フォーチュン・ライト   作:お じ さ ま

15 / 48
第十五話 蝕む悪意に対抗せよ

 

 空気が張り詰め、静まり返るギルド内部に備え付けられている一室。

 その部屋で休息をとっている最中に、サイトは自身の感じていたある違和感についてを他の面々に訊ねていた。

 

「中継地点の村からずっと気になってたんだけど。外で蔓延してる霧、嫌な感じがしないかな?」

 

 その言葉へ最初に反応したのはライアで、普段の緩やかな雰囲気からは打って変わった真剣な面持ちで返答していく。

 

「そうだね。あの霧に関しては私も気味の悪い感覚を感じていたよ。……この事例に霧。やっぱりあの件と同じかな?」

 

 顔を歪ませながら顎に手を添え、考える仕草を取るライア。

 そんな彼女の言葉に各々が悩んでいる所に、ゼーエンが部屋に備え付けられている書物の一つを指さす。

 

「その本に何か書かれていないか? ここで起きていることなら、何か資料を残しているかもしれない」

「ふむ、それもそうだね。どれどれ中身を拝見っと……あぁ、なるほど」

 

 鮮やかな手つきで書物を捲っていき、内容を確認した彼女の口から漏れたのは理解の吐息。

 しかし、彼女以外の面々は何も分かっていない。

 ソウジが先陣を切るかの如く、耳を動かしながら質問をする。

 

「何か分かったのかよ? それなら、俺らにも分かるように説明してくれ」

 

 ライアは彼の問いに対し、微笑みながら答えていく。

 

「この霧は、五十年ほど前にも似たようなものが起こっていると記述されている。原因は当然ながら厄者。霧の影響による幻覚が視えた者もいて、今回の騒動の一つでもある村人同士による殺し合いが起こってもいたと。そして、五十年ほど前の事例を引き起こした……この場合は、厄者の封印を解いた事になる、に該当する存在もいたらしい。記述には、『狂喜の魔女』によるものだと」

 

 彼女の口から出た内容は、サイト達が驚くのに充分な要素を備えていた。

 五十年ぐらい前にも似たような事例があった事、『狂喜の魔女』と呼ばれる存在。

 だが、彼女はそんな彼らの様子を少々残念がるようにしてため息を吐いた。

 

「君達……この事例は、『妬憎濃霧界域ボーデン・狂恐爛々事件』としてかなり広く語り継がれていた出来事の筈だよ? 少なからずな死者もいたし、新聞(紙による情報媒体)にも書いてあったものだ。……と言っても、時と共に事件が風化していくのは仕方ないことでもあるけどね」

 

 ため息を吐くライアの表情は、悲しげで。

 そんな彼女に、男達を代表したソウジが耳をへたらせながら謝罪を口にする。

 

「お、おう、わりぃ。俺は新聞あんまり読まねぇんで、そこらの事は頭に入ってなかったわ」

「……まぁいいけれども。ともかく、後はマナギルド長から話が出る筈さ。それまでしっかりと休息を取っておくとしよう」

 

 そう締めくくり、ライアはベッドに横たわって本の続きを読み進めていく。

 ソウジも納得したようで、ベッドに寝転ぶと休憩に入っていった。

 そんな二人を見ていったサイトは、ふと気になってゼーエンの方をちらりと一瞥する。

 彼はベッドに腰掛けながら腕を組み、何かに警戒をしている様子で。

 

 耳をピンと立てながら目を閉じ、油断なく周囲に気を巡らせているのが感じ取れる。

 

 そんなゼーエンの姿をよく知るサイトは、声をかけて気を張るのを止めさせようとした。

 しかし。

 寝転んでいた筈のライアがいつの間にやら黒兎の目の前に近寄っていたのだ。

 驚きと共に、何をするつもりなんだと内心ハラハラするサイト。

 すると、突然。

 

「まぁた眉間に皺が寄ってるねーゼーエン君? リラックスが出来ていない悪い子の顔を解してあげよう!」

 

 その眉間に皺を寄せた仏頂面を揉みこむように手で弄るライア。

 縦に横に、果ては斜めに変化していく黒兎の渋い顔面。

 

 恐ろしい事態だ。

 これは。

 不味い。

 止めねばならない!

 

 サイトがそう判断した時には、既に手遅れ。

 顔を無造作に弄られた彼は、奇行に走るライアに対し。

 体重の軽い人間が軽く飛ぶのではないか、と錯覚する程の圧が放たれていた。

 まだ比較的遠くにいるサイトやソウジでさえも、顔が引きつるぐらいの怒気と呼べる圧。

 それを真正面から受けたライアはと言うと。

 ――――静まり返っていた。

 不気味なほど、黙りこくっている。

 

 恐る恐るサイトがライアの顔を覗くと……満面の笑みを浮かべたまま一切その表情を動かさない。

 まるで人形になってしまったかのような彼女がそこにはいた。

 手はゼーエンの顔を掴んだままだが、少し動かせば容易に顔から離れる。

 ソウジも彼女に近づいて頭の辺りを軽く石像を叩くかのように小突いたが、無反応。

 これは、正に。

 

「……気絶してるな」

「……気絶してるね」

「………………」

 

 哀れ、物言わぬ物体と化したライアに手を合わせて拝むサイトとソウジ。

 ゼーエンは我関せずで警戒を再開する。

 それから少しすると、どたどたと騒がしく部屋に近づいてくる足音が。

 勢いよく扉が開かれると、そこには慌てた様子のレオンが息を吐きながら立っていた。

 彼は心配そうな声色でサイト達に声をかける。

 

「あんたら、大丈夫か!? 呼びに行こうと廊下を歩いてたらとんでもねぇ敵意が……何でライアが気絶してんだ?」

 

 慌ただしい一幕が、過ぎていく――――。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ライアが再起動を果たした後、彼らはギルド内の会議室に通されていた。

 テーブルに備え付けられている椅子に腰かける面々の中に、サイトの見知らぬ人物がどこから来たのか三名増えている。

 その人物達を観察するようにサイトが眺めていると、その内の一人であるエルフらしき女性が彼に気付いて笑顔で手を振ってきた。

 

 さらさらとした明るい茶色が目立つ長髪に、薄めながらも健康的な肌色。

 泡褐色の瞳は魅力的で、エルフ族(ナチュラノス)特有の長い耳には蝶々型のイヤリングが付けられており華やかさを演出している。

 服装はソウジの物と似ているが、彼よりも軽装で蝶を連想させる。

 更にスリムかつ引き締まった体が見える為に、サイトはその女性をより美しく妖美に感じていた。

 

 等と観察していると、その女性の隣に座っている几帳面そうな人族(ヒューマノス)の男性が女性の行動に何かを話している。

 サイトの耳に聴こえる感じから、少しばかりのお小言の類いであった。

 

 その件の男性は他の者とは違い重装備。

 体から足先にかけては年季の入った白の鎧で包まれており肌色や体つきは一切見えない。

 兜は外しているため、深い青色が特徴的なさらりと整えられた短めの髪と青い垂れ目な瞳が印象を与えてくる。

 真面目そうな印象に、サイトは自然と姿勢を正してしまう。

 

 そんな一幕を、サイトの二つ隣に座る龍の顔を持つ男がため息を吐きながら眺めていた。

 

 そうこうしていると、一番奥の大きな椅子に座っているギルド長のマナが話始めた。

 

「まず初めに、この村で起こっている深い霧の現象について全員に報告があります。レオン、お願い」

「おう。……現在、ここボーデンでは村民同士による殺し合いが多発している。それについては各自確認済みだと思うが、ここで詳しい情報を共有しておく」

 

 一呼吸を置いて、レオンはゆっくりと話始めていく。

 

「きっかけは、三ヶ月ほど前に死んだ筈の人間が()()()()()っていう話が出てきた事だ。霧の中に佇んで、ただ黙って見てくるだけ……でも村の人達は喜んでてな。久しぶりに姿を見られて嬉しかったなんて声もあった」

「でも、その霧から視える幻覚って……」

「五十年ぐらい前に起きてた事件と同じモノだ。けどその時とは違って、何故か幻覚はすぐに村人達の精神を攻撃してこなかった」

 

 話す彼の顔は、酷く悲し気。

 サイト達は彼の話に耳を傾けていく。

 

「けど、その幻覚は二ヶ月経った頃、唐突に俺達へと牙を剥き始めた。死んだ人の姿と声で、頭を抱えたくなるほどの恨み言や罵詈雑言を飛ばしてきたんだよ」

「……ふむ」

「自分の近くに突然現れて、ずっとそんな事を言われ続けたら誰だって頭がおかしくなっちまう。取り乱して暴れ出す人が、その時点で村の半数を占めた」

 

 そこで、レオンは一度話を途切れさせる。

 辛く苦しげな面持ちになったサイト。

 ソウジは悲痛な顔で喉を低く唸らせており、ライアは沈黙したまま顎に手を添えて何かを考え込んでいる。

 ゼーエンは腕を組んだまま静かに話にその長い耳を傾け、マナも同様に目を瞑りながら話を聞き。

 他の三名も各々静かにレオンの話を傾聴している。

 レオンは全員を一瞥すると、また話を再開した。

 

「そこから更に問題は悪化した。死んだ人間だけに留まらず、生きている人間……家族や友人の幻覚まで現れ始めた」

「家族や友人……あぁ、なるほど。それで殺し合いなんだね」

「ライアさん、それってどういう……?」

 

 得心が行ったように頷くライアに、サイトが不思議そうに訊ねる。

 するとライアはサイトの方を向いて微笑んだ後、彼に説明をしていく。

 

「どれだけ親しい間柄でも、言われてはならない事がある。一度だけならまだ仲直りも容易だろうけど、それが何度も続いてしまえば……人の負を溜め込むための器は簡単に溢れてしまうのさ」

「そうね。誰しもが持つ心には、必ず限界点が存在するから。不用意に傷つけられちゃったら、耐えられないのも無理ないよ」

「そして、幻覚を通してそんな下劣な事が絶えず起こってしまえば……最悪殺し合いに発展する。という事だと思うよ」

 

 エルフらしき女性がライアの言葉に反応を示し、ライアはそれに続く様に自分の予測をサイトに説明した。

 彼女の話した内容を聞いていたレオンは、驚きつつも説明を進めていく。

 

「さっきライアがサイトに対して説明してた事が起きちまってな。村人全員が家に閉じこもる事態になっちまったんだ。今はマナ……ギルド長と他のギルド員達の尽力もあって、幻覚の作用を減らす結界を全ての家に張れてるから、まだマシな状態ではあるんだが」

「……早く、解決しないと」

「うん。だからこそ私は、貴方達に助けを求めたの」

 

 話が終わり、レオンと入れ替わるようにしてマナが口を開いていく。

 

「厄者()()()。そいつがこの村を滅ぼそうとしている存在で、霧を起こしている元凶」

 

 彼女は一呼吸置いた後、続けざまに話していく。

 

「奴は臆病で、実体を持たない。いつどこで私たちを襲うかも分からない。けど、この場の全員が力を合わせればきっと大丈夫」

 

 そう言い切るマナに、サイトは驚いた。

 自身とそこまで歳が変わらないと思えるのに、これほど頼りになる力強さを感じたからだ。

 彼女はそのまま言葉を続ける。

 

「それじゃあ、今から皆さんに作戦を伝えます。その内容は――――」

 

 かくして、作戦は開始される。

 村の平穏を取り戻し、厄者を倒す為に――――――。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。