントゥス)』って名前で……能力は、風を操ること。風の刃で敵を切り裂くとかが出来るんだ。後は、風を利用して凄く速く動ける」

「ほーん、なるほど。風を利用すりゃあ、色んな事に応用出来そうだな! 遠隔で風の弾幕を飛ばすとかよ!」

「あっ、それいいかも。また試してみるよ。それで、ソウジの覚醒石はどんななの?」

 

 言われたソウジは、目を閉じて集中すると胸元から青く光り輝く石が出現した。

 サイトの石よりも少しだけ小さい石をソウジは掴むと、サイトへと見せていく。

 

「俺の覚醒石の名は『水天立花・狼音刀(すいてんりっか・ろういんとう)』っつってな。能力は水を少し操る事と、周囲の状況を察知する事。特に探知能力は自信があってな? 頑張れば、ここから十メートル先の奴らの話し声とか姿形とかを把握する事も出来るんだ!」

 

「ふんっ」と一つ鼻息を漏らしながら、ソウジは得意げに耳をピコピコと動かして胸を張る。

 しかし、サイトはイマイチその凄さが分からないのか、首を傾げてしまっていた。

 申し訳なさそうに、未だ誇らしげにしているソウジへと質問をした。

 

「あの、ソウジ。イマイチ、実感が湧かないんだけど……察知できると、何がどう凄いの?」

「えぇっ!? いやそりゃあすげぇのよ!? 離れた相手の位置が分かれば、それは戦場においては最大のアドバンテージだからな! 作戦も整えやすいし、色々と考えられる事も増えるんだ!」

「分かった、分かったからそんなに顔近づけないでってば!?」

 

 鼻息荒く、ソウジは自身の能力の有用性を力説した。

 そんな彼の圧に押されたサイトは慌てて彼の能力の凄さに頷き返しながら、顔を離れさせていく。

 ソウジは顔を離れさせ、一旦気持ちを落ち着けた後にサイトへと謝罪を口にしながら頬をかいていく。

 

「すまん。後まぁ、お前の言い分も分からなくはねぇんだよ。地味だしな、俺の能力」

「いや、僕の方こそごめんだよ。……そういえばさ、ソウジってヒノモト出身なんだよね? さっきの戦い方とかも、そこで習った感じ?」

「ん? あぁ、それはそうだぜ。神薙流抜刀術・蒼(かんなぎりゅうばっとうじゅつ・あお)。『水の様に流れる鮮やかな剣術』って触れ込みだが、まぁ……これも地味な技ではあるんだがな」

 

 ソウジは自嘲気味に、詳細を話していく。

 

「この剣術な、守りに特化してる剣術なのよ。華々しく敵を斬り伏せるとかじゃなく、守って守って敵の隙を誘発させて、反撃の一閃を繰り出す! っつー剣術。どうだ、地味だろ?」

 

 身振り手振りを交えて話すソウジ。その表情にはどこか物悲しげな雰囲気が纏われていた。

 しかし、そんなソウジとは対照的にサイトは「はぁぁ」と感嘆の息を吐き出していた。

 予想外の反応に戸惑うソウジに構わず、サイトは思った事を口に出していく。

 

「カッコいいな、そういうの」

「……へっ?」

「だって、守る技術なんだよね? 戦いって、華々しく敵を倒すだけじゃなくて、いかに耐え忍ぶかも重要だって思うからさ。そう思うとソウジのその剣術って凄く粋というか、渋いというか……なんか()()って感じで、僕は好きだな!」

 

 目の前の少年から放たれる、純粋無垢な心からの言葉。

 フードを被っていて表情が見えなくても分かる、明らかな本音。

 それを浴びたソウジは、シビビビと体に電流が走る感覚に襲われた。

 むず痒くもあるが、それ以上に何だか心が暖かい。

 

 ――――こんな気持ちを抱いたのは、()()()()()()

 

 尻尾をフリフリと揺らしたまま、ソウジはニッカリと笑いながらサイトへと言葉をかける。

 

「お前、なんかティムさんに似てんな」

「えぇっ!? 僕が、イニティウムさんに? 嬉しいけど……でも、なんで?」

「ストレートに物事を伝えてくる所。あの人も何かと想いは真っ直ぐに伝えてくるからな。お前も味わったりしてないか?」

 

 言われ、思い当たる節がある。

 そうだ、自分もそういうあの人(イニティウム)の想いに揺さぶられてるんだった。

 気を付けようと思ったサイト。そんな彼を知ってか知らずか、ソウジは話し続ける。

 

「まぁ、なんだ。ありがとな、サイト。俺、お前の事が少しだけ分かった気がするよ」

「……それは、どうもありがと」

「何で顔を逸らす!? ……うーん、やっぱりまだイマイチお前の事が掴みきれねぇかも」

 

 そうして、彼らの日常は過ぎていき。

 ボーデン出発の時が、やって来た――――。

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